第十六話「ストロベリーはグレートランドが大好きなのだ」
第十六話「ストロベリーはグレートランドが大好きなのだ」
日が落ちる頃になると、ソラは王都を発った。
歓楽街までは三日かかるため、約束の一週間にギリギリ間に合うか、間に合わないかぐらいになってしまう。
そのためソラは王宮に戻ると、すぐに支度をした。
アソー子爵と後日北の港で会う約束をして、発ったのである。
この後のソラの予定は歓楽街での交渉。その二日後には北の港へ向かい、ストロベリー第二皇子と会談する予定だ。
うまく行けば収穫期前に全てが終わる予定である。それでもカツカツで、ソラはまたルミエールで執務席に向き合うことは叶わない。
「仕えてなんですが、本当に忙しいですね」
頼りにされているのだなとタカアキ。そんな彼の言葉にアオイは大きな胸を突き出す。
決して胸を強調しているわけではなく、ソラを褒められて自慢気になっているのだ。
「すいません。タカアキさんたちも少し手伝っていただきます」
「そのための僕ら、ですよ」
ねとアオイに話しかけるタカアキと、その通りと返すアオイ。
二人の頼もしさにソラは口元を緩める。
「頼りにさせてもらいます」
約束の前日に到着すると、ソラは二人に休憩を命じて、自身は諸々の作業を行っていた。その道中、ソラはふと足を止めて見入ってしまう。
歓楽街の一番奥、つまり娼館などがたくさんある歓楽区画で種族間を越えて、女性ら神が妙な顔で話し込んでいる様子。
ソラは盗み聞きに申し訳なく思いながらも、聞き耳を立てて彼女たちの様子を探った。
結論から言うと悩みの相談である。女性特有のモノから、職場での不満や愚痴。そして戦争への不安だ。
ソラはそこで至らなかった点に気づき、どうしたものかと考えこむ。
「おんしの考えていること、なんとなくわかるぞ」
わしも手伝おうと胸を叩く森緑の姫。
「定期的に霊力を補給しないと行けないではないですか」
「この地には霊石が腐るほどあるからのぅ。根を張れば相談役位は出来る。それにルミエール領の領主はエクレールの生まれ変わりだ」
ならば霊力の補給はなんとかなるだろうと森緑の姫は笑う。
「それでも、そういう身近な存在も必要でしょうね」
「それはそうよ。そこら辺は任せたぞ」
森緑の光が灯ると音もなく消えていく。
ソラが奴隷の交渉を行い始めた頃。金の姫将軍は一足先にストロベリー皇子との交渉に臨んでいた。
最前線の幕舎で、両者は向かい合う。
グラディスはジョナサンをブランシュエクレールに取り付けた見返りを求めたのだ。
当然、それを覚悟していたストロベリーだが、彼の想定していたモノより、ずっと小さな要求であった。
だからこそストロベリーは熟考する。
「荷をそのまま通せばいいのか?」
グラディスはええそうですと返し、カップの中身を口に運ぶ。
「そのままよぉ。触らずにねぇ」
触らずとつぶやきながらストロベリーは、ヤマブキを視界の端に捉えながら荒くなりそうな呼吸を落ち着ける。
彼は大凡の予想がついた。しかし、中身までは把握できない。
「その中身を教えてはもらえないのか?」
「殿下の腹の中を覗かせていただけるのならぁ」
ストロベリーは唸った。
「それでブランシュエクレールはどう動くつもりだ?」
あからさまに話を変えるストロベリー。
それならばと、さあと露骨にとぼけるグラディス。
「勅命で動いているのだろう?」
アップル皇帝の勅命で動いている。その事はストロベリーでもわかっていた。
何を目的としているのか、それによっては彼の今後の身の振り方にも関わってくる。
しかし金の姫将軍は微笑を浮かべて答えない。
「なぜだ?」
「今回の事態。ストロベリー第二皇子が仕組んだことではなくてぇ?」
パスト公爵の弱体化。ブランシュエクレールの孤立を狙ったのである。
彼の想定以上に事が転がり、グレートランドにもその脅威が迫っていた。その事を金の姫将軍は知っていたのだ。
ストロベリーはしばし考える。
考え込んだのは、数えて五つほど。
「そうだ」
ストロベリーはグラディスの指摘を認めたのである。これにはグラディスもそして彼の片腕のヤマブキも驚く。
グラディスは白を切るだろうと思っていたのだ。
「仲間に引き入れようと思ったのはどうしてぇ?」
「ヤマブキの提案だ。味方にできれば心強い。それにな。父は長くない。メロン兄が皇帝になってからしばらくは、荒れるだろう」
グラディスは内心肯定した。
第一皇女であり、現、オプスキュリテコンギッド帝国の女帝が動きを見せている。それに釣られるように、王位継承権を持つ者たちが動きを見せていた。
誰もが嵐を予見していて、それに対する対策が出来ていない。
メロン兄の王位継承に、ストロベリーには異論はなく。それを滞り無く行いたいと考えていた。
「俺はな。グレートランドはひとつでなければ困るのだ。いや、それ以外は認めない」
自身の行動の結果が、国を割る可能性に至っていると、理解しているのである。
「だからこそ、この頭を下げてでもグレートランドを維持する」
ブランシュエクレールを味方につけてでも、国を安定させようと思いついたのだ。
ふとグラディスは疑問に思った。目の前の男には野心はないのだろうかと。
「王位に興味は?」
「ないな」
即答。言葉には淀みはなく、瞳には迷いはない。
「大体俺にその器はない。グラディス、お前もよく知っているはずだ」
ストロベリー第二皇子はその事を早くに悟ると、生まれて間もなく決まっていた婚約などを全て破棄。
相手に落ち度はなく。本人も相手の家に直に足を運んで頭を下げたという。
その時には噂になっていたのが、ヤマブキという奇妙な存在だ。人ではないかの存在に、魅了されて婚約を破棄したのだと。
「俺が王位を継ぐのを認めているのは、メロン兄さんだけだ」
だが実際のところ、自分のところに貴族が寄り付かなくさせるための、彼なりの策だったのだ。
「そういえば、あの日もそんなことをおっしゃっておりましたねぇ」
懐かしいなとストロベリーは口元を緩める。
王位につくのは兄なのだから自分には必要ないと、ストロベリーは言ったのだ。
「あれからお前は歳をとっていないな」
「魔女ですからねぇ」
グラディスは手で口元を覆う。
「まあ、いいでしょうぅ。いずれブランシュエクレールとの交渉で知るでしょうけどぉ」
グラディスは銀の姫将軍の救出を頼まれたのだと言う。
「そうか。となると、後退し過ぎるとヨリチカを引きずり出せないな」
「そうねぇ」
ストロベリーはわかったと告げると、人を呼ぶ。
「撤退して補給線を伸ばすつもりでいたんだが、しばらくは押し返すように、進言する」
勅命の内容には触れないと言いながら、メロンへの幕舎へと使者を向かわせる準備を進めていく。
グレートランド軍は、押されて撤退しているわけではない。ノワールフォレだけならば黒の超将軍だけでも事足りる。
だからと言って、真正面からぶつかってはいたずらに兵力を失うだけだ。
なので、撤退して補給線を伸ばしきったところで、側面を突くつもりでいたのである。
だが、その場合だと、ヨリチカを前線に引き出せなくなり、銀の姫将軍の救出が難しくなってしまう。
故に反転攻勢に出る必要があった。
「お願いしますわぁ」
~続く~




