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【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第7章 終焉の血戦編

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464話 神 人

 エレナがシエルに駆け寄る。

 地面に倒れ伏した彼女の傍らに膝をつき、マジックバックからポーションを取り出した。

 最上級HP回復ポーション。

 緑色の液体が、僅かに光を放っている。


「シエル!」


 呼びかけに返事はない。

 意識がなく、気絶したままだ。


 エレナは躊躇なく、ポーションの中身をシエルの体に振りかけた。

 飲ませることは叶わない。

 ならば、外傷に直接作用させるしかない。


 緑の光が、シエルの体を包み込む。

 傷が塞がっていく。

 焦げた皮膚が再生し、呼吸が安定した。


 それでも、目は開かない。


「シエルちゃん……」

 命に別状はない。

 だが、意識の回復には時間を要するのだろう。

 緊張と戦闘の連続がシエルを消耗させていた。


 先ほど押し負けたのも、それが原因の一つ。

 体力が回復しても、戦力として期待するのは酷だった。



 ***



 グランディスは、いや紫電を纏いし戦士は天空を舞っていた。

 雷の翼が羽ばたくたびに空気が震える。


「はぁ!」


 掌から放たれる雷撃が、ミラージュリヴァイアスを穿つ。

 凄まじい轟音。

 電流が白鯨の巨体を駆け巡り鱗を焦がす。


「グギャアアアアアア!!」


 絶叫。


 それは悲痛な、余りにも悲痛な叫びだった。

 神獣の咆哮が戦場に響き渡る。


 遠く、さくらは、その光景に目を背けた。

 両手で耳を塞ぎ、顔を伏せる。


 とてもではないが見ていられなかった。

 中身は違っていても、家族の苦しむ姿を。


 胸が締め付けられる。

 呼吸が苦しい。


(ごめんなさい……ごめんなさい……)

 心の中で、何度も謝罪を繰り返す。


「さくら……」

 大輔の声が聞こえた。

 肩に手を置かれる。


「大丈夫か?無理しなくたっていいんだぞ」

 心配そうに仲間を気遣う。

 その瞳は優しかった。


「……大丈夫」

 さくらは、ゆっくりと顔を上げた。

 開いた瞳に涙が浮かぶ。


「私は……大丈夫……だから」

 震える声。

(ここには……守らなければならない仲間がいるんだ。遥斗君に頼まれた仕事もあるんだ)


 視線が、エルウィラインたちに向く。

 皆、怯え竦んでいる。

 それでも、逃げずに戦おうとしていた。

 彼らを守らなければ。


(この事態を招いたのは……全部、私のせいだから……逃げないよ)

 自分の無力さが、恨めしい。

 もっと強ければ。

 もっと賢ければ。


 こんなことには、ならなかったかもしれない。


(ミラ……)


 さくらは、戦場を見据えた。

 涙を拭うこともせず。

 ただ、真っ直ぐに。


(これで終わらない……そんな予感がする)

 モンスターテイマーの直感が囁いていた。

 まだ何かが起こる、と。



 ***



 ガルモは、怒り狂う。

 ミラージュリヴァイアスの巨体が、地を這う。

 鱗が剥がれ傷だらけだ。


 もはや理性を維持するだけで精一杯。


「オマエラ……絶対に……コロス!!」


 憎悪に満ちた声。

 ガルモが、大きく息を吸い込んだ。

 口内に、魔力が集まる。


 ソニック・ロア。


 破壊の咆哮が、グランディスに向けて放たれた。

 音速の衝撃波が空気を裂く。

 それは目に見えぬ死の奔流。


「くだらんな」

 グランディスが片手を翳した。

 雷は瞬時に壁と成す。

 紫電の障壁はソニック・ロアを完全に遮断した。


 音波と雷が激突し、互いに相殺される。

 爆風が四方に散り、大地を削る。


 グランディスは全くの無傷だった。


「ふん、やはりこの程度か……」


 蔑むような視線。


 ガルモの瞳が、血走る。

 屈辱。

 それは、耐え難い屈辱だった。


「ナラバ……コレはどうだ」

 ミラージュリヴァイアスの鱗が、次々と剥がれ落ちる。

 いや、切り離した。


 青白く輝く鱗に、魔力が注入される。

 それは生命を持つかのように、空中に浮遊し始めた。


 スケイルフィッシュ。


 神獣の鱗を武器と化すスキル。


「グオオオオ!!」


 ガルモが咆哮と共に、無数の鱗が銃弾のように射出された。


 それはもはや、弾幕。

 空を埋め尽くす白い刃が、グランディスを包囲する。


 全方位からの集中攻撃。


 だが——


「無意味だな」


 グランディスが、両腕を広げた。

 全身から、雷が迸る。


 放射状に放たれた電撃が、鱗を次々と撃ち落とす。

 白い刃が、灰と化して消えていく。


 完全なる殲滅。

 力の差は歴然だった。


 しかし、それはミラージュリヴァイアスにとっての好機だった。


 雷を放射しているこの一瞬。

 グランディスの動きが確かに止まっている。


 攻撃による刹那の隙。


 ガルモが、巨体を跳躍させた。

 ミラージュリヴァイアスの全質量を乗せた押し潰し。


 これで終わる!


 しかし、その巨体が吹き飛んだ。


「ギャオォォォォォォォ!!」


 悲鳴。

 ミラージュリヴァイアスの体が、まるで風船のように宙を舞う。

 背中から受けた衝撃は想像を絶するものだった。


 地面に激突。

 大地を揺らす。


「はぁ……間に合ったわね~」

「ええ、何とか」

 マリエラとヘスティアの声が戦場に響く。


 二人はすでに泥から脱出していた。

 そして、攻撃のタイミングを計っていたのだ。


 双皇覇——

 白と黒の魔力の螺旋が、ミラージュリヴァイアスを直撃。


「ぐ……ぐぅぅ……」


 ガルモが呻く。

 もう、動けない。

 体が、言うことを聞かない。


 ダメージが深すぎる。


 視界が、霞む。

 意識が、遠のく。


(オレ……このママ……死ヌのか……?)


 そんなことは、許さない。

 許されるはずがない。


「マリ!もう一撃!」

 ヘスティアが叫ぶ。


「ヘスに合わせるわ~!」

 マリエラも構える。


 二人の魔力が、再び共鳴し始める。


 しかし、ミラージュリヴァイアスが動いた。


 逃げだした?


 いや、違う。


 方向が、おかしい。


 敵から離れるのではなく——何かに向かっている。

 それは三人の異世界人。


 誰も、何が起こるのか理解できない。


 ミラージュリヴァイアスはレゾの前で止まる。

 大きく口を開けた。


「……待てよ……おい……」

 レゾの声が震える。


 恐怖。

 それは、純粋な恐怖だった。


「やめてくれ……!」


 しかし——

 レゾはそのまま飲み込まれた。


「ギャアアアア…………」

 絶叫が途切れる。


 次は、ヴァイス。

 足が動かない彼女は、逃げることすらできない。


「いや……いやぁぁぁ……」

 涙を流しながら、懇願する。

「助けて……誰か……」


 続けて、ヴァイスも飲み込まれた。


 最後は、ルドルフ。

 自動人形と化していた彼は、もがくことしかできない。


 三人とも——

 ミラージュリヴァイアスに捕食された。

 生きたまま。


 誰も、言葉を発することができなかった。

 あまりに、あまりに異常な光景。


 エレナが、呆然と立ち尽くす。

 ヘスティアとマリエラも、言葉を失っている。


 その時、ミラージュリヴァイアスの体が、光り始めた。

 白い光。

 それは、神々しいまでの輝き。


 巨体が、光の球へと変化していく。

 形が崩れ、輪郭が曖昧になる。


 やがて、完全な光球と化した。

 直径十メートルほどの眩い光の塊。


 それは宙を漂い、ゆっくりと移動する。


 向かう先はグランディス。

 光球が、彼の目の前で停止した。


 そして縮小を始める。

 どんどん小さくなる。


 やがて、それは人間大のサイズになった。


 光が収まり、中から現れたのは——


 人影。

 それは、人型をしていた。

 しかし、明らかに人間ではない。


 瞳は深い蒼。

 まるで海のような、吸い込まれそうな色。

 肌は金属のような光沢で、神秘的な輝きを放っている。

 額には、小さな角。


 そして顔は異形。


 ミラージュリヴァイアスが人型を成した姿だった。


 三人の異世界人の力を取り込み——

 進化したのだ。


 否。


 神化したのだ。


 もはや神獣ですらない。

 モンスターと人の境界を越えた存在。


 いわば——


 神人。


 そう呼ぶべき、新たな生命体だった。



 神人の蒼い瞳が、殺意を持ってグランディスを見据える。

 口のような亀裂が、僅かに動く。


「……さぁ殺し合おう」


 声は、静かだった。

 しかし、その一言には計り知れない力が込められていた。


 空気が、震える。

 大地が、軋む。


 圧倒的な存在感。

 それは、まさに超越者の顕現に他ならなかった。

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