表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第7章 終焉の血戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

467/588

467話 空洞

 無傷。


 青白い金属光沢の肌には、傷一つない。

 蒼い瞳は相変わらず冷徹な殺意を湛え、筋肉質な体躯は躍動感に満ちていた。

 何のダメージも受けていないように見える。


 しかし——


 それは表層だけの話。


 内側は、全く違う様相を呈していた。

 あまりにも強大なエネルギーの奔流に晒されたため、自身を構成する魔力そのものが徐々に、しかし確実に消耗していた。

 まるで砂時計の砂が落ちるように、存在の根幹が削られていく。


 体内を巡る魔力の流れは乱れ、五つの魂が発する波長は不協和音を奏で始めている。


 音もなく。

 だが確実に。

 消失している。


 それでも、神獣ミラージュリヴァイアスをベースに、三人の異世界人とガルモという複数の増幅された命を加算している存在。

 圧倒的な魔力の総量。


 それは大海のように深く、広い。


 余力は、まだ十分にある。

 まだまだ、戦える。

 殺せる。



 遥斗は、冷徹に分析を続けた。

 漆黒の瞳が神人の全身を観察する。


 呼吸のリズム。

 魔力の流れ。


 全てが彼の脳内で情報として処理されていく。


(やっぱり属性の無い純粋な魔力は、エネルギー体に干渉できる……か)


 精霊化状態にあるはずのグランディスに、神人は打撃を打ち込んだ。

 半実体化したもの同士では、物理特性を帯びるのだ。


 物理攻撃は効かない。

 魔法も無意味。

 しかし、純粋魔力なら対抗しうる。


 遥斗の思考は淀みなく結論へと至る。

 感情という雑音が混じらない、純粋な論理の帰結。

 それは圧倒的に正確な回答だった。



 一方、神人もまた勝機を感じ取っていた。


 混沌とした思考の奥底で、五つの魂が同時に同じ結論に至る。

 遥斗のMP、つまり魔力の残量が、すでに限界に近づいているのを感じる。


 先ほどの極大攻撃で、彼の魔力は大きく消耗したはず。

 どれほど強力な攻撃でも、使用者の魔力が尽きれば無意味。


 絶対的なMP差。


 神人は神獣と四つの命を融合させた存在だ。

 魔力の総量は、人間一人とは比較にならない。


 海と湖。

 いかに大きかろうと、その差は歴然としている。


 単純にぶつけ合えば——大きい方が勝つ。

 それが世界の摂理。


 神人の口元が、僅かに歪んだ。

 それは笑みに似た何かだった。



 遥斗が先んじて動いた。

 マジックバックから取り出されたのは複数のポーション。


 ガラス瓶の中で赤い液体が揺れる。


 中級MP回復ポーション——魔力を回復させる貴重なアイテムだ。

 通常、一本でも高価なこのアイテムを、遥斗は惜しげもなく大量に取り出す。


 そして頭からかけた。


 十本同時に。

 文字通り浴びるほど。


 枯渇しかけていた魔力が、まるで干上がった大地に雨が降り注ぐように染みわたっていく。

 ポーションは飲むものであって、浴びるものではない。

 しかし遥斗にとって、それは当然の選択だった。

 時間当たりの回復量を最大化にする結論。



 アイテム士である遥斗の生命線。

 それはマジックバック。


 この魔法の鞄がある限り、猶予を与えればいくらでもアイテムを取り出せる。

 HPもMPも。

 回復は容易。


 消耗戦など、彼にとっては存在しないも同義。


 戦いは物量で決まる。

 遥斗の戦いの概念は、現代戦のそれだった。



 それを肌で感じ、神人が咆哮を上げる。


「グオオオオオオオ!!」


 それは怒りの咆哮だった。

 純粋な憤怒が、音となって戦場を震わせる。


 超速移動。


 神人の姿が消えた。

 いや、消えたと錯覚するほどの速さ。

 あまりにも速すぎて、視認できないだけだ。


 残像すら置き去りにした閃光のような動き。

 空気が裂ける音が連続して響き、神人が通り過ぎた軌跡だけが白い霧となって浮かび上がる。


 加速のポーションを使用している、遥斗の動体視力をもってしても——追いきれない。


 竜騎士の身体能力だけでは、捉えることすら困難。

 黄金の鱗に覆われた遥斗が、必死に神人の気配を追う。


 しかし神人は縦横無尽に戦場を駆け巡り、一定の軌道を描かない。

 予測不可能。

 回避困難。



 牽制のため、遥斗が全ての武装を展開した。


 アダマンタイトのランス——黒糸に操られ、まるで生きているかのように空中を舞う。

 クリスタルシールド——七色の光を放つ透明な盾が、遥斗の周囲を回転する。

 魔力銃——その弾倉には、「ポップ」の呪文によって直接生成された弾丸が装填されている。


 武装が、神人を迎え撃つ準備を整えていた。

 ランスが突進経路を予測して配置され、盾が防御陣を組み、魔力銃が狙いを定める。

 遥斗を中心とした完璧な防御・攻撃システム。


 しかし——どうにもならない。


 神人の速度は、あらゆる計算を超越していた。

 ランスが突き出される頃には、すでにそこに神人はいない。

 盾が防御位置に移動する前に、別の角度から攻撃が来る。

 魔力銃が引き金を引く瞬間には、神人は射線の外。


 圧倒的なまでの速さ。

 対応が、追いつかない。



 さらに——神人が、何かを放った。

 それはミラージュリヴァイアスのスキル「スケイルフィッシュ」。


 今度は鱗ではなく、本物の魚のような形をした魔力の塊。

 青白く発光するそれらは、意思を持っているかのように空中を泳ぎ襲いかかるってくる。

 一匹、二匹、十匹……その数は瞬く間に数百を超え、空を埋め尽くしていく。


 それらは遥斗の武装を掻い潜る。

 ランスが迎撃してもすり抜け、盾が防ごうとしても、回り込む。

 魔力銃が撃ち落としても、数が多すぎる。


 そして——命中した。


 連続着弾。

 炎と光が遥斗を包み込む。

 衝撃波が同心円状に広がり、地面を削り取っていく。


 ドラゴンフォームの堅牢な鱗がダメージを軽減する。

 しかし完全には防ぎきれない。

 鱗の一部が砕け、肌に傷が刻まれる。


 それでも致命傷ではない。

 遥斗は耐えた。


 しかし——それは罠だった。


 一瞬、視界が爆炎と煙で覆われた。

 その僅かな隙に、神人を見失う。

 気配が消え、音が途絶える。


 次の行動は予測出来た。

 予測は出来た、が思考に体が追い付かない。


 スパッ!

 両腕が切断された。


 鋭利な刃が肉を裂く音。

 鮮血が噴水のように噴き出し、空中に赤い霧を作る。


 切断された両腕が、まるでスローモーションのように宙を舞い、やがて地面に落ちた。

 ドサリという鈍い音。


 これでアイテムは使えない。

 マジックバックに手を入れることも、ポーションを取り出すことも不可能。


 神人が、確信する。

 勝った、と。


 だが、遥斗は動じない。


 両腕を失った痛み。

 噴き出す血。

 死に直結する重傷。


 それらを前にしても、遥斗の表情は微塵も変わらない。

 どころか、まるで他人事のように淡々と行動を実行する。


「ポップ」


 呪文が響く。


 焦りも恐怖も、そこには存在しなかった。

 ただ事務的に、必要な言葉を口にしただけ。


 頭上に最上級HP回復ポーションが出現した。


 緑色の液体が入ったガラス瓶が、重力に従って落下。

 そのまま遥斗の頭部に直撃し、中身が飛び散る。


 緑光の粒子が全身を包み込み、瞬時に両腕が再生され始めた。


 まず骨が伸びる。

 白い骨格が虚空から生成され、あるべき形を取り戻す。

 次に筋肉が盛り上がる。

 赤い筋繊維が骨に巻きつき、層を成していく。

 血管が張り巡らされ、神経が接続される。

 そして皮膚が覆う。


 肌色の表皮が全体を包み、完全に元通りの腕がそこにあった。


 指が動き、拳が握られる。

 何事もなかったかのように。


 恐ろしいまでの冷静さ。

 迅速な判断能力。

 咄嗟の機転。


 その全てが、精密にプログラムされた機械のよう。

 感情という無駄なノイズが、微塵も混入していない。


 痛みに歪む顔も。

 恐怖に震える声も。

 死を前にした動揺も。


 何もかもが欠落していた。


 周囲の者たちは、その光景を見て戦慄する。

 あれは人なのか、本当に人なのか、と。


 それは神人とて同じだった。

 遥斗の間合いに入ったまま呆けてしまった。


 遥斗が、再生した両手を神人に向けて翳す。


 その距離、わずか数メートル。

 遥斗の絶対領域。

 逃げるには遅すぎる。


「ポップ、ポップ」


 二連発。


 二つのポーションが、虚空から生成される。

 神人の素早さのステータスを素材にした「加速のポーション」。


 生成した瞬間、その効果は既に発動していた。


 神人の速度が、ガクンと落ちる。

 体が重い。


 まるで全身が鉛に変化したかのような感覚。

 動きがまるで遅い。


 頭の中でイメージする速度と、実際の肉体の反応が致命的に乖離している。

 普通に見れば十分速いが、それでも視認が可能な速度まで落ちていた。


(何だ……何が起きて……)


 混乱。

 答えが出ない。

 理解が追いつかない。


 遥斗はさらに距離を詰める。

 生死を分かつ至近距離。


 漆黒の瞳が、神人の蒼い瞳を真正面から見つめる。

 虚無の瞳。

 まるで深淵を覗き込んでいるかのような錯覚。


 遥斗の意識が、極限まで集中される。


 高難易度生成。


 これまでで最も難しく、最も危険で、最も強力な生成。


「ポップ!」


 遥斗の手に小瓶が出現した。


 その中の神秘的な液体は。


 伝説の回復薬——エリクサー。


 HPもMPも、全ての状態異常をも回復する奇跡の霊薬。


 そして、その素材は——神人そのもの。


 生命力。

 魔力。

 精神力。


 全てが、根こそぎ吸い取られる。


 生きたMPである神人にとって、これは己の存在を吸い取られると同義だった。

 自分の一部が、無理やり引き剥がされていく感覚。


 魂を引きちぎられるような。


 激痛。


 それは、言葉では表現できないほどの痛みだった。

 エネルギー生命体にあるはずのない痛覚。


 しかし体が引き裂かれるような痛み。

 魂が焼かれるような苦しみ、存在が消えていく恐怖。


 全てが同時にそこにあった。


「ア……アアアアアアアアア!!!」


 喚き声が喉から漏れる。


 それは悲鳴であり、慟哭であり、絶叫だった。


 やはり、表面上に変化はない。

 何も変わっていないように見える。


 しかし——


 内部は、半分以上が空洞と化していた。

 エネルギー体としての実体が、ごっそりと持って行かれている。



 遥斗はエリクサーを飲んだ。

 力が体中に染み渡る。


 傷が完全に癒え、疲労が消え去り、MPが満ちる。

 エリクサーを生成するためには、かなりのMPを消費していた。


 しかし——

 全回復。


 完璧な状態に戻った。


 これで、エリクサーをもう一度生成できる。

 神人を完全に消滅させることすら可能。


 神は——絶望していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ