第二十四話「森緑の姫と過去」
第二十四話「森緑の姫と過去」
声の誘うままにソラたちは地下へと潜る。
汚れているため、フェリシーたちは汚れてもいい格好になっていた。
「ついてこなくても……」
「いえ行きます」
フェリシーの意思は揺るがない。今回はフェリシー、ジャンヌ、カノン、アオイ、ディオンとエロワ、そしてタカアキがついてきていた。
アオイは興味津々に周囲を見渡している。
薄暗く汚い水路。水路の端は修理補修用の人用の通路はある。そこは苔やカビなどで汚れていた。
「魔法を使っていないと、臭いで気が狂いそうだな」
「その前に窒息しますよ」
ディオンの言葉にタカアキが返す。全員一応口元を布で覆っている。
酸素の濃度が薄いのだ。上からバーナードが風を送る魔法を行っており、かつフェリシーとカノンがソラたちに魔法で酸素が濃い空間を作っていた。
もちろんソラがいるため、非常に難しくなっているのだが、フェリシーは慣れていた。
「掃除しないと駄目かしら?」
フェリシーの問いにディオンは頷き同意する。
「補修ができなくなってからでは難しいでしょう」
面々が中心に向かって行くと、木の根で塞がれた場所へと辿り着く。
「ソラ、こちらなのですか?」
フェリシーの問いにソラが首肯する。
ソラが木の根に触れると、根が左右に動き、扉が開かれるように中へと通ずる。
目付きの悪い少年はディオンとタカアキ、そしてエロワと視線を交わす。頷き合ってから飛び出す。
それを見送ってからジャンヌはフェリシーの前へと出る。いつでも守れるようにだ。
「大丈夫です陛下。こちらに」
ディオンが安全を確認して、フェリシーたちを呼び寄せる。
中は木の根で出来たドーム型の空間が広がっていた。中央には石碑。そこにある小さな台に、人の拳ほどの大きさの種子が転がっていた。
ソラはフェリシーに手に取っていいか確認する。フェリシーは少しも考えずに許可した。
ソラは手に取り、目を点にした。彼の背後に蒼き神霊が現れる。
「やはり神霊」
ソラ以外がえと驚く。
「此度の戦でご助力、感謝します」
誰もいない空間に二人は話しかけている。それが奇異に映ったフェリシーはソラに駆け寄り袖口を引っ張った。
「あの、どちらの方と?」
ソラは周囲を見渡し、ああと頷く。少々待ってほしいと言うと、再び何もない空間に話しかけ始める。
霊力を持ち得ない面々には見えない存在と話していたのだ。神霊。蒼穹の姫と同じ存在。霊力がないと具現化出来ないだけで、彼女もやろうと思えば透過したまま側にいることも出来るのである。
当然相手もそうなのだ。
蒼穹の姫はしきりに威嚇しては、手で払うように振った。
「いやよ私は――ダーメ。私でいっぱいいっぱいよ」
「いいじゃないですか蒼。仮契約を行いましょう」
その言葉に蒼穹の姫は、力強く首を振る。蒼き長髪が虹の粒子を振りまく。それは傍から見ていた面々には綺麗に映ったのである。
「駄目ったら駄目」
「話が進まなくなります」
頬を膨らませて蒼穹の姫は顔をそむける。
「大丈夫です。森緑の姫をブランシュエクレールに送り届けたら、契約を解除しますから」
蒼穹の姫は瞑った目を少しだけ開けた。
「本当?」
ソラはええと頷く。
「約束よ?」
「約束します」
ソラは拳大の種子を指輪にあてがう。緑の光が部屋を満たした。
「ようやくこの地の子らに姿が見せられるかの?」
フェリシーたちの眼前に、森緑の女の子が現れる。
黒い頭髪。緑柱石の瞳。森緑の着物を纏っていた。年端も行かない女の子に見えた。十を超えるか超えないか。それくらいだ。
「おんしら、わしが見えておるか?」
だが年月を感じさせる口振りである。
全員が森緑の姫の言葉に頷く。
「よしよし」
森緑の姫は外に出たいと申し出たため、全員は来た道を戻り、外へと出る。松明を燃やして、バーナードやヴェルトゥブリエの兵士たちが出迎える。
外はちょっとした騒ぎとなっており、グリーンハイランドのアーマンとブランドンも、夜更けにもかかわらず、集まってきていた。
「陛下、ご無事で?」
「大丈夫よノエル」
出る際にカノンが躓き、ソラに飛び込んでしまう。咄嗟のことで受け止めようとした彼は、乳房を鷲掴みにしてしまう。
「ふ、不浄な」
「ごめんなさい」
カノンは浴場で見たソラの下腹部を思い出し、顔を真赤にして顔を背ける。
それが面白いのかノエルは笑うが、三名ほど面白く無いと殺気を放つ。急いで笑うのをやめて、ノエルは先を促した。
「それで?」
「ああ、こちらです」
ソラの指輪をつき出す。そして背後に森緑の姫が現れる。
彼女は面白いものが見れたと、笑っていた。
再びソラは先の戦いで、力を貸してくれた事にお礼を述べる。それに倣ってフェリシーたちも、頭を垂れる。
「待て待て。話を聞かんか。わしがこの樹にしたことは、性質を変えたくらいじゃ。先の戦でしたことは、こやつじゃぞ」
神木を指さすと、森緑の姫は昔話を始める。
この樹が九魔月の影響によって、カラミティモンスターになりかけた時に、当時の王がエクレールに頼み込み、彼女をここに奉納したのだという。
森緑の姫はそれから長い年月をかけて、神木の性質を魔樹から霊樹へと変えていったというのだ。
そこでタカアキは納得する。この王都のマナの濃度の低さに合点がいったのだ。
「他の神木も?」
「そうじゃぞ。離れているから骨が折れたが、こやつらは地面で繋がっておっての」
森緑の姫は顔を曇らせる。
北の神木を失ったことを悲しんでいたのだ。
彼女からすれば、長い年月育てた我が子も同然であった。遠くの地であるが故に、救えなかったと悔み、悲しんだ。
そっとソラに寄りかかろうとして、蒼穹の姫に阻まれる。
「けち臭いのぅ」
「そこまで許可した覚えはないわ」
二人の神霊をよそにノエルは、驚愕をそのままに聞く。
「エクレール? 女神エクレールが貴方を?」
「そうじゃ。やることは終えた。最後にケチがついたが、そろそろエクレールのいた場所に帰りたくての」
森緑の姫は自分がいなくとも、神木の性質は完全に変わったと安心させる。
カラミティモンスターになることもなく、霊樹としてこの地にありつづけるだろうと。
「ということで、今世のヴェルトゥブリエの王よ。出奔を許可してもらうぞ」
フェリシーははいと頷いた。
元より留めておく理由がフェリシーたちにはない。すでに性質が完全に変わったというのならば、害になることはなく。本当に祈りを捧げるべき対象なのだと、改めてフェリシーたちは知らされたのだ。
「このご神木に――恥じない治世を行います」
「その意気じゃ。こやつもおんしを気に入っておるからの」
その話を遠くから聞いていたブランドンは改めて、取り返しの付かないことをしたと認識する。
そして内心、すでにこの世にいないゴドウィンを罵倒した。
「兄上には申し訳ないですが」
「なんだ?」
「宗派の違い。私は認めますよ」
アーマンはしばし考え込んだ後、神木を仰ぐ。
「そうだな」
~続く~




