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やっぱり死にたくなかったかbyフジミヤ

「きゃあ!」


「ココアっ!」


俺は訳が分からないままダッシュし、


なんとかココアの左手を掴む事に成功した。

ココアと黒パーカー男、二人分の体重が俺の右肩に負担をかける。


「ひっ、ひい…」


ココアが転落の恐怖に怯えていて、俺はある意味安心した。

やっぱり、本気で死ぬつもりはもう無かったんだな。


いや、全然安心してる場合じゃないんだが。


「ちっ、邪魔が入ったか」


黒パーカー男はココアの右腕を掴んだままぶら下がっている。

本人に対してパーカーのフードがやたら大きく、

顔は隠れていて見えなかった。


「あんた何なのよ!」


「俺か?俺はな。

そう、死神だ」


表情の全てまでは分からないが、

黒パーカー男の口角が上がっているのが少しだけ見えた。


「何が死神だ、ふざけんな!死ぬならてめぇ一人で死ね!」


「なぜだ?この女は死にたいと言っていた。

邪魔しているのはお前だろ」


「殺してなんて言ってない!

さっさと離して!」


ココアが足をバタバタさせて、

黒パーカー男に蹴りを入れようとしている。


「おいおい、あまり暴れると、

お前どころか上の男までも落ちてしまうぞ」


黒パーカー男の言う通りだ。

俺は今、右手でココアの左手を握り、

もう片方の左手を壁に突き立て、

下の二人分の体重を何とか支えている状態。


常人よりは腕力が有る方だと自負する俺だが、流石に人間二人は厳しい。

両手を使えば引っ張り上げられるかもだが、

三人まとめて落ちてしまうリスクも有る。


「ココア、大人しくしてろよ。

俺が何とかしてやるから」


とは言ったものの、どうやったら助けられるだろうか。

誰かが来て手伝ってくれれば助けられそうだが、

黒パーカー男の出方次第では、そんなものに期待は出来ない。


「お前が重さに耐えれても、この女の握力がいつまで保つかな?」


黒パーカー男の煽りは、俺も気にしている事だった。


「うるせぇ!」


「フジミヤぁ、助けてぇ…」


ココアは声を弱々しく震わせ、目に涙を溜めて俺に訴える。


「ココア!やっぱり死にたくなかったか!」


「お前、この女の彼氏か?無理すると道連れになるぞ。

さっさと諦めて、手を離したらどうだ?」


「あり得ねえな」


「愚かなやつめ」


黒パーカー男が体を揺さぶり、俺とココアにより強い負担をかけた。


「きゃー!きゃー!」


ココアが泣きわめく。


「そうだ!もっと恐怖しろ。

ほらほら、死が迫っているぞ!」


「やめろ!」


「フジミヤぁー!」


俺の肉体は痛みを感じないが、

死に瀕しているココアの悲痛な叫びは、

間違い無く俺の心に何らかのダメージを与えている。

やっぱりこれは、俺だけでは無理だな。


「ココア、もっと叫べ!助けを呼べ!」


「助けてぇーっ!」


「フン!まあ良いだろう。

精々足掻くが良い」


「ココアが落ちたらお前も落ちるだろ。

死神とかほざいてるが、調子乗んなよ」


「女は死ぬだろうが、俺は死なない。

死神が死ぬと思うか?」


こいつイかれてんのか…と言いたい所だが、


確かに黒パーカー男が死を恐れる様子は見当たらない。

瞬間移動ばりに湧いて出やがったし、こいつも俺の不死身みたいに、

何らかの超能力を持ってるのかも知れないな。

馬鹿ヂカラに目覚めたカイリの件も有るし、決してあり得なくはない。


「誰か助けてぇーっ!」


ずっと握り続けている影響で、ココアの左手が真っ赤になっている。

きっと痛いんだろうが、今はそんな配慮してられないからな。

ココア、耐えてくれ。


「そうだココア!もっと叫べ!」


「無駄な事だ。

危険に巻き込まれたくない、自己保身優先の人間の方がこの世には多いだろう。

仮に助けが来た所で、俺が暴れれば女は簡単に転落し、待つのは死だ。

お前達に最後の忠告をしよう。

死神に抗おうとするな。

潔く死ね」


「うるせぇ…っ!」


「助けてぇーっ!」


今ので、ココアの叫びは何回目だっただろうか。

はるか下方の地表から、誰かがココアに呼びかけたんだ。


「ココアーっ!」


その時、顔を歪めて泣いていたココアが、目を大きく見開いた。


「え?ママ?」


「ココアーっ!今パパが助けに行ってるから、諦めないでーっ!」


「ママ…何で?離婚したんじゃ…」


ココアは振り返ろうとしたが、

この宙ぶらりんな状況のせいで姿勢が制限され、上手くいかない。


そもそもこの高さに居るココアの呟きが、

離れた地表に居る人間ココアのママらしいに聞こえる筈はない。

黒パーカー男がココアの命を脅かしているという事も伝わらず、

単に自分の娘と知らない男が転落しかけている程度の認識だろう。


しかし、あたかも二人の会話が成立しているかのように、

ココアのママは続けた。


「パパとママ、仲直りしたの!ココアまで巻き込んでごめんね!


だから生きて、三人で帰りましょーっ!」


「聞いたかココア!お前の両親仲直りしたってよ。

良かったじゃねえか。

絶対生きて帰れよな!」


ココアは唇を噛み締め、「うっ、うっ」とむせび泣いている。

この涙は少なくとも、死の恐怖を洗い流す為の涙じゃない。

ココアがずっと抑え込んでいた、悲しみや孤独が解放されてるんだ。


「ちっ、とんだ邪魔が入ったな。

恐怖と絶望こそがお前にはふさわしいと言うのに…」


「そりゃ残念だったな」


「興が削がれた。

それに、この女は赤子のように、

ただ泣き叫ぶばかりではないか。

あまり考えにくいが、ウララは間違えたのかも知れん」


黒パーカー男はフードで隠れた顔を逸らし、小声で呟いた。

俺やココアに向かって言う感じでもなく、独り言のようだった。

ウララってのが何を指すのか気になる。


「この場は見逃してやろう。

だが、死神からは決して逃れられない。

覚えておけ」


黒パーカー男が言い終わると同時に、腕がフッと軽くなった。


「なっ!?」


好ましいとは言え唐突だったので驚き、

またそれによってかなりの余裕が出来た俺は、

思わず身を乗り出して観察した。

普通なら落っこちて死んでるが、黒パーカー男の姿はどこにも見当たらない。


あいつ…俺は死神だとかほざいてたが、少なくとも常人とは違うようだ。


「うえええええ」


ココアは消えた黒パーカー男なんかそっちのけで、

右手を垂らしたまま泣いている。


「よいしょっ」


俺は戸惑いながらも、ココアを引っ張り上げて救出。

馬鹿ヂカラには程遠いが、女ひとりならどうにでもなるぜ。


「うわあああああん!」


ココアはコンクリートに着地すると、間髪抜かさず俺に抱き付いてきた。


「おっと」


宙吊りにされていたのがよっぽど怖かったんだろうな。

俺は性別の壁も忘れ、年の離れた妹に接するような気分で、

震えるココアの頭を撫でてやっていた。


ま、俺ひとりっ子なんだけどね。


「ココア!無事か!?」


ココアを救助して程無く、一人の男性が走って来た。

ココアはその男性を見るなり俺から離れ、「パパぁーっ!」と叫び、

ココアのパパらしい男性に抱き付いた。


「よしよし。

ココア、よく頑張ったな」


「うええええん、パパぁ」


「本当に悪かった。

パパはもう、どこにも消えたりしない。

ママとも仲直りしたからな。

これまではココアを苦しめてばかりだったが、

これからはずっと三人一緒にいような」


固く抱き合うパパと娘を見て、

この様子ならもう、死にたいとか口走ったり、

実際に死のうとしたりはしないだろうなと、俺は思った。


神出鬼没な黒パーカー男の正体とか、

その男がなんでココアを狙ったかとかの謎はまだ残ってるが、

とりあえず、ココアが色々と助かったようで一安心だ。


昨日喧嘩して家出した両親が1日で仲直りしたってのも、

偶然にしては随分出来過ぎた話だが、

もしかしたら、ココアの願いがどっかの神様に届いたのかも知れない。


あるいは俺やカイリみたいに、ココア自身の超能力が目覚めたとか。

さっきの死神さんも、あるいは。

しかし超能力者が同じ町に何人も居たんじゃあ、安っぽくなって困るな。


トラブルの火種は少ない方が良いし。


「君がココアを助けてくれたんだな。

本当にありがとう。

感謝しても仕切れないよ。

名前はなんて言うんだい?」


何にせよ、この日は俺にとって誇れる1日となった。

死にたがっていた一人の女子高生を、この手で救うことが出来たのだから。


「俺、フジミヤです」


その後、抱きしめ合うココアとパパの元にママが合流するまで、

そう時間はかからなかった。

俺はココア達三人と別れるまで、何度も何度も感謝の言葉を告げられ、

とても良い気分で帰路に就いた。


今夜はヨリコとのレースゲームなんかじゃなくて、

全く別の、もっと良い夢が見れそうだ。

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