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19 平和な朝


「お、おい! 待てよ副会長! 梨乃!」


美麗が前を走る二人に呼びかけるが、二人は止まる気が無いらしい。むしろ勇気は後ろを振り向いて美麗に情報を求める。


「演劇部の生徒はなんて言ってた? 結愛は何かしたのか」


「は!? …あー、演劇部も私達の緊急ライブみたいに何かしようとしてたみたいなんだ! それを結愛ちゃんに見られたみたいで…! …そうだ、向こうも混乱してるみたいだった!」


「分かった、ありがとう美麗。……ん? そういえば鶴城はどうした」


「置いてきたよ。今から人を監禁した連中の所に行くんだろ? 外に動ける奴が残ってくれた方が嬉しい。鶴城なら私に何かあっても何とかしてくれるだろうし」


「…美麗先輩、やっぱり鶴城さんと何か?」


「あ。…あー、今はそんな場合じゃないだろ梨乃。ほら急ぐぞ! 結愛ちゃんを助けに! な、副会長!!」


「ああ、そうだな」


勇気は星野結愛が捕らわれているであろう演劇部室の扉に手をかける。普段はノックをするところだが、この事態にそんな気遣いは生まれなかった。勇気は乱雑に扉を開ける。


「演劇部」


勇気は感情を抑えつつ、言葉を発する。


「……副会長? どうしたんだい、血相変えて」


二十余人程の部員の中で、部長の腕章を付けた男装の生徒が前に出た。彼女は190cm前後と長身で、勇気も視線が上を向く。


「ここに、星野結愛が来ませんでしたか?」


「きみは? …あぁ、結愛のともだち……梨乃くんだっけ? 結愛なら来たよ、今日は久しぶりに参加してくれてね。でもごめん、彼女今は休憩中だから席を外しているんだ」


聞いて、勇気は部室の中を見渡す。広く小道具だらけのその部屋は、さまざまな世界が混ざり合ったもう一つの世界となっていた。


「じゃあ、結愛がどこに行ったか知ってるか?」


「さぁ…、ほかの場所をあたってくれるかな」


「……なら聞き方を変えるよ演劇部長」


「炎治だよ副会長さん、僕の名前は"片平 炎治( かたひら えんじ)"」


「分かった、炎治。……結愛を解放しろ」


「…やっぱりそれしかないよね、君がこのタイミングで来る理由なんて。残念だ」


ーガチャンー


演劇部の扉が閉まる。副部長の腕章を着けた演劇部員が鍵をかけ、立ち塞がった。


「どうしてこんなことを?」


「交渉なら断らせてもらうよ、いつものきみたちがそうしていた様に」


「……」


言葉を詰まらせた勇気に、美麗が肘でつつく。


「副会長、結愛ちゃんならそこの棺桶の中だ。…結構強く縛られて、口も塞がれてる」


「なるほど、中藤美麗。きみが聞いて、副会長に教えたのか。…おかしいな、大声は出していないしここは防音室なんだけれど」


「私なら聞こえるぜ、運が悪かったな先輩」


「噂には聞いていたが規格外だね、本当に。だけど運が悪いのはきみの方じゃないか美麗くん、感情に支配された二人と一緒に居たばかりに閉じ込められてしまった」


「はっ、言ってな。お前らがやってることは皆に話してある。こんなことして、ただじゃ済まねえぞ」


「…きみの事は反乱分子として気に入っていたのに。軽音部は生徒会に懐柔され、今や都合のいい駒に成り下がったというのか」


「違う! 私が信じてるのは副会長だ。炎治先輩も、こいつに相談すればきっと──むぐっ!?」


周りの部員が美麗を抑え込み、その口に布を詰めた。そしてダクトテープで口の周りを強く塞ぐ。


「ごめんね、例外は無いんだ。"生徒会の"副会長だろう? 罠かもしれない」


「美麗ッ! ぐッ!」


勇気達が美麗を救出しようとするが、それも部員たちに阻まれた。


「炎治…!」


「なんだい愚かな副会長」


「…引き返してくれないか。これ以上他の人を巻き込んだら戻れなくなるぞ」


「何を言ってるんだ。結愛を巻き込んだ時点で僕はその責任を取らなければならない、もう戻れないんだよ。…皆、彼等も閉じ込めるんだ」


炎治の声と同時に、部員たちが勇気を縛り上げる。


「駄目だ炎治…! 行かないでくれ! 貴女がそれ以上進んでしまったら、俺は──」


言い終わらないうちに、勇気の視覚は暗く閉ざされた。口も堅く封じられ、やがて耳も。勇気の意識は暗闇に閉ざされた。


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


・・・・・


「──ちゃん…お義兄ちゃん! 待ってて! 今外すから!!」


勇気の目を塞いでいた布が取り払われる。勇気は眩しさに目を瞬かせた。


「痛いけどごめん、我慢して…!」


続いて、口を塞いでいたダクトテープが音を立てて剥がされた。勇気は咳き込んで、口に詰められた布を吐き出す。


「けほッ…ごほッ…!! …結愛、どうして……」


部室の中を見渡すと、部員の何人かが、美麗と梨乃を解放していた。


「…何が起きたんだ?」


困惑する勇気の元へ演劇部員の一人がやってくる。


「すみませんでしたッ!!」


それは雷鳴のような声であり、空間がびりびりと震えたようだった。


「…っ!? 凄い声量だな、流石演劇部」


声の主は青色の髪をした女子生徒だ。身長は170cm前半で炎治程ではないが高身長と言える。


「ありがとうございますッ!! …って、そうじゃありません! 副会長、炎治部長を止めてくれませんかッ!?」


「…! 貴女達は、炎治の行いに反対しているのか?」


「はいッ! 全員じゃありませんが…」


「分かった、それじゃあ──」


「──かはッ、けほッ!! なぁちょっと待て演劇部!」


勇気と同じく解放された美麗が口を挟む。


「そのお人好し副会長のお陰で全貌はまぁ解ったけど、整理したいから順を追って話してくれないか? …まず、あんたは誰? 二年だよな?」


「こ、これは失礼ッ!! 自分は2-B、美柳 焔(みやぎ ほむら)ですッ! 役職はありませんッ!!」


「…あー注文ばっかで悪いけど、もうちょっと声落としてくれる? 防音とはいえ、外に聞こえるぞ」


「…! それもそうですね。こんな話、炎治部長に聞かれちゃいけない」


「まず、その炎治部長の計画は?」


美柳 焔は少し躊躇った後、琥珀色の瞳に覚悟を宿して言葉を紡ぐ。


「……"会長の拉致"です。会長が権力を行使できないようにすれば、みんな自由に生きられる。つまりは会長を"人質"にして、生徒会を解体するつもりなんです。そしてその計画を、朝練と称して練っていました」


「あ、あの焔先輩! 朝練なのって…朝練には私が来ないからですか?」


結愛が、おずおずと尋ねた。


「…うん。結愛さんは副会長の家族さんだから、見られては不味いと……。でも、炎治部長もこんなことをするつもりはなかった筈です! だって結愛さんが来た時、部長は見たことない取り乱し方をしてました。部員の前で焦ったんです、あの完璧な人が」


「…焔は、彼女を説得できると思うか?」


「それは…正直なところ分かりません。決めたことはやり遂げる方です」


「そうか…。とにかく、このことを会長に伝えないと……──待て、俺が持ってた携帯電話は?」


「あ…ッ、そういえば炎治部長が持っています! 皆さんを監禁したとき、回収を…」


「不味いな…会長の番号なんて覚えてないぞ」


「ちっ…まずは軽音部に戻ろう副会長、鶴城なら──」


──ー♪ーッ!!ー


美麗の言葉を遮るように、携帯電話の通知音が鳴り響いた。焔が慌てて自分のそれを開くと、彼女の顔がみるみる青ざめていく。


「──炎治部長が帰ってきます…ッ! 皆さん隠れて…ッ!」


勇気達は頷いて、それぞれ監禁されていた箱の中に身を入れた。


ーガチャー


「……ふぅ、手こずったよ。だがいい準備運動になったかな」


炎治の声が聞こえる。


「あの、炎治部長。皆さんとどちらへ?」


「軽音部だよ。「みんなに話した」って美麗くんが言っていたからね、目に付いた人間を全員縛ってきた」


ーガタッ!!ー


美麗が入っている箱が音を立てて動く。


「そう取り乱すな美麗くん、下手に動くと手足を痛めるぞ。──…ん? おかしいな、聞こえているのか?」


(──不味い。俺達は耳も塞がれている筈なんだ!)


炎治の手がゆっくりと美麗の箱へ伸びる。が、もうすぐ触れるという所でそれは止まった。


「…あぁいや、君なら聞こえるんだろうな。運が良いのか悪いのか……。とにかく、あまり暴れない方が身のためだよ」


炎治は美麗の箱から離れ、部員の方へ向き直る。


「みんな聞いてくれ! ちょっと前倒しになるが、結愛を監禁した時点で計画は始まっている。天上美咲が既に生徒会室に居る事は確認した。僕たち実行班はこれから天上美咲他四名の拘束に向かうよ。みんなは計画通り、人払いと事後処理の準備を頼む」


「「…はいッ!!」」


「それじゃあ行くよッ!!」


掛け声とともに、炎治は演劇部室を後にする。焔たち反対派はそれを見届けると、慌てて勇気達を箱から出した。


「副会長…ッ!! 私達、どうすれば…!!」


「時間が無い…! 会長の元へ炎治を止めに行くぞ、不本意だけど、無理やりにでも止めるしかない!」


「っ、はいッ!!」


「副会長、梨乃! 私は軽音部の皆を助けてから行く!! すぐに合流するから!」


美麗はいち早く演劇部室を飛び出した。勇気達も反対派の演劇部を連れて炎治を追いかける。


「悪いな結愛、梨乃。こんなことになってしまって」


「ううんお義兄ちゃん、演劇部の問題なら私も関わらなきゃだよ!」


「私だって結愛ちゃんを助けに来たんです…! 問題が解決しないと"助ける"じゃありません! 最後まで手伝います!」


「ありがとう、無理はするなよ!」


「お義兄ちゃんこそ!」


生徒会室へはすぐに着いた、すでに炎治は中に居る筈だ。見張りも居ない様で、勇気は扉に手をかける。


「…行くぞ」


勇気は焔達と顔を合わせ、強く扉を開ける。


「炎治!!」


「──何ッ!?」


中に居た炎治は驚いて振り返る。生徒会の拘束は終わっておらず、中に居た天上美咲、木崎恵、新藤小百合は手足を縛られるのみであった。


「はあァッ!!」


まず動いたのは縛られていた筈の恵だった。隙を見て拘束を解いていたらしく、美咲の前に居た炎治に掌底を打つ。炎治は咄嗟に防御したが、押されて美咲の身柄を渡してしまう。それに呼応して、勇気達も小百合を救出した。


「小百合、痛むところは?」


「…大丈夫です、ありがとうございます、勇気先輩」


「フーッ…ありがとう副会長。良いタイミングだったわ」


「凄いな恵。今のは狙ってたのか?」


「生徒会執行部はこういうのが仕事だったの。今はもう無いけどね」


生徒会は集まって、炎治達に向き直る。


「……何故だ」


炎治は肩を震わせて拳を握り締める。


「…何故裏切ったんだ、焔」


そして、焔を睨んだ。それは怒りというよりも、混乱だった。


「私が生徒会に捕まった時、副会長が逃がしてくれたという話を覚えていますよね?」


「…ああ、覚えているよ。……焔。きみはそんなことで彼を信じてしまったのかい? あれは罠じゃないか。今の副会長を見てみろ、記憶喪失と言っている。「そんなことをした覚えはない」と、信頼した生徒を騙し討ちするつもりなんだ」


「……私は、副会長を信じます。炎治部長」


「そう、か……やはり生徒会、お前らが悪いんだ。焔まで誑かして支配しようとしている。生徒会が居なければ全て解決する。生徒会さえ、お前さえ居なければ…天上美咲…ッ!!」


炎治の視線は美咲に向いた。美咲は目を合わさず、伏し目がちに応える。


「もう、勝負は付いています。諦めなさい、炎治。…まだ引き返せるわ」


「諦める? お前の言うことを聞いて? ……在り得ない、それに。()()()()()()()()()()


「…どういうつもり?」


「耳を澄ませてみろ、美咲。何か聞こえないか? 廊下から」


「──ッ!」


静寂が訪れ、全員が耳を傾ける。それはすすり泣く少女の声で、誰の声かも分かった。


「…真白…ッ!」


「そうさ、こちらが本命だッ! 天上真白が生徒会室に居ない事なら知っていた! あの子はまだ子供、一人にさせるなんて姉として不用心だね美咲。副部長が彼女を連れてくる、彼女を助けたいなら自らの手で生徒会を終わらせろ!」


─ガチャ─


生徒会室の扉が開く。そこに立っていたのは炎治の言う通り、天上真白だ。


見たところ、誰かに拘束などされてはいないようだが。


「…は?」


「うっ、ぐすっ…ごめんなさいねえさま…。私……()()()()()()()()()()()()()()……」


真白が生徒会室に入ってきて、彼女が片手で何かを引きずっていたのが分かる。それは人だ。数は三人、一人は演劇部副部長の腕章を着けている。


「いやー、びっくりしたよ。お姫サマの安全を確保しに来たら三人床に転がしてるんだもん。これ力強いってレベルじゃなくない?」


真白の後ろから、飄々とした態度で宇宮鶴城と中藤美麗が姿を現した。


「副会長、軽音部は全員無事だ」


「そうか、ありがとう美麗。…炎治、もう止めてくれ。俺は貴女を──」


「黙れッ!!」


炎治は憎悪を放った。


「まだだ…! まだ終わってない!! 生徒会を終わらせるまで終われるか!! 天上美咲…ッ! お前だってヒトなら、これで全部片が付くッ!!」


炎治は絶叫を上げながら美咲に向かって走り出す。


その手には、懐から取り出した刃が握られていた。


「「会長ッ!!」」


勇気と恵が美咲の前に出る。


「退けえぇーッ!!」


───……─


一瞬、時が止まったと思えた。その場に居る全員が動きを止めた。目の前で起きたことを否定したかったからだ。だがこれは現実で、誰も無かったことには出来ない。


片平炎治に立ちふさがった美柳焔の左胸から、赤黒い液体が滴っている。


「──……嘘だ」


「……いいえ、嘘じゃ……ありません…、炎治部長……。…どうか……も……ぅ……」


焔は口からも赤色を流しながら、ごとりと倒れた。炎治の手に、染められた刃を残して。


「…………ぃ…だ。…お前らのせいだあァーッ!!!!」


炎治は刃を握り直し、美咲に標的を戻す。


「炎治ィッ!!!」


勇気は、それが自分の声なのか分からなかった。それほどぐちゃぐちゃで、虚しさを抱いた声だった。


彼は炎治の手首を握って刃を落とす。そのまま胸ぐらを掴んで、近くの壁に押し付けた。


「ッ!! ……うっ…ッ!?」


「これ以上はもう貴女を守ってやれない……ッ! 貴女を裁くのは生徒会じゃなく、法律になってしまったッ!! 俺が……俺が止められなかったから……ッ!!」


「…ッ、何を今更…!! お前らのせいだッ!! お前らのせいで焔が…ッ!! ッ、焔が死んだ!! 死んだんだ!! 殺してしまったッ!! お前らのせいでッ!!! 僕がッ!! 僕が…ッ!! お前らのせいで……ッ、僕が……焔を僕が…ぼくのせいで……」


炎治の眼から涙が流れ、体からは力が抜けていく。


「焔……ぼくがきみを…。……殺してしまったんだ。僕が守りたかったのはきみの夢だったのに……、きみの夢は…未来は……ぼくが……う、あぁ……あああ……」


炎治の泣き声は、突き刺さるように響いた。


「……副会長、私救急車と警察呼んでくるよ」


「ああ、頼んだ美麗。皆、急いで焔の応急処置を!」


美麗は携帯電話を持って生徒会室から出て、生徒会と演劇部は焔の応急処置に走り出す。


「……炎治、救急車が来る。焔はまだ死んでない」


「刺さったのは心臓だよ……? 生きてるわけない……。……なぁ副会長くん、そのナイフを取ってくれ。ぼくは焔に謝りに行かないと……」


「いいや、死んでない」


「……楽観的だなきみは。……焔の遺言だ、復讐は止めるよ。……"お前らが居なければ平和になる"なんて……僕は生徒会と同じことをしてた。…こんなこと言って、もう遅いだろうけど」


「遅くなんて無い。…きっとな」


──「寧ろ、速いくらいですよ」


「えっ?」


突然聞こえた声は幻聴かと思った。だがそうではないらしい、倒れていた筈の焔がゆっくりと起き上がる。


「…驚かせてすみません、皆さん。実はその……死んだふりで──え、わっ!?」


炎治が焔を抱きしめた。強く、強く、焔の体が隠れてしまう程に。


「焔…! 焔…ぁ!! 生きてる……生きててくれたんだ……あ…うぅ……」


「あ、あの…炎治部長……?」


「ごめん……ごめんね、ほむら。……ごめん…ごめんなさい……」


「……いいんです、炎治部長」


「ねぇ、これ、ナイフ。ぼくにさしてよほむら。ぼくをころしてくれ」


「え゛ッ、ちょ、ちょっと炎治部長ッ!? おッ、落ち着いてッ!! 落ち着いてくださいッ!! 副会長! ナイフの回収をッ!!」


「あ、ああ!」


「そんな……じゃあ、くびをしめてくれよほむら。きみをころしたぼくは、いきてちゃいけないんだ……」


「私は殺されてませんよ炎治部長ッ!? 生きてますッ、生きてますからッ!!」


・・・・・・・・・・・・・・・


「落ち着いたかー?」


暫くして、救急車と警察を呼んでいた筈の美麗が戻ってきた。


「ああ、何とかな。というか美麗、気付いてたな?」


「まぁね、心音と呼吸が安定してたからすぐ怪我すらしてないって気付いたよ。救急車も警察も呼んでないぜ」


「そうか……ありがとう美麗。本当に凄いな貴女は」


「っ、あぁ…、どーも。……けど、警察はどうする? 殺人未遂とか成立してんじゃねえの?」


「……そうだな、呼ばない訳にもいかない。刺してしまったのは事実だ。…心苦しいけど」


「あ、あのッ! そのことなんですが……」


「どうした焔?」


「なんとかその……"隠蔽"できませんか? 私は炎治部長を訴える気はありませんし……」


「狙われたのは会長だ。明確に殺意もあった」


「……そう、ですよね。…すみません」


──「私は構いませんよ、副会長」


勇気と焔のやり取りに美咲が口を挟んだ。


「罪は私にあります、そのせいで今を失ってほしくはありません。"天上の力で奪ってしまった未来は、天上の力で返せばいい"……副会長からの言葉です。よって片平炎治の罪は、不問とします。良いですね?」


「…分かった。会長と副会長の意向なら従うよ」


「──……なるほどね」


焔の膝を涙で濡らしていた炎治が首をもたげる。


「美咲は今、副会長の操り人形なのか」


「炎治、言い方を考えなさいよね」


「きみは相変わらず親衛隊長なんだな恵…。だが似たようなものだろう、自分の価値観を変えた人間に依存してるだけで盲信しているのは変わっていない」


「……否定できないわ。では、私を動かしている副会長は信用してくれるかしら」


「僕は負けたんだ、それしかない。別に不満はないけどね。…美麗くんもこんな気持ちだったのかい?」


「まぁ、私も今の生徒会長までは信じてねえっすよ。私が信じてるのは副会長だけです」


「そうか…。じゃあ僕は、副会長を信じる美咲を信じようかな」


「はっ!? 本気で言ってんですか!?」


「本気さ。美麗くんは知らないかもね、三年の殆どは美咲が好きだったんだ。…好きだったからこそ憎かったんだよ。あの頃の美咲が戻ってくるなら、僕はそれを信じてみたい」


炎治は立ち上がり、姿勢を正して美咲へ向き直る。


「……すまなかった、美咲」


そして、深く頭を下げた。


「…結愛も、本当にごめん。軽音部もだ」


「軽音部には直接謝ってくださいよ、茜姉さんに」


「……そうだね。演劇部、全員でお詫びしに行こう。外の皆にも連絡して」


「「はいッ!!」」


演劇部と結愛、そして美麗と梨乃は続々と生徒会室を後にする。生徒会室は、ひと時の安らぎを取り戻した。


「……これで何とか解決?」


「そうだな鶴城。お疲れ様」


「私は何もやってないけどね。結局自浄して終わったんじゃん演劇部」


「……因みにだが鶴城、前に言ってた"生徒会の目に触れずにあんなことやこんなことをする方法"。今回も使われてたのか」


「だろうね。あぁ、説教はやめてよ、折角エンディングっぽいのに台無しになる」


「……分かったよ。言っとくけど今は朝だからな、やり遂げたと思って帰るなよ」


「はいはーい」


始業を告げる鐘が鳴る。今日の朝は、何事も起きなかった。




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