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Binder,disaster,Two side MASTER

宝具の開帳にあたって、まず提示すべきは、使用者の誠実である。


古今東西、万物流転しようとも。要求されるものは変わらない。力に頼る者は、力を与える相手に誠意と真心を以て、伏して乞う謙虚な姿勢が大事だった。


だが、忘れてはいけない。力を懇願する者は――弱者ではいけない。身分、社会的地位など呼び方は色々あるけれど、信頼に釣り合うだけの力を前もって保持しなくては、自分には過ぎた力を相手は投資してはくれない。


生死を分ける逆転を望むならなおさらで。

今の『吸血鬼殺し』は、この絶望を挽回するだけの余力は、残ってはいなかった。


「拘束を解除するには、存在定義が八五三年不足しています。今の状態で宝具を発動することはできません」


十字架(サーヴアント)』が主に事実を突き付けた。このままでは自分の命も危ういというのに、事務的に。


『十字架』にも、こればかりはどうしようもできなかった。宝具発動の条件は‶契約〟により前もって厳格に定められおり、神でさえ反故することは不可能であった。


「そうか。でも、悪いな――(オレサマ)は、お前を殺して力を得ると決めたのでね」


口座から金が引き出せないのなら、ATMをぶち壊せばいい。協力を渋るなら――()()()()()()言う事を聞かせれば問題は解決する。


『吸血鬼殺し』は嗤う。美しい少年の顔を、腹を空かせた肉食動物のように歪ませて。


誠意で腹が膨れるか、謙虚さがあれば襲い掛かる脅威を退けられるのか。


答えは、(いな)だ。高尚な言葉で目を反らせ、聖人の高説に手を合わせながら喉笛を咬み砕かれろ、生存本能を放棄し進化したと思い込んでいる万物の霊長様よ。


正義? 誠実? ――全く、あくびが出る。


生き残るのは、いつだって、暴力だ。暴力こそが世界を動かし、暴力こそが命を繋ぎ、暴力だけが、守りたい者を守れる。


「さあ――狩りの時間だ」


『吸血鬼殺し』の舌の上で輝く、吸血鬼の眼。


橘千代紙(たちばなちよがみ)が獲得した魔眼は、五上涙子(ごじようるいこ)の命を奪うほどの価値はなかった。先刻千代紙に言った通り、それは事実である。


だが、これで、失っていた力が幾分かは取り戻せた。たとえ劣化版であろうとも、地球上に二番目に産み落とされた〈始祖〉が世界を捉えた眼。

いざという時に備え、携帯食に人狼の懐から()()()()しておいて、本当によかった。


『吸血鬼殺し』が魔眼を喰らえば、舌先に濃厚な血の味が広がる。世界最大の湖であるカスピ海でも収まり切らない血液量を濃縮した命が口に(とろ)け、ヒビの隙間から尚も溢れ出す。


千年分も溜め込んできた命の質量。半端な咀嚼では歯は砕け散り、もたれた胃が肛門から飛び出てきそうだった。


が。『第二の始祖』の血を受けると、縫合された歯茎から組織が瞬きの隙に再生、今後は飴を咬むように口腔内の破片は楽々と砕けするりと喉を通った。


〈始祖〉は、細胞の一片まで自我を持ち、考え、思考を巡らす。取り込めば剃刀の如き鋭さで抵抗し臓器を食い破ろうとする。


『吸血鬼殺し』の胃はその抵抗に耐えられるよう、最初の捕食――まだ人だった時に進化した。‶死を殺すモノ〟の胃液は、死さえも溶かし、栄養にしてしまう。


少年の肩の先から生えた骨組織が腕の形を取った。乳白色の骨格は細工物のように美しく、棘々しい先端は、対向する敵を乱雑に引き裂ける。


縫い糸のように結び付く神経、毛細血管。これで血も流せるし、痛みも感じられた。だが腕を動かせるだけの筋肉、皮膚は、魔眼の複製では完全に再生できなかった。仕方がないので――と形だけでも繕えた腕を見つめた。


体組織の更新に取っておいた魔眼の存在価値を、物体操作に回した。これで一応、手は『吸血鬼殺し』の思い通りに動かせた。


硬い音が擦り合う骨鳴りの音を耳で覚えた『吸血鬼殺し』は、深い溜め息をついた。


なんという、お粗末。不完全――そんな評価もつけようのない不細工さ。


魔眼を具現していた存在価値は、高く見積もっても〈支族(けんぞく)〉三匹分しかなかった。

あの五上涙子に傷を付けるには――最低でも()()()()()()必要なのに。


こんな木端では、‶最後の吸血鬼(あのガキ)〟の足許にも及ばない。


これまで魔眼を喰らえなかったのは、()()()()()()()()()()()――総数の二倍の妖力を溜めこんであり、喰えば逆に肉体を乗っ取られるからだった。


両目を移植し、なお自我を保てているあの母親が異常で異質なのは、これが理由だった。

だから、と期待した『吸血鬼殺し』だったのだが。


九月から人並みにまで低下した運動能力から力は戻ったが、今だ満身創痍だった。こんな有様では、人喰い鬼に、全身包帯で挑むような無謀さだった。


「――‶()()()〟、か。全く、これではどちらが狩る狐か狩られる兎かわからんな」


全身包帯の女を前に、苦笑して、虚勢を張ってみせた。〈(オニ)〉と相対した時のように――いつも通り。


「‶誓い〟を思い出せ。言ってみろ――‶(オレサマ)はなんだ――〟」


復唱を、要求した。


『……‶『吸血鬼殺し』、この世全ての死を暴食する忌まわしき人類の救世主〟』

「言ってみろ――‶貴様はなんだ――〟」


記憶を、呼び起こした。


『‶『吸血鬼殺しの十字架(サーヴアント)』、救世主の咎となり、救いを約束されしモノ〟』

「言ってみろ――‶我らはなんだ――〟!?」


魂を。

そこに、ないはずの魂を――少年は、取り戻したかった。


『‶血よりも濃い(かせ)で互いを縛り、縛られる者

              ――私は――死んでもあなたのことを忘れない〟』


固い(のろ)いの言葉を無表情に告げられた。


()()()()()()()()()


「……やるぞ」

『存在定義が不足しています。拘束を解除することは――』


ああ、もう――煩わしかった。鬱陶しかった。敵の異界に呑み喰われ脱出も不可能。いつ溶解されるかは、あの母親の機嫌次第。無酸素状態で考えもまとまらなくなってきた。


()()()()()()()()()()()()()。諦めないと。


「この俺が期待に応えてやったんだ! 今度は、そっちが胸を開け!」


二つ並んだ『十字架(サーヴアント)』の乳肉の間に指を突き、胸骨を引き()り出した。


痛み――なのか。背中を反らした金髪の女(オニもどき)は主人の凶行に反応する。もがこうとする阿鼻叫喚の光景は、芋虫に針を突き立てたように。


空虚な異界が、『十字架』の血で満たされた。


「月を鮮血で飾り、星の光を血油で鈍らせるが私の喜び、私の安らぎ。さあ、殺し殺されよう、喰い喰らわれよう。お陽様が怪物(おれたち)を灰にするその瞬間(とき)まで、鶏が悲鳴をかくまで! ――時よ廻れ、オ()は、かくも見苦しい!!」


朱に交われば、赤くなる。


叛逆の機会を得、()()()()()()()()()()と、彼を閉じ込めた〈始祖〉の結界。相容れない敵対同士だった両者を『十字架』の血が一つに包み込んだのだった。


『――拘束の強制解除を確認しました、……こ、ここ……拘束の強制解除を確ニン、しマ、シマしま……た………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………封印体の死亡を承認しました。宝具を開帳します』


約束は果たされ、敵を殺す時間がやってきた。


+++


プログラム。刹那の間、そんな言葉が脈拍もなく湧いて消えた。


まるで何者かの意図が外部から働いたように身体が反射して、何故か違和感も抱かない。脳から脊髄を通じ筋肉にコードがあらかじめ仕組まれていたのか、と。首を捻った頃には全てが終了していた。


‶論理的な行動〟と生物に挙げられるのは、一番は本能なのだが。食欲から始まる三大欲求、排泄と――条件反射。ボールが飛んでくれば目を伏せようとするのも、生きている、生きようとする立派な証拠だった。

一番に挙げられる代表が‶三大〟欲求なんて、三つもいっぺんにあるのも滑稽な話なのだった。

――長い、前口上だった。


これは、前もって予知したの……?


灯真(とうま)を突き飛ばした涙子(るいこ)が思った。


肩からまっすぐ伸びた母の手を認めるほどの動体視力を、息子は持ち合わせてはいない。恐ろしい敵に奮戦し、()()()()()()した喜びを噛み締めていたら、庇うように突き飛ばした――青ざめた母の心意も。


それは、息子を傷付けようとした母にも不思議だった。


(カビ)に色付いた畳に()りむいた両手を突いた灯真が、涙子を問いつめようとした。別に攻めるとか、そんなつもりはなかった。母のしたことだ、怪我は不可抗力だと判っていた――なのに、見たら。


掌で両の眼を塞ぎ、背中を丸めた涙子が銀の光を纏っていた。


どういうわけか、涙子が苦しんでいる。そうだと判った途端、座敷に身体が張り付いて膠着状態に陥った。


涙子は涙子で――指の隙間から見える、怯える息子の姿が霞んでいった。


怪我を負わせてしまった。擦り傷から出た血の匂いがここまで匂ってきた。怖がって動けない息子に謝りたいのに、視界が、どんどん、どんどん、紅く閉ざされていった。


揺れる灯真の目を、一雫の紅が染めた。


倒れるように腰を反らせた涙子、見開かれた瞳から噴いた血が濁流となって屋敷を内側から沈めていった。


中庭に押し流された障子、箪笥その他家具類が塀に当たる音は、さながら流れに成す術なく揉まれる小石のよう。


視界を奪われた激痛は彼女の意識を全て悲鳴へと変え――しかし肺臓からも奔流は上がってきて、どす黒い血に声帯は占められた。


心臓のあたりにまで母の血に沈んだ灯真の海馬に、一連の情景が焼き付く。絵空事のように美しく、詩的で――暴力に理が翻弄されるような静寂。


噴火する血の海を瞳の上で血の海を受け止める涙子――。

地上に足跡を遺し、後に磔刑に処された救世主の血を受けた『杯』のようだった。


その最奥から姿を見せる、一人の少年と、一人の女。金髪の女の身体は湧いてくる血に支えられている。皮も肉も削ぎ落された両手で――少年が女の胸を抉った。


開花する花弁の如く胸骨から血潮を撒き散らす一部始終は、神聖な儀式の真っ最中の具現。一切の干渉も聖なる御前が断ず。


十字架(サーヴアント)』の胸から取り出したるは、紅く煌めく心の臓。およそ二五〇グラム。成人した男性と同じ重量。血管は『十字架』と繋がっているものの、鼓動の停止した心は――彼女()()()()()ない()


果てしなく続いた彷徨と当て度のない放浪の果て。


『吸血鬼殺し』は、心臓を、握り潰したのだった。


力を加えただけで簡単に潰れた。果物を搾る時の方がまだ握力がいる。


それが――この心臓の持ち主だった‶彼〟の存在の重さ。壊そうと思えばいつでも壊せた。

‶彼〟は元々、壊されるため『吸血鬼殺し』に己の心を預けたのだから。


だというのにあの面倒な手続きは、肉体を失っても生きたいと生に対して心残りがあったのかどうか、少年に今となっては確かめる術はない。


どちらにしても――と『吸血鬼殺し』から鼻息が洩れる。


最期まで天邪鬼な吸血鬼(ひと)だった。とっくに死んでいると自分から言っておいて、身も(こころ)も自分から放棄して、……‶()()()()〟なんて。


五条灯真は、少年が流した涙で、鮮血が(かす)かに薄まるのを見た。


「――――」


両手を天に掲げ、心臓の血が(くま)なく行き渡るようにした。月明かりの銀色を喰らった血はオーラを放ち、目にする者に威嚇する。


死よ、避けられない絶対の絶望よ。

恐れよ、慄け、(むせ)びながらその時を待て。


希望が、貴様を(むさぼ)る時間が来た。


無力な少年に浴びた血が、彼に授けたのは、運命を捻じ曲げる力。


血が、空間に模様を彫る。少年が背に背負う不揃いな天使の羽根が――時計の(しん)として刻むのは、彼が地に叩き()とされるまでの猶予。


(これ)より――聖戦の幕開けである。神が与えしは()()()()と憐れなほど短けれど、世界は、少年に必殺逆転の力を許した。


一拍。そして、宝具の開帳を、宣言する。歴史に残らない戦いの、その当事者も知らないひとりのある〈(おとこ)〉の犠牲。


残酷で理不尽で正しい世界に拳を一発見舞えと笑った、ふざけた恩師と同じ名を冠す、少年に宿った。その力の名は――。


「――【魔剣・第七の始祖(ツーサイドマスター)】――!!!!」


+++


上体を起こそうとした涙子の眼を、五本の凶刃が撫でた。音もなく吹いた風が怪物の涙を涙腺ごと攫った。


「いたいッ! いたいッ! いたいッ――!!」


断末魔の悲鳴を上げた涙子が落ちた先の血溜まりでもがく。


十字架(サーヴアント)』を抱えて顔面を蹴って涙子を倒した『吸血鬼殺し』が天井で勢いを加速させ、刃をさらに五本増やして肉薄する。


邪魔なので『十字架』は橘千代紙の側に捨てた。


鼻から上を抉られた涙子は、漆黒に潰された視界で忌々しげに感嘆する。


どうやら、あの手で攻撃されると再生できないらしい。


――手負いの獣は、追いつめた直前が、いちばんあぶないのですよ。


すすり泣く声に忠告され――左に避けた涙子を『吸血鬼殺し』の猛攻が追随した。


紅い雷光が畳を八つに裂く。嗅覚と触覚だけを頼りに壁へ天井へ、洞窟を蝙蝠(コウモリ)が這うように三次元に躱す〈魅人(グール)〉を膨大な熱量を込めた脚力でぴったりと張り付き『吸血鬼殺し』は逃がさない。


――ここで手を、はなすの。


命令されるより先に、手は天井から離れ涙子は畳に叩き付けられた。


涙子のいた場まで先んじ、まんまと誘い込まれた『吸血鬼殺し』を、涙子は――一目(ひとめ)‶視る〟だけでいい。


眉間から開眼した三つ目の魔眼が具象した花の花粉に『吸血鬼殺し』は取り憑かれ動きを封じられた。


昏倒しながらも苦悶の表情で暴れる『吸血鬼殺し』に、勝ちを実感した涙子は目を細めた。


だが。少年の背負う刻限は、まだ半分を周ったばかり。神も仏も欺いて、隠し続けていた反則を必要な手間も省略し――勝つと大法螺(おおボラ)を吹いておいて、これだけの罰では済まなかった。


――うそ、でしょ。

「うそ……!」


涙子の体内で、幻聴と肉声が喘ぐ声がぴたりと重なった。


手足を鈍らせた呪詛を『吸血鬼殺し』は強引に引き剝がした。死を両断する呪いの(つるぎ)へ昇華した両腕は気迫にすら呪力を与え、一度の気迫で野花がしおれた。


身を翻し落ちる少年に閃光が瞬く。魔眼からの直接攻撃は、受け流せたとしても腕は今度こそ再起不能になる。


激情に駆られた獣は、五上涙子全てを喰らう。一撃で命を回帰させる死の光も。


獲物を押さえ込む手足からの感触に、ザマアミロ! ――と『吸血鬼殺し』は驚く涙子の顔に咆哮を浴びせた。


光と熱を受け唇と舌は灰になって消えたが、牙は――。


掛かる体重に暴れる涙子の頭を、〈始祖〉の力で、渾身の力で握り潰し衝撃で飛び出た目玉を、額ごと、顎力で千切り取った。


悲鳴が響くより速く、獲物の顔を剥いでいった。


――ここまでで、一二〇秒(千文字)


背中の針が消え力が減衰する。人の形を取る泥のような感触に関節という間接が垂れ下がった。


〈始祖〉の心臓を使っても――『吸血鬼殺し』は五上涙子を、殺し切れなかった。


胸の重荷を退けて向かうのは、息子の許。


「‶とうま、ちゃん、だいじょうぶ? て、けが、してる〟」


節のない呻き声が、そう聞こえた気が、灯真にはした。


冷たい手で傷口を擦る涙子(るいこ)は『吸血鬼殺し』に()()()()()()()()、どんな表情をしているのか接している息子にも判別できない状況だった。


「母さん、僕……」

「‶すぐに、なおしてあげる。ずっと、ずっと、いっしょ〟」


『吸血鬼殺し』は倒れ、自分達を傷付けようとする怪物はもういなくなった。顔を取られてしまったが、()()()()()()()()()()()()()


だが、これだと灯真を怖がらせてしまう。


早く、治さないと。


(――元気に、ならなくちゃ)




「……灯真ちゃん!?」


立ち眩みがしたと思ったら――顔が元に戻っていた。視界もはっきりするし感覚もちゃんとある。


腹も、膨れていた。


「はあ、よかったぁ。灯真ちゃん、今度は灯真ちゃんの傷も手当てしなくちゃ」


ところが、どこを見ても灯真の姿が見当たらない。『吸血鬼殺し』と『十字架(サーヴアント)』、千代紙の死体が転がってる()()()


「まさか、ボクを置いていっちゃった!?」


突き飛ばした息子に嫌われたショックで今度こそ気絶しそうになった涙子に。


「……かあ……さん……」

「灯真ちゃん!? そんなところで、なにを――」


灯真は、涙子に覆い被されるような恰好で、仰向けに倒れていた。


「……灯真、ちゃん?」

「――――い、た……い」


そう――血を吐きながら言う灯真の腹からは、(はらわた)と思われる食い荒らされた臓器が零れていた。


癒えた涙子の唇を伝うぬるりと温かい感覚。


人の血だった。


食物連鎖で上位に位置する『吸血鬼殺し』は本能が受け付けず、元・吸血鬼である『十字架(サーヴアント)』では共喰いにあたり、これも駄目。人狼の肉では毒となり、吐き出した血と同じく喰えない。


五上涙子が摂取できる栄養素は、ここには――一人(ひとつ)しかなかった。


灯真がいなければ、涙子は確実に死に『吸血鬼殺し』の勝利だった。


だが、灯真がいたことで涙子は生かされ、物語は、この先も継続する。夜はさらに深まり、一部はこうして幕を閉じる。


幕引きを飾るのは。

魔眼に意識を喰い尽くされた、母という一匹の獣の、満腹に悦ぶ慟哭(かんき)だった。


「……灯真ちゃん、灯真ちゃん……とうまちゃん、や、いや……ぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

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