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28 それぞれの


時は巡り、休日。勇気は軽音部と共に劇場へ集まっていた。


「おっはよーみんなー──ってあれ、私最後かー…あはは、ごめんねー」


「おっせーぞ桜姉さん! まあいつも通りで安心するけど! ──じゃあ皆、いよいよ今日が最後だ! 演出フルで使ってリハーサルするから、本番以上にド真面目だぞ!」


「「了解ッ!」」


「昼には貴康兄さんと副会長が手がけた最強の弁当が待ってるからな! まずは午前を走り切っぜーッ!!」


美麗は拳を突き上げて鼓舞する。勇気たちもそれに全力で応えた。


ーーーーーーーーーーーーーーー

同時刻、生徒会室。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「さて…全員予定通りですね、打ち合わせ通りに出発しましょう。私の班と小百合の班は勇気さんの自宅から当時の足跡を追跡します、輝の班は局地調査を」


「承知しました、会長。…もう行ってしまっても?」


「ええ輝、お願いします」


「はい。行こう、鶴城」


宇宮姉妹は一足先に生徒会室を出発した。


「私達も行きましょう。小百合、いい報告を願っています」


「はい、会長。お互いに」


ーーーーーーーーーーーーーーー

生徒会による、"星野勇気"の行動調査が開始された。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「──うちの玄関カメラによると…、まずはこっちに向かったみたいです」


星野家の前、結愛は映像を見ながら行き先を指差した。


「…なんか、始めから元気ない様子ね……、この日は別にトラブルもなかったのに…」


「ええ恵、足取りも重い様です。…どうして気付けなかったのか……」


「自分を責めないでください会長、…お義兄ちゃんは、こういうのを隠すのが得意なんです」


「…ったく……人の悩みは散々聞くくせに。……相談しろっての」


「ふくかいちょう……」


「……行きましょう皆さん、カメラ記録を提供していただけそうな候補地を絞り込みました」


「ありがとう小百合、では手分けして参りましょう」


美咲達は足取り重く、しかし道を急いだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー

一方、海水浴場。宇宮姉妹はここに到着した。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「──さて、付いた訳だけど……誰も居ないね、シーズン外だからかな」


「そうだね、鶴城。…ここに何か、痕跡があると良いけど……」


輝はぶらぶらと、海岸を歩き始めた。鶴城も、それに続く。


波の音が響いている。時期外れの誰もいない海で、二人きりだ。


「──あのさ、姉さん。…私楽しいよ、こうやって姉さんと過ごせて」


「え…あー、そう、だったら良かった」


「覚えてるかなぁ…昔さ、こうやって一緒に遊んだよね。砂に足を取られながらかけっこなんかして、私は絶対に勝てなかった。姉さん速いんだもん」


「…そんなことあったっけ? …よく覚えてるね鶴城」


「…そりゃ覚えてるよ。大好きな、大好きな……姉さんとの記憶だから。──あのさ、姉さんは今楽しい?」


「……鶴城、さっきからどうして、そんなことを?」


「だってせっかく二人きりなんだもん。……たくさん話したいよ」


「え…最近はいつも話してない?」


「そうだね、でも……()()()()()()()


「……鶴城、何を……?」


「──あのさ、前にもこうやって二人きりで話したよね? 1回目はそう…私が生徒会に捕まった時だ」


///////////////

時は遡り、生徒指導室。

///////////////


「──姉さん……まさか、会えるなんて…!」


「……久しぶりだね、鶴城」


「今までどこで何してたの? 休み時間に姉さんの教室行ったって、家で姉さんの部屋に行ったって会えなかったのに」


「それは…。ええと、ちょっとね」


「そんなんじゃ納得できない。……私ずっと会いたかったのに」


「……」


「姉さん……私妹だよ? ずっと一緒に居たんだ、隠し事だって一緒にしてきた、絶対に裏切ったりしないから!」


「鶴城」


「ッ……ごめん」


輝は呼び止め、現状を理解させた。今こんな話をする必要はないと。


「──え、ええと…私を説得するって言ってた……よね」


「うん。勇気先輩に迷惑がかかることは止めてほしいと思って」


「……何で姉さんがそんな事言うの?」


「勇気先輩は、信頼出来る人だから」


「──は……?」


「本当だよ。勇気先輩は凄いんだ」


「う、嘘だ…! 私だってやつのことは観察してた、でもそんなんじゃない! 時間には遅れるし、身の回りのことだって出来てないし…ッ!! 顔が良いだけじゃん!」


「それでも、だよ。分かるね?」


「ッ……姉さん……。あいつのことそこまで…? な、何でよ……」


鶴城の困惑を聴いて、輝は小さなため息を吐くと、鶴城の頬へそっと手を添えた。


「ねえ、鶴城。覚えてる?」


「え──」


「約束したよね、"姉さんのために、良い子でいる"……って。鶴城、今やっているのは良いこと?」


「ッ…!! ち、違うの姉さん! っ、これは演技だよ! 私はッ、生徒会から美麗──親友を助ける為にやってるだけで…だからッ…!!」


「だから…悪い子でも良いの?」


「ち、ちがっ…!! ッ──分かったッ!! 姉さん、私従うよ! もうこんなことはしない! だ、だからお願い…、嫌いにならないで……ッ!! 姉さんに嫌われたら…私……ッ」


「──そう」


嗚咽混じりの懇願を聞いた瞬間、輝は鶴城の頬から手を離し、後ろへ下がった。


「え──?」


「それを聞けて安心したよ、鶴城。……忘れないでね」


「え、あ……ぅ、うん!」


そして輝は、踵を返し、出口の扉に手をかける。


「ま、待ってよ姉さん! まだ話が──置いてかないで……ッ!! 姉さん…! 姉さんッ……!!」


///////////////

///////////////


「──あんなに一方的な話って無いよね。…私は当然、星野勇気を憎んだ。……あいつが姉さんを変えてしまったんだって」


「……違うっ、勇気先輩は悪くない…! 私が勝手に──」


「そうかもね、…ううん、きっとそうなんだよね。姉さんは勇気先輩のことばっかり──だから姉さんは、全部忘れちゃったんだ」


「……え?」


「…2回目、今度は家で二人きりだった──」


///////////////

再び過去、宇宮家。

///////////////


夜も更け、鶴城は自分の部屋で適当に過ごしていた。


───…ガチャン─


「──! 姉さん…!?」


突然聞こえた扉の音。鶴城は急いで、玄関へ向かう。


「…ただいま、鶴城」


「姉さん…? ほんとに姉さんなの?」


「うん。…えっと、その……帰りたくなって」


「──ッ、うん! おかえり姉さん! …あっ、お腹空いてる? なにか作ろっか、何でも良いよ!」


「えっ、…あー、うん。じゃあ…そう…だな……。ええと……」


「…お腹は空いてない?」


「あっ、えっと、違うの! いや違わない…かもだけど……。せっかく鶴城が作ってくれるなら…そう、食べたくて……、ええとだからこういう時は…、なにか好物を言えば良いのかな……? 私って何が好きだったっけ」


「──えっ? そんなの…オムライスとか?」


「オムライス……か。じゃあ…うん、それで」


「分かった! ちょっと待ってて、すぐ作るから!」


・・・・・・・・・・・・・・・


───ことっ─


出来上がったオムライスが食卓に置かれる。思い出に浸るための小さなオムライスには、可愛いらしいハムスターがケチャップで描かれていた。


「はいっ出来たよ姉さん!」


「ありがとう鶴城。…頂きます」


輝はそれをゆっくりと口に運ぶ。無言のまま咀嚼し、そして飲み込んだ。


「……どう、かな?」


「…………うん、美味しいよ鶴城。とっても」


「! よかったぁ…、ふふっ、昔よりずっと上手くなったでしょ」


「え…あぁ……そうだったっけ……」


鶴城の真っ直ぐな視線を受けて、輝は一瞬目を伏せる。


「──あの、さ、鶴城。…何か私に……してほしいことある?」


「えっ…!?」


「えっと、その……こうして過ごすのも久しぶりだし」


「じゃ、じゃあ…っ! 私また、姉さんと一緒に登校したい!」


「……うん、分かった。じゃあ、そうするね」


///////////////

///////////////


「──姉さんは、ただ姉を演じようとしただけだった。私が料理下手で、しょっちゅう卵を焦がしてたことも。昔飼ってたハムスターのことも。自分の好物でさえ覚えていなかった」


「ッ……私は……」


輝は何かを必死に思い出そうとする、昔の暖かい思い出を、妹とのよい日々を。けれどどうしても、思い出せなかった。星野勇気と出会ったあの日、彼女の人生はまるきり変わってしまったから。


「──……ごめん…」


「…知ってる、分かってるよ。姉さんがあいつのこと好きってことくらい…。恋ってものが、人をどうにでもするってことくらい…。それが恋なんだ、それが人間なんだ…。だから私の知ってる姉さんは、もう何処にも居ないんだよね……?」


鶴城は拳を握り締め、涙を落とした。


「──ああもう、泣きたいわけじゃなかったのに……なんだよもう……ッ」


鶴城はあふれた涙を乱暴に拭い、輝に背を向けて歩き出した。


「……ごめんね変なこと言って。…これは私なりの"お別れ"なんだ、姉さん。姉さんはもう"私の姉さん"じゃなくてもいい、だから本当の姉さんを見せて欲しい。……私はもう子供じゃないし、どんな姉さんでも大好きだから」


背を向けたまま、鶴城は言った。きっと見せられない顔をしているのだろう。


「鶴城……」


輝はその背中に突き動かされた。彼女の覚悟を、捨て置けなかったのだ。


「──分かった、本当のこと言うね」


「…うん」


「私、ストーカーなの」


「うん、──うん?」


鶴城は思わず振り向いた。涙はもちろん一瞬にして引っ込んだ。


「小さい頃、飛んできたボールから守ってくれた男の子が居たでしょ? あれが勇気先輩でね、それ以来こう…滾る気持ちを抑えられなくなっちゃって」


「え──や、え? ちょ、ちょっと待って姉さん! ど、どういうこと? え、比喩とか…だよね?」


「ううん、全然。不法侵入はするし、盗撮も山程してる…かな」


「なっ──は……はあぁッ!?」


「これ証拠、見る?」


輝は懐からカメラを取り出し、鶴城へ差し出した。鶴城は受け取ると、慌てて中身を確認する。


「ぅ、うゎ、うわっ! 完全にアウトじゃんこれ! 入浴シーンなんてどうやって撮ったのこれ…も、モザイクいくつあっても足りないよ!?」


「…失望した?」


「するよそりゃドン引きの極地! なにしてんの!? こ、恋ってろくなもんじゃないなやっぱ!」


「はは…だよね……」


「……全く。…でも安心した、本当のこと言ってくれてるみたいで。──どうしてここまで見せてくれたの? だって犯罪だよこれフツーに……」


「うん…でも、鶴城に──妹にあんなこと言われたら…、言うしか無いから」


輝は困ったように笑った。それは妹に向けた作り笑いではなく、本当の笑顔だった。


「姉さん……。──前言撤回!!」


「え…?」


「姉さんはやっぱり姉さんだよ。大好きっ!」


鶴城は輝へ抱き着いた。


「わ、わっ、鶴城?」


「話してくれてありがとう、姉さん。私嬉しいよ…ほんとに嬉しい……っ! 姉さんとまた…秘密を共有できて……ッ!」


「そ、そんなありがたがる秘密でもないんだけど…」


「そうだけど、それでも嬉しいの! やっと本当の姉さんが知れたんだから!」


「鶴城…」


「でも、めちゃくちゃ犯罪なのは変わりないから、ゆっくり向き合っていこうか。それで…最後はちゃんと本人に謝ろう?」


「う…ハイ……頑張りマス…」


そこに在るのは、飾らない、真に心を通わせた姉妹の姿だった。


「ひ、ひとまず今日はさ、勇気先輩の手がかり集めに来たんだし、そっちをやろう鶴城?」


「あっ話逸らした! …まぁごもっともだけど。確かにあの副会長がちゃんとこっちの世界に戻ってこないと色々話になんないか」


「そうそうこっちの世界に──えっ?」


「あぁそっか…知らないよね。私も気付いてたんだよ。今の星野勇気が入れ替わってること」


「え、ええぇッ!?」


///////////////

その頃、美咲達は。

///////////////


「──ご協力ありがとうございました」


「いいえ〜、お力になれずすみませんで」


店員は礼儀正しくお辞儀し、天上美咲と木崎恵を見送った。美咲達は少し歩いた後、二人してため息をつく。


「……はずれ、か。次行くわよ、美咲」


「ええ。──待って、通話が」


美咲は懐から携帯を取り出し、着信に応答する。


《もしもし、会長?》


「ええ小百合、聞こえているわ。そちらはどうでしょう?」


《当たりました、こちらから南東方面へ進んでいます》


「了解、我々も向かいます」


《はい、お願いしま──えっ、ま、待ってください。すぐそこの…書店に?》


「どうしました、小百合」


《あっ はい、副会長が書店に入りました。時間は…およそ20分滞在したようです》


「20分? 決まった本を買うにしては少し長いですね…」


《調査を?》


「ええ小百合、お願い。我々もすぐに合流します」


《承知しました、道中お気を付けて会長。切りますね》


通話が切れると、美咲達は素早く書店へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーー

そうして、書店内。生徒会は速やかに合流する。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「──小百合、状況は?」


「お疲れ様です、会長。丁度店内カメラを見せていただく所です」


生徒会一同は、店員が見せるPC画面をじっと見つめる。


「──居ました! …オカルトエリア?」


「変な所行ってるわね……でも関連してそうかも。──店員さん、このデータをお借りしても?」


「あぁはい、どうぞ…」


恵は自前のPCを取り出し、カメラ映像のデータを受信、解析を始めた。


「恵先輩、それは…?」


「さっき、勇気が本を手に取ったでしょ? 表紙を見てやるの。ちょっと遠いけど、少し色味をいじれば画像検索にも引っかか──」


───ブツッ!!─


その瞬間、PCの電源が落ちた。


「──は? ……嘘でしょ、何よそれ!」


恵は慌てた様子でPCの起動ボタンを押すが、返事がない。


「……故障じゃあり得ない。…だったらこれって…」


「どうやら、"あたり"かもしれませんね。恵の解析が出来ないのなら仕方がありません、皆、直接調査を行いましょう」


生徒会はぞろぞろと、書店のオカルトエリアへ向かった。


──そこで、一行は思わぬ人物と出会う。


「あれ、めぐめぐ? それにがみさんまで──っつーか生徒会皆居んね!?」


図書委員、椎名エナだ。


「どしたん回診みたいに…、─まさかうち、人知れず指名手配に!?」


「違います、エナ。我々はただ、記憶喪失前の勇気さんの足取りを辿っているだけです」


「あれ そうなん? 奇遇じゃん。うちもそんな感じっつーか、ほらこれ」


エナは笑って一冊の本を掲げる。それはこの世界の人間が知覚できない、いわくつきの本……。


「な…それは……?」


「不思議っしょ? オカルトコーナーによくあんだこういう本。…しかもほっしーがああなった後から現れた……。断言しちゃうけど、これって超常現象だよ、呪われてる」


「じゃあ…私のPCが使えなくなったのは、その本を映したから……? ──いや待って、でも妙だわ」


「どしたんめぐめぐ?」


「"タイミング"よ。もしその本自体が呪われてるのであれば、監視カメラ自体に異常があってもおかしくない。でもそうじゃなく、私が解析しようとした直後に現れた……」


「恵は…()()()()()()()()()()と思っているのですか?」


「まあね美咲、でも仮説に過ぎないわ。呪いってのがそもそも謎だし」


「そうですね…。確かに興味深い品ですが、材料が足りないか……」


美咲と恵は深く考え込むが、答えは出せないようだった。


「──駄目ですね、考えるのは後にした方がいい。ひとまずその本は買い取りましょう、手がかりには違いありません。…構いませんか? エナ」


「良いよ、大きさと重さ的にもう持ってるやつだったから」


「感謝します」


美咲はエナから呪われた本を受け取り、レジへ向かった。


「……そういえば、エナ。どうしてあんたが勇気の調査を?」


「あー、ほっしーが図書室来た時にああいう本見っけてさ、そっから。まぁうちはどっちかってーと、呪われた本を調べたいんよね。だってガチの超常現象やろ? 滾るっつーか」


「なるほど、頼もしいわね」


「え、珍しいじゃんめぐめぐが人褒めるなんて」


「う…私の印象ってやっぱり地に落ちてるのね。いや、それは元からだったわね……」


そうこうしている内に、美咲が呪われた本を片手に戻ってきた。


「お待たせしました。…真白、これ持っておいて」


「はーいねえさま!」


真白は元気よく、美咲から呪われた本を受け取る。


「──では……ここでの調査は終わりとしましょうか。皆、次の場所へ行きますよ」


「「はい、会長」」


「エナ、協力ありがとうございました。そちらもなにか情報があれば、いつでも生徒会にお伝え下さい」


「おっけー。そっちも頑張ってねがみさん」


生徒会一行はエナに見送られながら、書店を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーー

そして、書店のすぐ外。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、次の目的地は……」


と、その時だった。


「えっ、あれ…? ねえさま、ねえさま!!」


「? どうしたの、真白」


「本が…きれいになってる!!」


「はっ!?」


その場に居た全員が真白の方を見た。真白が持っているのは、確かに先程の本だ。その筈だが、本を覆っていた呪いがいつの間にか消えていた。


「そんな、さっきまで確かに呪われていたのでは…!?」


「う、うん…でも今ためしに開いてみたら…なんか、しゅわあぁってもやもやが消えたの……」


「な、何よそれ……──と、とにかく! 真白、何が書かれてる!?」


「うん、恵せんぱい。ええっとー…"入れ替わった──」


真白が読み上げようとした、その瞬間。


───バシッ!!─


──鋭い音とともに、本が消えた。


「えっ…」


一瞬の出来事だった。この場の誰もが目の前の光景を理解できなかった、できる筈もなかった。


──ただ一人を除いて。


「──真白ちゃん、あそこに向かって10m、空気を掴んでッ!!」


瞬発的に叫んだのは小百合だ。真白はそれを聞くと弾かれたように駆け出す。そして──


───がしっ!!─


"それ"を、捕まえた。真白が掴んだのは空気ではない、この感触は……


「だれかの、うで……?」


──《まったく…予想外も予想外……じゃなあ》


真白が掴んだ腕から、徐々に"彼女"の姿が現れる。


「あなたは……幽さん!?」


三途川幽は、誤魔化すように笑った。


「ああ、美咲。久しぶりじゃな、元気にしておったか?」


「…説明してください、全てを、今すぐに!」


「……そう焦るな、…降参じゃ。……長くなるからな、ゆっくり、歩きながらでも良いじゃろう?」


「……分かりました。…真白、絶対に幽さんから手を離さないように」


「…はい、ねえさま」


生徒会の視線は、幽にじっと注がれる。それは批難しているように。


「──この本は私が呪った。ヌシ等が読めぬようにな。…だが、……まさか真白が浄化出来るとは思わなんだ」


「じょうか……私が?」


「…そう、たまに居るんじゃそういうギラついた人間が。……で、私が本を呪った理由はもちろん、()()()()()()()()()()が書かれているからに他ならん」


「その内容は? 早く教えなさい」


「焦るなと言っとるじゃろ、恵。……ここは一つ、説得させてくれんか」


「説得?」


「──この情報は、必要のないものじゃ。勇気を助けたいのなら、これは要らぬ迷いを生んでしまうじゃろう。…だから、知ってはならん」


幽は真摯に、そう伝えた。悪意はない、本心で語っているのだろう。


「……言い分は分かりました、幽さん。──ですが、それは勇気さんに関わることなのでしょう? 必要ないかどうかは私達が決めます、教えてくださいませんか」


「……気持ちは分かる。じゃがこれは…天地が返りかねん代物でな、どうしても……」


「幽さん。私達は皆、勇気さんに救われています。どんな真実が降りかかろうと、私達は決して迷いません」


「保証は出来ぬじゃろう」


「ええ、出来ません。ですが、確信しています」


「……なんてやつじゃ。──しかし…しかしな、これだけは本当に明かす必要のないものなんじゃ……伝えればきっと悪いことが起こる……」


「幽さん…」


幽は、頑なだった。


──「だったらさぁ、うちが代わりに教えよっか?」


その時、背後から声がした。一行は立ち止まり、そこを見る。


──椎名エナだ。立っていたのは。


「エナ…? 付いてきていたのですか」


「うん、店前でやってたでしょさっき、気になってさ」


「──待て、エナとやら。"代わりに教える"とはどういうことじゃ?」


幽は焦ってエナに訊いた。エナはにやりと笑って答える。


「分かっちゃったんだ、うち。真白ちゃんが読んだ"入れ替わった"ってワードがとどめの大ヒント。…もともと候補は絞れてたから一発だったよ」


「な…は、ハッタリなんじゃろう?」


「いいや? 合ってるね。そもそもオカルト関連ってのは分かってたし、消去法が大活躍やったわ、本の虫舐めんな? ──で、幽さん…だっけ。うちから言わせれば、()()()()()()()()だよ。がみさんなら何の心配もない、きっと正しい判断をしてくれる。…ってかそっちが言わないならうちが普通にぶちまけるし」


「そんな──ヌシ、本気で言っておるのか? 全てを知ったのじゃろう!?」


「大マジだよ。私だってあの学校の生徒だよ? 3年間がみさんやほっしーの活躍を見てきた。あなたがどんな立場かは知らんけど、あなたより詳しいと思うよ。だから大丈夫」


エナは真っ直ぐな視線を幽に送った。幽はしばし黙り込むが、そこへ美咲が言葉を投げる。


「あなたの気持ちは信じます、幽さん。ですが私は、物事を全て正しく認識しなければならないのです。でなければ勇気さんを…"正しく"助けられない……」


美咲は深く、頭を下げた。それに続いて、生徒会の全員も。


「お願いします、幽さん」


その覚悟は固く、そして確かだった。それは幽の心を激しく打ち付ける。全て杞憂だったのだと。


「──分かった。……教えよう」


「幽さん…!」


「…ただし、一つだけ約束してくれんか。星野勇気本人には、まだ伝えないで欲しい。これはあいつが向き合う、最後の課題じゃからな」


「──えっ……しかしそれでは意味が…!」


「頼む! …聞いたらきっと、理由も分かる筈じゃ。の、のうエナ!?」


「ふむ…そうだね、それについちゃうちも賛成かも。まぁ大丈夫だとは思うけど、現状が現状やし、それが無難かもね」


「ほっ…助かるぞ、エナ。…どうじゃ美咲、それで納得してはくれんか?」


「……分かりました、それくらいであれば、飲み込みましょう。いずれ、勇気さんも知る筈なのですね?」


「ああ、あやつは必ず向き合うことになる。……では、語ろう。"真実"を」


///////////////

一方、宇宮姉妹は。

///////////////


「い、いつ気付いたの!? 今の勇気先輩が別世界の存在だって…!」


輝は強く驚き、鶴城に尋ねた。鶴城は笑って得意げに語りだす。


「緊急ライブの後かな、星野勇気のことを調べてたら…突然あいつが言ってることを理解できたんだ、その時は美麗が優先だったからスルーしてたけど」


「そうなんだ…。でも本当に不思議、私達だけが気付いてるなんて……」


「んー、私達姉妹が特別な力を持ってるとか? …有り得る、姉さんとその妹の私だもんな」


「そんな力無い──とも言い切れないのがね……。とにかく、今はこのあたりを調べてみようか。…えっと……」


輝は気持ち新たに海岸を眺めるが……、シーズン外故にテントも何もなく、辺りに在るのはさざ波とその音のみであった。


「…見渡す限り海しか無いね」


「だよね? ……いやー私も気になって来てみたは良いけど、海岸がこんなにも虚無だとは思わなかったなぁ。……一旦帰る?」


鶴城の提案に、輝は首を振る。


「ううん鶴城、少し待とう。ここは調査対象の日、勇気先輩が最後に来た場所なの。だからもうすぐ、生徒会長たちが来る筈だよ」


「えっ、そうだったんだ……もしかしてその時もストーキングしてた?」


「もちろん」


「そっかあ」


ーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして、海岸に美咲達が合流する。そこには、三途川幽の姿も共にあった。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「──あ、お疲れ様です、会長」


「ええ輝、待たせてごめんなさい。……まさかここが勇気さんの目的地だったなんて…、鶴城の慧眼ですね」


「まあね、だって私は姉さんの妹だから。──で、何で幽さんが居るの?」


「あぁ、私か? ちょっと色々あってのう…。まぁ丁度良い、情報の整理がてらヌシ等も聞いていけ」


ーーーーーーーーーーーーーーー

幽は再び、その"真実"を語った。

ーーーーーーーーーーーーーーー


「──じゃあ、幽さんは…最初から全部知ってたってわけ?」


「ああ。…あの馬鹿の心以外はな。そして、この海岸こそ……()()()()()()()()()()()()()()


幽は海岸をじっと見つめ、波の音を聞く。


「……ねえ、結愛」


ふと、鶴城が呼びかけた。


「なに、鶴城?」


「どうすんの? あんたは」


「──私の気持ちは変わらないよ。これくらいの"真実"ならね」


「…そっか。流石だね」


結愛はどこか憑き物の落ちたような顔で海岸を眺める。もう、彼女のどこにも迷いはなかった。


「──それで、幽さん。その…"扉"というものの場所はもう…?」


美咲が尋ねると、幽は気安く頷いた。


「ああ、それはもう目星がついておる。恐らく、ヒントは天上のルーツじゃ。今は治に探らせとるから…まぁすぐに見つかるじゃろう」


「お父様に? …全く、天上のトップを顎で使うなんて貴女くらいのものですね、幽さん」


「じゃろう?」


幽は得意げに胸を張った。…そして間を開けて、美咲に向き直る。


「その…済まなかった、美咲。私はヌシ等の思いも知らずに、真実を隠してしまった…」


「…いいえ幽さん、無理もありません。私が幽さんの立場であれば、きっと同じ考えに至ったでしょう。…過程がどうあれ、私達は真実を知ることが出来ました。それに、今の勇気さんが何者なのかも」


「…そうじゃな。恐らく、ヌシらの体にも変化が起きた。ヌシらが勇気と並行世界の関係を認識できた今、きっと星野の言葉も正確に聞けるじゃろう。……全く、こんな簡単にいくなら、やはり隠し事なんてやめとけばよかったかのう…」


幽は呆れたように肩をすくめた。


美咲達は"真実"に触れ、そして世界を正しく認識したのだ。すなわち、今の星野勇気が別人なのだと。


「…あの方にも、これまでの感謝を伝えなければいけませんね。見知らぬ世界に飛ばされたにも関わらず、良い副会長で居てくれました……」


美咲の言葉に、鶴城が深く頷く。


「…うん。あいつのお陰で、美麗は立ち直ってくれた……どころか、今までより幸せそうだよ。…それに私だって助けられた、姉さんとちゃんと話せたのだってあいつのお陰でさ……」


「ほんと、勇気の奴ろくに引き継ぎもしなかったのにとっとと適応しちゃうんだもの。すごい人よね」


「うん、恵せんぱい。…あの人が帰るときは、ちゃんとそうべつかいをやりましょう、ねえさま。あの人だって、私たちの仲間だよ」


「ええ真白、きっとね」


美咲は優しく、真白の頭を撫でる。


「さて……これで調査の目的は達されました。あの方には、いい報告が出来そうですね。…"真実"は伝えられませんが、もう孤独にはさせません。──これからは、生徒会があなたと共にあります。"星野勇気"さん」


美咲は勇気に思いを馳せる。それはきっと、届くだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーー

時は過ぎ、夕刻。勇気と軽音部はラストのラストスパートをかけていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー


───♪〜ッ!!─


最後のリハーサル、最後の音を叩き鳴らした。汗だくで、息も絶え絶え、しかし渾身の力を持って音を奏でた。


「……」


誰も喋る気力はなく、ただ疲れ果てていた。しかし──


──あまりにも、心地良かったのだ。


「──最高だ…、皆。…今までで一番良かったぜ……」


「ああ…、同感だ美麗……」


「うん! すっごく良かったねー! 思わずオーバーヒートしちゃうところだったよー!」


「はは……桜姉さんはほんっとうにバテないな……、やっぱ流石だぜ……。──梨乃は、大丈夫か?」


「は、…はい……なんとか……。…でも凄く……気持ちよかったです……。…これを……やっと皆の前で演奏できるんですね……」


「そうだぜ、しかも一緒にな。──こんな日が来るなんて思ってもみなかった。…全部鶴城と……お前のおかげだよ、ありがとう副会長」


「礼ならライブの後で、だろ美麗?」


「──へへっ、そっか、そりゃそうだな!! よーし皆! 休み明けたらいよいよ本番だァッ!! それまでしっかり身体を休めて、本番に備えておけよな!!」


「「了解ッ!!」」


「っしゃあ、以上!! じゃ、後片付けだあぁッ!!」


美麗の号令を合図に、軽音部は活発に後片付けを始める。来たる希望の日に備え、胸中を晴天で満たして。




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