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第七章その5 プレートを賭けて

 翌日、競技場のコートに立った金沢スクールの面々は、昨日と比べるとどことなく覇気が抜けていた。一度失ったモチベーションは、一晩寝ただけではやはり取り戻すのは難しいようだ。


「よっしゃいくぞおらぁ!」


 そんなしまりに欠けた連中の中で、俺はバシバシと手を叩き自らを奮い立たせていた。


「あいつ、何であんなに気合入ってんの?」


「温泉の薬湯が効き過ぎたか?」


 他のメンバーは俺を見てひそひそと話している。


 昨日の夜、南さんと話して俺は気合い入れ直したんだ。プレートとはいえ優勝には変わらない、何としてでも今日は全勝で終えてやる!


「小森、熱くなり過ぎだ。ちったぁ冷静になれ」


 だがさすがに俺の変貌っぷりに呆れたのか、鬼頭君がこつんと頭を小突く。


「気合い高めるのはいい。だが落ち着きは失うな。先走って空回りするとろくなことにならないからな」


 そんな鬼頭君の忠告を受けた後、試合が開始される。


 5~8位順位決定トーナメント第一回戦の相手は愛知代表の岡崎スクールだ。東海地方では名の知れた名門スクールで、ここ出身のラガーマンが多数社会人リーグやプロで活躍している。


 油断ならない強敵ではあるのだが、今日は相手が悪かった。心身ともにフルスロットルな状態の俺を止められず、試合は金沢が一方的に押し込む展開が続いていた。


「すげえ、あのプロップ止められねえぞ」


 俺は相手守備を強引に突っ切ってトライを奪う。これで2本目、まるで点取り屋のウイングになった気分だ!


「小森、そんなパワー持ってんなら昨日の内から出しとけよ」


 浜崎が冗談ぽく言って拳を突き出すと、俺も同じポーズで答える。


 そして試合終了間際にも、ボールがまた俺に回ってくる。すでに点差は追い付けないほど開き、相手もへとへとだ。


 今なら強引にでも突っ込める!


 ダメ押しの追加点を狙い、俺はだっと駆け出した。相手バックスを無理矢理弾き飛ばし、つかみかかってきた相手も引きずり落とす。


「させるか!」


 そしてゴールライン目前、敵チームで最も身体の大きなフォワードが俺を止めに入る。


 その時だった。タックルのために伸ばした腕が俺の首に引っかかってしまったのだ!


「ぶっ!」


 一瞬、俺の身体が宙を舞った。ぐるんと視界が天を向き、俺は背中をしこたま地面に打ち付けられる。


「ペナルティ!」


 審判の声で試合が止まる。肩より上を狙ったハイタックル、つまり危険なタックルによる反則だ。


 にわかにざわめく会場。さすがの俺も痛みにすぐには立ち上がることができず、しばらく仰向けで寝転がっていた。


 両軍の選手が駆け寄り、心配そうに俺を覗き込む。


「おい小森、大丈夫か!?」


 鬼頭くんが尋ねる。


「へ、平気平気。それよりボールは?」


「今のはペナルティトライだ。この反則が無ければ点が入っていたと考えて、点数が入るぞ」


「よっしゃあ!」


 その声を聞いて元気を取り戻したのか、俺はよっこいしょと身体を持ち上げた。痛いのも一瞬だけ、今はもう気にならない。


 結局そのまま試合は終了し、俺たちはプレートを賭けた5、6位決定戦に勝ち上がることができたのだった。


 だがコートを出てしばらくした頃だった。何ともないと思っていた背中がじんじんと痛みだし、つい顔を歪めてしまった。それに気付いた浜崎が「小森、どうした?」と声をかける。


「なんか背中が痛い……」


 浜崎が俺の背中を覗く。途端、ぎょっと目を丸めた。


「おい何が平気だよ、血が出てるぞ!」


 俺は急遽救護室に連れ込まれた。


 上半身裸になった俺の傷を見て、お医者さんもうわあと小さく驚く。


 俺の背中には大きな擦り傷ができていた。背中から地面に倒された時、表面の皮膚が擦れてしまったらしい。


「こんな怪我、痛くて立ち上がれないはずなのに。よくここまで歩いてこれたね」


 試合の興奮で痛みが遮断されていたのかな。お医者さんが消毒液を塗る痛みに歯を食い縛って耐えながら、必死で別のことを考える。


 幸い傷は皮膚の浅い部分だけのようで、ガーゼと包帯で保護して処置は完了した。


 しかし同伴したコーチは渋い顔を浮かべながら、俺に告げたのだった。


「小森、試合どころじゃないだろ。次は休んどけ」


「いや、俺ならまだいけますよ。これくらい、たいした怪我じゃありません」


 頸椎損傷や骨折でもないのでまだ戦える。何より南さんと約束したんだ、欠場はできない。


 だがコーチは今まで見せたこともないほど険しい目を俺に向け、そして「小森、お前負けたいのか?」と強く言い放ったのだった。


「ラグビーはチームのスポーツだ。力を合わせて敵を倒すこともあれば、ひとりが全員の足を引っ張ることもある。みんな午後の試合を勝ちたいと思っているのに、お前のエゴでその機会をフイにしたいのか?」


 コーチの言うことは正論だった。怪我人を出場させるリスクと勝てる可能性を考えれば、控えのメンバーをスタメンに選ぶのは当たり前だろう。


「ですが……」


「安心しろ、試合中お前が必要になったと思ったら俺はすぐお前に交替させる。わかったな?」


 コーチに言い返す言葉が見つからない。不服ながらも俺は「わかりました……」と従うしかなかった。




 救護室を出たときには、既にコートではプレート戦第1回戦のもう一試合が始まっていた。俺は先に観客席で観戦している金沢の他のメンバーと合流し、次の相手がどちらになるかを見届ける。


 序盤こそ競り合っていたものの、大阪代表の堺スクールは立川の素早い攻撃に翻弄され、途中からは完全に立川が流れをつかんでしまった。


 最終的には立川が堺を圧倒し、21対5で倒してしまったのだった。


「ああもう、また立川とかよ!」


 6年生が前の空いている座席をバシンと叩く。関東大会で負けている相手なので、できれば避けたかったのだが……。


 高速ウイング馬原君はじめレベルの高い選手を揃えた立川スクール。プレート優勝を最後に争う相手は、このチームに決定した。

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