〈一四話〉八上光成
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「貴官には近々発足される新大陸調査隊に行ってもらう」
「自分が、ですか?」
白髪が目立つ基地司令の言葉に正面に立っている八上光成一等陸曹は困惑した声を出した。名前とは裏腹にニメートル近い身長とがっしり体格、白い肌に加え彫が深く金髪碧眼の容姿は白人と言えばそのまま通る程だ。それもそのはずで光成の父親は元米海兵隊のアメリカ人だ。その父の血を色濃く引いている。
沖縄に赴任していた際に旅行に来ていた母と出会い、三年の遠距離恋愛の末に結婚した。結婚してからは海兵隊を辞め日本に移住し、横須賀で在日米軍相手の料理屋を開いた。メニューは日本料理だが大半は本国つまり故郷アメリカ料理を売りに開いた店は当たり、光成が中学に上がる頃には支店を出した程だった。
父親は孤児院で育ちのため、家と呼べるものは海兵隊ぐらいしかない。そのため光成と弟の和樹もアメリカ国籍こそ持っているがアメリカには一度も行ったことさえない。また家庭でも日本語だったため光成も和樹も英語は喋れない。
高校生の頃はその体格を活かしてバスケなどの部活をやり、それなりの学園生活を謳歌していた。そして卒業も近づき就職か進学かを悩んでいたのが八年前。そう八年前を境に大きく変わった。父は例に漏れず忽然と消え、最初は必ず帰ってくると待っていたが事態は待ってくれなかった。料理屋は殆どの顧客が米兵だったため、父親同様に米兵が消えすぐに経営が悪化した。
もっとも経済崩壊で遅かれ早かれの結果であっただろうが。実質的な経営者になった母は支店を売ることは決めたが本店、父親と最初に開いた店は頑として売らないことにした。母の実家や友人たちは維持費のかかる店を売ることを勧めた、売ればいくらかの足しにはなるからだ。
だが母親の意思は固かったし、光成と和樹は店については何も言わなかった。夫がいきなり消えて母親は二人がいたからこそ正気でいられたのだ、そんな母から店を取り上げたら何かが切れる、そう感じていたからだ。そこで少しでも家にお金を入れようと思い、ちょうど入隊案内の葉書が来ていた自衛隊に入った。
本来なら入隊して最初の一年は基礎を習うが、暴動などが多発して自衛隊も治安維持に駆り出されていた。そのため教育期間は半年に短縮され、光成も入隊して半年後には治安出動に参加した。幸い出動した全てで武装していたが奇跡的に一回も発砲する場面に遭遇しなかった。最近は訓練だけでのんびりとした空気のはずだっだ、今日この時までは。
「志願制だと聞いていますが・・・・」
「わたしもそう聞いている」
「ではどうして自分が?」
「上の方から貴官を指名したのだ、それも昨日急に」
「理由などは」
「いや聞いていない。ただ近内に転属命令を出すとだけいっていた」基地司令も困惑で答えた。
「断る、ということは・・・・」
「わからんが、昨日聞いた感じでは決定事項に近いだろう」
少し話したあと光成は指令室を後にた。屋外に出たちょうどその時にポケットに入れていた携帯電話が鳴る。電話の相手は弟である八上和樹と表示されていた。
「はい」
「あ、兄ちゃん。今大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
しばらく会っていない弟の声はいつも通り元気そうだった。売店(PX)の外にある椅子に腰をかけてお互いの近況報告を短くした、そして自然と話は新大陸になった。光成は弟の声のトーンで何かを察して切り出した。
「それで、何か聞きたいか用があるんじゃないか?」
「母さんがね、口には出さないけど兄ちゃんがその新大陸に行くんじゃないかって心配してる」
「・・・まだわからない。ああ、それと二、三週間くらいしたらまとまった休暇が取れそうだ。だから久々に家に帰るよ」虫の知らせというやつかな?と光成は思いながらワザとらしく話をそらした。
「え、本当」
「この所は平和続きだからな。母さんは家にいないのか?」
「うん、母さんは店に出てる。最近また近くに託児所が出来て大忙しだよ」
数年前から再び店を開き、今は幼稚園や託児所の食事を作っていると前に聞かされていた。
「そうか」
少し話した後、電話を切った。三日後、光成の元に転属命令が届いた。
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