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第十一話「懺悔と恋愛と」

第十一話「懺悔と恋愛と」






 サチュルヌデューアルブルには、各地を治めている貴族たちが集まっていた。

 グリーンハイランド撃退に兵を出さなかった貴族たちである。正確には王都の軍と北だけで対処しようとした結果であるが。

 ノエルはこの可能性も考慮していたのか、出すぞと息巻いた幾人かの貴族に、予備戦力として待機してほしいと打診していたようだ。

 彼らの多くはフェリシーの援軍要請を許諾した。何人かは渋る。

「サチュルヌ伯爵はどうしたのだ?」

「追放しました」

 ブリスは淡々と答える。

「なぜだ?」

「権威を自分のモノにしようとしていました」

 ここまであった経緯を包み隠さず話す。ブリスに不信感を抱かれては困るので、正直に話す。フェリシーもそれを補足し、ブランシュエクレールのソラたちは証人として頷いていく。

「それは確かに……しかし性急すぎたのでは?」

 そうは思わないと、ブリスは毅然に対応した。黙って聞いていた貴族が口を開く。

「卿は、おこぼれに預かりたかったのではないか?」

「そんなことはない!」

 しばらくの間、口論となる。互いに罵り合うが、程なくしてフェリシーが錫杖を打ち鳴らす。

 それを合図に彼らは口をつぐんだ。

「出すのはいい。しかし兵糧がな」

 渋っている貴族たちは、兵糧の問題を気にしていたのである。今年生き抜く蓄えを使いきってしまう可能性があったのだ。

 すでに彼らは冬のことを考えて領地の運営を行っている。

「兵糧はブランシュエクレールから出します」

「本当か? それならば」

 ソラの言葉に、渋っていた貴族たちが重い腰を上げていく。

 ならばと彼らは兵を出すことを了承した。

「どちらにせよ北のようにはなりたくないしのぅ」

 ひとりの老貴族が言う。

 全員が押し黙る。

 彼らの領地には、北から逃げてきた人々が流れこんできていた。そこから聞く話は、凄惨極まりなく、ローランに降っても、自分たちのご神木も焼き払われてしまうのではと、決めかねていたのだ。

 保証がない。その上王都が耐えているという話も後押ししていた。

 そこへフェリシー存命という報せが入り、こうして兵糧の問題を解決した彼らは、グリーンハイランド軍と戦うことを決めたのである。

「そもそも使者を斬り捨てる狂信者共だ。ここで戦って国を守るしか、生き残る道はない」

 貴族たちはそうだそうだと応じ、ようやくまとまり始めたのである。

 ブリスは最後に話をまとめていく。滞ること無く進んでいった。

「最後に、援軍の指揮はフェリシー殿に任せて良いですか?」

「いえ、私は……」

 フェリシーはちろりとソラを見る。それで全ての人が察した。

「彼は他国の人間です」

 ひとりの貴族がかぶりを振りながら言う。

「ですが、ブランシュエクレールの内乱を解決に導いた人です」

「ならば、案を出してもらおうか」

 貴族のひとりが試しに問う。長い押し問答を懸念して腕試しをさせたのだ。

「ちなみに俺だったら全軍で横合いから攻撃するな」

 何人かがそれが簡単でもっとも敵に打撃を与える策だと頷く。

 ソラは頭をかきながら地図を眺める。

「それもいいと思いますが、もっと簡単で被害を出さない方法があります」

 ソラは説明し、その案に全員が納得を示した。

「他国の人間でなければ、もっとすんなり受け入れられるんじゃがな」

 老貴族が皆の心情を代弁する。それを聞いた貴族たちとんでもないと、その案に同意を示した。

 ソラはその意図を理解して、胸中で老貴族にお礼を述べる。

 老貴族が不満を漏らすことで、多少のはけ口となるのだ。他国の人間の策で動くなど、誰であってもそうそう簡単に頷けるものではない。

 そしてソラはヴェルトゥブリエに顔を立てさせることも考慮する。

「ですが、ここで問題なのは戦場に一番近いデューアルブルがほしいという点ですね」

「それなら俺のところがいいだろう」

 ひとりが名乗り出る。実際に地図で見ても距離は近く、全員が同意した。

「後は王都が耐えてくれていることを信じるしか無い」

「ノワールフォレの動きも気になる」

 ソラは大丈夫だと告げる。

「リヒトヒンメルに書簡を送りました」

「そんなリヒトヒンメルが? 何を差し出せば?」

 ひとりが懸念を示す。ソラはかぶりを振って口を開く。

「リヒトヒンメルにとっても、ヴェルトゥブリエの消滅は避けたいでしょう。今回は何かを頼んだわけではなく、情報を流しました」

 リヒトヒンメルの国内に、宗教特区がある。そこにヴェルトゥブリエのオルフォール教の神官が出入りし、教えを説いているのだ。

 オルフォール教でもかなり温厚な宗派を信仰しているのが、ヴェルトゥブリエである。その温厚な宗派で、狂信者を生まないようにしているのがリヒトヒンメルだ。

 つまりリヒトヒンメルにとって、ヴェルトゥブリエは存在してもらわないと困る国と言える。

 かの国は情報を元にノワールフォレの牽制を行うだろう。と、ソラは指摘した。

「それならいいが」

 貴族たちはうんうんと頷く。

 程なく話し合いは終わる。






 サチュルヌデューアルブルは各地の貴族たちの集合地点となったため、しばしの間時間が出来てしまう。

 反乱の後の混乱を治めたブリスは、改めてフェリシーとソラたちと話をしていた。

 今までの戦いやこれからのことも踏まえてだ。

「どうやって陛下を助けたのですか?」

 ソラたちは経緯を説明。その内容にブリスはおおと驚き、すごいと何度も頷いた。

「でもよく気づきましたね」

 九魔月の夜とは言え、遠目でフェリシーたちを視認したことを指摘する。

 ブリスはどうしてわかったのかと問う。

「錫杖の音です」

 ソラは一度聞いたことがある音だったと言った。フェリシーはその言葉に錫杖を見下ろす。そして嬉しそうに撫でた。

 ジンは笑いながら当時の状況を語る。

「突然走りだした時は驚きましたよ」

「それで、すぐに作戦を言って、変身しちゃいましたからね」

 シルヴェストルもうんうんと頷く。

「一騎当千か」

 ブリスの言葉にカエデはマルコの講義を思い出す。

 実際に倒すのではなく武威をもって相手を退かせる将。ソラを眺めてから、自身の手を見下ろす。

「毒は、どんな?」

「体内のマナに作用する毒で、一時的に霊力で吹き飛ばし解毒しました」

 ブリスは凄いなと改めて首を縦に振った。

「ドラッヘングリーガーのままで戦えないのですか?」

 ブリスの純粋な疑問。それはカエデたちも抱いていた疑問である。

 ソラは首を振った。

「まず体力が持ちません。あの状態になると、通常より何倍も体力を消費します」

 加えて周囲との連携が取れない点。馬などが怯えて逃げてしまう点などを上げる。

 前者は化け物が横に現れて、平静で戦える人間が少ないのである。また霊力を周囲に撒き散らしてしまう。それは魔力を持つ大多数の人間にとっては致命的である。

 後者も同じだ。移動が馬よりもはるかに早く、立体的に動けるのだが体力を消費してしまう。それを考慮するとあまり変身している利点がないのである。

「何より中長期的な戦闘と、弓矢を使えないのが辛いです」

 ソラは戦闘を射撃戦で終わらせたいと考えているのだ。故に弓矢を使う。

「変身した後に使うのは?」

「力が強すぎて弓が耐えられません。また細かい力の加減が難しくなるのです」

 なるほどとブリスとカエデたちは納得する。

 先の内乱で、傭兵を追い払うときに使われても、自分や村人のみんなは冷静に戦えなかっただろうと、ジンは分析する。

「そういえば陛下、ひとつ訪ねたいのですが」

 ソラの問いかけに、フェリシーは嬉しそうに頷く。

「もしかして陛下は運動がお苦手ですか?」

 フェリシーは笑顔のまま顔を固めた。うんともすんとも言わずに、黙りこんでしまう。

「む、昔は強かったのよ。でも胸が大きくなって足元が見えなくなってからどうにも転びやすくなって」

 前半は嘘である。

 彼女は並みの腕前であったのだ。それに加えて胸が大きくなったことから、足元が見えなくなり、転びやすくなったのである。

 ふとフェリシーの顔が曇った。それは一瞬であり、気づけたのはエメとソラだけである。






 ソラはブリス伯爵の屋敷で個室をあてがわれていた。その部屋であれこれと考えていたのである。

 扉が叩かれ、ソラはどうぞと声をかける。扉が開かれると、甘い匂いが漂う。慌てて彼が振り返ると、そこには顔を俯かせたフェリシーが立っていた。

「失礼しました陛下」

「いえ、いいの」

 フェリシーは物静かにソラの使っている布団に座り込んだ。

「ど、どうかしたのでしょうか?」

 ソラは相談だろうかと考えたが、雰囲気がまるで違う。それがかえって彼を身構えさせた。

 フェリシーは顔を俯かせたまま、口を開く。ソラからは決して表情はうかがい知れない。

「泣き言なの」

「は、はい」

「私失敗しちゃって」

 ソラは黙って促す。

「ヴァレールという父のような人がいたの。その人が私に色々と教えてくれたんだけどね。死んじゃったの」

 ソラは息を呑む。フェリシーは大粒の涙をこぼし始めた。

「私が死に追いやってしまった。使者に出して、それで殺されちゃって、首だけになって帰ってきて。それで頭のなかグチャグチャになって」

 肩を震わせて嗚咽混じりに言う。今にも折れてしまいそうな彼女をソラはそっと横に座って背中を擦ることにした。

 フェリシーは頭をソラの肩に乗せて泣き出す。

 甘い香りがソラの鼻孔をくすぐる。彼は理性を振り絞った。

 フェリシーは今の今まで思い返すことも出来ない状態が続いていたのだ。ようやく考える余裕が出来て、彼女は泣くことが出来たのである。

 己の過ちを悔いて、責任に押しつぶされそうになっていたのだ。

「それでノエルとディオンが止めてくれたのに、私は倒すことしか頭になくって、たくさんの人を死なせてしまった。もう王座に」

「ダメですよ陛下」

 ソラは少し戸惑いながらフェリシーの肩に手を置く。

「辛いですね。哀しいですよね」

 でも、とソラは言うと、これから取り返そうと。それでもダメな時は家臣と考えるんですと、諭す。

「完璧な王なんて、家臣は求めていないですよ」

 フェリシーはあと口を開く。

「昔、ヴァレールにそんなことを言われたわ」

 彼女は王になりたての頃、あれもこれもと背負い込みすぎて熱を出したことがあったのである。

「王になってから厳しかったヴァレールが、少しだけ優しくしてくれて、よく覚えているわ」

 その時に彼女に説いたのだ。

「やることをやってから、後のことを考えましょう」

 フェリシーは黙って頷くと、ソラに体を預けて行く。

 しばらくそのままでいると、ソラは恥ずかしくなり肩から手を離そうとした。その手をフェリシーが捕まえる。

「もう少しだけ」

 彼女は潤んだ瞳で覗きこむ。ソラは胸が高鳴るのを自覚して、歯を食いしばった。

 ソラはこのままではまずいと、話題を探す。

「そ、そうだ陛下」

「はい?」

「ジャンヌを助けたくて俺を呼んだんですか?」

 フェリシーは体を話して目を丸くする。

「どうしてそれが?」

 ソラは魔王との会話の内容を話した。

 魔族が関わっており、それでジャンヌが洗脳されていると。霊力を持つソラなら救えると丸薬を渡したのだ。

 フェリシーは半年前に、プリュトンデューアルブルでジャンヌらしき人を見た。という情報を掴んでいたのだ。

「それでもし本人なら、洗脳をされている可能性があると思ったの」

 ソラと会えば思い出してくれるのではと、フェリシーは考えたのである。魔王までの具体策はなかったのだが、それだけが彼女にとっての頼りだったのだ。

 彼女らはアズマの祭りでソラと出会っていた。

「どうして俺が会えば救えると?」

「そ、そのお伽話とかで……そういうのありますから……」

 ソラは目を瞬かせる。

「とにかく、そういうことなの!」

 フェリシーは立ち上がると、そのまま部屋を飛び出してしまう。

 ソラは手を伸ばしたものの、見送ってから安堵する。

「相変わらずね」

 蒼穹の姫が音もなく現れて、ソラの頭を撫でた。

「出来そう?」

「やってみます」






~続く~


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