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第二十話「救出」

第二十話「救出」






 ソラと金の姫将軍は正面から城に乗り込んだ。

 城の中庭までやってくると、敵兵を誘う。あっという間に囲まれるが二人の表情には余裕すら感じられる。

 目付きの悪い少年は弓を構え、矢を番えた。即座に放ちマゴヤの兵士を蹴散らす。それに負けじと金の姫将軍も武器を振り回す。血飛沫と土煙が巻き上がり肉片が飛び散る。

 二人は背中合わせと成り、回転しながら敵兵を撃退していく。次第に敵の注意は二人に向いていく。

 金の姫将軍が近づく敵を蹴散らすと、入れ替わりソラが弓を構えて、離れた敵に矢を放っていく。敵が接近してくるとまた入れ替わり、金の姫将軍が敵兵を戦斧や縋で屠る。

 今回は矢筒ではなく、矢袋を二つでありったけの矢を持ってきている。

 ソラは連射。曲射。三本同時に放って、矢の数を減らしていく。

「弓兵を呼べ!」

「今来ていますよ!」

「遅いと言っているのだ」

 罵声が飛び交う。

 弓兵は二人を包囲するように陣取っていく。意外なことにソラたちはそれらを無視した。

「構え!」

 弓兵は一斉に弓を構えた。指揮する男が手を振り下ろそうとした時だ。四方八方からマナの光弾が飛び交う。弓兵は全て穿たれ、絶命する。

「余所見はいけませんよ」

 タカアキである。彼は城門の屋根に潜み、ソラと金の姫将軍の周囲に魔力の糸を張り巡らせて、そこからマナ光弾を放ったのだ。

 しばらくこのままの陣形でいると思われた。しかし、金の姫将軍は突撃。戦斧を鎌に変形。黄金の刃が三日月を描く。振り回す度にマゴヤの兵士の首は飛んで行く。

 ソラは弓を構えたまま突撃。至近距離で放ち確実に屠る。飛びかかってくる敵は跳躍して壁を蹴って、三角飛びでやり過ごす。

 着地と同時に矢を放って頭部を穿つ。

 敵兵の落としや矢を拾って放つ。突き刺さっているのも、通りぬける時に素早く引き抜く。

 三人が同時にソラに迫る。

 三本同時射ち。しかし一発は外し敵兵が槍を突き出す。ソラは身を翻して避け、矢を番え懐に飛び込むと顔面に放った。

 槍を奪うと振り回し、敵兵の胸板に突き立てる。蹴飛ばしながら引き抜いて投擲。敵兵の喉に突き刺さり命を奪う。

 金の姫将軍は鎌から縋に変形させると、敵兵の頭蓋を叩き潰していく。一回転させて柄で敵を薙ぎ払い、手近な兵士の頭に振り下ろした。

 戦斧に戻して、敵兵を具足ごと叩き割る。

 再び二人は背中合わせとなった。

 その頃マルコとアオイは地下牢に侵入し、フィオナとアイヴィーを救出に成功する。

 フィオナは手近にある衣服を手に取り身に纏うと、マルコたちの誘導に従う。ソラたちとは反対方向から抜け出すとマナ信号を打ち出す。

 合図を確認した三人の動きは早い。

 中庭から逃げ出し、西の港を目指した。

 それぞれ隠していた馬を拾うと、西へと駆け出す。

 ソラたちは南から。マルコたちは北から回り込む形で港へと向かった。






 ヨリチカとシャルロットの戦いは、膠着する。相手の出方を伺う戦いとなったのだ。故に、傍から見れば動いたり止まったりと緩急が激しい戦いに映った。

 彼にとって未知なる敵。それがシャルロットだ。

 対する彼女はまだ盾の能力しかわかっていない。盾の大剣や大鎧までは、把握出来ていないのだ。あるいは無いかもしれない。

 それでも油断しないには十分過ぎるくらい、異質な武器と防具であった。

 互いにわからない相手の能力。それが戦いに静と動を生み出していたのである。

 シャルロットは戦いながら、ヨリチカの言葉を思い出す。

 惚れたと言っていた。戦争を早期に終わらせるもうひとつの手段がここで、生まれたのである。自身を差し出し、国の安全を買う。

 これほど確実で、安全な戦争回避の仕方は他にないかもしれないと。

 しかしマゴヤが約束を反故にして、侵略しないとも限らない。何よりシャルロットの脳裏にソラの顔が過った。

 彼女は仏頂面な顔を思い出すと、肩の力が抜けていく。

 そこで視野が広がった。

 ――避難はあと少しで終わるわね。ランスとサスケは……。

 二人共ヨリチカの部下を倒していく。マルヴィナが弓で彼らを援護していたこともあり、かなり優勢に立ちまわっている。

 問題は目の前の男だ。

 シャルロットは両手で攻撃を受け止めるので精一杯であった。

 彼女は腕に痺れを感じていたのだ。それと合わさるヨリチカの気迫は、精神も追い込んでいた。

 だがそれも過去の話である。

 彼女は腕が痺れてはいるものの、気持ちは先程よりも随分と軽くなっていた。背中に冷や汗を感じなくなってもいる。

「顔が変わったな」

「そうかしら?」

 ふと空を見やると明らんでいた。

「避難終了しました! 陛下!」

「船を出しなさい! ソラと一緒に戻るわ」

 シャルロットはそう言うとヨリチカに突進。霊剣を振り下ろす。容易く盾で受け止められるが、すぐに飛び退く。お返しにとヨリチカは片手で黒い大剣を縦に振りぬいた。

 地面が割れ、衝撃波でシャルロットは地面を滑る。

「なんて威力」

「褒め言葉と受け取っておこう」

 続く攻撃をシャルロットは霊剣で辛うじて受け止める。しかし動けなくなってしまう。相手の膂力が強すぎて、身動きがとれなくなったのである。

 ヨリチカは見逃さず、シャルロットのがら空きになった胴体に盾を叩きつけた。

 それを見ていたシャルリーヌが悲鳴を上げる。

 シラヌイになんとかならないかとすがりつく。

「陛下! 今行きますぞ」

 サスケとランスは敵を片付けると、シャルロットを助けようと近づく。

「待っていたぞ!」

「離れなさい!」

 シャルロットの叫びは虚しく。二人は石を持って投擲。それらは大鎧や盾に弾かれてしまう。

「狙いは悪くない」

 ヨリチカは言うと、盾を構えて展開。近づいた二人は脱力して地面を転がった。

「なんだこれ」

「力が抜けただと」

 シャルロットは見逃さず、展開している部分に切っ先を突き立てようとした。しかし、黒い大剣がそれを阻む。

「いくぞ!」

 大鎧が緑の光を灯らせる。

 瞬間。空気が爆ぜる音と共にヨリチカが消えた。シャルロットは直感で飛び退く。黒い剣閃が走り、先ほどとは比べ物にならない衝撃波に彼女は地面を転がった。

 ならばとシャルロットは空中に足場を作って八艘飛び。ヨリチカはまたも空気を爆ぜさせると、その場から消える。

 盾で殴られ、宙を舞う。

 地面に落着。呼吸が一瞬だけ止まった。

「降伏してもらおうかシャルロット・シャルル・ブランシュエクレール」

 殺したくないとヨリチカは近づく。

「冗談」

 シャルロットは視界の端で、担ぎ上げられるサスケとランスを確認。船に運ばれたのを見て叫ぶ。

「船を出しなさい!」

「行かせんよ」

 それはこっちの台詞とシャルロットは起き上がりながら白い剣閃を見舞う。余裕で躱され後ろに立たれる。それに対応して背後に向かって剣を振るが、霊剣を弾き飛ばされる。

「捕虜となってもらう」

 盾が迫った。

 シャルロットが敗北を覚悟したその瞬間。雷鳴が轟く。黄色い雷光が閃き、ヨリチカを襲う。

「待たせたなロッテ」

 黒い体躯に黄色い外殻。黄色の龍の超戦士。ソラである。

 その後姿にシャルロットは笑う。

「遅いわよ」

 彼は武器と出で立ちを見て、黄色から青色に変わった。水がハルバートを象る。

 青きドラッヘングリーガーはハルバートを構えて立ち塞がった。

 対するヨリチカも尋常ならざる相手に、より一層の警戒を示す。

「何奴」

「ソラだ。覚えておけ」

 ハルバートを突きつけながらソラは名乗った。

「ほう。威勢がいいな」

「陛下。船へ」

「強いわよあいつ」

 シャルロットは霊剣を拾うと船へと急ぐ。次いで馬がやってくる。マルコたちとタカアキと金の姫将軍だ。

「みんな魔力を吸われない内に船に乗りなさい!」

 シャルロットの言葉に、全員が馬を走らせる。

「銀の姫将軍は渡すものか!」

「お前の相手は俺だ!」

 ヨリチカがフィオナに視線が奪われた瞬間を逃さず、龍の超戦士は青き刺突を見舞う。完全に入ったと思われた一撃は寸前で躱された。

「ええい! 邪魔をするな!」

「それはこっちの言葉だ!」

 青いハルバートと黒い大剣が交差し、弾き飛ばし合う。金属の弾ける音が響く。

 両者地面を滑り削る。勢いを殺すと地面を破裂させながら突撃。

 龍の超戦士を吹き飛ばすヨリチカは盾を構えて展開。周囲の魔力を吸収していく。

 タカアキと金の姫将軍は難を逃れるが、マルコたちは捕まってしまう。アイヴィーを抱えていたアオイが脱力し、アイヴィーを落としてしまう。彼女は脱力しながらも咄嗟に魔力を防御に回し地面に落着。

 いち早く反応したのはフィオナだ。馬から飛び降り、アイヴィーをマルコに向かって投げ飛ばす。

 受け止めたマルコだが、それで精一杯だった。そのまま馬を走らせ船に飛び込む。アオイも同様だ。

 フィオナは自力で立ち上がろうとして、失敗する。

「先に行ってください」

「フィオナ様!」

 アイヴィーとマルヴィナが叫ぶ。早く乗ってと。しかしそれほどの体力は彼女にはなかったのだ。

「ソラ! わかっているでしょうね!」

 それだけ叫んだシャルロットは船を出す。フィオナの回収をソラに任せたのだ。

 それよりここに長居するほうが不味い。魔力を吸われ続ければヨリチカはより強くなってしまう。

 青い龍の超戦士はフィオナの前に飛ぶと、ヨリチカと対峙した。

「その女は我のだ」

「お前にはもったいない。俺がもらってやる」

 えとフィオナは驚く。そしてようやく認識した偉業の存在に驚く。

 すぐにドラゴンを倒した噂を思い出す。目の前にいるのがそうだと直感したのだ。

 それは当然ながらヨリチカも同様である。

 ハルバートと大剣が交差した。衝撃波で地面が破裂する。それは波紋状に広がっていく。

 石突での殴打。しかし盾で防がれ、大剣を突き出される。ハルバートの矛先を絡めて軌跡をずらす。

 両者体当たりをかまして、肉薄した。

 青き龍の超戦士は龍の咆哮をあげる。腕の筋肉が大きく隆起し、尋常ならざる膂力でヨリチカを吹き飛ばす。

 ヨリチカはすぐに起き上がると、大剣に魔力を集中させた。緑の光が巨大な柱。否。剣を象る。

「くらえぇええええい!」

 振り下ろされる一撃。

 この時ヨリチカの頭の中からフィオナの存在が消えていた。青い龍の超戦士の後ろの彼女が座り込んでいるのをヨリチカは気づく。

 しまったと手を止めようとした。振り下ろした一撃を止めるのは容易ではない。

 青い龍の超戦士は龍の咆哮をあげると、水のハルバートの穂先に集める。大きく腰を捻ってハルバートを引くと、弾けるように突き出した。

 真っ向から受け止めたのだ。

 霊力と魔力が激突し、周囲に酸素と衝撃波を撒き散らす。それは海上の船団をも襲う。大きくうねるがなんとか耐え切る。

 龍の雄叫びがこだまし、緑の柱を雲散霧消させた。

 直後ヨリチカは空気の壁を跳躍でぶち破り、龍の超戦士の懐に飛び込んだ。

「感謝する。しかし勝負だ」

 黒い剣閃が袈裟斬りをする。青きドラッヘングリーガーから血が舞う。

 ヨリチカは手応えがないことに気づくと飛び退く。追撃するかのようにハルバートが投擲される。

 咄嗟に盾で受け止めて弾くと、朝日が差し込む。一瞬目が眩まし再び目を開けると青き龍の超戦士とフィオナの姿は忽然と消えていた。この間わずかに数えてひとつ。

 ヨリチカは周囲を見渡すと、海に赤い血が浮かぶ。

 猛将は叫び大剣を地面に投げつけた。それだけでは収まらず盾も叩きつけてから、再び叫ぶ。それは虚空をこだました。






 船の上は騒然となる。最強と思われた龍の超戦士。その外殻を斬られたのだ。特にシャルロットは取り乱し、龍の超戦士に泣きついた。

 自分をドラゴンから内乱から救ってくれた戦士。その無敵と思っていた英雄が大怪我を負ったことに取り乱し、傷が塞がるまでシャルロットは泣き続けた。






~続く~


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