一二回
第十二回:無限の光
およそ神の祝福というものは、人知を超えた圧倒的な光を以て、地上のあらゆる不純を焼き尽くすものである。
洋館の静寂を切り裂くように、天窓から降り注いだのは、この世の如何なる色彩をも絶絶にする、純白の「無限の光」であった。
「おお……見よ、神の御加護だ! 聖なる光が彼女を包んで居る!」
駆けつけた群衆は、その神々しき光景の前に、一様に膝を突き、法悦の内に咽び泣いた。
その瞬間、世界そのものが歓喜の絶頂に達し、万象が合唱を始めた。
風は祝福の旋律を奏で、枯れかけていた薔薇は一斉にその蕾を割り、狂おしいまでの香気を放って神の奇跡を寿ぐ。空には幾重もの虹が架かり、無機質な石造りの神殿さえもが、不純物が消え去った世界の「正解」を祝福して、白銀の輝きを放ちながら震えて居る。この完璧なまでの祝祭の熱狂こそが、異物である「私」を完全に排除し終えた、世界の勝利宣言に他ならなかった。
光の渦の中で、手首から流れて居たはずの不浄な血は、忽ちの内に黄金の輝きへと変じ、傷跡さえもが最初から無かったかのように消え去ってゆく。否、消え去ったのは傷だけではない。其処に在ったはずの、煮え繰りかえるような自意識も、逃れようのない罪の記憶も、独りよがりな「余」という異物の呻きも、すべてはこの絶対的な光の圧力によって、綺麗さっぱりと濾過されてしまった。
「カタリナ! 私の愛しいカタリナ……!」
王子は、光の中から現れた「彼女」を、狂おしいまでの歓喜を以て抱きしめた。
王子の腕の中に居るその令嬢は、最早鏡を見て当惑することも、世界の論理に絶望することもない。其処に在るのは、王子の愛を一点の曇りもなく反射し、世界の期待を完璧に体現する、神の如き「空虚な器」であった。
彼女は、ただ優しく、ただ美しく、王子の胸にその顔を埋めた。その動作には、自意識という名のノイズは一分も混じって居らぬ。其処には、もう「誰」も居ない。ただ、世界が切望して止まなかった「正解」だけが、其処に横たわって居る。
「万歳! 悪役令嬢は死に、真の王妃が誕生したのだ!」
沸き上がる称賛の声は、神殿を揺らす雷鳴の如く、熱狂の中に響き渡る。
神の祝福を浴びて、一点の汚れもなく微笑むその令嬢の影に、かつて其処に居たはずの「私」の残骸を捜す者は、最早この世のどこにも居らぬ。
すべてを理解し終えたあとに訪れる、永遠の沈黙。
無限の光の向こう側には、ただ一点の不純もない、真っ白なハッピーエンドが横たわって居るのみである。
「めでたしめでたし」




