成功させるぞ、次こそはなbyフジミヤ
ヨリコの超能力操作によって、俺はヨシトモのタイムリープを与えられた。
俺を殺してタイムリープを起動させ過去に送り込もうとするヨリコの企みは、
体の元々の持ち主であるウララ復帰によって阻止される。
大火事も発砲事件も丸く収まり一安心……とはならず、
ココアに拳銃で撃たれ、不死身を失っている俺は死にかける。
恋愛感情のもつれって奴だな。
結果タイムリープが発動し、俺はヨリコが事故死する直前の車内に居た。
そのまま死んだらヨリコが即死、彼女の超能力操作によって俺が不死身になる筈。
しかし事故後も何故かヨリコは生存しており、
俺は不死身をになれず再度タイムリープが発動してしまう。
無限ループって怖くね?
「またか……!?」
「またって何が?」
「いや、何でもない。
何でもないんだ……」
「変なの」
落ち着け俺。
何が起こったのか整理しよう。
あの時確かにヨリコはシートベルトを外してた。
オマケに後ろからの衝突事故だ、無傷なんてあり得ない。
……ヨリコが不死身になったとでも言うのか?
「ねえナリツグ。
大きな声は出さないでね」
「……ヨリコ、シートベルトを外したりすんなよ」
大声でなくとも聞こえる程度の声量だったはずなのに、
ヨリコは自分の腰に手をやり、シートベルトのロックを外した。
「ヨリコ!?」
「しっ。
ねえナリツグ、キスしよ?
しちゃお?」
何てこった。
俺はこの流れを良く知っているのに。
この後何が起こるか良く知っているのに。
3周目だから。
「ヨリコ、シートベルトは付けろ。
事故が起きたら危ないから」
分かっていても同じセリフが出てきてしまう。
「ええー?事故なんて起きっこないよ。
ホントだよ?」
「起きる起きないに関係なく!」
「しーっ」
ダメだ間に合わない、また『ガシャァンッ』
確かに今ヨリコはすっ飛んで行った。
あの勢い……無傷でいられるわけがない。
俺、無痛症で良かったぜ。
こんなのを何回も経験してたんじゃあ精神が崩壊しちまう。
大火災の後のヨシトモみたいにな。
「ナリツグ!ナリツグ!」
おい、だからさ。
「ナリツグ!ナリツグ返事して!ナリツグっ!」
どう……して、ヨリコが、不死身に……?
「……はっ!?」
「あービックリした。
何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」
4周目。
皮肉な事だが時間は半無限、たっぷりとある。
記憶は持ち越せるしな。
どうすればこの無限ループを抜けられるか考えるんだ。
まず、ヨリコが不死身になっているのは間違いないだろう。
俺が不死身なのもヨリコの影響だったから、ヨリコ自身が……。
ん?
「ナリツグ、考え事してるの?」
「いや、何でもない。
何でもないんだ……」
「変なの」
今のヨリコは超能力なんか持ってないだろ。
そもそもヨリコ自身の超能力は他の超能力を操作するタイプ。
仮に今使えたとしても、どっかから不死身を引っ張ってこれたりするのか?
それはいくら何でも便利すぎる。
一体どうなってんだ……?
「ねえナリツグ。
大きな声は出さないでね」
「……ヨリコ、お前超能力使えたりしないか?」
俺への返事もそっちのけでヨリコは自分の腰に手をやり、
シートベルトのロックを外した。
「おいヨリコ」
「しっ。
ねえナリツグ、キスしよ?
しちゃお?」
「それより俺の質問に答えろ。
ヨリコ、お前は何かの超能力を使えたりしないか?」
「超能力?
そんなの無いよ。
ホントだよ?」
「そうか。
変な事聞いて悪かったな」
「でも超能力があったら楽しいよね。
私光りたい。
花火みたいにパァーッって光って目立ちたいな。
ナリツグはどんな超の『ガシャァンッ』
またしてもヨリコはすっ飛んで行った。
不死身なんだろうけど当然痛みはあるよな。
無痛症なのはあくまで俺の生まれつきだから。
ループするのは俺の記憶だけだから、ヨリコが精神崩壊を起こしたりはしない。
それだけが救いだ。
「ナリツグ!ナリツグ!」
はい。
「ナリツグ!ナリツグ返事して!ナリツグっ!」
悪いなヨリコ、声が出ないんだわ……。
「……はっ!?」
「あービックリした。
何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」
「5周目……」
「ごしゅうめ?
ごしゅうめって何?」
「いや何でもない。
今のは忘れてくれ」
「変なの」
多少前後してはいるが、ヨリコの対応がテンプレート化してるな。
ループしてるのは俺だけだから無理もないか。
さてどうする。
どうすればこの無限ループを抜け出せるんだ?
「ナリツグ、考え事してるの?」
俺が死ぬとタイムリープが発動。
ヨリコは何故か不死身だから死なない。
ヨリコが死なないので俺は不死身になれない。
つまり俺が不死身無しで生き残れば良い。
「ねえナリツグってば」
「ちょっと静かにしてくれ」
いかん、つい強く当たってしまった。
ヨリコは自分の腰に手をやり、シートベルトのロックを外した。
「……悪い、ちょっとイライラしててな」
「しっ。
ねえナリツグ、キスしよ?
しちゃお?」
何でこんなにヨリコは俺とキスしたがるんだよ。
いや俺だって興味がゼロではないよ?
けどこいつは積極的すぎんだろ。
男女の恋愛感ってこんなにも違うもんなのか?
……今はループを抜け出す方法を考えないと。
「黙ってるって事は、しても良いのかな?」
「良くない」
「ええーっ、何で?」
今回もダメだったが、俺が死ななければ良いんだと気付いたのは収穫と言える。
『ガシャァンッ』
問題はその方法だ。
シートベルトをしててもこれだから。
運転席の親父と助手席のお袋は軽症だったから、
無理やりにでも前に行けば生き残れるかも知れない。
成功させるぞ、次こそはな。
「ナリツグ!ナリツグ!」
何回聞いても悲痛な声だ。
「ナリツグ!ナリツグ返事して!ナリツグっ!」
「ヨ、リコ……」
「……はっ!?」
「あービックリした。
何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」
6周目。
助手席移動作戦を実行する。
「お袋!」
「ちょっ、ナリツグ!
お母さん寝てるのよ」
ヨリコが止めに入るが、構わずにお袋の肩を揺さぶった。
「お袋起きてくれ!」
「ん、何?」
お袋は目をこすりながら俺を見た。
俺の記憶よりほんのちょっとだけ若い。
目尻のシワが少ない気がする。
「俺、なんかお袋に抱かれたくなっちゃってさ。
助手席行っても良いかな?」
お袋の右手が俺のおでこに伸びてきて、パチンとデコピンをかました。
「抱かれたいってあんたいくつだよ。
んな事で起こすな」
「……すんません」
つい気圧されてしまったが、助手席に行くのは良い方法だと思うんだよな。
……いや待てよ、仮にお袋が抱き締めてくれたとしても、
シートベルトができなかったら無駄じゃね?
それこそヨリコみたいにポーンとすっ飛んでしまうだろう。
「ねえナリツグ。
お母さんがダメなら、その……」
「……何だよ?」
モジモジしているヨリコに軽く八つ当たり。
ヨリコは自分の腰に手をやったが、シートベルトは外さなかった。
「ヨリコ!?」
「えっ?
何?ナリツグ。
どうかしたの?」
いつもならシートベルトを外す所だろ
どうして今回だけ外さなかったんだ?
さっき言いかけた内容が関係してるのか?
どのみち俺が生き残らないと無意味だが……。
「いや、何でもない。
シートベルトって大事だよなーって思っただけだよ」
「でも事故なんて起きっこないよ。
ホントだよ?」
「起きる時は起きるぞ」
「心配性だね、ナリツグ」
事実なんだけど、言っても分かんな『ガシャァンッ』
シートベルトを外していないおかげでヨリコは座席に留まった。
肝心の俺が例によって死にかけだけど。
助手席移動作戦は失敗。
別の手を考えないと。
事故自体を回避するのは無理だろうか。
「ナリツグ!ナリツグ!」
体はてんで痛くないけど、ヨリコが悲しそうにしてると俺もつらい。
「神様のバカ!何でナリツグが!ナリツグが!」
次は、事故自体……の回避……。
「……はっ!?」
7周目。
俺は即後ろを向いた。
「あービックリした。
何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」
「何でもない」
俺はジーッと自動車の後部、リアガラス越しに外を見張った。
ここは高速道路だから、景色や道路がかなりの速度で流れて行くんだよな。
今の所それらしい自動車は見られない。
事前に知ってさえいれば回避できるはずだ。
俺はただ見張り続けた。
「ねえナリツグ。
大きな声は出さないでね。
お母さんが起きちゃうから」
「ああ」
ついそっけない返事をしてしまう。
直接見てはいないが、シートベルトのロックを外す音がした。
「ヨリコ、そんなにキスがしたいのか?
「えっ?
私まだ何も言ってないのに。
どうして分かったの?」
この時間をもう何周もしてるからな。
しかし、事故を起こしそうな自動車は中々現れない。
いっそこのまま無事故にならねえもんか。
なあ神様。
「ヨリコ、シートベルトは付けろ。
その方が痛くないから」
「それってどういう意味?
何か起こるの?」
「……何でもない。
忘れてくれ」
「……うん」
そろそろ来るはずなんだがま『ガシャァンッ』
隣の車線からすごく急に出て来やがった。
まるで明確な殺意をもって俺達を襲ったかのようだ。
これを無理に回避しようとしたら、最悪別の事故を起こしかねない。
また別の方法を考えないと。
「ナリツグ!ナリツグ!」
すまんヨリコ。
「しっかりしてナリツグ!返事して!」
「……ガフッ」
「……はっ!?」
「あービックリした。
何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」
8周目。
俺が死ななければ良い。
助手席に行くのは色々と無理があった。
衝突して来る自動車を回避するのも難しそうだ。
事故自体が回避できないなら、何かで身を守るしか……。
なにかでみをまもる……?
「あっ!」
閃いたぞ!
発想の転換だ!
「だからどうしたの?ナリツグ」
俺は右隣のヨリコをまっすぐ見つめる。
動物みたいに無垢で黒々とした瞳。
吸い込まれてしまいそうだ。
「ヨリコ、頼みがある」
「なあに?」
俺は一呼吸置いてから続けた。
「俺を抱き締めてくれないか?
うんと強く、それこそ骨が折れるくらいに」
1周目にて散々ココアその他を守ってきた元不死身の俺。
それがまさか、現不死身のヨリコに守られることになろうとは。
上手く行けばの話だが。