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面倒なやつを助けちまったもんだbyフジミヤ

これまで不良に絡まれたり、死にたがりの面倒を見たりと、

やたら騒々しい日が続いていた。

それらに比べて、今日はいつになく平穏である。


「あのハゲ、授業つまんねえよな」


「少しは工夫してほしいよね…」


ヨシトモと二人で下校していると、

突然誰かに後ろから抱き付かれた。


「おわっ」


服越しに、柔らかい塊の感触が伝わる。

これは多分アレだ、おっぱいだな。

ふたつあるし。


「やあやあフジミヤくん」


この声を俺は知っている。

やれやれ…と顔を後ろに向けたら、待ち構えていた指が頬を直撃。

更に追撃でプニプニと突っつかれた。


背後から肩に手を置き指を伸ばしておいて、

振り向いた相手の頬をつつく。

まあ、幼稚なイタズラだ。


「ココア…」


周囲に居る、俺達と同じく下校途中の高校生達が、

俺とココアを見て若干ざわついている。

こんだけ堂々とイチャイチャしてたら当然か。

いや、向こうが勝手に絡んで来てるだけなんだけど。


「オトコ同士で馴れ合うよりさぁ、

あたしと居た方が良くない?」


「フジミヤくん、彼女は…?」


ヨシトモがココアを見てキョトンとしている。

そういやこいつにはまだ、ココアの事を話してなかったな。


「カノジョじゃない。

こいつが勝手にくっ付いて来てるだけだ」


「男女関係の意味じゃ無かったんだけど…」


「へぇー。

そんなつれない事言うんだー。

次はどこから飛び降りよっかなぁ?」


ココアは辺りの建物を見渡している。


「お前もう親と仲直りしたろ。

死ぬ死ぬ詐欺すんな!」


俺が強めに出ても、ココアは涼しい顔をしている。


「あたし別に死ぬとは言ってないけど?


飛び降りてもあんたが助けてくれるし」


「ぐっ…」


ココアにとって俺は命の恩人なはずなのに、

何と言うかこう、オモチャにされてる気が…。


「ねぇどっか行こうよ。

どうせヒマでしょ?」


俺の頬をつつくココアの指が倍速になった。


「うるせえ帰れ」


「残念!

あんたんちとあたしんち、同じマンションでーす。

ねぇ、ひとりにしないでよぉ」


しまった、そうだった。

同じマンションに家が有ったからこそ、今のこの関係があるんだった。


「昨日はあたしが振り回したから、

今日はあんたが決めて良いわよ」


「勝手に話を進めんな!」


脊髄反射でツッコミを入れたが、実は俺にも行きたい場所が無い訳では無い。

ただ、引っ越したばかりで土地勘が無く、

目当ての場所が検討も付かなかったのだ。

折角だし、ココアに案内させてみるか。


「で、どこ行く?」


「だから勝手に…はあ。

仕方ねえな。

そこまで言ったからには、絶対ついて来いよ?」


「やったー、あたしの勝ちぃ!」


ココアが俺から離れ、胸を揺らしてバンザイをしている。

俺が折れた(ギャグじゃないぞ)のがそんなに嬉しいのかよ。


「フジミヤくん、優しいね」


「うるせぇ。


なあココア、この辺で激辛ラーメンの店知らないか?

全部食ったらタダのやつ」


「ラーメン?


いかにも男子って感じね。

てか、それくらいネットで調べたら?」


「俺んちにそんなものは無い」


「えっ!?」


ココアがやけに驚いている。

驚くどころか、もはや引いているレベルだ。


「えっえっ、今どきスマホとかノーパソとか普通に持ってるでしょ。


お金有るって嘘だったの?

ホントはビンボーなの?」


「ちげえよ。

俺、すぐ物を壊しちまうからさ。

高い機械とか持たせて貰えないんだよ。

タッチ式なんかは特にな」


「へー。

痛く無いってのも大変なのね。

オーケー、あたしに任せなさい」


ココアはポケットからスマホを取り出し、画面をいじり始めた。

正直ちょっと羨ましいぞ。


「ヨシトモ、お前も来るか?」


俺の誘いに、ヨシトモは右手を振った。


「せっかくだけどやめておくよ。

僕はお腹が弱いから、激辛ラーメンなんて食べられないしね」


「そうか」


俺が激辛ラーメンを頼むってだけで、

別に俺と同じ物を頼む必要は無いんだけどな。

まあ、俺は無理強いはしないぞ。

飲み物みてえなふざけたキラキラネームで、

粘着質などこかの誰かさんみたいにはな。


「じゃあ僕の家あっちだから、この辺で。

邪魔したら良くないしね」


これまで俺達と一緒に歩いていたヨシトモが、

別の方向へ離れて行く。


「だからー、そう言うのじゃねえって」


「バイバイ、フジミヤくん」


「またなー」


遠ざかるヨシトモを見送っていると、

スマホを弄っていたココアが、俺に肩をくっ付けてきた。


「フジミヤ、あったわよ。

100倍激辛特盛りラーメン、10分以内に完食したら無料だって」


ココアが俺に見せるスマホには、唐辛子を思わせる濃い赤のスープに、

唐辛子そのものをトッピングしたラーメンの画像が表示されている。

その下には、

『万が一このラーメンで健康を害されても、

当店は一切の責任を負いません』

との注意書き。


「ねえ、ホントにこれ食べるつもり?

大丈夫なの?」


ココアが心配そうに俺を見ている。


「腹減ってるから、全然イケるぞ」


「ボリュームの事じゃなくてね…」


「さ、行こうぜ。

その店ってどこに有るんだ?」


「えっとねえ…こっち」

俺に付いて行くと言ったココアだが、彼女は自分から俺と腕を組み、


引っ張るように歩き出した。


「おいおい、待てよ。

一旦帰ってからだろ」


この状況、一般的な男子高校生(女子もか?)からすれば、

さぞかし羨ましく映る事だろう。

だが、過去にヨリコを失っている俺は今ひとつ喜べない。

あの時みたいに万が一、何かに巻き込んでしまうかも知れないと思うと、

俺は他人と距離を取って生きるべきなんじゃないか…ってな。

たとえそんな事が二度三度、滅多に起こらないと分かっていても。


俺の心の内など知らず、ココアは俺を引っ張って行く。

元気そうで何よりだ。

日が沈み、辺りには俺とココアの長い影が伸びていた。

待ってろよ、激辛ラーメン。

激辛有りのラーメン屋におもむくフジミヤとココア。

リア充な2人に対し、死神は大人しくしてくれるだろうか……?

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