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十八話 隊員たちとの邂逅

「絶対こうなると思ったわ! ああもう! あたしは納得してないのに!」

「まーまーメアちゃん! そんな荒れないの~」


 肩身を狭くしたまま座らされたL字のソファの屈折部分にいるミタツから一番離れたところで、メアリーは怒りながらジュースをあおっていた。どうやら未成年らしい。


 その隣では紅色の髪を腰まで垂らした女性が、豊かな胸の上で手にもつワインの入ったグラスを波立たせる。その耳は尖っているのをじっとミタツは見つめた。


 ミタツの視線に気がついたのか、妖艶な女性はミタツの方に身を寄せる。そして今度は女性がミタツをじっと見つめた。ミタツは思わず顔を背ける。その反応にくすりと笑う。


「へ~。可愛い子じゃない。うちの部隊はみんなむさ苦しくて嫌になってたところなのよ。嬉しいわ~」

「……ジーナもおばさんなくせに」

「あらココロなんか言った~?」

「別に」


 ジーナと呼ばれた女性は、黒い前髪で目の隠れたボブの小柄な少女、ココロに殺意の視線を向けた。だがココロはそれを意にも介さず麦茶をよそりに席を立つ。


 ジーナは殺意を込めた視線をココロが台所の角を曲がるまで投げつけて、それからミタツに訊く。


「それで、お姉さんの何をそんなに見てたのかしら?」

「あ、いや、耳を……」


 モジモジと不思議な緊張感にかられながら言うと、ジーナは自分の耳を触る。


「……ああ、そうよね。『異界人区画』じゃ、別種族なんて見ないものね。折角のファンタジー要素なのに、今更なのね」

「そうなんですよね」


 ミタツたち異界人は、転移させられた直後からすぐに異界人が生活をするフロアに分けられる。


 元来、このビルに住むのはそれなりの重役ばかりである。階の移動もテレポートという便利なものになっているため、異界人は滅多に別種族に合わない。外出の時はまた別であるが。


 ジーナは蠱惑的な笑みを浮かべ、それこらミタツの耳に口を近づけ、


「それと、あんなこと言ったらダメよ♪」


 と言い残してグラスを手にフェリの元へ行く。ミタツはその言葉に改めて身を強ばらせる。自分の禁句リストを新たに作らなければならない。


 冷や汗をかくミタツに歩み寄る一人の影。


「ちーっす! ミタツくん。居心地はどうっすか?」

「あ、そ、そんなにかな」

「そうっすよね! ま、段々慣れてくといいっすよ」


 会話に感嘆符のたくさん付きそうな明るい性格に反して落ち着いたブルーの髪の好青年がミタツに話しかける。ミタツは訊く。


「えっと、名前は……」

「あ、俺っすか? 俺はボーライトって言うっす! みんなからはボーって呼ばれてるっす! ミタツくんにもそう呼んで欲しいっす!」


 爽やかな笑みでボーはミタツに手を差し出す。ミタツも緊張が幾分かほどけ、なめらかな動きでボーの手をとった。ボーは嬉しそうに笑う。


 さらにそのボーの後ろからぬっと顔を出したのは、肩に銃器がつきそうなほどの筋骨隆々な大男。肌は黒人以上の真っ黒だ。


 ミタツは表情が固まるのを感じた。大男がミタツの瞳をじっと覗きこんで……。


「……よろ」

「うおっ、パルプ、いつの間にいたっすか?! あと、さっきは「宴だー!」って言ったのになんでそんなに静かなんすか?!」


 わずかに聞き取れる声量でそう言って、驚くボーを気にせずにすぐに台所に置いてある料理を取りに行った。この人だったのかと驚くミタツは久しぶりにテーブルの上に食べ物があることを思い出す。


 ミタツは緊張感を再び和らげるためにフライドポテトに手を伸ばした。すると、ミタツの手のとなりに手が並んでフライドポテトを取った。


 ミタツはその手の主を見る。そこにいたのは、真っ白なスーツと赤いネクタイをしたイケメン。


「どうも、ミタツくん。フェリが迷惑をかけたようだね。私はこの部隊の隊長をしているものだ」

「隊長さん、ですか」

「そうだ。本名は無いから、タイチョウと呼んで欲しい」


 思わず敬語になるミタツは、ポテトを手に持ったまま固まる。タイチョウが視線でその存在を暗示すると、ミタツは我に返ってそのポテトを口に運んだ。


 ミタツがポテトを飲み込むのを待ってから、タイチョウはミタツに訊く。


「ここに連れてこられたと言うことは、フェリの手伝いを一度はしたのだろう? どうだ。殺しというのは」

「儚い……ですね。同じ世界を出たはずの人間が、目の前で殺されるところを見るというのはなかなかに辛かったです」

「そうか……。それも、異界人の中でも同じ世界の者となると、辛いだろうな」


 その言い方疑問を覚えて、ミタツはきょとんとして尋ねる。


「異界人の中でも、同じ世界って……異界人って地球人のことじゃないんですか?」


 これはミタツの中での、いや、この国での一般常識だ。この国には異界人は地球出身の者しかいない。だから、ミタツはまるでその他の世界の者がいるかのような言い方がおかしく感じる。


 タイチョウはふむとうなずいて説明をする。


「ああ、いるとも。この国では“コスト”の関係上、地球の者を呼ぶが、帝国は非人道的だからな。中には“エルフ”や“ドワーフ”もいるぞ」


 まさか、とミタツは驚愕する。本当のファンタジーではないか。もしかしたら、あの獣人も他国の者なのだろうか。


 にわかには信じられない事実に、ミタツは素直に飲み込めないでいる。


「私たちが帝国を相手にする限り、いずれどこかで戦うことになるだろう。その時に確かめればいい。そしてぜひ、私たちにミタツくんの力を貸して欲しい。不死の君は貴重な、下手をすれば『重力操作(グラビティマスター)』や『無限魔力(インフィニティ)』に対抗できるほどの戦力になる」

「……まさか」


 その能力の名前は、以前ミタツも一度聞いたことがある。帝国の最強の恩恵だ。ウルリアの国にももちろんそれらと同等の恩恵者がいて、互いの戦力が戦争を抑止している。


 しかしそれらと釣り合うような恩恵だと思えるほどミタツはうぬぼれていない。困惑して曖昧な笑顔を作るしかないミタツに笑いかけて、タイチョウは立ち上がる。


「何はともあれ、ようこそ! だな。これからよろしく頼む。フェリの助手よ」

「……よろしくお願いします」


 タイチョウの差し出した右手に、様々な考えを押し込めてミタツは手を重ねた。

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