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第十九話「恋の前兆」

第十九話「恋の前兆」






 九つの月が浮かぶ夜空。しかしグレートランド上空には暗雲が立ち込め始めていた。雨がいつ降りだしてもおかしくない中、地上では闇夜を照らす城。闇知らずの城が煌々と輝く。

 稲光が執務室を青白く照らす。室内には二つの影。

 ストロベリー第二皇子とヤマブキだ。

「で、どうだ?」

「パスト公爵は死に物狂いで、金を作ろうとしている模様です」

 パスト公爵は現在金銭をほとんど持ち合わせていないのである。

 先の内乱に関わった公爵は、ブランシュエクレール国で捕まり人質となった。多額の身代金を要求され、それを支払ったのである。

 普段ならばグレートランド皇国が外交努力で減額させるのだが、今回はそれを成さなかった。理由は簡単で、パスト公爵の勢力弱体化を狙ったのだ。

 彼は私兵でドラゴンライダーを三騎持ち、膨大な私財を蓄えていたのである。これらはもちろん皇国には報告しておらず、彼は私腹を肥やしていったのだ。

 結論から言うと皇国は公爵を危険視していたのである。

 ブランシュエクレール国を制圧出来たとしても、パッセ侯爵と共に民の贄となっていただろう。

「どうやってだ?」

「龍ノ峰島のエルフの娘たちを差し出させ、そして彼の領内にいる亜獣人族の娘たちを捕らえているようです」

「面白くないな。何かないか?」

「奴隷商人に引き渡すでしょう」

 ストロベリーは頷く。

「そこを狙い刺客を潜り込ませます。船が出たところで、船頭を殺し難破させるなり、沈ませようと思います」

「確かに、ブツが届かなければ金にならんな」

 よいよいとストロベリーは笑む。

「龍ノ峰島との関係を悪化は避けられないでしょう」

「なるほど、裏切らせブランシュエクレールに噛ませると」

 ストロベリーの答えにヤマブキは頷く素振りを見せた。

「では、手はずを整えます」

「頼むぞ――ああ、それと今宵は雷だ。いつものを頼む」

「御意に」

 ストロベリーは雷に弱いのだ。起きている間は大丈夫なのだが、寝ている間の雷を特に怖がった。そんな夜を眠るためにはヤマブキが必要なのだ。彼は幼いころから、こんな夜はヤマブキの手を握りながら眠ったのである。

「早くしてくれ」

「急ぎます」

「今、笑ったな?」

「笑う顔がありません」

 ヤマブキは黒いローブに覆われており、光る一つ目以外は影に覆われている。故に彼の表情をうかがい知れるモノはいない。

「笑っていたのだ。そう見えたのだから、そうと言っている」

「そうですか」

 ではとヤマブキは部屋を後にする。






 日が昇らぬうちからオスヴァルトは馬を走らせた。昼までには屋敷に戻らねばならない。

 その間、バーナードとアオイはジャクソンに見つからないように、屋敷内で雑務。ソラはその間に二百人の兵士に酒樽が来ることを告げ、夜には新しい仲間との親睦の催し物を行うことを伝えた。その際、できるだけ仲間を呼ぶようにとも言い含めておく。

 それが終わると時間まで文献を読みあさる。ブランシュエクレール国について学んでいるのだ。

――戦争には娼婦を募っている。ということは禁止されているわけではないのか……。

 ソラは娼館、および歓楽街の設置には前向きである。実際オスヴァルトに言われなければ、そこに思慮が向かなかっただろう。彼がそういう思考に行かなかった理由は簡単だ。年頃とはいえ娼館を利用したことがないのである。

 故に娼婦を利用するという発想がなかったのだ。

――風紀が乱れるだろうし、それを気にする人もいる。かといってそれらを気にし過ぎると兵士の忠誠は得られない。そのままだと、この先のマゴヤの戦争にも響くな。

 ソラはそこまで考えて、他の領地がどのような方針をとっているのか気になった。

 目つきの悪い少年は視線を彷徨わせる。壁にかけてあるブランシュエクレール国の地図に目が止まった。

「ミュール伯のところが近いな――大丈夫だよ。ありがとう」

 ソラは虚空に話しかける。彼の背後で蒼い光がうっすらと揺らめく。






 太陽が中天を射す頃、パッセ領に大集団がやってくる。全部で五百人を超える大集団だ。事前の告知されていたため、町民は少し離れてその一団を見る。その中にかつてこの領地を治めていた者の息子――ジョセフの姿もあった。

 町民が眺めている理由は色々ある。第五騎士団にはドラゴンを討伐した騎士たちがおり、ひと目見ようとした者や、パスト公爵が持ち込んだドラゴンの亡骸が見られると聞いて眺めている者もいた。

 凍結されたドラゴンの亡骸が運ばれた時は大きな歓声があがる。

 子供が飛び出しそうになるのをジョセフが止めに入った。

「おいおいあんまり飛び出したら、荷車に轢かれちゃうでしょうよ」

「ごめんなさい」

 ジョセフだとわかると、人が集まり始める。一瞬部下たちは警戒するが、それは杞憂に終わった。

「これ、持って行くがいい」

「こんなはした金はいらんよ。自分のために使いなさいよ」

 老翁が取り出した、小さな麻袋を押し返す。

「これ作ったんだけど」

「おー! 美味そうじゃん。屋敷に後で持ってきてくれよ。後で他のやつにも薦めておくよ。これで明日から店は繁盛だぜ」

「よしてくれよ」

 鍋にはぶつ切りの野菜のスープ。ジョセフは嬉しそうに歯を見せて笑う。

 結論から言うと、彼らが一番見ようとしたのはジョセフだ。

 彼はアドルフより領民に愛されている。彼が有能ではないことは領民も知っていた。それでもジョセフは領民にとって、領主と等しいモノであったといえる。

 ジョセフは幼い頃から領地の問題を押し付けられては、その解決のために奔走させられていた。もちろん幼い彼に解決など難しく、多くは村々で話し合いをして解決していた。そのためパッセ領の民たちは自己解決能力が非常に高い。

 今回のシャルロットはお忍びの訪問であった。そのため、彼女たちの存在に気づくものはいない。

 第五騎士団はパッセ領にある広い庭へと入り、休憩のための軽い幕舎を立てる。ゲルマンはその指示に追われていた。

 彼女の乗る白馬の後ろにはシャルリーヌ・シャルル・ブランシュエクレールの姿もあった。今回は姉に無理やり連れて来られたのである。

 シャルリーヌ自身はそう思っていたのだが、シャルロットは色々な目的もあってここに連れてきたのだ。

 ひとつは厳しくとも少しでも外の環境に慣れさせるため。もうひとつは容態をソラに診てもらうためである。後は外の景色を見せての気分転換なども含まれていた。

 そしてシャルロットたちと共にやってきたのが新生第五騎士団だ。

 レーヌとカトリーヌがシャルロットをすぐに見つけて駆け寄る。

「お待ちしておりました」

「出迎えありがとう」

 シャルロットは馬から飛び降りた。シャルリーヌは場上に残されて慌てふためく。白馬は乗り手が相応しくないと見るや暴れ出す。悲鳴と共にシャルリーヌは短い悲鳴の後、振り落とされる。

 とっさの出来事にシャルロットたちの反応は遅れた。しかしシャルリーヌは地面に激突することはない。

 シャルリーヌが落着する瞬間受け止めた者がいる。

「ソラ、ありがとう」

「陛下、お気をつけ下さい」

 ソラだ。

「次は気をつけるわ」

 彼に抱えられたシャルリーヌは見上げるように眺めた。ソラの鋭い目が彼女を射抜く。シャルリーヌは蛇に睨まれた蛙のように身動きがとれなくなる。

「ぁう」

 やっと絞り出した声に、シャルロットは顔を抑えた。

「――殿下の方はもう大丈夫でしょう」

「え?」

 ソラはシャルリーヌの容態を確認していたのだ。それを聞いたシャルロットは嬉しそうに顔をほころばせた。

 シャルリーヌは膨大な魔力を持っていたのだが、それが毎日のように暴走し彼女を苦しめていたのだ。

 先の内乱で姉であるシャルロットと刃を交えて以降、調子は良くなってきていた。

 魔力の流れに異常はないとソラは付け足す。

「二人は?」

 レーヌが首を振り、カトリーヌが補足する。

「まだ完全には」

「そう。ゆっくり――とはいえないけど養生しなさい」

 二人はマナ出血毒に患い、その後遺症がまだ残っていたのだ。

 魔力を一時的に消失させることでその容態は良くなってきている。それでもまだ気が置けない状況ではあった。

「元気そうじゃない」

「マリアンヌ殿」

 レーヌとマリアンヌは握手した。した後にレーヌは「あ」と言う。マリアンヌが首をかしげる。

「その、まだ完治はしていないので」

「気にすることはないわ。あたしもロッテの近くから離れないから」

 マリアンヌはどうかしらとソラの前で一回転する。

「大丈夫ですね」

「それよりソラ。いつまでリーヌを抱えているのかしら?」

 ソラは謝罪し、慌ててシャルリーヌを降ろそうとした。が、彼女はすぐに反応できないでいる。

 抱かれているのが心地良く感じていたのだ。それを察したシャルロットは一瞬だけ面白く無さそうな顔となる。それに気づけたのはレーヌとマリアンヌだけだ。

 ソラたちの元に一人の青年が歩み寄った。褐色の肌に緋色の頭髪はリーゼントを象っている。

「おっすソラ」

「どうもフェルナンドさん」

 ソラはフェルナンドに三通の書簡を渡し、銀貨を数枚手渡す。

「宛名の字が読めない」

 フェルナンドは未だ字が読めないのである。

「ン・ヤルボンガゥの三大商人のところにお願いします」

「わかった――って、いきなり受け取ってもらえるか?」

 有名な商人のだと、商売の話を振ってももらえないことがあるのだ。

 フェルナンドはそれを心配した。

「俺の名前を出してください。一読はしてくれるはずです。それでもダメなら、ダリルのところにお願いしてください」

 褐色の商人は腕をあげて、自分の馬車へ向かう。

 今回の彼の商売はドラゴンの亡骸の売買だ。第五騎士団はその護衛兼、海上都市の視察である。

 ジョセフ、ゲルマン、カエデ、シルヴェストル、アラン、ジンには外の事を学んで欲しいというシャルロットの思惑もあっての同伴だ。

 彼らは一度、海上都市には足を運んだことがあるが、ドラゴンの売付けに手一杯で見ている暇がなかったのである。今回はドラゴンの亡骸の売買はついでで、彼らの見聞を広めさせるのが主な目的だ。それの師範役としてマルコも同行している。

 マルコは現在カエデたちの教師役だ。それがシャルロットとの契約のうちの一つである。

「陛下こちらへ」

 ソラは屋敷とは反対の方向を指し示す。

 今回は公式の訪問ではない。さらにこれから話す内容はジャクソンに聞き取られたくない内容だ。

 屋敷の周囲にある森に開けた場所があった。そこには大きめの幕舎が備えられており、約二十人がそれを取り囲んでいる。それを指揮しているのはオスヴァルトだ。

 ソラたちが中に入り終えるのを確認してから、オスヴァルトは一人を呼ぶ。

「ウェルダー。適度に休憩を挟んでおけよ」

「そうさせていただきます」

「んじゃ、行ってくるわ」

 軽い調子でオスヴァルトが中に入ってウェルダーは周囲に指示を出す。




 幕舎の中は机と椅子しか無い。椅子も二脚しかなく、シャルロットとシャルリーヌのための椅子だ。

 シャルロットたちが椅子に座ると同時にカトリーヌが紅茶を運んだ。

 彼女たちの側にはマリアンヌ、レーヌ、カトリーヌ。相対する形でソラは三人と共にいた。

 彼らは三者三様に困惑させている。彼らは後にこの領地を頂戴する人と、顔合わせする気でいた。それが突然、この国の王と相対しているのだ。驚くのも無理からぬ話。

「まずは私からお話をしましょう。私がこの後パッセ領を統治するシャルロットよ」

 オスヴァルト、バーナード、アオイは驚き目を見開く。

 彼らも現国王がシャルロット・シャルル・ブランシュエクレールであることを知っている。つまり彼女がこの領地を統治するようになるというのは、王位を妹に譲ると言ったも同然であった。

 彼らはシャルリーヌがこの領地を治めるのだろうと、予想していたのだ。

「つまり、シャルリーヌ殿下が王位を継ぐと?」

 バーナードはすぐに確認する。シャルロットはシャルリーヌに目線を向けてから頷く。

「そうよ」

「内乱はなんのための」

 その言葉に表情を暗くしたのはシャルリーヌただひとりだけだ。シャルロットは毅然とした態度でそれを受け止めた。

 綺麗に終わったと思ったのは大多数だけで、未だに異議を唱えるものはいるのだ。それをシャルロットは承知していた。

 バーナードが言い募ろうとするが、オスヴァルトが遮る。

「そういうこともあるってことだ。どちらにせよ。俺たちがこの人についていくかどうか決めることが出来るわけだ」

「そうね。どうかしら? 私は相応しくない?」

 オスヴァルトは即答する。

「別嬪さんの下で働くのは嫌いじゃない」

「こき使うわよ?」

「喜んで」

 次にアオイも異議はないと頷く。

「遺跡調査できればそれで」

 バーナードは少し煮え切らない表情をした後に口を開く。

「シャルリーヌ殿が王位を継ぐという事に関しては、個人的に思うことはある。だが、シャルロット陛下に忠誠を誓うことに異論はない」

「ありがとう。あなたみたいな人がいてくれるとありがたいわ」

 シャルロットは甘やかしてしまうと、自身を卑下する。レーヌとカトリーヌが異論を唱えようとするが、彼女は先に手で制す。

 次いでシャルロットはソラを見やる。

「紹介してちょうだい」

 ソラは順にバーナード、アオイを紹介していく。

「バーナードさんたちには、この領地の地質調査及び、地図を作ってもらいます」

「地図? あるじゃない」

 シャルロットは首を傾げる。そこでソラはレーヌに目線を送った。銀髪の侍女は帳簿と裏帳簿をシャルロットの目の前に置いた。

「これがアドルフが隠していたモノです」

「裏帳簿ね……」

 シャルロットは渋い顔をしながら、二つを流し見る。彼女の感想は随分上手くやっているなという感想だった。それを背中越しに見ていたシャルリーヌは思わず口を開く。

「これはいけないのでは?」

 シャルロットはそうだけどと言いながら、シャルリーヌと向かい合う。

「確かにいけないことね。でも、それは必要悪よ。こんなのどこの貴族も多かれ少なかれやっているわ」

 シャルリーヌは驚愕する。シャルロットは彼女と目線を合わせた。

「シャルリーヌが言いたい事もわかる。私だって最初はそう思ったわ。けど、糾弾すること追求することをお母様は強く禁じたの。どうしてだと思う?」

 シャルリーヌは今度こそ頭が真っ白になる。自身の母親が黙認していたことが信じられなかったのだ。しかし、シャルロットの瞳に急かされるように、問いかけに対する答えを探す。

 すぐに彼女は答えに思い当たる。パッセ侯爵が私財を王宮に大量に運び込んだ姿を思い出したのだ。

「裕福になりたいからでしょうか?」

「正解。けど、それだけじゃないってのも覚えておきなさい。あなたはアドルフを見ていたからその答えになったというだけ」

 シャルロットはその他の答えは自分で探しなさいと言うと、ソラに向き直る。

「で、その裏帳簿用の地図も書かせるということかしら?」

「はい。取捨選択はしますが数が多すぎます」

 シャルロットが積極的な動きを見せないのは、国庫が潤っているからであった。隠し集落を正式なモノとしても税収は問題はない。むしろ、内乱の事を鑑みて下げてもいいくらいだと考えていた。

「私が就いてからでも遅くないではないかしら?」

「遅いです。陛下、少し耳に痛いお話をしますが、状況は楽観できない状況です。マゴヤ、グレートランドの事も考えるとあまり時間はないです」

「外交を信じないと?」

「それでも抑えられるのはグレートランドだけでしょう」

 シャルロットは瞑目して考えこむ。

「わかったわ。今やっていることは?」

「ちょっと待って下さいよ。俺の紹介まだじゃない?」

 オスヴァルトが会話に入り込む。シャルロットは一瞬だけ目を細めたがすぐに元に戻した。

「そういえば、そいつと外の連中は?」

 会話の邪魔をされたので、気持ちが良くないのである。それが声を少しだけ低くさせた。が、オスヴァルトは動揺しない。

「彼はオスヴァルトです。骸骨機兵傭兵団の団長です」

「骸骨機兵傭兵団ってすごいじゃない」

 すぐにシャルロットは評価を覆す。彼女はオスヴァルトを改めてみて、新戦力に心躍らせる。

 が、今度はオスヴァルトが驚愕する番であった。

「旦那、いつの間に? まだ教えてなかったですよね?」

 オスヴァルトだけではない。バーナード、アオイ、そしてレーヌとカトリーヌも驚き彼を見やる。そう、彼らはまだその事を聞いていない。

 視線を向けられた目付きの悪い少年は頭をかいた。ソラは一度息を吐いてからシャルロットをまっすぐと見据える。

「陛下はそろそろ見え始めているころでしょうか?」

「そうね。そこであなたにべったりくっついている女は何?」

 不機嫌を隠さぬ声に全員が目を見開き、その内容にさらに目を白黒させた。

「そろそろ良い頃合いだと思っていました――蒼」

 ソラが虚空に呼びかけると蒼い光がゆらりと現れ、すぐに人の形を成す。そして女性がそこに現れた。

 虹の光沢を放つ蒼い頭髪に瞳。肌は乳白色。体躯はスラリとしており、来ている衣服は巫女装束である。ただし腰から下はミニスカートで、眩しい太ももを露わにしていた。

 蒼を見て、オスヴァルトは口笛を吹く。

「こいつはたまげた」

「この世のモノとは思えない」

 オスヴァルトの言葉にバーナードは同意しながら、蒼に見とれた。

「ありがとう」

 そんな二人にお礼を言いながら、蒼はシャルロットに見せつけるようにソラに抱きつく。

 見せつけられた当人は歯噛みする。

「蒼、話中」

「えー、いいじゃない。ここのところご無沙汰だもん」

「霊力なら抱きつかなくてもいいじゃないか」

「気分の問題よ」

 ソラは蒼を引き剥がして、横に置く。

「それで……」

「お姉様、声、声」

 シャルロットは咳払いをしてから、再び口を開く。

「それで、ソレなんなの?」

「ソレってなによ? この神霊をソレ扱いとは」

 話が別の方向へ転がり始めたソラは、強引に話を推し進めることにした。

「蒼は神霊です。実はジャクソンという男がいまして、彼の妨害工作さて、上手くいっていなかったのですよ」

 港町への募集は蒼に行かせてやらせたとソラは説明した。その時に彼女は骸骨機兵傭兵団の一団が町に入ったのを見かけて偵察。

「公示をお願いした日に、来るとは思わなかったわ」

 蒼は肩をすくめて言う。

 オスヴァルトは一緒についてきたのかと、驚く素振りを見せた。

「なら、その蒼に地図を書かせれば?」

 シャルロットの言葉にソラは首を振る。

「霊力が底をつきますし、蒼にはそのような芸当は出来ません」

 ソラは首を振って違うと言うと、話の筋を戻す。

「ジャクソンという男をこちら側に引き込みたいのです」

 彼の妨害の手際などをソラは褒めた。

「それは任せるわ。他は?」

 それからとソラは説明する。彼は道の整備、兵農分離、唯一の山道に関所、及び砦の構築を考えていると説明。

「それと歓楽街を考えています」

 その言葉にシャルロットは眉根を動かす。

「必要なの?」

 声音には否定が色濃く滲んでいた。

「いいじゃない」

 マリアンヌはその案を好意的に受け取る。

「うちの国、そういうの無さ過ぎ」

「だが、マリアそういうのは治安の悪化を招く。今のは娼館を建てるというというのではない。歓楽街だ」

「そこはまだ朧気ですから、検討している段階です」

 案はあるが、周辺の住民や、ブランシュエクレールの歴史的背景も考慮すると、気軽に用意できるものではない。

「どちらにせよ陛下。女性の奴隷を大量に買うのは決めております」

「なんだと?」

 シャルロットは腰を浮かす。

「最後まで聞いてください。陛下や殿下の事を考慮すると、この先女性はたくさん必要になります」

 ソラは女性だけの兵団を作るのも考えていた。それにシャルロットやシャルリーヌの護衛をさせようとしているのだ。

「必要ないでしょ?」

「失礼、それは必要ですよ陛下」

 オスヴァルトが口を挟む。

「女性の集団がいるというだけで、男性には牽制できます」

 シャルロットは首を傾げる。

 この先、戦続きになるのはほぼ決まったようなものだ。そうなると戦場での規律や治安、そして男性特有の暴走をソラは危惧したのである。

「この先、レーヌ殿やカトリーヌ殿にも戦場には立ってもらいます」

 ソラははっきりと言い切った。

「味方に襲われるというの?」

 男性一同は頷く。

 兵団に少人数だと手を出しかねない上、表に出ない事になりかねない。ましてやその矛先がレーヌやカトリーヌに向いてしまう可能性は十二分に考えられた。

 ソラはこの他にも味方への牽制だけではなく、敵を誘い出すことにも利用できると考えていたのである。

「俺たち男が暴走しないためにも、女性の兵団を作った方がいい。娼婦や羊を連れて行くにも限度がある」

 シャルロットは唸った後に、シャルリーヌを見やる。

「あなたに任せる」

 シャルリーヌは口を開けて、周囲の人間を見渡す。

 会話の内容にも衝撃を受けていたが、さらにその判断をすべて自分に投げられたことに彼女は目眩を覚えた。

 シャルリーヌはソラと目が合う。

「ソラさんにお任せします。ソラさんなら上手くやってくれますよね?」

「微才をもって全力を尽くします」

 こうしてこの日の話し合いは終了した。休憩を終えた第五騎士団たちは港町へ向かい。それを見送ったシャルロットたちは王都へ向かう。

 それらを見送ったソラは、今いる信頼できる部下を見る。

「皆さんよろしくおねがいします」






~続く~


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