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美少女になり損ねて現代転生  作者: 待草 雪乃
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第二章・その4

「「勧誘勝負?」」

 部活見学の翌日、教室で顔を合わせた弥生やよい朔也さくやに昨日の出来事を話すと、二人は揃って目を白黒させた。

 僕がアリア先輩に言った「演劇部らしさが無かった」という指摘が彼女のプライドに泥を塗ったように思えたらしい。それを宣戦布告と受け取った先輩により、僕の考える演劇と先輩の演劇で新歓の場を借りた勝負をする破目になってしまったというわけだ。

水無月みなづき部長と劇の出来を競うなんて無茶よ」

「ああ。いくら性格最悪つっても、相手はあの水無月 アリアだぜ?」

 二人の気持ちもよく分かる。全校一の演技力を持つアリア先輩に対して、僕は演劇に関しては素人だ。どう贔屓目に見たって劇のクオリティで敵うはずがないだろうけど、僕だって何の考えも無しに無謀な挑戦を受けたわけじゃない。

「別に勝てなくてもいいんだ」

「どういうこと?」

 そう、勝ち負けはあまり関係ない。先輩に部活動としての在り方を知ってもらって、高慢な考えを改めさせることができればいいのだから。

 もちろん半端な出来じゃ先輩の心は動かせないだろうし、他の生徒も味方に付けられないだろう。当然ながら僕一人で先輩に挑もうなんてつもりもない。

 バスケだってそう。仮に一人で何点も取る選手がいても、一人じゃ試合はできない。チームであることに意味があるんだ。だから――

「僕達で新しく部活を作って、これが部活動だっていうのを見てもらおうと思う」

 そもそも、新歓の短い発表時間で一つの部が二つも出し物をやるなんて不可能だ。だったら別々の部活として参加してしまえばいい、ということ。

「できんのか、そんな事?」

「実はもう不知夜いざよい先生を通して申請してあって、後は部員を揃えるだけだったりする」

「顧問はどうするの?」

「新歓の結果次第でどちらかの部がもう片方に吸収されるって形だから、これも先生が兼任するって」

 多少の無理なら私が押し通してみせるわ、と自信満々に言った先生の顔を思い返す。このチャンスに賭けてくれるということなんだろう。

 二人も思いがけない展開に戸惑いつつ、僕が言いたいことは察してくれたらしい。

「そういうことなら、私も如月さんに協力するわ。所属は今の演劇部だけど、ほとんど幽霊部員だし」

「俺はバスケ部だから入部はできねーけど、力仕事なら手伝うぜ」

 そう言って笑う友人達の付き合いの良さが睦月だった頃と何一つ変わっていなくて、僕は思わず泣きそうになった。



 それから数日後。弥生が元演劇部員で現在フリーの生徒を四人も誘ってきてくれて、僕達の演劇部は無事に始動していた。

 同じ2年C組で弥生とも仲の良い春川はるかわさんが台本を書き、A組の夏目なつめくんと秋山あきやまくん、B組の冬本さんがそれぞれ音響・照明・ナレーターを担当する。僕と弥生はというと、監督役も兼任する春川さんの強い推薦で役者をやることになった。

 アリア先輩が新歓でやる劇に対抗してラブストーリーを書いたらしく、インパクトを出すために主演を女の子二人にするそうだ。冬本さんは真っ先にナレーターを選んだ。

 練習は旧体育館――今の体育館が建つ前に使われていた、現在は卓球部の活動場所になっている建物――を学校から許可を得て使わせてもらっている。

「次は一番の盛り上がり、サクラちゃんからスミレちゃんに想いを打ち明けるシーンをやりましょう! さぁ、位置に着いてください! さぁさぁ!」

 丸めた台本を握りしめて鼻息荒く指示を飛ばす春川さんの目は、男のに萌えている時の弥生に似ている気がした。類は友を呼ぶというやつだろうか。

「……弥生、まさかとは思うけどバラしてないよね?」

「そんなことしないわよ。あの子、女の子同士の恋愛とかを見るのが大好きだから」

「…………」

 ある意味、弥生とは真逆ってことか。やっぱり類友だった。

 ちなみに僕がサクラ役。お芝居とはいえ弥生に告白するのは気恥ずかしかったけど、これが冬本さんとか……ましてや男子が相手なら演技でも難しいだろうなと感じる辺り幼馴染という気安さは重要だ。

 そこのところ弥生はどう思っているのか、と横目で彼女を見てみると……

「それにしても、男の娘に告白されるなんて夢のような展開シチュエーションだわ……はぁはぁ」

 うん、心配いらなさそう。っていうか自分の身が心配になってきた。

 舞台が学校ということもあって、衣装などは特に用意する必要もなく制服のままだ。登場人物が等身大なのは素人の僕への配慮だろう。単に春川さんが学園百合ラブコメを見たかっただけという確率の方が高いけど、そう思っておくことにする。

 旧体育館には照明を弄るための装置がないため、秋山くんは流れに沿ってどんな風にライトを当てるかを頭の中で考えている。BGMはどこでも流せるので、夏目くんは持参してきたという恋愛ゲームのサントラを場面に合わせて流していた。

 薄暗い旧体育館のステージで、落ち着いた音楽をバックにサクラ弥生スミレが向かい合う。

「あのね、スミレちゃん……」

「どうしたの? いつもの貴女らしくないわ」

 流石は現役の演劇部員と言うべきか、弥生は始まった瞬間から役に入りきっている。僕はまだ照れが抜けてないけど、かえって初々しい感じが出て良いと評価された。

 演技半分、本心半分の恥じらいに顔が熱くなるのを感じながら、サクラ弥生スミレの目を真っ直ぐに見上げて胸に秘めた想いを告げる。

 狙い済ましたように盛り上がっていくBGMの中、弥生スミレは感極まって涙ぐみながらその想いを受け止める……ああ、何度やっても恥ずかしい。

「カット! いいですね二人とも、ごちそうさまでした」

「……お疲れ様」

 シーンが終わったら全員でステージの中央に集まって、主観と客観の両観点から今の練習を見て感じたことなどを話し合う。

「夏目くんの用意してくれた曲、シーンにマッチしてて凄く良かったッス」

「やはり俺のチョイスに狂いはなかったようだな」

「真面目そうな顔してギャルゲー好きだとは知らなかったけどね」

 夏目くんは髪型も服装も整然としていて、弥生をそのまま男にしたような優等生だ。ただ無類の恋愛SLG(ギャルゲー)好きで、入部の動機も演劇部員の少女がメインヒロインのゲームに感動したかららしい。趣味がオタク気質なところまで弥生そっくりだった。

「秋山くん、本番での流れは覚えた?」

「ばっちりッス。ちゃんと台本にメモしたッスよ!」

 秋山くんはぼくに引けを取らない小柄な男子生徒で、劇の中だけでも男らしくなりたいという理由から演劇部に入部したそうだ。アリア先輩に冷たくあしらわれて悔しく思う一方、何かに目覚めた気がすると不穏な補足をしている。

「……ナレーション、どうだった」

「え? あ、ああ。良かったと思う」

 冬本さんは口数が少なく、存在感も薄いので夏場に背後に立たれたら怖そうな人だ。それでいてナレーターをやると滑舌が素晴らしく、惹き込まれる良さがある。記憶力も良いのか、メンバーでは春川さんの次に早く台本の内容を覚えたようだった。

「如月さんもまだ荒削りな部分はありますが、この調子なら本番は大丈夫そうですね」

「ありがとう。先輩にちゃんと見てもらえるように頑張るよ」

 良いところは褒めて、伸ばせるところは共に伸ばしていく。これこそ部活動の正しい在り方だと僕は思っている。アリア先輩は認めてくれるだろうか。

「新歓まであと少し、気を抜かずに頑張りましょう」

「「オー!」」

「……おー」

 そんな個性豊かなメンバーと共に練習を重ねて、ついに新歓の日を迎えるのだった。

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