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第十章その2 関東の洗礼

 俺たちは県大会リーグで順当に勝利を重ね、昨年に続きグループ首位で突破を決めた。


 そして12月、俺たちは再び関東大会に出場した。今年の開催地は神奈川県内の海老名運動公園だ。


 一次大会は1グループ4チームによるリーグ戦。上位2チームが1月のセカンドステージに進出できる。


 去年、金沢はここで一度、東京都代表立川スクールに敗れている。なんとかグループ2位には入れたのでセカンドステージには進出できたが、やはり油断はできない。


 今年の相手は茨城代表牛久スクール、東京代表おくたまスクール、そしてもうひとつ東京代表青山ジュニアスクールだ。


 この青山ジュニアスクールはラグビーの聖地である秩父宮ラグビー場のお膝元という土地柄もあってか、都内有数の実力を誇っている。去年は惜しくもセカンドステージで敗れ去ったものの、立川と並ぶ東京の強豪であることに変わりはない。


 バックスの主力西川君が離脱しているのが痛いが、選手層は厚い。大丈夫だ!


 そしていざ大会が始まると俺たちは牛久、おくたまとトントン拍子に連勝を重ねた。そしてこの時点でグループ2位以上が確定し、セカンドステージ進出も決まる。


「よし、今年こそ1位で突破だ!」


 本日最後の試合を前に、キャプテン浜崎がメンバーを集めてミーティングを開く。


 セカンドステージでは2位チーム2つ、1位チーム2つの4チームでグループが組まれる。1位で突破した方が言っては悪いが格下のチームと当たる確率も高く、より楽に全国大会へと出場できるのだ。


 青山ジュニアは大柄長身の選手をそろえた肉体派チームで、体格を活かした強いタックルと突破が最大の武器だ。


 試合開始早々、強力フォワード陣の強襲で金沢の守備を無理矢理にこじ開け、バックスに回されたボールをゴールまで運び込まれてしまった。


 しかし小倉南のあの重戦車部隊と戦った経験のある俺たちなら、攻略できない相手ではない。


 浜崎のサインで連動したバックスのパス回しが功を奏し、前半の内にトライを奪い返すと後半もさらに2トライを稼いでしまった。


 そのまま試合終了まで失点を防いだ俺たちは、一次リーグ全勝という金沢スクール史上初の快挙でセカンドステージへと駒を進めることができたのだった。




 試合終了後、俺はまだ別チームの試合が行われている会場のトイレの前で、スマホにメッセージを打ち込んでいた。


『一次リーグは全勝! 1月のセカンドステージ進めるよ!』


 送信相手は西川君ら受験組だ。今頃最後の追い込みのために机の前を離れられないだろうから、『返信はいらないよ、受験応援してる!』と付け加える。


 それからもうひとり、メッセージを送りたい相手がいるのだけど……。メッセージアプリで南さんとの会話履歴を開いたところで、俺の指は止まってしまった。


『関東大会進出決まったよ!』


『おめでとう、頑張ってね』


 会話は先月のここで止まっていた。以前ならついでにくだらない日常の会話まで話が広がっていたのに。


『関東大会セカンドステージ、1位で行けることになったよ!』


 そう打ち込んで送信をタップすればいいだけなのに、どうも指が動かない。


 留学を打ち明けて以降、俺と南さんの関係はぎくしゃくしたままだ。表面上は互いに平静を演じているものの、フランクに本音をさらけ出し合うことができなくなってしまった気がする。


 加えて今は彼女が受験に専念しなければならない時期。俺たちは物理的にも精神的にもさらに離れ離れになってしまった。


 ああ、どうすれば前のように、彼女と仲良くできるだろう。


 前の人生ではこんな悩みに直面することすら無かった。初めて感じる類の悩みに、俺は負のスパイラルに突入しつつあった。


「小森!」


 だがその時、後ろから大慌てで駆けつけたフッカーのチアゴが声をかけてきたのでふと我に返る。


「どうしたの?」


 ポケットにスマホをしまい、俺は訊き返した。


「こっち来い、大変なことになってる!」


 チアゴに誘われるまま、俺は観客席まで戻る。そして掲示板に表示された文字を見て愕然とした。


「立川が……負けてる!?」


 別のグループ最終戦、東京代表立川スクールが出場しているこの試合で、なんと立川は試合終了間際にもかかわらず5対19と14点の差をつけられていたのだった。


 馬原君という最強スプリンターを擁して昨年度の全国大会で6位に輝いた強豪だ。彼が卒業したとはいえ選手層は厚く、今年も全国進出の有力候補と目されていたのに!


「これは……やばいな」


 キャプテン浜崎も観客席に座り込んだまま、手を組んで眉間にしわを寄せていた。レギュレーションに従えば、俺たちはセカンドステージでこのグループ2位のチームと同じ組になる。つまりこのまま立川が敗れれば彼らのグループ2位が決定し、セカンドステージで俺たちとぶつかることになるのだ。


「立川、負けるな、頑張れ!」


 金沢スクールのメンバーが敵を必死で応援する。しかし応援虚しく、点差は縮まらずにそのまま試合も終了してしまった。


 この結果、首位抜け確定と思われていた立川がまさかの2位でセカンドステージに挑むことになる。そして同時に、セカンドステージでの俺たちの対戦相手も決定したのだが、その組み合わせがかなりまずいことになった。


 千葉代表成田スクール、東京代表本郷スクール、東京代表立川スクール。


 金沢を含めて本郷、立川と去年の全国出場チームの内なんと3つもが同じ組になってしまった。強豪同士が潰し合う、いわゆる死の組というやつだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーむだいぶきつい状況ですね。 まあ全国優勝を狙うなら地元の強豪にも勝たなければならないでしょうけど。
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