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薄氷村殺人事件7

「この蔵って、そんなに重要な場所なんですか?俺らにはただの薄汚い蔵にしか見えませんけどね」

 パシャ、パシャ

 隣でもう人の男が写真を撮っている。

「何をしているんですか!今撮った写真をすぐに消してください!」須藤は血相を変えている。

「そこまで必死にならないで下さいよ。ちょっと写真を撮っただけですから。では、この村の重要な部分も見れたわけですし、退散することにしますか。明日の雪嶺祭楽しみにしていますよ」男たちは笑いながら去って行った。

「あいつら!」須藤は今までにない怖い顔をしている。

「須藤さん……」

「あっ!?ごめんよ彩香ちゃん」

「いえ、大丈夫です」

「なんなんだあいつら。さっきから、こそこそと」乃木も怒りをあらわにしている。

「乃木さん落ち着いてください。取材をする人の中には、あの方々のように自身の利益しか考えていない人もいます。勿論、少人数ですが」

「でも、鏡花は腹立たないのか?さっきだってあいつらに腕を掴まれただろ」

「でも、乃木さんが守ってくれました。私たちは彩香さんの依頼でここに来たわけですから、目的を見失ってはいけませんよ」

「その娘の言う通りじゃ。次期にやつらには天罰が下ろう。わしらが取りざたすることではない」

「わかりました…」

 蔵の壁には小さな小窓がある。蔵の窓には人間の頭が入るか入らないかくらいの間隔で鉄格子がはまっており、そこからは悪魔像が見える。そして、さっきの男たちは悪魔像の写真を撮っていた。

「あ、あの人たち今度は悪魔像の前にいますよ」小春が言う。

「悪魔像の奥に見えるのは櫓ですよね?少しぼやけて見えますが」鏡花が窓を覗きながら言う。

「そうですよ。丁度この窓からは、悪魔像と櫓が重なって見えますね」彩香が鏡花の疑問に答える。

「お前さんたち、道具を運ぶのを手伝っておくれ。お主は男なのだから箱一つくらいは持てるじゃろ」そう言って、村長は乃木に祭具の入った箱一つを持つように言った。

「これぐらいなら、大丈夫ですよ。よいしょ。……………………………」

「乃木さん、どうかしたんですか?」

「小春ちゃん、これめちゃくちゃ重いんだけど……」

「なんじゃ小僧、だらしない。その程度も持てんのか」

「おばぁ、何入れたの?」

「おそらくは、燭台や神器じゃろ」

「あれって全部金属でしょ、重いに決まってるじゃない。乃木さん、ごめんなさい」

「ああ、大丈夫。寧ろごめん…」

「では、みんなで協力して持ちましょうか。私はこの箱を乃木さんと持ちますから、他の物はよろしくお願いしますね」

「さすが鏡花さん、優しさの塊ですね」小春の鏡花自慢が始まる。

「なかなかの娘じゃな。この村に嫁がんか?」

「いえ、それは…」

「おばあさん、それだけじゃないんですよ。鏡花さんは身近に起きた事件を今まで解決してきたんです。私がこのサークルに入ったのも、鏡花さんに助けられたからなんです」

「なるほど、才色兼備というやつじゃな」

「友達は少ないけどな」

「乃木さん、一言余計です」小春に怒られる。

「小春さん、私のことはいいですから運びましょうよ」

「あ、そうですね。すみません、つい」

「これはどこに運べばいいんでしょうか?」

「洞窟の前だよ。一旦、運ぶものを出してくれるかな。そしたら、私が案内するから」

「わしは彩香に儀式の手順など教えるから、一度戻る。鍵は須藤さんに預けるから、蔵の鍵を閉めておいてくれ」

「わかりました。鍵は後で返しに行きます」

 村長は彩香を連れて棚菊家へ戻って行った。

「では、洞窟へ向かいましょう」須藤は蔵の鍵を閉め、その上から錠前をかけた。

「さっきも思ったんですけど、かなり厳重なんですね」

「ああ、この中には悪魔の目があるからね。雪嶺祭の時期にしか絶対に開けちゃならないんだ。無関係の人がこの中に入るだけでも、なんらかの災いが生じるって言われているからね」

「だから、さっき彩香ちゃんのおばあさんはあんなことを言っていたんですね」

「そうだよ。彼らには必ず天罰がくだる。君たちも村のしきたりには注意してね」

「わかっていますよ」

 役場の須藤を先頭に、鏡花たちは洞窟へ向かう。

「じゃあ、ここらへんに並べてくれるかな?」

 洞窟の入り口に蔵から持ち出した祭具などを並べた。

「まだ、この先には入れないから今はここに置いておくんだ」

「こんなところに置いておいて大丈夫なんですか?」

「ああ、村の人は儀式の重要性を知っているし、誰も盗もうだなんて思わないよ。でも、不安なのはさっきの男たちが何かするかもしれないってことだね」

「そうですねよ…」

「まぁ、私がちょくちょく見に来るから、君たちは心配しないでいいよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、私は役場に一回戻るよ。君たちもこの村を見ているのもいいし、村長の家に戻るのでもいいからね。儀式の時間になったら、私も村の人とこの洞窟の前で見張りをすることになるからまたその時」

「はい!」

 そう言うと、須藤は村役場のほうへ歩いて行った。

 村はすっかり暗くなってきている。

「結構暗いな。どうする?」

「私はどっちでもいいですけど、鏡花さんはどうします?」

「この村は山に囲まれていて、日が遮られてしまうので早い時間に暗くなってしまうんですね。それに、もうそろそろ完全に日が沈んでしまいますね。暗いと危ないですから彩香さんの家へ戻りましょうか」

 鏡花たちは棚菊家に帰った。

 

「チッ!なんで俺たちがこんな山奥まで来て、あんな扱いされなくちゃならねんだよ!」

「仕方ねえだろ。俺らだって、なんかネタ掴まなきゃクビにされるぞ。雪嶺祭のネタさえ掴めば、俺たちだって認めてもらえるさ。とりあえず、今日はこの森で張ろう。村も近いし、監視できるからな」

「わかったよ。ちょっと小便行ってくるわ」

「ここから離れろよ」

「わかってるよ」


「クソ!あの村の連中むかつくぜ!だが、明日は雪嶺祭だ。どんな手を使ってもネタを掴んでやる」

カサカサ、カサカサ

「なんだ金井かない、お前も小便か?明日のことで興奮してんのか?」

「……………………………………」

「おい、無視かよ。どうしたんだよ!はっ!?な、なんだお前は!?」

 ドカッ

 バタンッ

「はぁ、はぁ……」







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