第7話:初体験
正直、俺の初めてを誰にあげるかなんて考えている暇は無かった。
とにかく今はお腹の奥が疼いて仕方がなかった。
もう本当に誰でもいいから欲しい。
「アリア、ちょっと早いよ! まってー」
大都会の夜空を俺は駆けていく。
道行く人やリリーを無視して住宅街へと突っ込む。
正直今は他のことに構っている場合ではないのだ。
自分でも頭がおかしいと思う。
中身は男なのに男を追い求めてしまっているなんて馬鹿げた話だ。
ただ今は違うのだ。
この身体では行為は食事となる。
人間同士の性行為とは全くもって訳が違うのだ。
なんて言い訳を俺は自分に言い聞かせながら行く。
今は真夏だ、窓を開けて寝ている男もどこかにはいるはず。
電信柱にぶつからない様にぎりぎりを攻めて次の路地へと入っていく。
もう少し高く飛んでもいいがあまり遠いと窓が開いているかどうか見えないのだ。
そしてもう少しだけ進むとぼろぼろのマンションにたどり着いた。
二階の角部屋の窓が開いていてカーテンが揺れているのが見えた。
「やったぁ」
出した声に自分自身でぞわっとした。
なんというか今の声にひどくメスっぽさを感じてしまった。
甘い発情しきった声だった。
もう俺はオスとして生きていけないのか……?
しかしそんなことも考える間も無く、身体は勝手に窓へと向かっていた。
窓枠に手を掛け、部屋の様子をうかがう。
見ると内側の窓のすぐ下に男が寝ていた。
「うわぁ!」
喜びが身体の奥からふつふつと湧き上がってくる。
しかし慌てるのはダメ。
「もう、早いわよ」
「うわ、リリーさん」
背後には若干息を切らせたリリーがいた。
「まあいいわ。でも良かったわね獲物がいて」
「ふふ、本当ですよ。まずは魅了ですよね?」
「そうよ、やってみな」
俺は反対側に降り立ち男の顔をまじまじと見る。
どうやらぐっすり眠っていて俺たちに気が付いた様子はまるで無い。
悪い寝相で飛び出した腕や足に気を付けながら近付く。
「んっ……」
この男は普段何をしているのだろう。
年齢は見た感じ三〇代前半、髪には若干の白髪も混じっている。
しかし凄いのはこの筋肉だ。
血管が浮き出たごつい腕に俺はかっこいいと思ってしまった。
お腹の奥がきゅんとなるのを感じた。
「はぁ……はぁ……」
息遣いが荒くなっている気がする。
興奮がやばい。
もう俺ですらこの身体を止められない。
背中の尻尾がうねうねと喜びの舞を踊っているのをやけに他人事に感じた。
「じゃあ、よろしくね。おっさん」
手のひらを男の顔に覆いかぶせるようにかざす。
だんだんと暖かくなってきて、そして――
♂→♀
「うぅ……」
「もういい加減立ち直りなさいよ……」
河原の階段で俺は泣いていた。
凄く凄く後悔している。
行為は物凄く上手くいった。
俺はサキュバスとして生まれ持った天性のテクニックで男を喜ばせた、喜ばせて、しまった……。
「うわーん……」
思い出すだけでもう嫌だ。
さっきまでの俺は我を失っていた。
それがどうだ今一度冷静になってみれば!
最悪だ、最悪だ……。
「ま、まあ、とりあえず卒業おめでとう……」
「……」
なんもうれしくねぇ……。
お腹の中には未だにさっきの感触が残ってるし、うう、きもちわるい……。
「と、とりあえず帰ろうか……? 帰ったら美味しいもの食べさせてあげるから、ね?」
「……」
行為に慣れる日は果たしてくるのだろうか、いや慣れたらそれこそ終わりだ。
そこまでいったらもう後戻りなんてできない、いや、もう考えるのやめよう、具合悪くなる。
「……帰りましょ、っか」
あー、美味しいごはん楽しみ楽しみ!
楽しみだなー。




