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第十二話「もたらされたモノは」

第十二話「もたらされたモノは」






 ソラたちが歓楽街に辿り着くと、シャルロットたちが出迎える。

 ソラたちは平静を装いつつも驚きから、すぐに問いかけた。

「どうしてこちらに?」

「ちょっと話があってね。金の姫将軍に会いに来たのよ。ちょうど良かったから、ソラも顔を出しなさい」

 シャルロットはシャルリーヌに役所で、話し合いをする準備を頼むと、ソラとタカアキ、そしてレーヌ、カトリーヌ=ルを引き連れて行く。

 金の姫将軍の担当区域は他より少なく、また建築も遅れていた。

 そんなこともあってか完成されている区域は人通りがまだ少ない。ほとんどが工事に出ている状態である。

 それは金の姫将軍が寝泊まりしている宿へ向かう道中でも見て取れた。人通りが少なかったもだ。

 宿をシャルロットが指差し、視線をソラに向ける。彼は頷き応じる。

 と、金の姫将軍もちょうど外を出たところであった。傍らには青年がひとり。ジョナサンである。

 付き人だろうかと皆が眺めていると、グラディスは口を開く。

「敵ですわぁ」

「え? ええッ! 違います! 違いますよ!」

 ジョナサンは身振り手振りで身の潔白を証明しようとして、シャルロットに怪しまれた。

 グラディスはさらにからかい、ジョナサンは空回りを続ける

 シャルロットは霊剣を引き抜くと、ジョナサンに突きつけた。

「で、何しに来たのかしら?」

 あまり長く時間を取りたくないといった様子で、ジョナサンを急かす。

 ジョナサンは慌てた勢いで口を開く。

「ストロベリー殿下の密命で、協力関係を取り付けられたらと」

 そこまで言って、ジョナサンは手で口を覆う。

 それにはシャルロットはもちろん。金の姫将軍も呆れていた。

「ああもうっ! 人通りが少なかったから良かったものの」

 シャルロットはグラディスに視線を向ける。指だけで役所の方角を指し示す。彼女も理解をして頷いた。

 程なくして彼らは役所に辿り着き、とある一室に入る。先の銀の姫将軍救出の話し合いを行った場所である。

 すでに中ではシャルリーヌとシラヌイが待ち構えており、いつでも話し合いが行えるようになっていた。

 部屋の外ではレーヌとガタサムライ族のサスケが、扉の前を守っている。

 シャルロットはソファに座り、対面にグラディスとジョナサンが座った。

 程なくしてカトリーヌ=ルが紅茶を運び、目の前でテキパキと注いでいく。

 シャルロットはカップに手を伸ばし一口流す。それを見てからグラディスとジョナサンも口に運んだ。

 二人が置いたのを確認してから、シャルロットは口を開く。

「それで、ストロベリー第二皇子がなんですって?」

「はい。協力関係を築きたいと、私を派遣させたのです」

 現状のグレートランドの不利な状況を鑑みてのことか。そう考えてシャルロットは考え込んだ。

 続くジョナサンの言葉に、彼女は頭が真っ白になった。

「ロートヴァッフェをパスト公爵が攻撃をします。その際に援軍を出していただければ、幸いです」

「なんでそうなるの?!」

 シャルロットは勢い良く立ち上がり叫ぶ。

 パスト公爵は未だにグレートランド内に、強い地位を築いている。今回の失態でそれを崩れかかっているのだが、トドメを刺すべくストロベリーは、パスト公爵にロートヴァッフェを攻撃させるという。

「ちょっと待ちなさい!」

 ロートヴァッフェは現在、カンウルスと交戦中である。ブランシュエクレールからの食料などの物資の支援をしたおかげで、善戦しているのだ。

 その後背を突く形でパスト公爵は動くという。

 ロートヴァッフェからすれば最悪の事態になりかねない。

 シャルロットは、自分たちがとんでもないことに巻き込まれていくのを実感した。

「狙いはなに?」

「南まで、つまり海が欲しいのです」

 ブランシュエクレールとストロベリー第二皇子が交流をするためには、南を治めるパスト公爵が邪魔なのだ。

 パスト公爵の絶大な権力のひとつに、グレートランドの港口を全て抑えている点にある。

 輸出入は全てパスト公爵の領地を通さなければならないのだ。

「ストロベリー第二皇子の領地は?」

「中央にありますわぁ。かなりの広大な領地を有していましてぇ、私の領地とも隣接していますぅ」

 暗にストロベリー第二皇子が海を取ってくれたら、楽だと言う。

 グラディスからすれば、今回の取り次いだ恩を、ストロベリーに高く売りつけるつもりだ。

「話に乗っても損はないと思いますわよぉ? 例えば、龍ノ峰島とか」

 シャルロットは黙りこんで、ソラへと視線を向ける。

「魔金剛石。そしてストロベリー第二皇子との協力関係を築けたら、こちらとしてもグレートランドと全面衝突は避けられるかと。ただ――」

 罠の可能性がある。

 援軍を出したら、敵軍として攻撃されるなんてことが考えられた。

「そうではないことを証明するモノです」

 ジョナサンは蝋封された手紙を差し出す。シャルロットはそれを受け取ってから、腰を落とす。

 素早く目を通して手紙をしまい、シャルリーヌに手渡す。

 受け取ったシャルリーヌは視線で見てもいいのかと問う。シャルロットは頷く。

 そこには、これからの計画とストロベリー第二皇子のサインが書き記されていた。

「収穫期よね?」

「収穫期になります」

 グラディスが半目して笑う。

「く・わ・え・て。銀の姫将軍の救出ぅ。どうしますかぁ?」

 シャルロットは頭を抱えた。自分の愛する妹に視線を向ける。

「どう?」

「どうと言われましても……。ロートヴァッフェには無事でいて欲しいです。銀の姫将軍様も助けたいです」

 シャルリーヌはフィオナと会い、実際に言葉を交わしている。それらもあって、彼女は銀の姫将軍を助けたいと考えたのだ。

 また、ロートヴァッフェのディートリンデとも顔見知りである。

 助けた国を背中から刺すような真似に、シャルリーヌは強い拒絶感を抱いた。

「いや」

 その言葉はシャルリーヌから発せられたものだ。

 ヴェルトゥブリエとグリーンハイランドの舌戦を思い出す。自国のために、愛する民のために少しでも譲歩しなかった彼らのその姿を。

 この状況を、どう自国の利益とし、かつ両者をシャルリーヌの気持ちのよい形で決着をつけるか考えこむ。

 そしてひとりの少年に目が行く。

 シャルロットが代理で口を開いた。

「なんか策がある?」

「そうですね。ロートヴァッフェの損失をありあまる利益で帳消しにするのがよいかと」

 シャルロットとシャルリーヌは納得して頷く。

「具体的には?」

「ロートヴァッフェとも結託するのです」

 ソラはロートヴァッフェが海と面していないことをあげる。

「西の方の海の領土を手に入れれば」

 シャルロットは口元を歪めた。

 さらにグレートランドからすれば、エメリアユニティとの干渉地となる形となる。

「我が国との貿易も、いちいち策を弄しなくても、行えるようになるわね」

 おまけに憎きパスト公爵も弱体化に追い込めるという寸法だ。

「銀の姫将軍も救出すれば、ヴェルトゥブリエまでの道は安心でしょう」

「それぇ。シルバーラインをマゴヤから取り返す前提よねぇ?」

 金の姫将軍の言葉に、シャルロットは取り返さないのかと問う。

「取り返えすわよ」

 そこまで黙っていたタカアキが、会話に加わる。

「ストロベリー第二皇子の利がなんなのか気になります」

 シラヌイは確かにと頷く。

「海を手に入れるために、私達と組むってのは、少しおかしいわね」

 海が手に入れば、ストロベリー第二皇子の利得はかなりのモノだ。だが、そのために他国の人間の力を借りなくとも、貴族たちを煽動することが出来たはずである。

「聞いてないの?」

「自領地の豊かさでしょうか」

 シャルロットの問いにジョナサンは答えた。

「それだけなの?」

「陛下は知らないでしょうが、貧困の差が日に日に増しております」

 それを埋めるためにも、ブランシュエクレールが欲しかったと、ジョナサンははっきりと明言する。

 策を弄した結果。全てがグレートランドに不利益を与えている。

「凄い方向転換ね。あんまり聞いてて面白くないけど」

 シャルロットは釈然としないモノを抱えたまま、細かいことをその場にいる者たちで詰めていく。

 その中でシャルロットは思い出したように口を開く。

「そうだソラ。貴方、結婚する気はないの?」






~続く~


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