Episode -001【The beginning of the story】
これは一つの鞄にまつわる、過去の物語であるーー
「ここは一体、何処なんだ?」
辺りを気にする男がそこには居た。
"そこ" と言ったが、男が立っている所は辺り一面に田園風景が広がっていた。
「一体、何がどうなってるんだ? 俺は確か、新しく発売されるゲームのβ版を始めたはずだぞ」
俺の名前は清川春彦。俺は何日か前に募集された、オンラインゲームのβテストのユーザーに応募した。そしてそれが見事当選された俺は、日曜である今日の朝からそのゲームをしようと思い。ゲームを始めたんだが、気が付けば見た事も無いような場所に来ていた。
「それにしても、今着ている服を見る限りじゃあ。ここはゲームの中って考えた方が良いのかな?」
自分の着ている服を見る春彦。春彦の目に映った服は、着慣れた部屋着では無く。着た事は無いが、目にはした事のある物であった。目にしたと言っても、その全てが画面越しでしかなかったが。
「そうなると、今の俺はベクターになるのか……? というか、普通にありえないだろ。この状況。」
しばらく俯いたまま動かないでいるベクター。そんなベクターは今の自分の状況に対して色々と考えていた。しかし、いくら考えても良い案は浮かんではこなかった。
「仕方ない。とりあえず、人が住んでいそうな所でも探すか」
そして見慣れない場所を歩き始めるベクター。そのベクターを見守るように、太陽の光がベクターを暖かく包んでいた。
しばらく街道を歩いてると、ベクターの進んでいる先に立ち往生をしている馬車があった。
「ほれっ! 頑張れ!」
馬車に乗っているお爺さんが、馬に向かって言葉を掛かる。
「爺さん、大丈夫か?」
馬車に目をやると、窪みに車輪が嵌り動けないでいた。
「見ての通りじゃ。この馬もわしと同じで年寄りなんでの、困ったものじゃ」
「それなら、俺が後ろから押してやるよ」
「そうか。すまんのぉ」
そして馬車の後ろに回るベクター。それを見てお爺さんは手綱を取り、馬に合図を出した。お爺さんの合図を聞いて、動き出す馬。馬が前に進もうとすると、車輪が窪みを駆け上がろうとするが。それは僅かに過ぎなかった。そこにベクターが後ろから馬車を押す、すると車輪は窪みを力強く駆け上がって行った。窪みから脱出出来、馬が数歩歩いてから立ち止まった。
「おお、ありがとう。お陰で先に進む事が出来る」
窪みから出る事が出来、喜ぶお爺さん。
「ところで、お前さんはモンスタースレイヤーなのかい?」
言葉として聞くのは初めての言葉だったが、ベクターはその "モンスタースレイヤー" を知っていた。
(確か、この世界においてのプレイヤーが操作するキャラクターの事だったよな。……って、ことは。つまり今は俺自身の事か)
「そうだな」
ベクターの返事を聞いて、お爺さんは笑顔になった。
「やっぱり。生まれて初めて、目にする事が出来たわ」
お爺さんの言葉を聞いて、少し驚くベクター。
「生まれて初めて!? そんなにモンスタースレイヤーってのは、珍しい者なのか?」
「当たり前じゃ。一度も出会えずに一生を終わる者が、殆どじゃわい」
(どういう事だ? それって、何か変だよな……)
「それで、お前さん。街か村を目指して旅をしているのかい?」
「そうなんだよ。爺さん、近くに街か村はあるか?」
すると、また笑顔になるお爺さん。
「ちょうど良い。わしは今、バックウォーターに向かっているところなんじゃ」
「バックウォーター?」
「この先を行った所にある街の事じゃ」
そう言って、街道の先を指差すお爺さん。
「助けて貰ったお礼じゃ。そこまでお主を連れて行ってやろう」
「本当か? ありがとう、爺さん」
そして馬車に乗り込むベクター。馬車の中には沢山の野菜や果物が入ったカゴが置かれていた。〈バックウォーター〉に向かう道中、ベクターはお爺さんと色々な話をした。お爺さんの名前はグフタスという事やバックウォーターから少し離れた所にある村にお婆さんと二人で暮らしている事、一人息子が念願の王都梯団の兵士になれた事など様々な事を。そして、その道中にベクターはメニュー画面を表示させたり出来る事も分かった。
「それで、タス爺はバックウォーターにこの作物を売りに行くのか?」
「そうじゃ。お前さんは怪物退治に行く途中なのかい?」
(クエストの事かな?)
「そんなんじゃないよ」
「そうなのかぁ……」
残念そうにする、お爺さん。
「タス爺の期待に添えなくて、悪かったな」
そう言って、笑うベクター。
「いや、良いんじゃよ。不謹慎な事じゃが、村には娯楽が少なくての。お前さんの怪物退治の話の一つでも聞きたかったんじゃが」
そう言ってベクターを見る、お爺さん。
「俺がモンスタースレイヤーになったばかりで、悪かったな」
そして、また笑うベクター。
ベクターはお爺さんに、"モンスタースレイヤーになったばかり" という事にしていた。
「モンスタースレイヤーの事は謎ばかりじゃが。お前さんのような歳で、モンスタースレイヤーになったばかりという事は生まれ持った身分や力などではないのかのぉ? わしのような老ぼれでも、今から頑張れば……」
「タス爺、変な事考えんなよ。タス爺は、村でお婆さんと仲良く暮らしておきな」
「そうじゃの。婆さんを一人にはさせられんしの」
お爺さんを見て、微笑むベクター。
「ところでタス爺はどうして、俺がモンスタースレイヤーって分かったんだ?」
ベクターの言葉を聞いて、不思議がるお爺さん。
「何を言うておる。ほれ、お前さんが腰に提げとるメダルで分かったに決まっておろうが。」
そう言われて自分の腰を見るベクター。そこにはバッグなどを提げるために着けているベルトに、何かの紋様が施されたメダルが鎖に繋がれベルトに提げられていた。
(この紋様がはいったメダルが、モンスタースレイヤーの証って事なのか)
「わしが小さい頃に聞いたおとぎ話と、そっくりそのままじゃったので。びっくりしたわい」
「なるほどねぇ」
「お、話をしとる間に着いたみたいじゃな」
そう言って、ベクターに先を見るように促すお爺さん。お爺さんに促され、ベクターが馬車が進む先を見ると。そこには大きな街が建っていた。
「あれが、バックウォーターじゃ」
「あれが……」
生まれて初めて見る、街並みの景色に圧倒されるベクター。
(すげぇな! これがワンダー・クロニクルの世界なのか)




