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7話 不敵

「……という訳で、ここに足止めをされたらしい」

「そっか、ディックの奴もツイてないな。

 しかし命も荷物も無事だったんだろう?」

「だな」

「不思議な事もあるもんだ。

 その女はやっぱり噂通り?」

「ああ。

 悪霊かどうかは分からんが」

「ふ~ん」

「ちょっといいかな、お二人共。

 その話、詳しく聞かせてくれませんか?」


 テーブルを挟んで話し合う二人の行商人。

 顔なじみということもあり、先程から食事を摂りながら近況の情報交換を行っていたのである。

 その間に割って入ったのは悠馬だ。

 親しみをこめた笑顔を浮かべ、両手にはジョッキを抱えている。

 その中身は二人が飲んでるエールだ。


「なんだ、アンタは」

「同じ旅の者ですよ。

 これは俺からの奢り。

 情報料って訳じゃないけど、遠慮なくやって下さい」


 ライトノベルで培った知識を思い出し真似してみる。

 確かこんな感じでフレンドリーに接せれば上手くいくはずだ。


「おお、こりゃすまないな」

「まったくだ。

 さっきから話しっぱなしで喉が渇いてたとこでね……

 じゃあ、遠慮なくいただくぜ?」

「ええ、構いません」


 よく冷えたエールを流し込む。

 喉元を過ぎる際の刺激が身体を潤していく。

 自分に対する二人の警戒がみるみる低下するのを悠馬は感じた。

 どうやら上手くいったようだ。


「ぷはっ~美味い!」

「くう~この一杯の為に生きてるな」

「それは何より(にこにこ)」

「おおう。

 んで、兄ちゃん。

 ワシらに何を聞きたいって?」

「ああ、そんなに大した事じゃないんです。

 ただ二人がさっきから話してる沼地の幽霊とかそんな話を」

「それか。

 いや、ワシ等もそんなに詳しい訳じゃないんだがね」


 二人の話は悠馬がレミットから聞いた話と大きな差異はない。

 要約すると、ここ最近メルソム近くの沼地に女の幽霊が出るのだという。

 妖魔避けのある正規の街道を使えば問題ないが、要所にある関所で金が掛かるし何より時間が掛かる。

 沼地のある今は使われてない旧い街道を通れば、大幅な短縮になるし金も掛からない。

 多少の危険はあるも行商人には人気のルートだったのだが……


「そこに出たのが女の幽霊だよ。

 悪霊かどうか分からんがね」

「こっちに大きな危害を加える訳じゃない。

 ただ奥地に入れない様に立ちはだかるのさ」

「不思議な力……念動力?

 みたいなので追い返されるらしい」

「交渉しようとした者もいたが、ただ『帰れ』の一点張り」

「あの奥には穴場となる採掘場や古城もあったが、アレではね……」

「ふ~ん。

 ならその幽霊って、どんなレベルか分かります?」


 溜息をつく二人に悠馬は思わず尋ねてみる。

 身体を持たぬ幽体的な存在はその強度によって強さが変わるからだ。


 幽霊<ゴースト>

 悪霊<スペクター>

 幽鬼<レブナント>


 段階に応じてレベルが累乗していく。

 サガのルールに準ずるなら幽鬼クラスならかなりヤバイ。


「あ~ワシらは商人だからな。

 専門的な事は知らんのだ」

「うむ。

 ただ人づての話だとスペクタークラスなんじゃないかとか」

「確証はないけどな」

「すまんな、こんなあやふやな話で」

「いや、ありがとうございます。

 お蔭様で有意義な情報を得られました」


 恐縮する二人に悠馬は礼を述べる。

 今時珍しい礼儀正しい態度が気に入ったのか、立ち去ろうとする悠馬を塞き止め二人はとっておきのネタを告げる。


「何をするかは分からんが……気をつけろよ?」

「この嵐も実はそいつが引き起こしたという噂があるんだ」

「へえ……

 それは初耳ですね」

「裏が取れてないからワシらも信じては無い。

 でもそいつが出たという時期とこの季節外れの嵐が始まった時期は確かに一致してるからな」

「茶化しに行った同業者や冒険者もすごすご退散してきたらしいし」

「そっか……なるほどな。

 でもその話がもし本当なら……」

「ん?」

「もう少しで嵐が止むかもしれませんよ?

 おそらく明日中には、ね」


 自信に満ちたその発言。

 呆気に取られる二人を前に、悠馬は不敵な笑み浮かべるのだった。





 加筆訂正。

 次回よりデュエルの予定になります。

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