31 再会
朝、寝室。
「──行くか」
今日は、勇気にとって特に特別な日だ。生徒会の仕事を元の"星野勇気"に引き継ぎ終え、そして勇気本人は元の世界へ戻る…終わりであり、始まりの休日だ。
支度をしてリビングに降りると、朝ご飯の準備を既に済ませた星野 結愛が出迎える。
「おはよう、義兄さん」
「おはよう、結愛」
また、声が重なる。
「悪いな、今日は任せてしまって」
「いーの。大切な日でしょ? ──それに、お義兄ちゃんが帰ってくるなら、また家事は私がやるし。──ああ心配しないでよ義兄さん、私、お義兄ちゃんのお世話大好きだから」
「はは、もうお世話って言ってるもんな…、体調には気を付けろよ結愛」
「うん。…キーボードも大切にするね、引いて義兄さんのこと思い出すよ」
「俺のことはあまり思い出さないでくれ……と言うのもアレか。ありがとう結愛」
「そうだよ。──義兄さんも、私にとって大切な義兄さんだから」
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二人で他愛ない会話をしながら朝食を追える。
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「…じゃあ、そろそろ行くよ」
「うん、いってらっしゃい……義兄さん」
玄関を開けると、そこには高級車が1台。そしてそこへ寄りかかる天上社現社長、天上 治と隣で立つ三途川 幽がいた。
「や、星野さん。準備は出来たかい?」
「はい。よろしくお願いします、治さん。幽もよろしく」
「ああ、私ら大人が責任を持って連れて行こう」
勇気は二人に会釈すると、車の後部座席へと乗り込んだ。
「しかし…良かったのかい? 結愛さんや生徒会、この世界でお世話になった人に見送りしてもらわなくて」
「良いんです。もともと俺はこの世界に居ないはずの存在ですから、これくらいがちょうど良い」
「律儀なものだね…。──うちの娘たちが大人しくしてるとは思えないけど……」
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治が運転する車は、間もなく"扉"のある神社へと到着した。
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「んー! 相変わらず此所は空気が美味しいね!」
「お疲れ様です、治さん。ありがとうございました」
「良いよ、お安い御用。──お、勇気くん。あっちを見てご覧」
「えっ?」
治がふと指さした方向。そこには生徒会と、軽音部、演劇部が一堂に会していた。
「皆! どうして…」
「ったりめーだろ、副会長! 仲間の門出なんざ、祝いてぇに決まってる」
「右に同じくですわ、星野さん。…貴方が勇気さんと別人であると判明した時点で、貴方は書類上転校生──要するに、我が校の生徒なのです。見送らない理由などないでしょう」
「きみには酷い迷惑をかけてしまったのに、許した上で手助けまでしてくれた。おかげでぼくは、今もこうして焔と一緒に居れるんだ。恩人は見送らせて欲しい」
中藤 美麗、天上 美咲、片平 炎治が、思いの丈をぶつけてくれた。勇気は面食らったが、やがて素直にその言葉を受け入れる。
「……そうだな、俺が間違ってた。ありがとう皆」
「──あ、あの…! 勇気先輩!」
そして宇宮 輝も、勇気に駆け寄る。
「星野先輩…貴方が私に気付いてくれなければ、私は私自身を見失っていたままでした」
輝は一歩勇気へ近づき、周りに聞こえないよう声を落とす。
「私、ストーキングをやめようって決めたんです。……先日、全ての記録を廃棄しました」
「…そうか……良く頑張ったな。輝」
「──ッはい!」
輝は、かがやく笑顔を勇気へ向けた。彼女ならきっと、全て大丈夫だろうと安心させる笑顔だ。
「……そういえば、鶴城は居ないな。まだ体調が優れないか…」
「ええ……声はかけたのですが、まだ上の空で……。よく休ませますね、──鶴城の姉として」
「──輝……ああ、姉妹で仲良くな。……それで、どうして結愛まで来ているんだ?」
まもなく勇気の視線は、家で送り出してくれたはずの結愛に向けられた。
「あはは……実はあの後、幽さんと治さんに頼んで……」
「ああ、実は勇気さんに内緒でちょっと遠回りをさせてもらったんだ。気付かなかっただろう?」
治がいたずらっぽく笑う。
「なるほど…、気付く余地もなかったな……」
「──義兄さん…私ね、兄さんに会えて本当に良かったと思ってる。料理が出来て…キーボードが弾けて……、死んじゃったお父さんにそっくりでさ……。それに…それに──っ……!」
結愛は言い淀み、同時に涙が溢れ出る。しかしこぼれ落ちぬよう、結愛は顔を上げた。
「あのね…! 義兄さんも… 家族だからね!! 絶対…! 絶対! 忘れないから!!」
眩しい笑顔、木漏れ日が差し込みキラキラと輝く鮮やかな青い髪。それはなぜだか、無性に懐かしく思えた。
「結愛……ありがとう」
「──さぁ、星野。そろそろ行こう」
「ああ、幽」
勇気はそれぞれの別れを済ませ、幽に招かれた方…"扉"へと向かった。
「感じるか、星野」
勇気の眼の前にあるのは、一本の木。なんてことはないが、確かに特別に思える木だ。
「ああ、前と同じだ」
「感じるままに、動け。"鍵"のヌシならきっと、進めるはずじゃ。──勇気のこと、ヌシに任せたぞ。そして…、迷うなよ」
「ああ」
勇気は、ゆっくり、ゆっくり扉へ進む。やがて、視界が歪んでくるのが分かる。
背中から、視線を感じる。皆の視線が、送り出してくれている。
──その時だ。
「副会長ーッ!!」
「──鶴城?」
宇宮 鶴城の声が、はっきりと聞こえた。息が上がり、必死で、縋るような声。
「待って副会長! まだ貴方は──この世界で──…! ……!!」
鶴城の声が、次第に遠くなっていく。何も聞こえなくなり……やがて……。
──ザアッ…!──
木々のざわめきが勇気を出迎えた。
「帰って…来たのか?」
辺りを見渡すと…、そこには何もない山奥だった。あちらの世界では神社があったのだが、此所にあるのは名残だけ。屋根から潰れてしまって無惨な廃墟だ。
「そうか…天上社が生まれなかったら、この神社も残らないんだな……」
勇気は確かに帰ってきた。だが、ちっとも実感が湧かない。それもそうだ、どちらにせよ知らない景色なのだから。
だがその感覚も、やがてとある声に吹き消された。
「遅いぞ、まったく」
それは、勇気にとって懐かしい。ただ一人の声だった。
「──夕暮…さん?」
『夕暮』。中学生の時分に勇気が出会った幽霊であり、どうしようもなく孤独だった勇気に手を差し伸べた人物。2mを超す長身の女性で、勇気にとって姉のような存在だった。
「肝が冷えていたわ、本当に神隠しにでもあったのかと思ったぞ? お前そっくりの偽物も出てくるし、不気味でしょうがなかった」
「ほ、本当に夕暮さん?」
「ああ、そうだが……。何だお前、もしかして寂しかったのか?」
「ッ、当たり前だろ…っ! やっと…ははっ! やっと実感が出て来た…!!」
「ん? えっ、おいおい! 泣いてるのか!? まったく180cm超えの男が」
「喧しいな…! 人間安心したらこうなるもんだっつの!」
「ふっ……おかえり、勇気」
「──ただいま!」
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勇気は夕暮に連れられて、自宅へ向かうために電車に乗り込んだ。
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「──しかし、助かったよ夕暮さん。俺交通費のこと考えてなかった。向こうのお金はもちろん使えないし」
「本当にな。おれが居なければお前、山奥で遭難してたんじゃないか?」
「確かに……ゾッとする話だな。夕暮さんは、その…もう一人の星野勇気とは出会ったのか?」
「あいつか? つッッッまらない男だなあいつは。そもそも霊感がゼロなもんで おれの姿が見えん、ポルターガイストを起こしてやっても鈍感すぎて全く知覚せん。今までどうやって生きてたんだあいつは、お家を勘当された坊っちゃんみたいな奴だ。おまけに助平で女誑しのエロガキときた、流石に付き合いきれんな」
「はは…まぁ夕暮さんとは相性良くないだろうな。じゃあ、夕暮さんが出迎えてくれたのは……」
「──ま、おれの独自調査でな、"扉"は特定しておいた。お前が居なくなっちまったもんで探偵業も仲介役を失ってな、時間だけはたッッぷりとあったぞ。……ってかそうだ、お前が居なくなって困ったのは探偵だよ探偵! もうそろ看板下ろしたんじゃないかと誤解される所だぞ! あの偽物送り返したら、また暫く手伝ってもらうからな勇気」
「ああ、もちろんだ夕暮さん。──今月の家賃間に合う?」
「いや、もう過ぎてる」
「マジかッ! ……しばらく忙しくなるなぁ」
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歓談をしながら、電車に揺られ。最寄り駅に付いた頃にはもう、勇気の身体はすっかりとリラックスしていた。
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そして今、勇気は自宅…"星野勇気"が待つ我が家の前に立っている。
「行くのか、勇気」
「ああ、…ちょっと深呼吸してから」
勇気の手には、食材が入ったスーパーマーケットの袋が下げられている。
「しかし、一度おれが侵入して財布を取り、スーパーへ買い出しに行くとは…どうしてそんな回りくどいことを?」
「俺なりの説得だ。向こうには"星野勇気"を待っている人が居るんだよ」
勇気はおもむろに、インターホンを押した。
─ピンポーン─
「──…はーい、どちらさ──…ま……」
出てきたのは、全く同じ顔をした、自分自身。彼こそが、全ての発端"星野勇気"だ。
「──何で……俺…いや、貴方が……?」
「一先ず、並行存在同士が出会っても問題はなさそうだな、入るぞ」
「えっ、あっちょっと! 勝手に──じゃないか、貴方が住んでた家だもんな。って、待って! 待てって!」
勇気はずかずかと家の中に入る。中の様子は割と記憶の通りだった、多少散らかってはいるが、キーボードは健在だし、台所もさして荒れてはいないらしい。
──そして、勇気が目にして最も安心したものは……。
「──ただいま」
部屋の隅に置かれた、仏壇だ。勇気は静かに手を合わせて、目を閉じる。
そして、暫くしてから目を開けた。
「"星野勇気"、これが誰の仏壇か知っているか」
「──……知らない」
「……そうか。まぁ、積もる話は後でしよう。晩ご飯、これからだろ?」
「あ、ああ…」
「よし。待っててくれ、すぐに準備するから。さっき材料買ってきたんだ」
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無言のままの、気まずい時間。やがてフライパンから鳴る油が跳ねる音と、美味しそうな香りが、リビングを満たした。
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「──よし、出来たぞ」
出来た料理を、"星野勇気"の前に置いた。
「この匂い……」
「ハンバーグだ。苦手か?」
「い、いや…そんなことない」
「じゃあ、ほら。食べてみてくれ」
"星野勇気"は震える手で、ハンバーグを口に運んだ。
「──…っ! これ…やっぱり……!!」
そしてすぐに、その目から涙が溢れ出した。
「結愛……!」
「そうだ。貴方の義妹、星野結愛のレシピだよ。忘れられるわけないだろ?」
「──……っ、貴方は…結愛に会ったのか」
「そうだ、会って話してきた」
「だったら…何故……? 貴方は…残してきた日記を読まなかったのか?」
「日記──ああ…、幽に読むなと言われてな。読んでいない」
「──っ、幽…アイツっ…!! …よく聞くんだ、貴方は──」
"星野勇気"は、一瞬言い淀んだが、そのまま告げる。
「貴方は、元々向こうの世界の人間だったんだ…!」
「──!」
「いいか? 貴方が…貴方こそが結愛の幼馴染で、義兄で…、そして…っ! 父さんと母さんの息子なんだよッ!!」
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10年前
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星野勇気と、旧姓陽向 結愛は、幼馴染だった。お互いの両親同士が親友で、多くの休日を共に過ごしていた。キーボードや料理、掃除といった共通の好みを持ち、とても仲睦まじかった。
星野勇気が8歳の時、夏。仲の良い二組の家族で旅行に出かけていた。その日の目的は、海水浴。
「ゆーくん、ゆーくん! こっちこっち~!」
「待ってゆーちゃん! そんなに急ぐと危ないって!」
ゆーくん、ゆーちゃんと呼び合い、水しぶきを上げて遊ぶ二人。──そして、ほんの一瞬の出来事だ。
「あっ!」
ふとした拍子に、結愛の髪留めが沖の方へ跳んでいってしまったのだ。それを見過ごす勇気ではない、急いで泳ぎそれを拾いに行ったのだ。親が制止する声を置き去りにして……。
──目が覚めた時、勇気はベッドの上に居た。
「──くん! ゆーくん!」
「ゆー……ちゃん?」
「……っ! ゆーくん…! よかった…! よかったぁ…! うわあぁん!」
「ゆーちゃん……──髪の毛…どうしたの?」
「へ…? かみのけ…、わたし何もないよ?」
「え…──だってゆーちゃん……髪の毛、青色だったでしょ……?」
その日、星野勇気は、並行存在と取り違えられてしまったのだ。
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現在
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「──並行存在が入れ替わる方法は2つ、"扉"を見つけ移動すること、そして、同じ時間同じ場所で同じ行動をして"取り違えられること"……。俺たちはあの時、取り違えられたんだ」
「そんなことが……」
「ゆーちゃんの髪色が変わったことについて…、誰に聞いても、溺れた時に混乱したんだろう と言われた。当時は俺自身もそう信じたけど、…それは間違ってたわけだ」
「ああ…俺にも同じ記憶がある」
「いいか、向こうの俺。貴方が居るべき世界なんだ。あの世界には幼馴染の結愛が、貴方を産んだ実の両親が居る! だから…悪いことは言わない、戻るんだ!」
「断る」
「なっ……」
勇気は即答で、"星野勇気"の談を突っぱねた。
「……俺の両親…正確に言えば貴方の両親は、俺が11歳の時に死んだ。いや、俺が10歳の時には既に"死んでいた"。職業柄海外を飛び回っていたが、ある時から事件に巻き込まれ死んでいて、事前に発送されていた手紙だけが届く状態になっていたんだ。それが止まったのが11歳だ」
「な……」
「──そして、そんな俺を気にかけてくれたのは、やはり陽向家だった。貴方が幼少を過ごした幼馴染…陽向 夢と、そのご両親だ」
「……ゆーちゃん、か」
「両親を喪った俺に、もう一つの家族のように接してくれた陽向家…義妹の様だった夢……。俺は、皆に救われていた」
勇気は少しずつ、声の覇気が薄れていく。決して、思い出したくはない事柄だからだ。
「──だが……俺が15の時…だ。──……何が起きたか知っているか?」
「あ…ああ。家族で外出中、結愛の両親だけが事故で…亡くなったって──…! ま、まさか──」
「ああ。──夢は、助からなかった」
「そんな──」
「お前にとっても……辛い話だな」
「っ……だが…! それなら尚更! 向こうの世界には貴方の両親や、結愛がいる! 貴方は一人じゃないんだ!」
「いいか、星野勇気。貴方は幾つか勘違いをしている」
「え──」
「両親が亡くなった時、俺の傍に居てくれたのは夢だった。そして、結愛の両親が亡くなった時、彼女の傍に居たのが貴方だった。幼馴染は、確かに逆かも知れない。だが、その先にある"大切な人"は違うんだ。俺は夢を大切に思っているし、結愛には貴方が必要なんだ」
「……! ──じゃ、じゃあ父さんと母さんはどうなんだ! 育ててきた息子が、自分たちの子じゃないんだぞ?」
「……その気持ちは、とても良く分かる。だが…8歳で取り違えられて、俺達は既に18だ。既に、並行世界での暮らしの方が長いんだよ。貴方は父さん,母さんと呼べるが、俺は素直にそう呼べないよ」
「だが、それでも……! これからの人生のほうが長いんだ! だから、正しい道を…!」
「もう一度言うぞ、俺達は既に18歳なんだ。もう人格は出来初めていて、一人でも生きていける。確かに幼少を過ごしたのは、赤子を人間にしてくれたのは別々の両親だ。だがそこからの思春期、人間を大人にしてくれたのは今の両親だろ? それは人の個性が作られる…最も大切な時期の一つだ。今再び入れ替わっても、……これから何年経ったって、俺にとって貴方の両親は他人だよ」
「──っ、そんなことって……!」
「それに…──もう一つ昔話をしてやろうか。俺は陽向家が亡くなった後、絶望して…荒れに荒れてな。…だが溺れる前に引き上げて止めてくれた人達が居たんだ、1人は貴方が知らないだろう人だから割愛するが、もう1人が…この世界の生徒会長だ」
「健が……」
「もう知ってるよな。繁沢 健…生徒会としての在り方は彼から教わった。彼はきっと、俺の──"星野勇気"の違和感にも一番に気がついただろ?」
「あ、ああ…俺のこと記憶喪失だって…気にかけてくれてる」
「他にもな、相原 理華って役員が居ただろ」
「あ、ああ……彼女は何か「記憶だけじゃない、身体も違う」…って……」
「ふっ──当然だな、今や俺の身体は彼女が作ったようなものだ。…まぁ、今の話でも分かるように、俺達の世界は両親とか幼馴染とか、それだけじゃないんだ。周囲を取り巻く環境もあって、人間が作り上げられる。貴方の周囲にだって、大切な仲間が居ただろ」
「……美咲さん…恵…」
「皆、貴方の帰りを待っているぞ」
「……」
"星野勇気"は口を結んで俯いた。しかし、勇気には分かった。彼が自分自身であれば、答えは既に出ている筈だ。
「──…分かった。俺…帰るよ」
「ありがとう、"星野勇気"──いやこう言うべきかな、兄弟」
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2人の星野勇気が、電車に揺られる。
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「──仕事は引き継ぎの資料作っておいたから、多分大丈夫なはずだ。それと、色々あって生徒会のメンバーが倍くらいになってる」
「え──何したんだ一体」
「"勇気"…、貴方は生徒会の圧政を終わらせてからすぐにこっちの世界に来ただろ? 後始末が少し残っていたんだよ」
「そう…だったのか。申し訳ないことをしたな……」
「自分勝手だ…と叱られる覚悟はしたほうが良いな。皆 貴方が思っているよりも貴方を大切に思っていたから」
「…ああ。……覚悟しておく」
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やがて、二人は再び"扉"の場所に辿り着く。今度は、どちらも迷いはない。
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「…じゃあ、俺行ってくるよ、兄弟」
「ああ、幸せに」
"星野勇気"は、"扉"を真っ直ぐ見据え、一歩踏み出した。──次の瞬間。
「──っおらあぁーぁッ!!」
"扉"が輝き、何かが飛び出してきた!!
「なッ──つ、鶴城!?」
「ハァ…ハァ……! あ…? 副会長が2人──そっか、丁度のタイミングだったんだ、好都合……」
「何で此所に!?」
「貴方なんですよ副会長…! 貴方なんだ…!!」
「な、何が?」
「なぜあの中で、星野勇気の家族じゃない私たち姉妹が、貴方を並行存在だって先に認識できたのか…! それは…、貴方と既に会っていたからなんです…!」
「──まさか」
「輝姉さんが恋した星野勇気は、貴方なんです!!」
それは、確かにあり得る可能性だった。なにしろ8歳までは同じ街に住んでいたのだ。
「だから…こんな結末じゃ駄目なんだ。──っていうのは私自身の建前! 元より天上社は、これで終わりにするつもり無かったんだよ」
鶴城は懐から端末を取り出して、高く掲げる。
「さぁ…、お願いします!」
─ピカッ!─
"扉"が激しく輝いた。あまりに強い光で、勇気たちは目を伏せる。
そして、光が晴れると……。
「──は…ははっ…! 成功だ!」
大きな穴が、そこにはあった。空間に開いた、大きな穴。
それは、平行世界を繋ぐ大きな扉だった。
「やぁ、さっきぶりだね。星野くん」
そこから出てきたのは、天上治だ。
「治さん!? これは…一体どういうことですか!?」
「いやぁ実は、天上にはちょっとした企みがあってね? 端的に言うと、"並行世界を繋げば、市場が2倍"作戦だ」
「な……ハァ!? あんな…送り出しといて……!」
「実際、賭けではあったんだ。"鍵"が"扉"をくぐる時の揺らぎを計測し、そこから糸口を掴む。そして、そこから無理やりゲートを開いて調査員を1人派遣して端末から確かな繋がりを生み、…ご覧の通り目論見は成功だ。本日より、天上社の新たな市場開拓が始まるという訳だな。──まぁ不安は覚えるだろうけど、難しい話は大人に任せておきなさい?」
「じゃあ…鶴城を派遣したのも貴方?」
「…行かせるつもりはなかったよ。だけどその…彼女、全く譲らなくて。仕方がないので宇宙の親御さんと連絡を取って同意書まで書いてもらったよ。全く……危険性を分かっていたのかどうなのか…まぁ結果オーライってことにしておくよ」
「鶴城…、貴女はまた無茶をして……」
「う……はい、スミマセン……」
「本当…何事もなくてよかったよ。──…でも、ってことは本当に……世界が繋がってしまったってことですか」
「ああその通り。どちらが本当の世界かなんて、もう気にしなくて良い。──さぁほら」
治が笑って道を譲ると、そこには結愛が、涙を浮かべて立っていた。
「結愛…!」
"星野勇気"が思わず飛び出す。それを迎えるように、結愛は"星野勇気"に抱きついた。
「──おかえり! お義兄ちゃん」
「結愛ごめん…俺……! 結愛の気持ち全然考えて無くて…ッ! 自分勝手で…ッ!! ごめん!!」
「…良いんだよ、お義兄ちゃん。きっと必要な時間だったんだよ。──おかえり、お義兄ちゃん!」
その様子を、勇気は笑って見ていた。人間にはきっと、傍に居るべき存在があるのだと…そう実感していた。
「──ゆーくん」
「え…?」
ふと、結愛が呼んで、勇気にも手を伸ばす
「…えへへ、ゆーくん…なんだよね? 私覚えてるよ、昔さ、父さんと一緒に連弾したり、料理したりしたでしょ?」
「…ああ、覚えてる」
「ゆーくんもさ、やっぱり私にとって家族なんだよ。星野勇気は、同姓同名の兄弟……じゃない?」
「…そうだな、ゆーちゃん」
「ね、お義兄ちゃんも」
「ああ。色々あったけど…こんなに気持ちが分かる兄弟もいないよ」
"星野勇気"と結愛は、腕を広げて勇気を迎える。
──3人は、暖かく抱擁した。
また新しい人生が、始まろうとしている……。
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ーーーーー
ーーーーー
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それから、幾日も経ち
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「おーい!」
「"勇気"! 来れたか。道中迷わなくてよかった」
「はは…実は危なかった。世界が違うと駅名も結構違うんだな。行こう、兄弟」
場所は、とある霊園……。二人は、墓参りに来ていた。
星野家の墓…そして、陽向家の墓。ここには、二人分の親と、二人分の幼馴染が眠っている……。
エピローグに続きます




