表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
最終章 そして、

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

518/588

518話 双武の極致

 

 上空で美咲とエレナが激しい魔法戦を繰り広げる一方、地上では二つの「極致」がぶつかり合う。


 千夏とエーデルガッシュ。

 対峙する二人の間には、爆発寸前の緊張感が張り詰めている。


「……どけって言ってんの。わっかんないかな!頭湧いてんじゃない?」


 千夏が低い声で唸る。

 先ほどまでのギャル特有の軽い口調は消え失せ、全身からはドス黒い闘気が噴き出していた。

 愛しい涼介を傷つけられた怒りで、理性が焼き切れそうだ。


「断る。……勇者を回復させれば、また遥斗を殺そうとするのであろう」


 エーデルガッシュは、神々しい白のオーラを纏ったまま、油断なく剣を構える。

『ゴッド・アイ』——未来視に近い予測能力を持つ彼女の瞳には、千夏という存在の危険性がはっきりと映っていた。


 千夏の職業は『ハイ・モンク』。

 格闘家の最上位職であり、その特性は一見すると「高機動・高火力」のアタッカーに見える。

 だが、エーデルガッシュの目に誤魔化しは効かない。


(こ奴……攻めよりも「守り」を得意としている。あの態度はブラフか?)


 千夏の本質は、高速連撃で押すタイプではない。

 相手の攻撃を受け流し、あるいは耐え、その隙に致死級の重い一撃を叩き込むカウンター型。

 さらに『ハイモンク』特有の治癒能力により、無尽蔵のスタミナと耐久力を誇る「万能持久型」だ。


 対するエーデルガッシュもタイプは近い。

『神の目』により相手の動きを完全に見切り、後の先を取る戦い方を得意とする。

 クロスフォード流剣術の真髄もまた、見切りにある。


(相性が悪い……か)


 エーデルガッシュは冷や汗が流れるのを感じた。

 カウンター使い同士の戦いは、先に動いた方が負けることが多い。

 本来ならじっくりと隙を伺うべきだ。


 だが、今のエーデルガッシュは『オーバーロード』状態。

 人の身で神の力を降ろすこの形態は、維持しているだけで激しく魔力と体力を消耗する。

 長期戦は圧倒的不利。


(ならば先手必勝!仕掛けるしかない……!)


 エーデルガッシュが覚悟を決める。

 刹那、彼女の姿が消えた。


「大鷲の太刀!!」


 上空からの急降下斬り。

 クロスフォード流剣術の中でも、最大級の威力と速度を誇る奇襲技。

 神速の刃が、千夏の脳天を断ち割らんと迫る。


 空間ごと切り裂くような一撃が決まったかに見えた。


 しかし。


「……素直過ぎるね」


 千夏は、動いてはいなかった。

 いや、ちがう。

 動いてはいる。


 風に吹かれる柳の葉のように、ゆらりと上体を逸らしていたのだ。


「なっ……!?」


 エーデルガッシュの剣が、千夏の鼻先数ミリ先を空しく通過する。

 先ほどまで殺意をまき散らしていたのが嘘のように、今の千夏の心は静まり返っていた。


 怒りも感情も通り越し、「無」の境地へ。


『柳の型』。

 相手の力に逆らわず、最小限の動きで回避する高等体術。


 剣を空振らされたエーデルガッシュの身体が、一瞬泳ぐ。

 その隙間へ、千夏が滑り込んだ。

 音もなく。

 まるで、それが当然であるかのように。


 顔と顔が触れ合うほどの超至近距離。

 千夏の右手が、そっとエーデルガッシュの胸元に添えられる。


 優しく触れるような、慈愛すら感じる動作。

 だが、その掌には、千夏の全闘気、全筋力、そして憎悪が圧縮されていた。


「真・発勁!」


 ドォォォォンッ!!


 千夏の足元の地面が、円状に陥没した。


 大地を踏みしめた反動を、腰の回転、肩、肘、手首へと伝え、一点に集約して爆発させる。

 ゼロ距離からの内部破壊衝撃。


 鎧や外皮といった物理防御を無視し、内臓を粉砕する必殺の奥義。


 直撃すれば、心臓破裂は免れない。

 回避不能の死の宣告。


 だが。


 フッ。


 衝撃が抜けた。


「……?」


 千夏が目を見開く。

 手ごたえがない。


 彼女の放った絶大なる衝撃波は、エーデルガッシュの身体を素通りし、背後の空気を弾き飛ばしただけだった。


「……ふぅ」


 エーデルガッシュは、千夏の手のひらに胸を合わせたまま、音もなく後退していた。


 発勁が放たれる瞬間、その衝撃の速度と完全に同じ速度、同じタイミングで、身体を後ろに引いたのだ。


 相対速度ゼロ。

 衝撃を受け流すどころか、衝撃に乗って移動することで威力を完全に殺してみせた。


『ゴッド・アイ』による、究極の見切り。

 筋肉の収縮、闘気の流れ、殺意の揺らぎ。

 その全てを読み切り、未来を視ていなければ不可能な神業。


「クソが!ホントに人間かよテメー!」

 千夏が吐き捨てる。


「お互い様であろう」

 エーデルガッシュは冷や汗を拭いながら、距離を取って構え直した。


 今の攻防は、紙一重などというレベルではない。

 髪の毛一本分のズレが生じていれば、即死していたのはどちらか分からない。


 武の極致に達した二人の戦いは、派手な破壊音とは裏腹に、静寂なる死の舞踏の様相を呈していた。


 膠着状態。

 だが、これはまだ前哨戦。

 真の戦いはここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ