第二十七話「戦鼓の準備を始める」
第二十七話「戦鼓の準備を始める」
ヨリチカとミツヒデは地下に来ていた。
彼らは先日見つけた魔導具を見に来たのである。
分厚い鉄の扉。中央に大きな錠がひとつぶら下がっており、ヨリチカは三本の鍵を取り出し、鍵を回していく。
二人は視線を交わし、頷き合うと中に入った。
ヨリチカは中央を指さす。ミツヒデは口は開けたものの、声は出さずにその物体に近づく。
刺々しい大剣と、刺々しい縦長の六角形の盾。そして甲冑。
「大鎧か」
「ああ、装着者の体躯に合わせて変形する」
「誰でも使えるのか?」
ああと頷くヨリチカ。自分の部下たちが、恐ろしい強さを発揮したのを思い出す。そして彼らは等しく力に取り憑かれた。
危機感を抱いたヨリチカは、全員後方送りにしたのだが、その時には遅く。後に事件を起こして全員処断されたという。
「呪いの武具だ」
「お前ほどの精神力ならば、使いこなせよう」
ヨリチカは拒否した。そしてミツヒデに使えと薦める。
「生憎俺も力には魅了されてしまうほうでな。この部屋から早く出たいくらいだ」
すでにこの武具の異様な雰囲気に、引きこまれていた。
「すまぬな。出よう」
二人は来た道を引き返しながら、魔導具の話を始める。
「かなりの強さだ。跳躍すれば二十ミール(約二十メートル)は跳ぶ」
「高さもか?」
「高さは十五ミール(約十五メートル)だな」
ミツヒデは感嘆するように、凄いなと言う。
膂力も数十倍に引き上げられ、また防御力もマナ光弾など物ともしない。兜をかぶれば仮面が展開されるという。
「試合をしてみたが、危うかった」
「勝てたのか?」
ヨリチカは無論と頷き、自身の威光が陰らぬように勝利したという。
「やはりお前が使うべきだ」
「踏ん切りが付かない」
「珍しいな」
部下が狂っていく姿を見ていた。それにヨリチカも危機感を抱いたのである。
「殿に献上したモノも気になっていたのだが」
「問題はなかったな。えらく気に入っていたぞ」
ヨリチカは魔導具の機能を説明する。ミツヒデは驚きながら頷く。
そこへヨリチカの側近が飛び込んできた。息を切らしており、肩を上下させる。
「探しましたぞ」
ヨリチカはただならぬ気配に、どうしたと短く問う。
「シバタ殿を筆頭に、軍を動かしてブランシュエクレールに向かってしまいました!」
「何だと?! 馬鹿な!」
ヨリチカは走りだす。城内を確認すると人の数が少なくなっていた。ミツヒデと顔を見合わせ、最上階に駆け上がる。そして西の方角に向けて、視線を向ける。
「見えん」
ミツヒデは魔力で視力を強化し、シバタたちの軍旗を確認する。
「シバタ、クロダ、シマヅだ」
ヨリチカは大きな唸り声をあげた。
「サナダは止めてくれなかったのか!」
「もう飛び出しているのだから、そのことを咎めても仕方がないだろう。それにあれらの直属の上官は俺だ。俺の責任だ。今すぐ呼び戻してくる」
待てとヨリチカが制止する。ミツヒデはなぜ止めると、大声を上げた。
「何故に彼らは?」
ヨリチカが側近に問う。彼は詳細を語りだした。
ミスリルの湖があると、アポー伯爵からの情報が転がり込んだのである。その話に飛びついたのだ。またアポー伯爵たちの助力を得られると聞いて、彼らはルミエール領を制圧しに動いたのである。
「使者を出させていたのはミツヒデではないのか?」
「シバタに任せていたのだ」
ブランシュエクレールに使者を送っていたのは、シバタだ。そこに情報が飛び込むのは、自然な流れである。
「見え透いた罠ではないか! ミスリルの湖など聞いたことがないぞ!」
「だが、魔王軍を呼びこむのに説得力は有るな」
ミツヒデは考える素振りとなって言った。
「それならばなぜミスリルの湖なのだ?! あれは金属であろう! ミスリルが出土した。そうならないか?」
「そうかもしれないが、アポー伯爵の助けがあるのだろう?」
ヨリチカは言い知れぬ不安を覚える。
とにかくとミツヒデは口を開く。
「彼らの不始末は俺の不始末だ。呼び戻してくる」
「先行せよ。動いてしまった以上、彼らも止まらんかもしれない。スミレと我も後詰として向かう」
ミツヒデは謝罪してから飛び出した。
「ヨリチカ殿」
「とにかくだ。急ぎ兵たちに準備させるのだ」
側近は恭しく頭を垂れると、足早に部屋を後にする。
ヨリチカは空を仰ぐ。西の方には暗雲が垂れ込めていた。
ブランシュエクレールの軍は山道を出たすぐの開けたところに陣をひき、幕舎を建てる。食料などは歓楽街から送られている。
今回の戦いは周辺の村人や歓楽街の奴隷にも参加させていた。
もちろんほとんどの戦力は、ルミエール領の常設軍だ。総勢七千二百。そこに各貴族たちの私兵。そして第五騎士団と第一騎士団。王都直属の常設軍。そこに村人や奴隷たちが加わって約一万五千。
シャルロットは自軍を見て感心する。ここまで大きな軍を短期間で用意するとは凄いなと思ったのだ。
ブランシュエクレールは農業を大切にする傾向にある。故にまとまった軍事力を用意出来ないことが多かった。
この時シャルロットは、マゴヤと対等に戦えるのかもしれない。そう考えたのである。
バニーハイランダーのブランディーヌが、シャルロットの元へ参上した。
彼女の手には大きな麻袋。シャルロットはそれの中身を知っていた。
「前にも言ったけど、受け取れないわ。真に私に仕える価値があるときに、献上なさいと言ったでしょう」
「それを見極めるためにも、これをお使いしていただきたいのです」
バニーハイランダーたちがジプシーをしていた頃に、エクレールの形見として信仰していたモノがある。それが麻袋の中にあるのだ。
彼女たちは、ブランシュエクレールに到着すると、すぐにそれをシャルロットに献上した。しかし、彼女はそれの受け取りを拒否したのである。
前述のとおり、自身にその価値もないのに一族の秘宝など受け取れない。それがシャルロットの弁だ。
だが、ブランディーヌたちもそうはいかないのである。この霊具を使いこなす者こそが、エクレールの生まれ変わりなのだ。つけもしてないのに、それが判断できるはずもない。
だから、この戦場でバニーハイランダーたちは見極めようとしているのである。
シャルロットは短くわかったというと、麻袋を受け取り、中身を取り出す。
純白の籠手が出てきた。
シャルロットが腕を通すと、まばゆく光り、彼女の腕に合うように変化していく。手のひらまで覆われて、指先は尖った籠手となった。
それを見たシャルロットは、ソラの籠手を思い出す。同じような形だなと漠然と思ったのだ。
「とりあえず第一試験は合格かしら?」
ブランディーヌは表情を変えずに、はいと答えたが内心は驚愕していた。すでに彼女はシャルロットがエクレールの生まれ変わりだと、認めている。
すぐに認めなかったのは、シャルロットの人柄を考えてのことだ。これだけの事をしても、彼女はそれを理解しないだろう。
籠手の能力を発揮してこそと考えているのだ。
「最後に確認するけど、貴方達は危険を感じたら、地図に示した場所に逃げなさい。そのことを他の種族たちとも、確認しなさいよ」
「承知しました」
ブランディーヌは祖先の念願を叶えたと、涙したが顔を俯かせてそれを見せなかった。
~続く~




