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【完結】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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102話 神獣の謎

挿絵(By みてみん)

 巨獣の攻撃の余波で、激しい強風の吹き荒れる中、美咲は涼介と並走しながら飛んでいた。二人の姿は、まるで空を翔ける二羽の鳥のようだった。


「涼介君どうする?攻撃が強すぎるわ、皆そんなに持たない!」

 美咲の声にはひっ迫感が滲んでいた。髪を靡かせながら、彼女は懸命に涼介の表情を読み取ろうとする。


 涼介の瞳に、決意の輝きが宿る。

「いや、勝機が見えた。アレをやる、合わせてくれ」

 その言葉の意味を察した美咲は、何かを言いかけた口を閉ざした。彼女は一瞬の躊躇の後、強く頷く。

「わかった。任せて」


「出来るだけ奴の注意を引き付けてくれ」

 涼介の声が風を切る。

「やってみる」

 美咲は涼介の言葉を信じ、全力で答える。彼女の周りに魔力が渦を巻き始め、見えない力に空気が歪んでいく。

「焔よ!我が敵を焼き尽くせ!ファイアブリッド!」


 美咲の詠唱が谷間に響き渡る。今度の詠唱には、いつもより強い魔力が込められていた。

 無数の炎球が、まるで流星群のように巨獣に向かって飛び交う。一つ一つの炎球は、通常の倍以上の大きさで、その威力は目に見えて増していた。赤と橙の光が交錯する様は、青空に無数の小さな太陽を散りばめたかのようだ。


 ミラージュリヴァイアスの注意が完全に美咲に向く。巨大な目が、炎を放つ彼女を捉えた。その瞳は、怒りに我を忘れているように見えた。


(上手くいった...!涼介君お願い...)

 美咲は次の魔法の詠唱を始めながら、涼介の動きを待った。彼女の攻撃は、あくまでも前哨戦。真の勝機は、涼介の次の一手にかかっているのだ。


 地上では、さくらが大輔に詰め寄っていた。その表情には、普段の冷静さは微塵も残っていない。

「あの子何かおかしい!」

「あの子ってアレか!あのクジラの事言ってんのか?」

 大輔は汗を拭いながら答える。

「まぁ陸を泳ぐなんておかしいとは思うが...」

「違う!そうじゃない!」

 さくらの声が震える。

「話を聞いてみないと!」

「聞くって...アレにか?」

 大輔の視線が巨獣に向けられる。ミラージュリヴァイアスは、涼介たちの攻撃に苛立ちを募らせ、巨体を激しく揺らしていた。吹き飛ばされた岩塊が、まるで隕石の雨のように辺りに降り注ぐ。


「さくら様はモンスターの声を聴けるのですね?」

 デミットが突如として口を開く。

「道理でルナフォックスの幼体を、ペットのように連れまわせるわけです」

 彼は何かを理解したように、うんうんと頷いている。

「るなの事知ってんのかよ」

「はい、幼体とはいえルナフォックスも神獣として数えられる1柱ですから」

「なっ!」

 大輔は思わず声を上げた。足元で丸くなっている銀色の子狐を見つめる。この可愛らしい存在が、目の前で暴れる巨大な白鯨と同じ系譜に連なる存在だという事実に、背筋が凍る。


 頭の中で記憶が走馬灯のように駆け巡る。最初のダンジョンへ向かう途中、深い森で道に迷った時のこと。偶然にも他のモンスターに襲われていた子狐を、さくらが助け出した。それが「るな」との出会いだった。練習用のモンスターテイムのつもりが、いつしか強い絆で結ばれるようになった。


 大輔は深いため息をつく。今まで単なるペットだと思い込んでいた存在が、実は神獣の幼体だったとは。美咲の魔法に匹敵する強力なスキルを、まるで息をするように使いこなしていた理由も、今になって理解できた。

(大きくなったら、アレになるのか...)

 遠い眼で、大暴れしているミラージュリヴァイアスを見つめる。


「そんなことより皆を止めなきゃ」

 さくらの声が震える。今すぐ何かをしなければ、という切迫感が彼女を突き動かす。


「いや、どう考えても今は無理だろ!」

 大輔の言葉に、さくらは動揺を隠せない。

「じゃあどうすれば...」

「チャンスを待ちましょう」

 デミットが静かに割って入る。

「きっとチャンスはあるはずです」

 さくらは口を閉ざし、るなを優しく抱き上げた。

「るな、お願い、私あの子と話したいの」

「きゅーん」

 銀色の狐は困ったように鳴く。その瞳には、主の思いに応えたいという願いと、及ばぬ力への歯がゆさが混じっていた。


 その時、ミラージュリヴァイアスの巨大な背に人影が降り立つ。涼介だった。

「涼介!」

 千夏が駆け寄る。白い鱗の上で、二人の姿が小さく踊るように見える。


「千夏、お前の力が必要だ、頼む!」

 涼介の真剣な眼差しに、千夏は一瞬頬を染める。しかしすぐに決意の表情に変わった。

「うん!わかった!任せて。で、何すればいいの?」

「振来覇を俺に撃ってくれ。タイミングは合図する」

 意外な要求に千夏は驚いたが、涼介への絶対的な信頼が躊躇いを打ち消す。


 巨獣の角が再び赤く染まり始める。美咲の執拗な攻撃に業を煮やし、二度目のクリムゾン・ホーンレイを放とうとしていた。

「今だ、千夏!」

「振来覇!」

 千夏は巨獣の背を踏みしめ、その衝撃を全身に巡らせる。下半身から上半身へ、そして腕を伝って両手から放出される気の波動。その全てを涼介の背中に打ち込んだ。

 背中に打ち込まれた衝撃波は、涼介の体を伝って剣へと集中していく。まるで雷が避雷針に引き寄せられるように、全ての力が一点に収束していく。


「ブレイブオーラ!!」

 涼介の雄叫びと共に、オーラが爆発的に放出される。空気が震え、周囲の景色が歪むほどの力の奔流。勇者の切り札、全ての能力を飛躍的に高める力が解放された。


 涼介は真っ赤に燃える角めがけて飛翔する。

「美咲ぃぃぃぃ!」

 待ちかまえていた美咲の詠唱が響く。

「雷よ!天より降り注げ!サンダーボルト!」

 巨大な雷光が涼介を包み込む。しかしそれは攻撃ではない。涼介は仲間の力を自分の力に変える勇者のスキルで、雷の力を剣に宿していく。

「サンダーァブレイドォ...」

 剣が黄色の光を放ち始める。

「スラーーーーシュ!!」


 三人の力が一つになった渾身の一撃が、赤く輝く巨獣の角を捉えた。完全な切断には至らなかったものの、深い切れ込みが刻まれる。その傷から、制御を失った魔力が激しく迸る。

 涼介の斬撃と自身の暴走した魔力の相乗効果で、ミラージュリヴァイアスの角は粉々に砕け散った。

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