90、対 王女様3
現状、王女様の攻撃は《肉体強化(邪法)》や《皮膚硬質化(邪法)》によって強化された肉体と、《侵食邪気(邪法)》という肉体を纏う漆黒で禍々しい魔法物質を鞭のように伸ばしてこちらを絡め取る方法をメインに使ってきている。
剣を持つ右手を切断しているのだが、手首の先からこの鞭が生えている様な形になっている為に左下腿を切断している事による機動力の低下があまり有効に機能していない。
左手の盾を排除できればおそらく魔法も無効化されないだろうと考えて狙ってはいるが、物が盾だけにことごとく失敗に終わっている事も状況の改善に至っていない理由の一つだ。
王女様の攻撃である《侵食邪気(邪法)》なのだが、これは触れた物を王女様の再生された肌と同じ様な黒い色に侵食させていくようだ。
現在の所、侵食されたのは盾と右手に付けていた篭手。
ジワジワと黒い染みが広がっている様子に、危険を感じてすぐに外していた。
身に纏っている物であれば《アイテム》に即収納出来るので、隙を見せずに済んだのは助かったと言える。
さて、このまま時間をかけても僕に有利になる事が無いのは、ここまでの戦いで理解していた。
そろそろケリを付けなくてはならないだろう。
狙うのは……首だ。
これまでは出来るだけ生きたまま王族の方に引き渡したいので攻撃を控えていたのだが、流石に無理だと言う事がここまでの戦いでわかった。
とにかく邪法による再生が不味い。
現在も切断した場所ですらジワジワと再生している状況なのだ。
その上、邪法と付くスキルや技を使う度に王女様の様子が少しづつおかしくなっていく感じを受けている。
これは、生かしたままなどと甘い事を言っていると、やられるのは間違いなく僕の方になるだろう。
もう、やるしかないのだ……。
SPは半分以上使ってはいるが、まだ残りの回数的に問題は無いだろう。
むしろ厳しいのは僕の肉体の方だ。
何故なら、《ショートカット》からの《トリプルステップ》の発動は肉体の負担を考慮しないで強引に発動させる諸刃の剣。
しかも、ここまで短時間での連続使用は今までには無かった。
今の所は足腰に違和感が無いとはいえ、楽観して最悪の事態を引き起こす事だけは避けなければならない。
さて、それでは殺すつもりでの攻撃再開といこうか。
まずは僕と王女様の間で、王女様から少し離れた位置に《ウォーターシールド》を張る。
《ウォーターシールド》は魔法物質を使用した攻撃を主に防ぐ為、今回の戦闘では何回か使っていた。
次に、張った《ウォーターシールド》に向かって走り出す。
王女様はそこに向けて邪法による鞭を放ってきた。
一撃は問題無く、二撃目が当たった段階で強度が怪しくなってきたので、僕から見て重なる位置にもう一枚張り、次の瞬間から《トリプルステップ》を発動させた。
第一ステップは右へ。
その瞬間に自分の右前に《ウォーターシールド》を張る。
第二ステップも更に右へ。
三撃目の鞭が一枚目の《ウォーターシールド》を砕いて二枚目に当たり、四撃目の鞭が三枚目の《ウォーターシールド》に当たるのを視界の端で見ながら、第三ステップで反転した。
この段階で第二ステップをした場所まで戻っている為、左右に後一回は攻撃に耐えられる《ウォーターシールド》が存在する。
ここからが勝負だ。
一気に決めなくてはならない!
まずは次の《トリプルステップ》で更に反転して右側へステップしつつ王女様の前方以外の三面に《ウォーターシールド》を一気に張る!
この為に、五分間という戦闘時間の中で隙を見つけては《ショートカット》を変更していたのだ。
姉さんの様に八個全部なんて芸当はまだまだ無理だが、三個連続発動ならばやれるようになっている。
第二ステップで王女様から離れる様に動きながら《ウォーターシールド》の効果が発動し、再度《ショートカット》が使える様になるのを確認する。
第三ステップで前に出ながら王女様の前面に三枚同時に《ウォーターシールド》を張り、三回目の《トリプルステップ》で一気に前に出ていく。
王女様は狂った様に前面の《ウォーターシールド》に鞭を当て続けているが、伸び始めで当たる為に勢いが無いせいか、一枚壊すのに五~六回の攻撃が必要な様だ。
これは行ける!
そう感じた僕は剣にMPを供給し、更に連続で発動させた《トリプルステップ》を使って周囲に張った《ウォーターシールド》の周りを回るように移動しながらタイミングを計った。
予定外だったのは《ウォーターシールド》も王女様の盾の効果範囲に入る事で徐々に無効化されていく事だったのだが、発動してしまった物は即解除までは出来ないらしく、破壊される前に追加で外周に設置する事で時間は稼げた。
段々と苛立ってきた雰囲気が態度と表情に表れてきている王女様は、手首の無い腕でガンガンと殴り始めた。
その姿は、もはや理性を失いかけているかのようにも見える。
だが、その方が今となっては良いのかもしれない。
殺すと決めた以上は!
《ウォーターシールド》は魔法を阻害するが物理攻撃にはほぼ効果が無く、少しだけ抵抗を感じるものの素通りしてしまう。
しかし、王女様は腕に邪法による魔法物質を纏わせている為に殴っても阻まれている状態だ。
しかし、僕の剣はMPを供給した段階では外部に魔法物質をほぼ放出しない。
発動位置を指定して、その場所で魔法物質が集積されるからだ。
条件は揃ったので機会を窺い、連続ステップによって遂に訪れた好機に躊躇う事無く剣を突き入れた。
ある程度の抵抗はあったものの、剣は一気に王女様の首へと到達する。
そこで一気に供給したMPを解き放ち、剣の先端から発動した断裂攻撃が王女様を襲った。
発動させた剣の先端部分では魔法物質が足りなかったらしく、僕の手で持っている柄周辺から一気に魔法物質が吸い上げていき、それによって発動した断裂攻撃が王女様の首を薄皮一枚を残して切り裂いていた。
勝った!
そう思った瞬間……王女様の使用スキルに《邪法侵蝕:魔人化》の表示が現れる……。
《危険感知》が恐ろしい程鳴っていた。
ここにいては危険だというのが、それ抜きでもわかる程に禍々しい魔法物質が周囲に溢れ出している。
《トリプルステップ》を使って一気に後ろへ下がったのだが、ここで右足に違和感を感じた。
ダメージを受けた訳では無い為、ここまで酷使してきた事による影響だろう……。
蓄積された肉体疲労の為に完璧な効果は期待できないのだが、水系の回復魔法を《シュートカット》から使用しておく。
光系の回復は《ウォーターシールド》に先程置き換えてしまっているので使えないが、肉体の修復には水系の方が効果が高いので問題はないだろう。
ゲルボドの《快癒》があれば一気に回復できるのであろうが、流石に無いものは仕方がない。
水系回復魔法と《肉体再生》のスキルでどうにか騙し騙し行くしかないのだ。
さて、問題の王女様なのだが、切断したはずの首は繋がり、その周辺から今まで正常な色をしていた肌も一気に黒く染まっていく最中だった。
手や足の切断してあった部分も同様に、失った部分の超高速再生と正常部分の黒色化が進んでいる。
姉さんの言い方だと、【第二形態】という所だろうか。
間違いなく情報が変化していると思われる為、《識別》をしてみる。
魔人族:女 レベル32
特殊情報:《元第三王女》《勇者狂信者》《邪炎の結晶》《邪法浸食体》《魔人幼生体》
うん……完全に人間では無くなっていた。
姿自体はそこまで変化していない。
肌が黒く、髪が白くなっている事が大きな違いといえる位かな?
もっとも、人格の方は結構不味い方向に変化しているらしく、先程までの狂気とは違った雰囲気で舌を出しながら唇を妖艶に濡らしている。
その姿は、かつての直情的ではあったが清楚な雰囲気を持った王女様とは真逆の雰囲気を醸し出していた。
存在自体が魔人という凶悪な存在として生まれ変わったのだろう。
今までとは全く違う人物にしか見えない。
唯一の救いは、魔法を無効化する盾として使っていた魔法具が何らかの影響で機能しなくなったらしく、邪魔そうにしながら捨てていた事位だろうか。
SPの使い過ぎが気になる所だが、取り敢えずは魔石からMPを吸収しておく。
さて、第二ラウンドのスタートだ。




