心理のその先に
「橋爪さん、どういうことですか?」朝日が尋ねる。
「はい。まだ、菊池さんが犯人か否かについては決定的なことは言えません。孝子さん、広間で本を読んでいる時、広間を通った人はいますか?」
「鏡花ちゃん達以外見てないと思うわ…一回だけトイレに行ったけれど、その時以外はずっと私が広間に居たはずよ」
「ありがとうございます。そうなんです、犯行時刻は孝子さんがずっと広間に居たんです」
「それがどうしたんだね?」秀樹が質問する。
「食事が終わってから私たちは後片付けをしていましたし、私は菊池さんが二階に上がるのを見ました。それからは孝子さんが広間に居たわけですから、菊池さんは食事の後二階に上がってから一階には降りて来てないことになりませんか?」
「もう少しわかりやすく説明してもらえないかな?」秀樹が説明を求める。
「はい。つまり、もし菊池さんが犯人であるならば、食事の後で一階に降りて来たはずです。そうなれば後片付けをしていた私や乃木さん、その後この広間で本を読んでいた孝子さんが菊池さんの姿を見ているはずです。ですが、誰も見ていないんです。それは、菊池さんが二階にずっと居たという証拠じゃないですか?そこの扉は階段にしか繋がってないですから、広間を通らずに一階にある他の部屋へ行く事は出来ないはずです」
「確かにそうだ」乃木さんは首を縦に振り納得する。
「もしかしたら、私がトイレに行っている間に通ったということもないかしら?」
「大いにあり得ます、ですから今のところアリバイがあるともないとも言えません」
「橋爪さん、ありがとう。だが、みんな、今日はもう遅い。部屋に戻って床に着きなさい」
秀樹の言葉で解散となった。
部屋の前で乃木が質問した。
「橋爪さん、本当に菊池さんが犯人なんでしょうか?」
「それはわかりません。事件現場からは何故か菊池さんの万年筆が見つかっています。警察にとっては有力な証拠でしょう」
「そうですよね。孝子さんがトイレに行っている間は広間には誰もいなかったわけですから、そこを狙って行ったのかもしれませんね」
「ただ、そうであるならば菊池さんの行動は私には理解できません。人間の行動としては不確実性を含んだ行動です」
「へ?どういうことですか?」
「その行動は心理的に否定できるって事ですよ。偶然という可能性も否めませんが。どちらにせよ、今日はそれぞれの部屋に戻りましょう。明日も調べたいことがあるので」
「そうですね。気になりますが寝ましょうか。お休みなさい」
「お休みなさい、乃木さん」
乃木は布団を敷き、横になりながら鏡花が言ったことの意味を考えた。
「心理的に否定できる…どういうことだろう?」
乃木は眠りについた。こうして、長かった一日が終わった。