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金糸雀古城殺人事件8

「相続権利についての話が一切書いてないじゃない!私たちの誰が、どれだけ貰えるの!?」

「まぁまぁ、田村さん落ち着きましょうよ」城山が感情的になる田村を落ち着かせる。

「うるさいわね」

「お集まりの皆様、夫が遺した言葉はこれで終わりとなります。相続については法律に則って決めさせて頂きたいと思います」藤子が締めくくろうとする。

「待って、私は納得いかないわ。絶対に他にもあるはずよ。気が済むまで探させてもらってもいいかしら?」

「ええ、どうぞ。お部屋も用意してあります。食事の用意もありますので、使用人の紅子たちに申して下さいますようお願いします」

藤子がその場を締めくくると、使用人に田村達を案内するように目配せする。それに伴い、紅子達は一人ずつ相続権を持つ三人を案内し始める。食堂には鏡花達三人の他、藤子と洋平がいる。

「母さん、もう行っていい?」

「いいわよ。今日はどうするの?」

「出かけるよ。夕方には戻ってくる」

「わかったわ」藤子がそう言うと、洋平は扉の前で鏡花達に会釈をして出て行った。

「皆ごめんなさいね。こんな感じになってしまって」

「いえ、私達は大丈夫です。それより、その遺書と思われる手紙を見せて頂けませんか?」

「ええ、いいわよ」藤子は鏡花に手紙を渡す。

「……………………」鏡花は何も言わずに手紙をじっくりと見続ける。

「何か気になることでもあるんですか?」小春がそう聞くと、

「はい。気になります」

「何がだ?」

「取り敢えず、お部屋の方に戻りましょうか。その時にお話しします。あっ、藤子さん、これメモさせて頂いてもよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」鏡花はメモ帳を取り出し遺書の内容を写す。

「藤子さん、ありがとうございました。戻りますね」鏡花は手紙を藤子へ返すと、乃木と小春を連れて食堂を後にしようとした。

「あっ!一つ聞き忘れました。砂糖を取り扱うような場所がこの家にはあるんですか?」

「そんな部屋は無いと思うけど…。夫の万斉は甘いものがそこまで得意ではなかったから」

「そうですよね。ありがとうございました。行きましょう」鏡花達は食堂を後にする。


「絶対に何かあるはずよ」

「田村さん、何しているんですか?」

「はっ!」田村は後ろを振り返る。振り返ると遠山が扉にもたれかかっていた。

「あら、遠山さんだったかしら。何か?」

「いえ、たまたま通りかかっただけですよ」

「たまたま?ここは万斉さんの部屋で『金糸雀の間』よ。あなたも何か探しに来たんでしょう?」

「察しがいいですね。俺もあの遺書には納得がいっていないんでね。何か他にもあるんじゃないかとこの部屋を覗いたんですよ。そしたら、先客がいましてね」

「そう。でも残念ね。私がザッと探したところでは特に何も見つからなかったわ。どうするかしら?あなたも探す?」田村は不敵な笑みを浮かべている。

「俺を試してるんですかね?止めませんか?そういうの」

「あら、なんのことかしら?」

「そうですか…そうですね、あなたを信じましょうか。俺は部屋へ戻りますよ」遠山は『金糸雀の間』から出て行った。

「絶対見つけてやるわ。万斉さんの遺産といえば数十億にもなる。分けたとしても一人数億にもなるわ」


「鏡花、何がそんなに気になってたんだ?」

「最後の文ですよね?」

「ええ。確かにそれが最大の疑問点ではあります」

「砂糖庫が気になるよな。藤子さんは無いって言ってたけど、もしかしたら藤子さんの知らないことがあって、万斉氏は隠し事でもしてたんじゃないのか?」

「つまり、乃木さんは砂糖庫が藤子さんの知らないどこかにあるかもしれないと思うのですか?」

「まぁ、可能性の一つだけどな」

「お前の意見を聞かせてくれよ」

「私はまだ見当もつきません。なので、それについて言及はできないのですが……」

「ですが?」

「鏡花さんは他に気になることがあるんですか?」

「そうですね。万斉氏は相続人として別に三人の人物を指定しています」

「それは、仲が良かったからじゃないのか?」

「確かに。しかし、遺産が何かもわからないし、どうやって分けるのかもわかりません。それに、遺産を得るに値する人間がいない場合私の遺産は全て国に寄付することとする、っていう文言も気になります。万斉氏はなんらかの方法で遺産を得るに値する人間を見極めようとしたはずなのに、その手段がどこにも記されていません。これではどうすればいいのかもわからないです」

「確かにな。じゃあ、万斉氏はそのなんらかの方法を示してたのか?」

「恐らくはそうだと思われます。それがあの遺書なのか、それとも別の方法で示されているのかはまだわかりませんが……」


「植物園?こんな部屋があるとは。流石、万斉さんだな。でも、あなたの遺産は俺が貰いますよ」


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