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俺、今不死身じゃないのにbyフジミヤ

 ヨリコはヨシトモのタイムリープを俺に移し替え、

死をトリガーにヨリコの死因である交通事故直前に送り込もうと、包丁を俺に向ける。

 いかにも幽霊地縛霊……いや、『時』縛霊って感じだ。


 ヨリコはウララの姿と声を利用し、発狂を極めたアツシを味方につける。

 俺は抵抗したが2人には勝てず、捨て身のアツシに自由を奪われ死を覚悟。

 しかし何も起こらなかった。

 見ればヨリコは包丁を落として頭を抱え、ウララの名を叫んでいる。

 捨てる神あれば拾う神ありってか。

 んで?炎も植え込みも無視して豪快に突っ込んで来たあの自動車は何なんすかね、神様。


「カイリじゃねえか!」


 自動車から降りて来たのはカイリだった。

 一難去ってまた一難かと思ったが、とりあえず味方陣営で良かったぜ。


「フジミヤ!それにウララとアツシまで!」


「うっ……うあああああ!」


「ウララ!」


 大きな悲鳴を最後に、ヨリコは糸が切れたようにフラッと傾いた。

 そこを咄嗟にアツシが支える。

 たとえ精神崩壊していてもカノジョの事だけは忘れないってとこ、

男の俺からしても惚れ惚れとしちまうな。


「フジミヤ!火事を起こしてる超能力者はどうなったんだ!?

 鎮火してるみてえだが……まさか死んじまったのか!?」


 カイリが俺の肩に掴みかかる。

 この強烈な握力……アツシの瞬間移動だけじゃなく、こいつの馬鹿力も元通りか。


「鎮火?」


 言われて初めて気付いたが、確かに火の勢いがかなり弱くなっている。

 普通じゃあり得ない、超能力ならではの現象だ。


「オサムも来てる筈なんだが、そっちは見てねえか!?」


「すまん、どっちも分からない」


「カイリ!カイリだよね!」


 緩い感じな男子の声がカイリを呼ぶ。

 途端にカイリは俺から手を離し、その声がする後方へと振り向いた。

 解放された俺は、強く握られた肩を気遣う。


「……折れてね?」


「オサム!火事起こしてる奴は死んだのか!?」


「生きてるけど、結構出血してるんだよね!」


「どこだ!?」


 髪から服まで白ずくめの誰かさんとカイリが、2人でどこかへ走って行く。

 事態が掴めない。

 あの白いのは誰だ?発砲事件はどうなったんだ?


「ウララ!気が付いたか!」


 アツシが叫ぶ。

 ヨリコが目を開け、自身を覗き込んでいるアツシと目が合うなり、

「アツシさん」と呟いた。


「ヨリコじゃないのか……?」


 俺が漏らすと、ヨリコ改めウララは長い黒髪を触り右目を隠した。

 いつものウララだ。


「フジミヤさん、ヨリコさんは私の体から出て行きました。

 今の私は完全にウララです」


「じゃあヨリコは……?

 ヨリコの霊はどうなったんだ?

 成仏したのか?」


「ごめんなさいフジミヤさん。

 そこまでは分かりません。

 少なくとも、この近くには居ないようです」


 ウララは黒髪をたくし上げ、ついさっき自分で隠したばかりの右目を露出し、

周囲を軽く見渡している。

 右目だと幽霊が視えるんだろうか。


「ウララ!ここは消し切れないほどの火が上がっていて危険だ!

 今すぐ逃げよう!」


「アツシ、周りを良ーく見てみろ。

 鎮火してるから」


「何だと?」


 アツシが首をグルリと回している間に、ウララが自力で立ち上がった。

 そして、アツシをそっと抱き締めた。


「アツシさん。

 私が体を乗っ取られている間に何が起こったのかは良く分かりません。

 ですが、火事の真っ只中に居るのは辛かったですよね?

 もう大丈夫ですよ」


「ウララ……」


 火がどんどん小さくなってくのとウララに抱き締められてる安心感とで、

 アツシは平静を取り戻せたみたいだ。


「小さな公園の時みたいに、また誰かに迷惑をかけたりしませんでしたか?」


「はい。

 俺、発狂アツシに殺されかけました」


「……アツシさん!」


 お怒りなウララに両手で突き放されたアツシは、ガックリと頭を垂らす。


「フジミヤ、すまない。

 またしても俺は、自分の過去に支配されてしまっていたようだ」


「まあヨリコにそそのかされてたってのもあるし?俺はそこまで気にしてねえよ。

 ただ、例の仕込みナイフはお前が持つべきじゃないと思う」


「私もそう思います。

 護身用とアツシさんは仰いますが、

皆さんのご迷惑になっているパターンが多過ぎますよ」


「ウララにまでそう言われたのでは、反論の余地も無いな」


 アツシはヨロヨロと歩き、地面に落ちているくだんの十字架を拾う。

 そしてぶん投げた。


「アツシさん……」


 俺とヨリコが目で追うと、

 投げられた十字架は10メートル以上先の池にポチャンと落ちた。


「フッ、仕込みナイフであるとは言え、これは神への冒涜に他ならないな」


「ちょっとカイリ!」


「ココア!?」


 そうだそうだ完全に忘れてた。

 元はと言えば、俺達はココアを助けに来たんだった。

 さっきの怒鳴り声は100パーココアのだから、ひとまず生存確認。


「そいつは脱獄犯なのよ!そんな奴ほっときなさいよ!」


「うっせえ!ムショにぶち込むのは後だ!

 死んじまったら反省も出来ねえだろうが!」


 上下共に緑色のジャージを来た男をカイリが担いでいる。

 その後ろを、ココアがズカズカと早歩きで追って現れた。

 随分と元気そうだな。


「てめえら、他にケガ人は居ねえか!?」


「ヨシトモが……」


 俺は横たわるヨシトモを指差した。

 ケガ人じゃなくて死人だけど。


「ヨシトモ!?

 ついさっき俺様に電話をよこしてたのに……」


「首を切られていて出血が酷いな。

 あれはもう死んでいるだろう」


「アツシさん!

 肉体が死んでも魂は生きているんですよ?

 キチンと葬ってあげないと!」


 流石霊能者、俺達パンピーとは目の付け所が違い過ぎる。


「ヨシトモ、生きてるか!?」


 ただのしかばねなので当然だが返事は無いんだが、

それでもカイリはヨシトモの死体を拾い上げた。


「カタキは取ってやるからな……」


 ヨシトモをも自動車の後部に放り込み、カイリは運転席に乗り込む。

 カタキっつっても、ヨシトモ自身もクマ子を殺してるんだよな。

 シゲゾウに切られたのも自分から仕向けた訳だし。


「フジミヤ、なんでこんなとこにいんのよ?」


 ヨシトモ関連の思考にふけっていると、ココアが俺に近寄って来た。

 呑気に口からキャンディの棒なんか突き出してるしケガはなさそうなんだが、

左腕や左太ももが血しぶきで汚れている。


「ココア。

 無事なのか?」


 俺の前で立ち止まるココア。

 ブロロロロと、自動車のエンジン音が起動した。


「無事って……知ったような言い方ね」


「ココア。

 お前を巻き込んでの発砲事件を予知夢で知り、

それを阻止する為にフジミヤ達はここへ来たのだ」


「へえそうなの。

 残念、もう片付いちゃったけど?」


「そりゃ良かった」


 途端にココアの表情が険しくなる。

 頭突きでもすんのかってくらいに顔を寄せて来た。


「良くない!予知してたんならどうして助けに来てくれなかった訳!?」


 キャンディの果物系香料に、何やら生臭い匂いが混じっている。


「おい、ココ「あんた何度も言ってたじゃん!あたしを守るって。

 まさか銃声にビビってたんじゃないでしょうね?不死身の癖に!」


「ココアさん!今のフジ「やっぱりあたしなんかよりあのクソチビが良いのね!

 このハゲ!ロリコン!」


 ココアは俺やウララを遮り、早口かつ大声でまくし立てる。

 やっぱり、肝心な所で俺はココアに優しくなれていなかったようだ。


「口でするのならあたしだって負けないのに! 先輩に仕込まれた!

 先輩に仕込まれたからぁ!」


 先輩と言い出した直後、ココアの大声が湿り気を帯びてくる。

 泣いてるのか。


「カラダだけじゃない! 心だって幽霊なんかに奪われてさ! 何よ! 

なら死ねば良いじゃないの! 同じ墓にでも入ってなさいよ!」


「ココア……」


 ココアは俺の上腕に大雑把なビンタを連発してくる。

 ウララやアツシは、ただ黙って見ているようだ。


 ふと、彼女の腰が出っ張っているのに気付いた。

 パーカーの下に何か有るのか?


「ココア、俺が悪かった。

 叩いて気が済むんなら好きなだけ叩いてくれ」


「そんなんであたしの傷は癒されないわよ。

 そうだ、もっとキツイのをお見舞いしてあげる」


 ココアは俺から一歩離れ、俺がついさっき気にしてた何かを取り出し、

『それ』で俺の心臓に狙いを定めた。


「……銃?」


「これがホントのロシアンルーレットね。

 弾が残ってても残ってなくても、不死身のあんたには関係ないけど」


「おい、ちょ『パァン』


 俺、今不死身じゃないのに。

 ヨリコと言いココアと言い、女の念って怖……い……。

 意識が……薄く。

 遠ざかっ、て。


「……はっ!?」


「あービックリした。

 何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」


「ここは……!?」


 右隣には本来の姿をした、黒髪ツインテのヨリコ。

 正面には自動車のシート。

 左を向くと、窓の外の夜景が高速で流れていく。

 この空間全てに俺は見覚えがある。


 親父が操縦する自動車の後部座席に俺は居た。

 ココアの銃撃でタイムリープが発動したらしい。

 つまりこの後……。


「ねえナリツグお願い。

 大きな声は出さないで。

 お母さんが起きちゃうよ?」


「……起きたら何か困るのかよ」


 ヒソヒソと話すヨリコに条件反射で返す。

 ヨリコは自分の腰に手をやり、シートベルトのロックを外した。


「ヨリコ!?」


「しっ。

 ねえナリツグ、キスしよ?

 しちゃお?」


 それどころじゃない。

 俺はこの流れを良く知っている。

 この後何が起こるか良く知っている。

 2周目だから。


「ヨリコ、シートベルトは付けろ。

 事故が起きたら危ないから」


「ええー?事故なんて起きっこないよ。

 ホントだよ?」


「起きる起きないに関係なく!」


「しーっ」


 この後間も無く後ろから衝突され『ガシャァンッ』

シートベルトを外しているヨリコが即死。

 親父とお袋は軽傷で済み、俺は死こそ免れるがじきに意識を失う。

 気が付いた時には担架の上で、そこから不死身になる。

 これなら、タイムリープは発動しない……だろう。


「ナリツグ!ナリツグ!」


 は?


「ナリツグ!ナリツグ返事して!ナリツグっ!」


 どう……して、ヨリコが、生きてんだ……?


「……はっ!?」


「あービックリした。

 何よナリツグ、急に大きな声なんか出したりして」


 3周目突入だと。

 これって……かなりヤバくないか?


ココアの機転でテイゴは無力化し、それを見たハツカは安心から大火事を鎮火させる。

ヨリコの支配を振り払ったウララによってアツシも平静を取り戻し、発砲事件と大火災は収束。

しかしフジミヤが不死身を失っていると知らないココアが彼に向かって拳銃を発砲し、

フジミヤはヨリコが設定した交通事故直前へとタイムリープしてしまう。


本来ならヨリコが即死して幽霊になると共にシフトの超能力を獲得し、フジミヤが不死身となる。

しかし何故かヨリコは生存しており、死を予感したフジミヤのタイムリープが再度発動。

フジミヤはこのまま永遠に交通事故を繰り返すことになるのだろうか。


これは、フジミヤの魂と共に過去へ相乗りしてきたヨリコの愛の形である。

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