第三十四章~ユキちゃんとみぎゃー~
ユキちゃんは、断れない性格の女の子だ。
他者を癒すという能力の性質上、「受け入れる」が基本にある。
その為、よく自身を犠牲にするトラブルに見舞われる。
貸した文具が返って来なかったり、詐欺勧誘電話を長時間聞いたり、
愚痴を聞いていたらいつの間にか矛先が自分に向かっていたりする。
それでも彼女はいつも優しい笑顔で言う。
「大丈夫だよ、私がちゃんと受け止めるから。」
彼女は一言で言えば、聖女なのだ。
もちろん怒りや不平不満を零す事もある。
しかしその根底にある感情は救いであり、癒しであり、許しなのだ。
そして今回は、そんなユキちゃんがまたピンチに陥った時の話だ。
ユキちゃんはその日、学校の休日で友人と街でショッピングを楽しんだ後、
別れて電車に向かう中で歓楽街を歩いていた。
そこへ、超絶イケメンの男性が近づいて来た。
「お姉さん、ちょっと良いですか~?」
どう見てもユキちゃんよりも年上の男性なのだが、この年頃の女の子は
少しお姉さんに見られる事が嬉しかったりもするものだ。
ユキちゃんは別にそこに心が動かなかったが、
普通の親切心から返事をした。
「はい、どうかしましたか?」
「いや~、実は俺、今月の売り上げが立たなくて困っていて、
その罰ゲームで、高級料理店で猫耳コスプレをした子と食事をする、
って言う罰ゲームやらされてるんですよ~、助けてくれませんか?」
ユキちゃんは別に高級料理店に興味は無かった。
しかし今夜は両親はスーパー銭湯に泊りに行くとかで帰らない為、
自炊で夜食を食べようと考えていた。
その為、奢ってくれるのなら料理を作る手間も省ける上に、
人助けになるならと二つ返事を返した。
「良いですよ、私そんなに食べないから、一番安いメニューで良いです。」
「え~、本当に!?ありがとう~!!
いやいや、結構良いの頼んじゃって良いよ、食事代は提携店だから、
気にしなくて良いの!さぁ、じゃあちょっとこっちに来て。」
言われてユキちゃんは物陰に連れられた。
普通ならこの時点でかなり危ないのだが、通りは人が多い。
その為、もし口を塞がれたりしても、暴れて逃げ出して叫べば
何とでもなるような場所であった。
「コレ、着て欲しいんだよね~、普通の食事するだけじゃあ、
さすがに店側も許してくれなくてさ~。」
男がカバンから取り出したのは、猫耳と薄いランニングウェアだった。
「え、猫耳は良いですけど、コレ、ランニングウェア・・・。
こんなので、高級料理店に入るんですか?」
「お願いだよ~、コレじゃないと、店のヤツらが許してくれなくてさ~。」
真に迫った男の困った顔を見て、ユキちゃんは少しため息をついて、
仕方ない、といそいそと着替えを始めた。
「ありがとう!あ、俺、外から見えないようにバリケード役やるから、
バリバリィ~!!」
「ふふ、何ですか、それ(笑)」
この異常な状況にも関わらず、
男のユーモアセンスでユキちゃんの心は緩んだ。
そして、着替えが完了した。
「あの、コレ、やっぱり面積少なすぎませんか?」
「いやいやいやいや、似合う、似合うよ!!
コレ、デブとかが着ても似合わない、いやそもそも着れないからさ、
キミみたいにスッとした綺麗な体型の子が着ると似合うな~・」
男は褒めまくったが、ユキちゃんは恥ずかしさが勝ってしまう。
「あの・・本当にコレ、えっと、料理店まではどれくらいですか?」
おそるおそる、少し震えた口調でユキちゃんが聞いた。
「あ~、すぐそこだから、少しだけ我慢して。
ホラ、俺のジャケットで隠してあげるからさ♪」
しかし、少しの間とは言え、
ユキちゃんにとってその恥ずかしさは相当なものだった。
思わず、手が太ももの間に行き、自然に股間付近を隠す格好になる。
「どうしたの、恥ずかしい?
少しの間だから、我慢してね。」
本来ならこんな思いをする必要はユキちゃんには全くない。
しかし男の狡猾な口車にユキちゃんの厚意とやさしさが噛み合い、
とてつもなく異常な状況を作り出した。
「(早く、早く着いて・・・。私、何だか体が熱くなっちゃって・・)」
「着いたよ、ホラ、ここだ。
よく頑張ったね、偉い偉い。」
男はユキちゃんの頭を撫でた。
しかしユキちゃんはそんな事よりも早く店内に入ってしまいたかった。
しかし店内に入れば入ったで、そこには新たな地獄が待っていた。
場違いな場所に連れて来られた猫耳ユキちゃん
「お客様二名ですね・・・おや、そちらの方は・・・コスプレですか?
ハロウィンの時期でも無いのに・・汗もかかれて。
ランニング後ですか?本来この店のドレスコード的にはアウトですが、
お連れ様がこの店の常連ですので、今回は多めに見ましょう。」
本来ユキちゃんは、こうした形式にはシッカリとした対応を取る子だ。
だからこそ、恥ずかしさが頂点に達した。
衆人環視の外よりも、より場違い感が強調されて、
一秒たりともこの場に居たくなかった。
「まぁ、ゆっくりワインでも飲もうよ。あ、キミまだ未成年か(笑)
じゃあ、ほんの少しだけぶどう酒を飲んでごらん?」
男は本当に狡猾に、ユキちゃんを追い詰め続けた。
どうやらユキちゃんはお酒に弱いらしく、少しだけ飲まされたそれで
更に顔が赤くなり、判断力も鈍り始めた。
テーブルには豪華なステーキや魚の蒸し焼き等が並んだが、
ユキちゃんはそのどれもをほぼ何かわからない状態で食べた。
もう本当に、この場からいなくなってしまいたいという気持ちすら、
酔った頭では考える事が出来ず、かと言って眠りに落ちるには少し
中途半端な酔いの量であった。
やがて食事が終わり、男性が言った。
「随分と酔ってるね。あの量で効いちゃった?
ちょっと隣のホテルに行こうか。大丈夫。
こんなベロンベロンになった肌が真っ赤な子に、
何もしたりしないよ。単に少し休ませて、自分の足で帰れるように
酔いを醒ませるだけさ。水を大量に飲めば治るよ。」
既にユキちゃんは自分の頭で考える事が出来なくなっており、
ただ言われるがままに連れられて、隣のビジネス風ホテルに入った。
結局嵌められた猫耳ユキちゃん
ユキちゃんの意識が朦朧とする中で、
男はユキちゃんのランニングウェアを剥ぎ取り、
そのままシャワー室へと入れた。
そして荒く体を洗い流した上で、バスタオルを荒くユキちゃんの体にかけ、
ベッドへと戻って来た。
「あ~、面倒くせぇな。お前、汗かき過ぎなんだよ。
俺、汗くせぇ女とヤるの嫌いなんだわ。
ホラ、サッサと体拭いて、仰向けになれよ。」
シャワーを体に当てられた刺激で少し目が覚めたユキちゃんは、
冷静に今の状況を考えた。そして、自然と涙が零れた。
「そ、そんな・・・騙したんですか、私を・・・酷い。
本当に困っているんだと思って・・私、私・・・うぅ・・、
うわぁぁぁぁあぁん!!!!!」
泣き出してしまったユキちゃんに男が言う。
「いや、店から言われた命令は本当だよ。
だけど、お前あんまりにエロいからさ、イジめたくなったってワケ。
正直そこらのビッチどもならこんな事しねぇよ。
お前みたいな綺麗なままで生きて来た女、そそるじゃねぇか。」
ユキちゃんは混乱した頭で、ただ懇願した。
「あの、私・・・!!こんな事するつもりじゃなくて・・・、
それに、した事も無くて・・・だから、あの、その・・・・
許して、許して、下さい・・・・うぅぅぅ・・・・。」
しかし男は一歩も引かない。
「ハァ?自分の意思で歩いてここまで来て、何言ってんの?
嫌なら、店を出た時点で逃げ出せば良かったじゃん。
お前は既に合意の上でこの場にいるんだよ。
諦めてサッサとそのクセェ股開けよ。」
強い口調で言われて、更に嗚咽を上げながらも、
どうしたら良いのかわからず、ただ従うしかないと覚悟を決め
ユキちゃんは下着に手を伸ばした。
その時ー
「助けに来たよ、ユキちゃん!!」
聞き慣れた声がした。
いや、長年というわけでは無い。
ここ最近の出来事だ。
だけど数日前のあの時、手を取り自分を導いてくれた、あの男。
みぎゃーの声が聞こえた。
開かれた扉の先にいたみぎゃーは、男を外に連れ出し、
そのままユキちゃんに言った。
「その男のカバンの中に制服が入っているだろう。
それを着て、一階に降りておいで。もう大丈夫だよ。」
男とみぎゃーはもみ合いながら、そのまま下の方へと降りて行った。
ユキちゃんは溢れ出る涙を抑えきれず、
しかし早くこの場から逃げたい一心で制服に着替えた。
あまりに突然に色んな事が起き過ぎて、しかしやっと、
自分の窮地が救われた気がして、そうして部屋を出る頃には、
涙が引いていた。
ユキちゃんを引き込もうとするホストに立ち向かうみぎゃー
一階に降りて外へ出ると、男とみぎゃーは激しく掴み合った。
「オイ、お前何て事してくれてんだよ、払った料理代くらい、
良い思いさせろよ!!」
「ハァ!?お前わかってんのか?相手は女子高生だぞ、犯罪なんだよ、
いくらイケメンか何か知らねぇけど、やっちゃいけない事があるだろ!」
ユキちゃんはその光景を眺めながら、ウットリした。
自分の事を本気で、殴られるかも知れない危険を冒してでも守ってくれる。
ユキちゃんは確信した。この人は信用出来る、と。
「とりあえず、警察行こう。お前のやった事は、れっきとした犯罪だ。」
そうしていがみ合いながらも、結局男は交番で警察に拘束され、
みぎゃーとユキちゃんはその場を後にした。
みぎゃーが言った。
「ユキちゃん、怖いなら別に良いけど、ウチ来る?
ホテルとかじゃなくて、普通の環境・・って、ウチしか思いつかなくて」
普通なら、この状況で弱みに付け込んで二次被害に、と危惧する所だが、
ユキちゃんはこの人は大丈夫だと確信していた。
「大丈夫だよ。それにあなたなら、別に良いもの。」
「え、それってどういう事?」
「ううん、何でも無いの。行こう?本当に疲れちゃった。」
ユキちゃんの好意を勝ち取ったキモいみぎゃー
みぎゃーの部屋に着き、ユキちゃんはそっと寄り添った。
「ありがとう。あなたが来てくれなかったら、今頃私・・・。」
泣きだしそうになるユキちゃん。
「大丈夫だよ、今はもう考えなくて良いよ。辛かったね。
たまたま、あの店に連れ込む男とユキちゃんを見かけたんだ。
それで違和感を感じて店から出るのを待っていたら、何だかユキちゃん、
酔ってるみたいに顔が赤くて、それでホテルに向かったから・・・。」
「そうなんだね、私迂闊だったよ。
お父さんとお母さんからもよく言われるの。
アナタはもっと危機感を持ちなさい、って。
今だって、結構危ない状況だとは思うけどね(笑)」
「アハハ。まぁ、あの時、本当に焦ったよ。
ホテルのフロントに言っても取り合ってくれなくてさ、
グル(仲間)かな?と思って、警察に言うぞ!って言ったら、
焦って通してくれてさ。本当に、間一髪で間に合って良かった。」
「ねぇ、私、別にあなたになら・・・・。」
「ダメだよ。ユキちゃん、ちゃんと自分を大切にして。
キミは本当に魅力的だけど、もっとちゃんと良い人がいるよ。
もう少し大人になってから、冷静に考えたら良いから。」
「うん、わかったよ、ありがとう。
だけど今夜は、このまま隣で寝させてね。」
「わかったよ。それじゃあ、おやすみ、ユキちゃん。」
ー朝の光が差し込む部屋の中で起き出したユキちゃんは、
身支度を整えて部屋を出た。
一旦自宅に帰り着替えて来たユキちゃんが言った。
「今日一日だけで良いからさ、デート、付き合ってくれるよね?」
「ハァ、僕までが犯罪者みたいだよ。
ユキちゃんの眩しさを曇らせない為にも、全力で楽しませるけどね。」
二人の間には、それまでとは明らかに違う、信頼の形が確かにあった。
そしてそれはこれから、
仲間として歩む二人の絆をより確かなものにしたのだった。




