〈一三話〉如月恵美
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「おい!『新大陸への干渉決定 日本開国』の見出しで今すぐ号外出せ!!」
「号外じゃなくて速報ですよ、編集長」
「そんな細かいことなんていい、さっさと号外だ、号外!」
「はい、はい」
常にドーナツを片手に持ってそうな太ったシェリフ体系の編集長が怒鳴る。その怒鳴り声には慣れている部下であり記者の如月恵美が生返事する。ラップトップを操作し作り置きしておいた記事をネットへアップロードする。
恵美の勤めている「デジタルメディア社」は百円から購入できるネット新聞を販売している。日本に限らず新聞やテレビと言った既存メディアは衰退にあったが、依然として社会に与える影響力は十分あった。だが八年前を期に日本の既存メディアは壊滅的ダメージを受けた。
経済破綻による広告主の減少に急激な人手不足により、ハードワークな新聞配達する人間はいなくなった。いまの時代、同じハードワークでも遥かに条件の良い仕事はいくらでもある。元々人気がなかった新聞配達員という職種は自然と消滅した。
既存メディア各社は売り上げの急落原因を直視せず、売り上げが落ちたのは現場が悪いからだ、ディレクターや記者たちに更なるノルマと責任を押し付けた。当然そんな横暴に嫌気を差したベテランディレクターや記者たちは次々と辞めていき、本当に内容が落ちていった。
そこで急成長したのがネットメディアだ。
情報はネットで十分だという風潮が定着し、その中で急成長したのが大規模な設備と人員を必要せず、パソコンさえあれば作れるネットラジオ・テレビ・新聞だ。既存メディアよりも数が多い上、自分好みのを安価にいつでも購入できることから市場は急成長した。
また既存メディアから流失した人材は全てネットメディアへと流れていき、既存メディアの質が下がる一方でネットメディアは右肩上がりで質が上がっていった。既存メディア各社もようやく需要が移ったことに気付き、ネットへの進出を本格化した。だが時すでに遅し、だった。いまや日本のマスコミはネットメディアへとシフトしていた。
既存メディアはもはやデッドメディアの一歩手前であり、立場は逆転している。デジタルメディア社といった最初からネット新聞に力を入れている各社は、絶えず記事を出し続けており会社によっては一日で五〇〇もの記事を出すところもある。恵美の書いた記事のアップは数分で終わった。「終わりましたよー」
「ああ」
先程とは逆に今度は編集長が生返事をした。いつものことらしく恵美は気にも留めずに二時間後が締め切りの記事をリズムよくキーボードを叩く。記事の内容は『日本、開国へ向かう』と書かれている。
『日本初の国民投票は投票総数五五〇〇万票、賛成票四〇六〇万票、反対票一四四〇万票の結果、日本は新大陸への干渉することを国民投票で決定。「これにより日本は我々同様に第二地球へ来てしまった我々(日本人)は五年以内には大陸の住人と接触することになるだろう」と政府高官は語った』
画面から顔を上げ恵美は目をもむ。八年前、日本は政府のいう第二地球へ来てしまった。恵美はその頃まだ一五歳の中学三年生で、受験を前に勉強に励む中学生だった。最も恵美が勉強に励んだかというと違う。恵美は小さい時からそれこそ自分の足で立てるようになってからは、とても活発に動き回っていた。活発なのは体だけではなく性格もそうだった。
普通は嫌がりそうなことも率先してやり、小・中と学級委員を務める傍ら陸上部に所属していた。恵美が受験勉強をしなかったのは陸上で推薦入学が決まっていたからだ。同級生が受験勉強に忙しいなか恵美は一人で楽しみながら走っていた、同級生に勉強を教えたりもしていた。
恵美の家は農家で主に米を作り生計を立てていた、自分たちで食べるように少しだけ野菜も栽培していた。だから両親の仕事がなくなって金銭に困たり、飢えることも恵美は体験しなかった。生活事態は変わらなかったが、恵美の周囲環境はガラリと変わった。朝起き朝食を食べ両親に「行ってきます」といい、近所に住む同級生と合流し電車に乗り学校まで通う。
そんな光景が変わらず続いた、ほんの少しだけ・・・・。
まず恵美を襲ったのは恵美自身ではなく周りだった。恵美は活発な性格で恵美の両親は手を焼いた。小学校に入ってから男女分け隔てなく友達を作り、高校に入るころには数えきれない友達を作った。外資系とその関係会社は潰れ新しい仕事のため次々と恵美の友人や同級生たちは教室から姿を消し、二週間後に教室に残っていたのは恵美を含め六人程だった。
引っ越していった友人たちと最初こそ連絡を取り合っていたが、次第に着きづらくなり最終的には完全に途絶えた。しばらくして人伝で恵美は知ったが無理心中をした友人が何人かいたと聞いた。暴動や強盗に殺人、些細なことで様々な理由で大人子供関係なく大勢死んだ。
まだ一五歳だった恵美そして平和な時間を過ごしてきた人間には、とても直視できない残酷なことが無数に起こったのだ。全国の殆どの学校は一月経たない内に休校になり、高校生はもう子供としてではなく労働力として見られた。高校生の嫌がるテストは全てなくなった変わりに、大人同様の労働力として求められ、恵美は両親の農業を手伝うことを選んだ。
テストに出てくる問題について文句を並べる。
あの先生が規律にうるさいを友人と言いあう。
コンビニによりお菓子屋や飲み物を買い飲み食いしながら歩く。
同級生であの男子が好きだの恋バナにキャーキャー言いながら話す。
無意味にスマートフォンをいじり芸能人や有名人のツイッターを見て回り、くだらないツイートや動画を見る。
おはよう、また明日。
そんな一つ一つの日常が非日常へと変わった。
恵美自身も親の畑を受け継いでそのまま農家になるとばかり思っていた。だけど友人との付き合いがなくなり、恵美は変わりに農業の合間にネットを徘徊した。それが三年続いて紆余曲折あって一八の時に今いるデジタルメディア社に記者として就職した。
両親は変わらずに農家をしている。「はあ、おなか減ったなー」時刻は十一時半、あと三十分でお昼だ、と恵美は記事を書きながら考えていた。
正直、今話ナイワー。納得イカンワ―眠イワー。
小修正 12/9 1/14 4/12
中修正 10/13 11/31 11/15 1/8 3/16 4/13 4/16 4/26 5/1 6/4 7/9 9/7