第四話「グレートランド対マゴヤ」
第四話「グレートランド対マゴヤ」
マゴヤは銀の姫将軍らグレートランドを蹴散らすと、すぐに軍備を整えて出陣。道中使者をノワールフォレに出すと、ホワイトポリス周辺までやってくる。行軍する彼らは北を目指す。
先の戦いでマゴヤはブランシュエクレールに敗北していた。ヤリノスケの策にはまり、手酷い仕打ちを受けたのだ。
おかげでマゴヤはシマヅが討ち死にし、ミツヒデもまた戦いの怪我で落命したのである。さらに失態を犯したシバタを打ち首にしなければならず、大きく戦力を損なったと言えた。
そこをグレートランドが狙って動いたのだ。
これに対しヨリチカが地下にある魔導具を持ち出し、また援軍でマゴヤの総大将自らの出陣で士気を向上させて、大金星をあげたのだ。
ワイバーンではあるが、ヨリチカはドラゴンを倒したことにより、潜在的にあった不安の払拭。銀の姫将軍をほぼ無傷で捕らえ、敵の貴族や東方騎士団団長を討ち取るという結果となった。
収穫期に入る前に、この士気を維持したままシルバーラインを制圧し、ブランシュエクレールを完全に孤立させる作戦に出たのだ。
スミレはホワイトポリスの制圧を提案したがヨリチカがこれを却下した。
「なんでよ?」
「そこまでの余裕が無い」
現在の彼らの手勢は一万五千である。軍を分けるには心許ないのだ。
「今頃シルバーラインに軍を集結させ、防備を固めているだろう」
ヨリチカは正確に相手の動きを見抜いていた。銀の姫将軍が治めていた城下町では、マルヴィナを中心として防衛の陣を構築し始めていた。
またアップル皇帝の懐刀である黒の超将軍と、第一皇子のメロンの援軍が到着。マゴヤの侵略に備えていたのだ。
確かにとスミレは頷く。
「だろ? 一万五千では途端に不安になる。それにホワイトポリスの自警団は精強だ」
以前一度だけ軍を退けられたことがあったのだ。それがホワイトポリスの自警団である。周辺の村や町に略奪に少数を向かわせたのだが、手ひどくやられたのである。
その経験もあるからホワイトポリスも自警団を増強していると、ヨリチカは踏んでいた。
「最低でも三千は割かなくてはならんな」
「なしね。幕舎はどこで? あ、ブランシュエクレールには牽制で動かすんでしょう?」
「幕舎はこれより先に行った平原だ。牽制は殿が請け負ってくれる」
スミレは後者に驚いた後、首をかしげる。
「ブランシュエクレールじゃなく、ホワイトポリスを攻撃させれば?」
ブランシュエクレールを攻撃に動いて、後背を突かれては洒落にならない。
ヨリチカも同意したがマエカワはそれを感情で拒否したのだ。
「あれでミツヒデの死に怒ってらっしゃるのだ」
それにここでブランシュエクレールの勢いをいくらか削っておきたいと、ヨリチカも考えていた。
「クロダは?」
「城の留守を預かっている。出る前に説明したはずだが?」
スミレは軍議の間トシイエを口説いていたのだ。話が入っていないのも無理はない。
「お主の婿探しはほどほどにしておくのだな」
ヨリチカは髭を撫でながら言う。
「あんたに言われたくないわよ! 銀の姫将軍手に入れて余裕ってわけ?」
スミレは面白く無いと馬上でふんぞり返る。さぞお楽しみでしたねと、嫌味を言う。
「一応心根を折るまでは手に入れたつもりはない。手も出しておらん」
真面目腐って言うが、スミレは鼻で笑う。
「その割には素裸にして、いい趣味じゃない」
「おかげで直視できん」
「自爆? 自爆なの?」
ヨリチカはただ裸にしたわけではないと言うが、スミレは取り合わない。
夏の日差しは容赦なく大地を焦がす。
グレートランドはシルバーラインの城下町南に軍を展開。堀と木で作った柵を南にたくさん敷設していた。
撤退出来たマルヴィナたちと東方騎士団の敗残兵が急いで構築したものだ。
幕舎の中では地図を睨んで、メロン、オレンジ、エレン、黒の超将軍。そしてマルヴィナたちが顔を並べていた。そこに兵士がひとり報告を持ってくる。
「マゴヤの軍勢は南にニキール(約二キロ)の位置に展開しております」
魚鱗の陣を複数展開し、今にも動き出しそうだと兵士は言う。
メロンは眉根を釣り上げる。
「デュークどう思う?」
黒の超将軍――デューク・ブラックラインは腑に落ちないという。
ざっくばらんな黒い頭髪に青い瞳。顔には多くの傷があり、立ち振舞は歴戦の戦士のそれである。
「こちらの数は五万。対して相手は一万五千です。向こうも斥候を出してこちらの兵力は気づいているはずです」
だが、逃げる素振りを見せずそれどころか戦う姿勢を見せていた。
「何かあると見たほうがいいです」
そんなことはどうでもいいとオレンジは叫ぶ。
「ならばこちらから打って出るべきだ! 数で押しつぶすべきだ!」
「待ってください殿下。フィオナのことが心配なのはわかりますが、策があるかもしれないという話です」
エレンは落ち着いてほしいと第三皇子に呼びかけるが、彼は焦燥感が募り苛立ちを露わにする。
「だから、数で押せばいいと言っているんだ!」
「落ち着けオレンジ。助けたいのはわかるが、まずは使者だ」
程なくしてグレートランドは使者を送り出す。捕虜を返還し、速やかに撤退するようにと警告を伝える。しかしマゴヤのヨリチカはこれを拒否。宣戦布告をしたのだ。
使者の一団は帰ってくると、徹底抗戦の構えだと告げた。
「兄上!」
「待てと言っている」
メロンは使者に問う。
「銀の姫将軍は?」
「取り合ってもらえませんでした」
オレンジは犬歯を向いた。メロンは暴走を考慮し、鬱屈を開放させるために軍を動かすことを決める。
「わかった。明朝に攻撃を開始する」
オレンジだけではなく、他にも暴走の兆候を見せている者たちは存在した。銀の姫将軍の配下や、東方騎士団の面々もだ。
だが、そう大きく軍を動かせないのでもある。収穫期が迫っており大規模な軍事行動が出来ないのだ。防衛に徹することを是とし、銀の姫将軍の奪還は政治的に行うつもりであった。
オレンジが幕舎を飛び出すのを見送り、メロンは大きく息を吐く。
「お疲れ様です」
「銀の姫将軍の人望が仇となるとはね」
黒の超将軍の言葉に肩を竦めるメロン。
「ブラックシティの動きは?」
「殿下の危惧していたとおりです」
メロンは大きく息を吐いて顔をしかめる。
「その人望があってもなくても困るのか。フィオナはよくやってくれていたな。ブラックシティとホワイトポリスを今の今まで抑えこんでいたよ」
デュークは口を開く。
「ストロベリー殿下に打診してはどうでしょう? はシルバーラインの北に陣を引いております」
メロンはその提案を受け入れる。後詰に動いているストロベリーに、ノワールフォレ方面を警戒するようにと使者を出す。
夕刻。西の山脈に太陽が沈み始めた時にそれは起きた。
マゴヤが進軍し始めたのだ。先陣にはヨリチカと、木の磔台に素裸同然で縛り上げられたフィオナが現れる。腕や足には鉄製の枷がはめられ、猿轡で口は塞がれていた。鉄製の首輪が鎖で繋がれ、肢体を露わにしている。
そして周囲には長柄槍を頭上に掲げる足軽たち。穂先には首。戦いに出た主だった面々の貴族や騎士のさらし首が並べられていた。背後には縄で縛られたアイヴィーも付き添わされる。
ヨリチカは叫ぶ。取り返したければ力づくで来いと。
すぐにメロンはこれが敵の策だと察し、絶対に挑発に乗るなと防衛に徹しろと伝令を飛ばす。
銀の姫将軍の手勢と東方騎士団の面々は怒りで叫ぶ。最初こそはマルヴィナの制止の声を聞いていた彼らだが、次の挑発に暴走した。
ヨリチカが磔台に上がり、俯いていたフィオナの頭髪を掴んであげさせ、グレートランドに見せつけたのだ。
「これが諸君らの敬愛する銀の姫将軍の成れの果てだ!」
マゴヤの挑発にグレートランドの一部が動き出してしまう。
銀の姫将軍を取り返せと叫んで、柵より飛び出してしまったのだ。そしてそれに呼応してオレンジも軍を動かす。
かくしてメロンにとって不本意な形で戦端が開かれる。
グレートランドが動き出すと見るや。磔台はゆっくりと後方に下がっていく。それを追いかける軍は先細り、あっという間に包囲され各個撃破されていった。
スミレの軍はオレンジの軍と正面から激突。彼女にあっという間に食い破られる。
「な! んですとぉ?!」
長剣を抜き放ち迎えようとしたオレンジ。最初の剣戟で大きく仰け反り、胴体をがら空きにしてしまう。
赤紫の十字槍。魔導具のそれに魔力を込めると、オレンジに迫った。
赤紫の刺突は黄昏の刺突によって弾かれる。
「何奴?」
スミレの視線の先に緋色の槍を構えた女性が現れる。馬を繰り、槍を構え直す。
「守護将軍がひとり。黄昏の姫将軍。エレン・トワイライトライン!」
「スミレ・サナダ」
互いに名乗ると手綱を引き、槍を突き出す。
金属が弾かれた音が響き渡る。
グレートランドの数は多く、ヨリチカやスミレの活躍を持ってしてもすぐに押し返し始めることに成功した。
オレンジや前線に出た兵士たちは、このまま押し返そうと考える。しかし、後方のメロンは立て直しを図った。
このまま勢いに乗ろうとする前線と防備を整えようとした後方が上手く連動しない。
ヨリチカはそろそろだなと、東を見据える。
グレートランドの本陣に兵士が飛び込んでくる。
「申し上げます!」
「どうした?」
メロンは落ち着いて応対するが、次の言葉に顔色を変えた。
「ノワールフォレです! ノワールフォレが東より攻めこんできました!」
~続く~




