〈二三話〉外神興子(一)
ブックマークや感想は執筆の励みなりなります(46)。
「調査隊船団は来年二〇二九年一月三日に呉基地から出向、二三日に新大陸近海に到達します。三日間の航空偵察を行います。一週間以内に現場指揮官の判断で上陸地点のポイントを決定し上陸を決行。上陸開始から一二時間以内に設営隊が上陸、基地設営を行います」
官邸で第三次調査の最終確認会議が開かれていた。出席メンバーである防衛省や民間から関係者が集まっていた。
「二八日から調査チームが活動を開始。なお上陸する調査チームの指揮は外神興子博士に一任されます」
出席者の視線が一人に注がれる。周りがスーツや制服ばかりなのに対し、黒のジーンズにシャツの上に白衣という場違いな服装をしている女性、外神興子が右手を挙げピアノを弾くように指を動かした。
九年前、混乱を通り越し混沌した状況の原因を国民はもとより政府が知りたかった。ありとあらゆる分野の研究機関に事態の説明や調査を依頼したが、研究機関の全てが今回の原因を特定できなかった。早い話がお手上げの状態だった。その際、情報庁がネット上である物を発見した。それは「神隠しとパラレルワールド」という題名の一つの論文だった。
『パラレルワールド。アメリカの哲学者ウィリアム・ジェームズが提唱した「多元宇宙」を発端に、SF小説において作られた考えがパラレルワールドである。一般的なパラレルワールドでは我々が存在し認識している宇宙とは別に、無数の宇宙が存在しているというものだ。さらにそれらは少しずつ違う点があるというのも定説である。我々の住む地球において人間は五本の指だが、六本ある地球もあるということだ。
これまでパラレルワールドを仮定するならば、一種のホテルと想像すれば簡単だ。我々の住む空間は部屋であり、当然ホテルには無数の部屋がある。しかしこれら部屋一つ一つ内装が僅かに違う、壁紙の色、照明の色、ベッドの位置や角度。そしてこれら部屋を区切るのが壁でありドアといった空間・異次元・次元の壁である。これがパラレルワールドのよくある説明だ。
地球上には人種も文化も決定的に違うのにも関わらず、日本の神隠しに似た伝承や伝説が無数に存在する。同時に地球の至るところに他国・他民族より群を抜いた高度な文明を持っていた国家・民族が多数ある。メソポタミア文明に出てくるシュメール人やマヤ文明、その他の国家や民族の中心には共通しているのが、段階を踏み文明を築いたのではなく突如としてそうなったことだ。
ここで我々のいる部屋の隣や向かいでもいいが、高度な文明を持った人間がいるとしよう。そしてその人間が我々部屋にやってきたら? その結果が古代の高度な文明を築いていた原因だとは考えられないだろうか。
パラレルワールドは複数の定義があるが、その中には我々と限りなく同じ宇宙がいくつも存在しているが、ほんの少しだけ違うというものがある。わたしは夏、暑い日はいつもポニーテールにするが、もう一つの宇宙にいる私は一ポニーテールではなくツインテールにしている。そもそも髪自体が短い、ひょっとすれば角刈りや坊主のわたしもいるかもしれない。このように似ているが似ていないという宇宙が無数にあるというものだ。
髪で例えたが、これを生物で考えられないだろうか? エジプト神話に出てくる体は人間だが頭が犬のアナビスが繁栄している地球。ローマ神話の翼が生えているペーガソスが普通の馬として走っている、飛んでいる地球。鬼や妖怪が繁栄する日本。宇宙人に侵略される地球。
神話や伝説に出てくる想像上の生物は別の地球には普通に存在しており、少数が我々のいる地球に迷い迷い込んだが繁殖できなかったために、死に絶えた故に伝説となったのではないか。他にも魔法や魔術、サイキックなどは人間の潜在能力であるが、科学文明の発達により人間自身が退化したため使えない、というのがある。
だが潜在能力などではなく、〈使える〉種と〈使えない〉種とは考えられないだろうか。どちらが最初の住人かはわからないが、どちらかが別の部屋からやって来て繁栄した結果が現状であり、魔法やサイキックが非論理的という烙印が押されているに過ぎない。極端な話、我々人類が古来より絶対的な力を持つ“神”という存在すらも、別の地球・世界ではありきたりな存在なのかもしれない』
この突拍子もない論文を書いた興子自身もまた突拍子もない経歴で、三歳の時に両親が交通事故で失い一五歳まで養護施設で過ごした後、高校に進学せずに飛び級で大学に入学。専攻は物理と化学、成績は常にトップで在学中に十以上の博士号を取得し、主席で卒業した後は最年少で名門大学の物理教師になった。
在学中に興味深い論文を発表する一方、趣味でネット上に都市伝説まがいの論文を発表していた。その数は現在分かっているだけでも四百以上、その中の一つが「神隠しとパラレルワールド」だった。
今話はちょくちょく修正を・・・入れると思います。
小修正 11/22 11/23 11/29 12/3 1/11
中修正 3/5 5/7 10/21 1/18
大修整 5/1




