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そのろく。

最終話です!


 もう、まじでしにたい。山奥に穴掘って50年ほど隠れていたい。

 

 「キリってほんっとにいろいろ残念だよね、残念な星の下に生まれてきたのかな?なんか憑いてんじゃないの?」

 

 神社とか行ってみたら?

 と心底憐れむような彼の声。

 しかし顔が大爆笑寸前なのを隠そうとしない器用な真似をしているのは見なくても分かってますよ、過去の経験から。

 わたしは何度も洗って若干しわしわになった指をさらにハンカチで拭いながら、彼の隣を歩いていました。

 あの後、わたしの悲鳴が全校中に轟いた後のことは、できれば一生思い出したくない。

見回りの警備員さんと居残っていた先生が駆けつけた時、わたしは見苦しく泣きじゃくっており(普段なら絶対このくらいで泣きません、ただもういっぱいいっぱいだったのです)、彼は腹を抱えて笑っていました。大変驚かせたことでしょう、彼はすぐさまお行儀の良い猫さんを被り先生方に事情を話すと、なぜかわたしだけ厳重注意されました。でも先生、彼にも一割二割くらい責任があるんです、とじゃぶじゃぶ手を洗いながら思いました。こんな時間に第三校舎にいたことについて特に言及されなかったのは彼がいたからでしょうか。厳重注意だけで済んだのも彼のおかげと思えば納得できますが、優等生と成績問題児にこれだけどえらい差があるとは、ちょっとスッキリしません。

 というか、ほんと勘弁してほしいのですが。

 なぜ彼と仲良く並んで夜道を帰らねばならないのでしょうか……あ、近所だからか。


 「なにさっきからもじもじしてるの?トイレ?」

 

 ……デリカシーってものをおかーさまのお腹の中に忘れてきてしまったのでしょうか。

 

 「ん?今なんか言った?」

 「いっいいえいいえなななんにもいってましぇんっっ」

 

 わたし口に出してたっ!?しかも噛んだっ恥ずかしいっっ

 ぐりん、と彼の方を向きそうになって慌てて違う方を向く。

 彼は、ふぅん、と言ったきり、何も言わない。

 ……ち、沈黙痛いどうしよう。

 彼との距離が、いつもより近い気がする、のも被害妄想でしょうか。わたしが歩くスピードを落としても、彼はずっと隣を歩いています。

 怖い、怖すぎます。何を考えているのでしょうか、

 どきどきと心臓が痛い位に高鳴っている。トキメキじゃない。断じて!ごめんね、わたしの心臓、今日一日だけで酷使しすぎている気がする、頑張ってね。

 もう結構外は暗くなっていて、街灯の明かりがぽつぽつと付いていた。

 瞼が重くて、熱い。あと身体がだるい。早く帰って自分の部屋に篭もりたい。正直、彼と同じ空間にいたくなかった。振られた相手とその日に肩を並べて帰るほどみじめなことは無いですね。もうドキドキ疲れたというか、ドキドキしちゃう自分をころしたいというか。あぁ、ネガティブループ。

 

 「そういえばさ」

 

 もう無心になろう。出家したい。煩悩を消してやる。そうしたらきっと、生まれて初めての失恋のイタい痛みだって忘れられるだろう。というか初恋は実らないって最初に言った人は誰だろう、マジだったわ、なぜだか祝杯をあげたい気分だわ自棄になってるのは分かってます!

 

 「僕を無視するなんていい度胸だね?」

 

 無心、無心、むしんむしんむしんむしんむし…………

 

 「あぁあ、せっかくいいコト教えてあげようと思ったのに」

 「…………」

 「ねぇってば」

 

 無限のネガティブワールドから抜け出そうとしてその実どっぷり浸かりまくっていたわたしは手に感じた暖かな感触に覚醒した。

 

 「ね?早く僕を見てよ」

 

 包まれた、わたしの、左の手のひら。包んでいるのは、彼の、右の手のひら。

 あまりに驚いたので、勢い余って逃げ出そうとした私の手のひらを、彼は力強く掴んだ。

 

 「どうしたの?」

 

 彼は、とてもイイ笑顔だった。

 それは、とても見慣れた類の笑顔で。

 

 「いいいいえっ、なんでもないんだけどっあのっ」

 「ふぅん、なんで後ずさろうとするの?家はこっちだよ?」

 

 彼の手のひらの、細くて、でも意外にごつごつしている指がわたしの指と指の間に入りこんで、というか、ちょ、ええええええええええええ

 

 

 「ねぇ、僕の名前、呼んでみてよ」

 

 固まって口を魚のごとくぱくぱくとするしかないわたしの目の前でしっかりと絡まったと手と手を動かしながら、彼は微笑んだ。いつもの彼の笑顔とは、少し違って強張っていて、なんだか緊張しているように見えるのは気のせい、でしょうか。

 

 「…………」

 「……ほら、早く」

 

 僕の言うことが聞けないの?とでも言うようにひそめられた彼の表情に心の中では必死に弁解する。絡まる指と指を見て、心臓が口からリバースしそうなのです!

 きゅっとさらに握りしめられっ、ひゃああああああああ

 

 

 言え。言うんだ、わたし。

 ずっと、呼びたかったでしょ。

 名前で呼ばないでくれる?彼にそう言われて、すごく悲しかった。今なら、小学校高学年の彼が女の子に名前で呼ばれるのが恥ずかしかったのだろうと分かるけれど、当時は悲しかったし、傷ついた。皮肉なものです、それがきっかけで、わたしは、彼に恋をしていることを知ったのです。


 「咲、くん」


 案外、するりと彼の名前は口から出た。


 彼は少しの間、ぼぅっとして、それから微笑った。今まで見たどの笑顔よりも綺麗だと思った。

 彼を好きじゃなくなる日は、きっと来ない。煩悩だって一生消えない。やっぱりわたしは、彼が大好きなのです。彼がどんなに最低でも鬼畜でも、天使でも悪魔でも、彼が彼という人間である限り、わたしの中で彼が一番じゃなくなることはないのでしょう。盲目的に、彼を好きで居続けるのでしょう。理由なんて、ありません。ただ、好きなのです。大好きなのです。

 やだなぁ、目の奥が懲りずに熱くなりました。振られてこの恋を終わらせるために告白を決心のしたのに、振られた挙句に彼のことがもっと好きになっているのです。

 

 その笑顔は、反則ですよ!

 

 「桐恵」

 

 うわぁん、そんな良い声で名前を呼ばないで下さい、きゅんきゅんします!

 彼がにこっとした。

 つられてへらっとしてしまう。

 さ、咲くんと(もう呼んでいいんですよね、咲くん解禁ってことですよね!?)少し心の距離が近づいたってやつでしょうか、もう幼馴染でもなんでもいいやこの笑顔が見れるなら!とかいろいろ考えちゃいますよ、本末転倒ってやつですねっというか、近い、近い近い近い、心の距離じゃなくて、物理的な距離、つまり彼の身体がわたしの身体に少しずつ近づいて……

 直立不動するしかないわたしの耳元に唇を寄せ、彼は。



 「手の汗、すごいね?」


 ……………………。


 「~~~~~~~~っじゃぁ放しますぅっ調子のってすみませんでしたぁぁぁっ!!」

 「ははははははははもう手遅れなんじゃない?」

 

 手が手遅れってなんですかそんなにわたしの汗はアレですかそうですか分かりました拭きますから手を放して下さいよぅ……

 

 「ん。だからさ、責任とってね」

 「……そもそも咲くんがわたしの手を無理に掴んだわけでそこにわたしの責任は及ばないむしろ乙女に対して汗という敏感なキーワードを遠慮なく使われて酷く精神的に痛手を負ったというかしにたいというかとにかくわたしの方こそ謝罪されるべきというのがわたしなりの見解なのですが」

 「なぁに?もっとハッキリ言ってくれないと聞こえないんだけど」

 「……いえ、なんでもないです……」

 

 咲くんは、わたしの手を引っ張って歩いた。

小さい頃に戻ったみたいだ。時々、こうして手をつないで並んで歩いた。先ほどまで嵐の海のように荒れ狂っていた心が、すーっと凪いでいく。もちろん心臓はドキドキしていたけれど、それさえも今は心地いい気さえした。


 「……あの、咲くん。今日の事は、忘れてくださいね」

 「…………なんで?」

 「わたし、なんかスッキリしました。成功したとは言えないけれど、でもごちゃごちゃ考えた末の決断でしたから。やりきった感というか、ちょっと大人の階段登っちゃったというか」

 「……ずいぶん低い段差だね?」

 「ひどいですねちょっとかっこつけたのに。……でも、大きな一歩です!やっぱり咲くんはすごいですね!わたしが一回り成長できたのも咲くんのデリカシーゼロな発言のおかげです!さすがです!これはもう才能ですね!」

 「どこから突っ込んでいいのか分からないんだけどとりあえず君の僕に対する認識と君の価値観について一度じっくり話し合った方がいいと思うんだ」

 「えぇ?」

 「あと、…………忘れてあげない」

 「へ?なんか今言いました?」

 「うん。君は救いようもないおバカさんだって言った」

 「う。否定はしませんけれども今の私は箸が転がっても泣ける微妙な精神状態なんですからねっ」

 「はいはい」

 「あっどうでもよくなりましたねっひどいっ」

 「それはそうと、今日はゆっくり眠れるね」

 「…はっ、はははっそーですねっ」

 「幸恵さんから聞いたんだけど、最近成績の方ヤバいんだって?」

 「うっ、えっ、まっまあ、そうですね……」

 「ふぅん、まぁ、理由はあえて聞かないでいてあげるけど」

 

 うぅ、なんだか居心地悪いぃ……お母さんのばか。なんてことを言ってくれてるんですか……ごっめーん、でもキリちゃんがおバカさんなのが悪いのよぅとへらへら笑う姿が目に浮かぶ。

 

 「幸恵さんにキリの勉強見てくれるように頼まれてたんだけど、早速明日からでいいよね?」

 「はっ!?」

 「キリが苦手なのって古文と世界史と生物と英語と数学と……あはっ、ほぼ、というか全部だよね?」

 「~~~~~~っ」

 「いいよ、僕が手取り足取り教えてあげるからには、僕と同じ目標を目指さなくちゃね。キリは要領は壊滅的なほど残念だけど、頭自体はそこまで悪くないんだし、きっといけるよ」

 

 

 頑張ろうね、と微笑った咲くんは、どこまでもいつもの彼だった。

 わたしは咲くんの意地悪!と心の中で叫びながら、やっぱり彼の笑顔にきゅんきゅんしてしまうのだった。


やっと完結のボタンが押せました。。。な、長かったーー……

途中更新が滞り、お待たせしてしまって、それでも最後まで読んでくださった皆様に本当に頭の下がる思いです……ありがとうございました!

そしてお気に入り登録が増えるたびににやにやしたりドキドキしたりそわそわしたり、かなりの情緒不安定でした。いや、素直にうれしいです(照)ありがとうございました!!m(_ _)m

この話は階段下に体育座りで隠れて泣きながらぶつぶつ卑屈に呟いていた女の子が最初に浮かんできたのが始まりです。これだけ書くとちょっとホラーですね^^

あと、幼馴染、いいですよね、幼馴染!(笑)

腹黒とかどSとかも心惹かれる設定ですが、咲くんが果たしてそう言えるのか…なんか違う気が…orz

このままだと咲くんがただの最低なひとなので、何とかしたいです……ただ、キリちゃんも天然であんまり人の話を聞かなそうな感じなので、咲くんがさりげなく口説いても気付かなそうですよねっ苦労しそうです。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

これからも精進いたします。。

また次のお話でお会いできたら光栄です。


メリィ山田



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