新入部員歓迎会
ある日、鏡花からいつもの教室に来るように言われた。中には小春の姿があったが、鏡花の姿はなかった。
「あれ?小春ちゃんも呼ばれてたのか?」
「はい」
「鏡花は?」
「わたしが来た時には居ませんでしたよ」
「そっか。まぁ、ちょっと待ってれば来るだろう」そう言ったそばから、鏡花が入って来た。
「お二人ともお待たせ致しました」
「今日はなんでそんなテンションが高いんだ?」
「はい。今日は新入部員歓迎会を開きたいと思います!パチパチ」
「新入部員歓迎会!?」
乃木と小春の驚きは見事にシンクロした。
「どういうことだよ。聞いてないぞ」
「はい。言ってませんから」
「いや、そういうことじゃなくて…」
「乃木さん、いいじゃないですか。鏡花さんも楽しそうですし」
「まぁ、そうだな。で、新入部員は俺と小春ちゃんだから、鏡花が歓迎してくれるのか?」
「いえいえ、みんなで歓迎し合いましょう」
「はぁ、何を言いだすかと思えば…」
「お二人とも出かける準備をして下さい」
「出かけるって、どこへ?」
「段々遊園地です。二駅先にある遊園地です。なんと、私、半額券を持っているんです」
「なんで半額券なんて持ってるんだよ?」
「商店街の福引で当ててしまいました。丁度三枚あります」
「小春さんは遊園地好きですか?」
「はい。好きです。行きましょう!」
「小春さんも乗り気なので早く行きましょう。早くしないと先に行きますよ」
「わかったよ。出会った時は自分のこと推理オタクの変人だなんて言ってたけど、女の子らしいとこもあるんだな」
「何か言いましたか?」
「いや何でもない、ほら行くぞ」
三人は 二駅先の駅で降り、遊園地へ向かった。
「着きましたー。早速券を買いましょう。半額券を渡しておきますね」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
中に入ると、鏡花がジェットコースターに乗りたいと言い出した。
「まぁ、地方の遊園地だしそんなに怖くはないだろう」
………………
「うわぁぁぁぁあああ」
「乃木さん大丈夫ですか?もしかして、絶叫苦手でした?」
「ま、まぁな。地方の遊園地だと舐めてたよ。普通に怖かったわ。俺はちょっと休憩してるから、鏡花と小春ちゃんで何か乗って来いよ」
「え、でも、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと休んでれば治るって。せっかく来たんだから遊んで来いよ」
「わかりました。小春さん、行きましょう」
メリーゴーランドに乗っている、鏡花と小春の姿が見える。
「楽しそうで何よりだな」
鏡花と小春が次に向かったのはお化け屋敷だった。
「小春さん、大丈夫ですよ。私が居ますからね」
「鏡花さんの方が震えてますよ。お化け屋敷苦手なんじゃないですか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか。私は小春さんの先輩なんですから…」
「鏡花さん可愛いなー」
「次の方案内します。こちらからお入り下さい」
鏡花と小春の番になり、お化け屋敷の中に案内される。
「怖いですね」入って間もないところで、既に鏡花は腰が引けている。
「鏡花さん、私の後ろをついて来て下さい」
「そ、そんな、私が前に行きます」
「無理しないで大丈夫ですから、私が前に行きます」
そんなやりとりをしていると、
「キャー、引ったくりー、誰が捕まえて」
外からだ。
「え?なんですか今の?引ったくりって言ってましたよね?」
「小春さん、落ち着いて下さい」鏡花の顔付きが一瞬で変わった。
すると、入り口から誰かが入って来て、小春にぶつかった。
「キャッ」
シャカシャカ
「小春さん大丈夫ですか?」
「はい。何だったんだろう?」
突然、お化け屋敷の中が明るくなった。そして、入り口から係の人がやって来て、引ったくり犯がこのお化け屋敷に侵入した、と言って鏡花たちを外へ誘導した。外には被害者と思われる女性と乃木の姿があった。
「乃木さん!」
「二人とも無事か?いま引ったくり犯がこの建物の中に入って行ったんだよ」
「ええ、聞きました。ですが、それが分かっていれば容疑者は簡単に絞れそうですね」
次々とお化け役の人たちが出てきた。
「あなた達の中に犯人がいることはわかっているの。白状しなさい!」被害者の女性はひどく怒っている。
「犯人はあなたね!?」女性はゾンビ役の男性に詰め寄った。
「何故そのように思われるのですか?」鏡花が女性に質問する。
被害者の女性によると、引ったくり犯の格好は黒の帽子にマスクとサングラスをしていて、顔はほとんどわからなかったという。
「帽子から髪が出ていなかったから、あなたしかいないわ」確かにゾンビ役の男性の髪は短髪で、帽子を被ったら髪は出ない。
「待ってくれ。それだけで俺が犯人にされるのか?納得いくかよ。隠そうと思えば髪くらい隠せるだろ」
「他に特徴はありましたか?」
「そういえば、犯人が逃げる時に変な音がしてたような気がするわ。金属音のような」
「鏡花どうだ?容疑者はゾンビ役の短髪の男とガイコツ役の長髪の男、コインを大量に持っている海賊役の男に、何故か女性の小豆洗いだけど」
「乃木さんはどう思われます?」
「走るときに金属音が鳴っていたって事は海賊の男性が犯人だと思うな」
「私も乃木さんと同じ意見です。鏡花さんはどう思っているんですか?」
「まだ、何とも言えませんね」
「今回は俺らの方が冴えてるのかもな」
「小春さん、バッグに付けていたキーホルダーはどうされたんですか?」
「え?あれ、ない。猫のキーホルダー付けてたんですけど、チェーンが切れて本体だけないです。お気に入りだったのに。どこで無くしたんだろう…」
「わかりました!」鏡花はいきなり叫んだ。
「びっくりした。なんだよ、いきなり大声出して」
「だれが犯人かわかりましたので、お話ししたいと思います」
「この海賊の男ね。コインをこんなに持っているんだから」被害者の女性が訴える。
「いえ、その方ではありません。犯人はそこの小豆洗い役の女性ですよ」
「あなた何を言っているのかしら?私、先ほど言いましたよね。髪は見えていなかったと、それに金属音についてはどう説明されるんです?」
「そうだぞ、鏡花。状況的には海賊役の人が犯人の可能性が高いだろ」
「実は、私と小春さんはお化け屋敷の入り口付近で犯人と接触しているんです。そうですよね、小春さん?」
「はい。確かに誰かに当たられました」
「お客さんは順番に通すので、接触する事は無いでしょう。状況的に見て、私たちが接触したのは間違いなく犯人です。そして、その時私は、シャカシャカ、という音を聞きました。そう言えば、その小豆の袋、裂けていますね?私が聞いた音はその袋から小豆が落ちた音ではないですか?私たちがぶつかったところを調べれば、小豆が落ちていると思いますけど」
「私はお化け屋敷で働いているんだから、小豆の一つや二つ落ちててもおかしくないわ」
「そういうと思いました。金属音についてはわざと音を出したのでしょう。海賊役の男性に疑いの目が向けられるようにするために。そして、帽子から髪が見えなかったのはカツラを被っていたからです。今は、カツラを取っているのでわかりませんが、カツラを被ってその上から帽子を被れば男性に見えます」
「何か証拠でもあるのかしら?」
「はい。おそらくあなたは証拠を気付かないうちに所持しているはずです」
「どういうことかしら?私がどこに証拠を持ってるっていうの?」
「では、なぜ小豆の入った袋が裂けたのだと思いますか?」
「さぁ?私はお化け屋敷で仕事をしてたからわからないわ。何かの拍子に破れてしまったのかもね」
「まだ気がつかないようですね?」
「何がよ」
「その袋の中に何か見えませんか?」
「あ、それ、私のキーホルダーです。そうか、お化け屋敷の中でぶつかった時に袋が裂けて、それと同時にキーホルダーが持ってかれたんですね!?」
「その通りです、小春さん」
警察が到着し、彼女は罪を認め逮捕された。お金に困っての犯行らしい。
鏡花と小春は残りの時間を遊園地で存分に楽しんだ。




