479話 終焉の血戦(4)
おかしい、いくら考えても。
遥斗は不思議だった。
前衛の三人は、この世界において最強レベル。
エーデルガッシュはオーバーロードを体得した神子。
マーガスは未知の金属、オリハルコンを操る戦闘の天才。
アマテラスはクサナギを失っているとはいえ、護符で引き上げられたレベルは600後半。
中衛のブリードは、人族最強クラスの剣士。
るなは、最上位モンスター神獣。
これだけの戦力。
これで——
手も足も出ないのは、異常すぎる。
(そこまでの力があれば……エリアナ姫を使う必要性はあるのだろうか?否、断じて否)
遥斗の思考が、加速する。
記憶の端に、何かが引っかかっていた。
それを——
明らかにしなければ。
「マーガス!お願い!一人で戦ってみて!」
「は?おい、そりゃいくら何でも無茶だろ!いくら天才の俺でも限度があるぞ!」
「お願い!僕を信じて!」
遥斗の目は、真剣だった。
マーガスは——
「ちっ……分かった、分かった!任せておけ!マテリアルシーカーのリーダーに出来ない事などない!見てろ!」
オリハルコンの大剣を天に掲げた。
「アルケミック!」
大剣が二つに分かれる。
二刀流。
両手に、オリハルコンの剣を握る。
「うおおおおおお!アストラリア国王辺境伯ダスクブリッジ家当主、マーガス・ダスクブリッジ!参る!」
マーガスが、突撃した。
もちろん、闇雲に剣を振るうような真似はしない。
武器のしなりを利用したバロック流槍術を応用した剣技。
左右の剣が弧を描き、歪なタイミングと速度で交差する。
しなりによる溜めが可能にする、予測不可能な軌道。
どんなに武芸に秀でていても、初見での対応は困難を極める。
しかも二刀となれば、なおのこと。
完全に意表を突いた剣が、エルミュレイナスに迫る。
しかし——
当たらない。
かわす。
いなす。
逸らす。
全く力を使わない、柔の捌き。
エルミュレイナスは、最小限の動きで全てを、無効化している。
「くそっ……!」
マーガスの剣は、力ではなく技によるもの。
それでも——
悠々とその上を行かれている。
レベルの高さ、違う。
超常的な速度、違う。
圧倒的な技量、違う。
そんなものでは説明がつかない程、エルミュレイナスは優雅に舞う。
いくら斬撃を繰り出そうとも。
しかし、マーガスとてアリアに鍛えられた。
それは技量ではなく精神。
何者にも屈しない、どんな逆境にも立ち向かう。
不屈の精神。
マーガスの剣術が——
変化した。
「オオワシの太刀!」
右の剣が、天から降り注ぐ。
「アラタカの太刀!」
左の剣が、鋭く切り上げる。
クロスフォード流剣術。
エーデルガッシュが使用していた、帝国最強の剣技。
マーガスは見様見真似で、再現していた。
まさに天才の、なせる業。
しかも——
二刀流は、マーガスオリジナル。
奇襲においては、この男以上はいない。
それが、遥斗がマーガスを指名した理由だ。
強さだけではない何か、を持つ男。
普通なら——
いくら何でも、これには反応できないはず。
今回は、違う。
エルミュレイナスは——
切り上げの剣を、下から叩いた。
軽く。
それだけで、マーガスのバランスが崩れる。
「うわっ……!」
自分の斬撃速度が災いして、そのまま転倒してしまった。
「分かった!あの男!未来が視えておる!」
エーデルガッシュが、叫んだ。
彼女はゴッドアイの力で1秒先が見える。
それと、全く同じものを感じたのだろう。
その言葉に——
遥斗の疑惑が、確信に変わった。
(やっぱりそうか……!)
アマテラスの話では——
アマテラスの父、オルミレイアスは未来が視えたという。
弟であるエルミュレイナスにも、その力はあったはず。
ただ——
オルミレイアスは予言のような力だったので、確証は得られなかった。
しかし今、目の前で証明されている。
「アマテラスさん!戦闘に未来視を応用する……可能なんですか!?」
「無理だ!不可能だ!」
アマテラスが、即答する。
「父は……できなかった!未来視は……戦闘には……使えぬ!」
しかし——
エルミュレイナスは、笑った。
「ははははは!できていたぞ?兄は」
「兄は天才だった……未来視を戦闘に応用できる唯一の存在だったのだ」
エルミュレイナスの目が、遠くを見る。
「しかし、王となり……その力は衰えていったがな……子が生まれてからは顕著だった」
アマテラスが息を呑む。
「それは……つまり……」
「そう……お前が生まれたから……兄は弱くなった……お前が……兄を殺したも同然なのだ」
「そんな……そんな事あるはずない!」
「事実だ……受け入れろ……」
遥斗は、完全に理解した。
マーガスのおかげで。
エルミュレイナスが動かない理由。
(未来視を使って……攻撃を読んでいる……)
だから——
下手に自分が移動すると、未来が変わって対応が難しくなる。
そっと動いているのも、その為。
あまり相手を大きく動かすと、未来のビジョンが変わってしまう。
(つまり……動かない動きこそが……最大の構え……)
防御においては、比類なき存在。
だからこそ——
一歩も、動いていない。
遥斗が、叫ぶ。
「エルミュレイナスの秘密が……分かった!」
「役に立ったか?」
「うん!すごくね!」
遥斗がマーガスに目配せする。
「同時に……弱点も見えた……」
その言葉に、全員が反応する。
「動かないからこそ……最強……」
「つまり……自分からの攻撃は、ない」
防御に全振りした能力。
カウンター特化。
「なら……!」
エーデルガッシュが、剣を構える。
「攻め続ければ……いつかは……!」
しかし——
エルミュレイナスは、笑っていた。
「秘密が分かっても意味はないな」
笑っていたが、その眼は冷たかった。
「時間切れだ……」
遥斗たちは異様な気配に気づいた。
周囲を、見渡す。
そこには——
無数のスライム。
エリアナが変化した肉塊。
それが——
遥斗たちを、包囲していた。
前も。
後ろも。
左も。
右も。
全て——
スライムに、囲まれている。
「こ……これ、なんだよ……やばくねーか……」
大輔が、呻く。
「いつの間にこんなに……」
さくらを守るために、るなも唸り声を上げている。
エルミュレイナスが、静かに告げた。
「お前たちは……間違えたのだ。自分達が何をすべきだったのか。その優先順位を」
「エリアナは……増えた。増え続けていた……今なお……」
無数のスライムが、蠢く。
ズルズルと不気味な、音を立てて。
「そして……次はお前たちを贄とする番だ。もう……終わりだな……」
終焉。
それは——
唐突に訪れた。
エーデルガッシュが、歯噛みする。
「くっ……!」
遥斗も——
拳を、握りしめた。
(まずい……これは……本当に……)
スライムは、生きた者を取り込み増殖する。
ここを切り抜けられても、まだ街中にエリアナスライムはいくらでもいる。
取り込まれれば、全て終わる。
「さぁ……どうする?足掻いてみるか?」
エルミュレイナスが、問いかける。
「それとも、終わりを享受するか?」
選択。
しかし——
どちらを選ぶのも、不可能。
「時間は……ないぞ……」
スライムがじわじわと、距離を詰める




