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第二十話「やってきたのは――」

第二十話「やってきたのは――」






 中天より太陽が傾きだした頃。パッセ屋敷近くの森では静かなる出発式が行われていた。

 バーナードとアオイ、そしてオスヴァルトが連れてきたカラミティモンスターを対処できる二十人はソラの前に集まる。

「皆さんお気をつけてください。カラミティモンスターは最低でも四体はいます」

 その言葉にバーナードは息を呑む。彼は戦闘に関しては素人である。

「ウェルダー、無茶するなよ」

「わかりました団長」

 オスヴァルトの言葉にウェルダーは頷く。

 ウェルダーは掘りが深い顔立ち。薄い金髪と薄い金の瞳。年の頃はオスヴァルトより若い。

 二十人は全員軽装に大きな荷物を背負っていた。幕舎や色々な道具である。

 ソラは最後にアオイに近寄って小声で話しかけた。

「一応、大丈夫だとは思いますが皆さん男性です。お気をつけて」

 アオイは悪戯を思いついたような顔となる。

「代官も私のこと、そういう風に見ちゃうんですか?」

 彼女はソラにさらに近寄って上目遣いに覗く。

「それだけアオイさんが魅力的なのです」

「私は代官だったらいつでもいいですよ?」

 ソラは手で制してから一歩退く。頭をかきながら、もう一度気をつけるようにと言い含める。

「わかりました。ありがとうございます」

「それと、バーナードさんの護衛をお願いしますね」

 アオイは一瞬だけ目を見開き、小さく頷いた。

 彼らは森の中を隠れるように出発する。それを見送ったソラたちは次なる作業にとりかかった。

 骸骨機兵傭兵団改め、骸骨機兵兵団を受け入れる態勢を整えなくてはならなかったのだ。

 予め屋敷に待機させた大工と石工を呼び、作業を開始させる。

 森を切り開き、兵舎を建築する予定地の確保だ。その間、三百人は幕舎での生活を行ってもらう手はずだ。

「屋敷の一部も解放します」

「んじゃあ、交代で使用させるか」

 無駄に広い屋敷なので、ソラたちは使い切れていないのが現状。一部解放とは言っているものの、三分の一は使用できるようにレーヌとカトリーヌが取り計らってくれたのだ。

 ソラは屋敷に戻り、ジャクソンを含めて今後の方針を話し合う。彼は傭兵を雇った事に驚き反対したが、ソラはそれを説き伏せる。

「私は納得いきません」

 当然ながら彼が反対する理由は、自身の脅威となると考えてのことだ。

「今はそれで構いません。それより俺はミュール伯爵のところ行こうと思います」

「なるほど、では飛脚に書簡を渡しましょう?」

 ソラは数日中にミュール伯爵の元へ訪れると伝えた。そのためには相手の予定をお伺い立てなくてはならない。そのための書簡、それを飛脚に届ける役目をジャクソンが申し出たのだが、レーヌはいえと切る。

「私が出しました」

 ジャクソンは鼻の頭に脂汗を浮かべた。歯切れ悪くそうですかと言う。彼の顔色は悪くなっていく。それは本人が思っている以上に顔に表れていた。

 程なくバーナードたちの事を伏せたまま、方針を話して解散となる。

「今日はこれでお終いです。皆さんゆっくり休んでください」

 ジャクソンは失礼しますと、執務室を後にすると足早に廊下を歩いて行く。

「よお旦那。顔色が悪いぜ」

 オスヴァルトがジャクソンを呼び止める。

「あなたは?」

 ジャクソンは内心罵倒しながら、平静を装い対応する。

「オスヴァルトって言うんだ。骸骨機兵傭兵団の団長だった。今は骸骨機兵兵団の団長だ。よろしくな」

 オスヴァルトは握手を求めた。もちろんこれはオスヴァルトなりの牽制である。ジャクソンは応じて、すぐに離そうとしたがオスヴァルトは離さない。

「な、にを?」

「酒場知らないかな? できれば案内して欲しい」

 オスヴァルトは不慣れなんだと付け加える。ジャクソンは忙しいと断ろうと考えたが団長の男は有無を言わさなかった。ほぼ強引にジャクソンを伴って屋敷を後にする。




 ジャクソンは、普段足繁く通う斜向かいの酒場にオスヴァルトを案内した。

「ここが酒場だ。後は好きにしてください」

「おい、釣れないな。一緒に飲もうじゃないか」

「生憎、私はまだ雑務があるので」

 オスヴァルトはそうかいと言うと、近くに通りかかった男性を捕まえる。

「おい兄弟。どうだ? 今夜屋敷で酒を飲むんだが来ないか?」

 男は突然の事態に驚きながらも、オスヴァルトの話の内容に興味を持った。

「屋敷ってパッセ侯爵がいた?」

「そうだそうだ。今代官がいる屋敷だ。夕方には港町で見つけた上等な酒が来る。それでみんなでパーッと騒ぐ予定だ」

 男は念を押すように再度聞く。オスヴァルトは頷きながら絶対に来いと誘う。そして最後にこう付け加えた。

「たくさん酒がある。お前の知り合いも連れて来い。代官は許してくださるだろう」

「代官が? 大丈夫なのか?」

「なんだ?」

「代官は租税を引き上げることを考えているとか聞いたぞ。後、悪い噂も」

 背後にいたジャクソンはしめしめと笑う。しかし、オスヴァルトの言葉に彼の顔は一変する。

「その酒も代官が買ったモノだ。租税の話も酒の席で直談判すればいいんじゃないか?」

 男は納得して頷くと足早に去っていく。ジャクソンが咎めようとオスヴァルトに話しかけようとしたが、当の本人は次なる人物に話しかけて酒の席に誘う。先ほどの男と同じ手順だ。ジャクソンはお腹を抑えてその場を去った。




 屋敷でタダ酒が飲めるという話は町中に広まる。酒屋や飯屋の店主が、商売が成り立たないと屋敷に殴りこむが、ソラは逆に彼らに宴の食事や飲み物の提供を求めた。もちろん報酬をちゃんと提示してだ。その内容に店主たちは眼の色を変えた。彼らは我先にと夜の宴の準備を始める。これが決め手となり、近場の村の住人もやってきて、大きな宴へと発展。屋敷では収まりきらないと判断し、町全体で宴を催すこととなった。

 夕方、酒樽を持ってやってきた一団を、町全体が歓声で迎えるという事態となる。当然ながら、何も聞かされていなかったオスヴァルトの団員たちは、最初こそ驚いた。だがすぐに自分たちの団長が上手くやったのだと理解する。後は歓声に合わせて祭りの催し物のように、踊りながら騒ぎながら町へと入っていく。

 ある者は手近にいた女性の手を取り踊りだす。ある者は甲冑や武器を楽器にして、音楽を奏でる。ある者は馬の上で曲芸を見せて、町民を沸かせた。

 酒樽全てはそのまま町の各所に配置される。それらを自由に注ぎ飲むという形となった。

 いくらか町に置けず、屋敷の中に運び込んだモノもある。

 オスヴァルトに連れられて、ソラは町の広場にやってきた。団長の男が目配せし、団員の男が角笛を吹く。それを合図に町が静まり返った。

「よく聞いてくれお前たち! 今日のこの宴は代官様がすべて持つぞ! 飲んで食って、踊るんだ!」

 オスヴァルトはさがりソラを促す。彼は最初こそ戸惑ったものの、意図を理解して一歩前に出た。

「皆さん、先の内乱をよく耐えてくださいました。だから、今宵を楽しみましょう!」

 ソラの言葉を合図に地鳴りを伴う歓声が沸き起こる。

「みんな楽しめぇええ!」

 オスヴァルトが叫び、町はお祭り騒ぎへとなる。誰もが笑顔となって酒を飲み、食べ物を食べ、隣人と手を取り踊った。

 その騒ぎは夜通し続き、夜明けと共に終わりを告げる。




 かくして骸骨機兵傭兵団、改め骸骨機兵兵団は、パッセ領の領民たちに瞬く間に受け入れられた。またこの祭りの一件以来、ソラに対する民のわだかまりは解消される。

 彼に直談判した人々は彼の悪い噂や、租税のつり上げなどが嘘であるとわかったのだ。

 後日、ソラはシャルロッテに怒られることとなるのだが、この祭りで得られたものを考えると些細なものだと彼は考えた。






 三日後、屋敷の庭には四千人が並ぶ。彼らは皆、自分らの住む領土を守る兵士として志願したのだ。

 今度は正確に兵農分離の話も行き届いた結果である。それらを取りまとめるのはオスヴァルト。そして、エヴラールという男だ。彼は早期からソラの説得に応じた二百人のうちのひとりだ。

 屈強な肉体に濃い顔つき。年の頃はオスヴァルトと同じくらいだ。祭り騒ぎの際は意気投合しており互いに潰れるまで酒を飲み倒すほどである。

 彼は仲間から信頼も厚く、柔軟な考えが出来る事から選ばれたのだ。もちろんそれだけではなく、オスヴァルトだけに取り仕切らせるのは、収まりが悪いのである。

 彼らは確かに受け入れられたが、偉そうにしていいというわけではない。そういう意味で、よそ者と現地の人の緩衝材的な役割としてもエヴラールには期待されていた。

 説得に応じた二百人と、オスヴァルト率いる三百人は骸骨機兵兵団として合流し、特殊兵団として編成された。

 後の三千五百人はオスヴァルトとエヴラールが適正を見極め、それぞれの兵科へと割り当てていく。






 その頃、王宮では思いも寄らない事態に混乱をしていた。

 この日、シャルロットは他国の重役と会談し、政治的な駆け引きをする予定だったのだ。その相手国とは、ン・ヤルポンガゥ。

 ブランシュエクレールの南に位置する大国だ。両国を海が隔てているとはいえ、船で二、三日もしない位置にある。さらにン・ヤルポンガゥには自由市を行う都市、海上都市もあることから国だけではなく、両国の間では人、モノ、金、などが激しく行き交っていた。

 ン・ヤルポンガゥは建国して半世紀以上経とうという頃、ブランシュエクレールより若い国ではあるが、指導者が良いのかあっという間に大国の仲間入りである。

 それもそのはず、魔族、神族が国の役職についており、また魔界とはゲートを通じて繋がっていた。魔界でしか取れないモノもたくさんあり、それらを政治的に有効に使っていた。そして、それを取りまとめるのは四大祖龍の一体、魔龍バハムートである。

 人の形を成すことが出来る祖龍を、他国の人は魔王と呼んだ。本人は象徴として王座に座し、政は人に任せていた。

 故にここ十数年は表舞台に立っていない。

 立っていなかったのだ。

「まさか魔王自ら、こちらにおいでくださるとは」

「いやいや、王と王の対話だ。私が出るよりほかあるまい?」

 そんなことはないだろうとシャルロットは内心思った。外務的なことは他の人間に任せているのは、彼女も知っていた。つまり彼がここに来たということは、よほど重要な案件ということになる。

 シャルロットは褐色の肌、黒絹のような長い頭髪、紅い瞳の男と対峙していた。否、祖龍と対峙している。

 彼らは大部屋で迎え入れようとしたが、魔王はそれを嫌い、小さな部屋で隠れるように会談を行っていた。

 ブランシュエクレール側はシャルロット、そしてシャルリーヌとロラン・ブークリエ元伯爵、そして数人の高官だ。

 ン・ヤルポンガゥ側は魔王とオリビエという男だけである。

 最初シャルロットたちは二人だけで来たことに驚きを示した。嘘なのではないかと思ったほどだ。しかし、魔王はそんな対応も慣れているのか。人が多すぎると出費が多くなると軽口でも言うように言ってのけたのである。

 魔王はブランシュエクレール側の人間を品定めするかのように見渡し、一呼吸置いてから口を開く。

「結論から言おう。ブランシュエクレールに海上都市を作らないか?」






~続く~


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