金糸雀古城殺人事件9
『文鳥の間』
「なーんか、あの相続人たち一癖ありそうな人達だよな。特に田村って言う人なんか遺産に対する執着心が異常だよ」
「そうですよね。遺産目的がバレバレですよ」
「無理もないけどな。久方万斉の遺産ってなると数十億にはなるんだろ?」
「そうかもです。ところで鏡花さん先程から何を見られてるんですか?」
「あっ!これですか?」鏡花は驚いたように顔を上げる。
「ごめんなさい、集中してましたよね…」
「いえ、大丈夫ですよ。絵の横に飾ってあった本です。鳥類図鑑のようですね」
「図鑑なんて見てどうするんだ?」
「いえ、ただの興味本位です」鏡花は図鑑を閉じ、元の場所へ戻した。
「鏡花さん、これからどうしますか?」
「うーん、相続人の方々に万斉氏についてお聞きしに行きましょうか」
「そうですね。それがいいと思います」
「では、早速行きましょう」
「あ、待てよ。それぞれの部屋とかわかるのか?」
「あっ、そうでした。藤子さんに聞きに行かないとですね」
鏡花達は『文鳥の間』を出て一階へ向かう。その時、上の方から誰かの叫び声が聞こえた。
「だ、だれかー!!」
叫び声が聞こえるや否や鏡花は走り出す。
「おいっ!鏡花!」
「乃木さんと小春さんはここにいて下さい」そう言うと鏡花は階段を駆け上がって行く。
「ここにいろって、んなわけにはいかねーよ。小春ちゃん!」
「はい、わかってます」乃木と小春も鏡花の後を追う。
「どうしたんですか!?」鏡花が3階に着くと、使用人姿の女性が部屋の前で腰を抜かしていた。
「紅葉さん、何があったんですか!?」
鏡花が紅葉に近寄り何があったのか聞くと、紅葉は震える指で部屋の中を指す。鏡花は部屋の中へと恐る恐る入る。部屋の中はガラス張りの壁で二つに仕切られていた。
「そ、そんな…」鏡花は言葉を失い、思わず目を逸らす。
「鏡花さん何があったんですか!?」
乃木と小春が追いついて来た。
「乃木さん!小春さんを止めて下さい!お二人とも入らないで下さい!」
乃木は小春を止める。
「乃木さん、警察に連絡を。人が亡くなってます。急いでください」
「わ、わかった」
「それと、後から来る人達も絶対に部屋の中を見せないで下さい」
鏡花は一通りの指示をすると、もう一度凄惨な現場に目を向ける。ガラス張りの壁の向こう側には、マジックでよく見る人体切断マジックが正に行われていた。しかし、それはマジックでも何でもない。人が本当に切断されていたのだ。
「この人は…遠山さん?」顔が反対側を向いていて判断できなかったが、鏡花は髪の長さや雰囲気からそう思った。部屋の外では、叫び声を聞いた人たちが集まって来た。
ガラス越しでも鮮明に伝わる。血が人体切断マジックで使われる箱から滴り落ちている。
「鏡花!警察が来るのは……ゔっ」乃木はガラスの向こうの景色を見て思わず口を抑える。
「乃木さん、外に行きましょう。警察が来るまでここには入らないようにします」鏡花はそこにいた人に事情を簡単に説明し、腰を抜かしている紅葉を連れて現場を後にした。
小春は台所で水を貰い、乃木と紅葉に渡す。
「お二人とも落ち着きましたか?」
「ありがとう、小春ちゃん」
「紅葉さんは?」
「はい。お水ありがとうございます。気が動転してしまって……」
「そうですよね。あんなの見たら当然ですよ」鏡花は紅葉を励ます。
「橋爪様は」
「鏡花で良いですよ」
「では、鏡花さんはあの状況を見ても動揺しないのですか?」
「あ…私は、その慣れてますから…」
「慣れてる?以前にも人が亡くなられているのを見たことがあるのでしょうか?」
「え、ええ…」
「私たちは以前にも事件に巻き込まれているんです。鏡花さんはその事件を鋭い洞察力で解決して来ました。だから、大丈夫です!鏡花さんにかかれば解けない謎はないんですから!」
「小春さん、言い過ぎですよ」
15分くらい経っただろうか、外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。鏡花が時計をふと見ると、16時であった。




