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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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89、対 王女様2

 王女様との戦闘が始まってしまった。

しかも、何らかの手段を使って、最低でも魔素の供給と《通話》が封じられた様だ。

確認出来ては居ないのだが、最悪な状態だと部屋自体が隔離された可能性もあると考えている。


 王女様が王城から持ち出した魔法具には、このような効果があるものは無かった。

それ故、応援を待つ方向で行動した事が裏目に出ているのだが、今回の二択だとどちらにしても結局は一人で戦う事になるので……悪手だったのかどうかは今の所は不明だ。


 因みに、おそらくだがこの魔法具の効果をもたらしたのは老魔術師の手に握られた杖状の魔法具だと予想している。

最初から持っていたのだが、魔法の発動用だと思って気にしていなかったのだ。


 現在は杖の先が光り続けている事を考えると、何らかの効果が発動して居る事は間違いない。

そして現在僕が確認出来ている魔法具はこの一つしか無い為、それらの繋がりを疑うのは当然であろう。


 まぁ、こうなってしまっては戦うしか無い訳だが、一番の心配は老魔術師の動きが不明な点だった。

《迷宮の虜》達の増援を確実に無くすためにも直接魔法で狙いたい所ではあるのだが、姉さんと違って僕の行動速度では王女様に対して隙が出来てしまう可能性が高い。

確実線で王女様と一対一で戦い、もし老魔術師が動くようであれば対処をするしかないかな。


 幸い、僕と違って老魔術師には無詠唱魔法が使用でき無い。

彼が詠唱を始めてから対処しても、おそらく何とかなるはずだ。


 さて、ほんの数瞬でその結論を出してはいるのだが、近接戦闘においての数瞬は十分に攻撃可能な時間と言える。

事実、王女様は右手に持つ剣に集まっていた分の魔法物質を使って短時間の《スパイラルフレイム》を牽制に使い、別のスキルだと思われる魔法物質の集積が盾を装備した左手の指先に集まっていた。


 僕はとにかく移動を止める事無く動く事で的を絞らせない様にしながら、まずは様子見の為に《スティールMP》を使ってみた。

これが効くのならば、それに越した事は無いからだ。

しかし、予想はしていたが……王女様に触れる前に魔法が消滅した。


 消える瞬間に見えたのは、分解された魔法物質とその一部が盾に吸収される光景だった。

前回は昏倒させて強制的に攻撃を終わらせた為、どうやら同じてつを踏まない様に無効化する方法を見つけ出して来た様だ。


 そうなると……ここで問題になるのは、どこまでを無効化できるか? という事になる。

吸収系が効かないのか? 《闇魔法》が効かないのか? 魔法自体が効かないのか? 魔法物質を使用した攻撃が全く効かないのか? ……それらを確認して、ここからの戦い方を決めなくてはならない。


 僕達が戦闘を開始した事により、《迷宮の虜》達の戦いも開始されている。

パッと見では互角以上にみえたが、僕にはそちらを観察している余裕は無さそうだ。

《危険感知》の鳴り方からも……それ位、王女様との戦いはギリギリになりそうな感じがしている。


 さて、先ずは魔法自体が効くかどうかを試そう。

僕は大きく回るように動く事で、距離を維持しながら魔法を《ショートカット》から発動する。

選んだのは風系統単体魔法だ。


 単体魔法の理由は、単純にここが室内である事。

範囲魔法では、お屋敷に相当な被害を出す可能性がある。


 風属性である理由は、王女様が《火属性》や《光属性》を持っているからだ。

この世界の法則では、自分が持つ属性と対になる属性に耐性を持つようになる。

同じ属性が複数ある場合は、一番効果が高いものが適用されるようだ。


 属性耐性が上がるのは、属性を持つ魔法やスキルの熟練度上昇がメインだ。

対応する属性は火と水、土と風、光と闇である。


 具体的には、王女様の持つ火属性のスキルは火耐性が上昇し、その半分程度の水耐性を有する。

耐性の効果は絶大で、相手の使ったスキル熟練度と同じ耐性値で効果が半減する。

即ち、攻撃手段の二倍に相当する耐性値を持てば無効化が可能という訳だ。


 因みに、僕の魔法熟練度は大体二十台中盤。

同程度のレベルが相手ならば大体半減する事が出来る。

魔物のレベルはパーティー推奨での表記なのだが、そちらに関しては多くがタフであったり素早かったりする為に倒すのに人数が必要なだけで、火力自体はそこまで変わらない者が多い。

要は受けるダメージ自体は対人でも対魔物でもそれほど変わらないのだ。


 話は少し逸れてしまったが、僕が知る限り王女様は火属性と光属性しか持っていない。

それ故、耐性を持たないはずの風か土が選択肢であり、威力はやや低いが命中しやすい風属性を選んだという訳である。


 結果としては、単体用風魔法も効果が相当減少している様だった。

無効化まではされていないらしく、ほんの小さな切り傷と数本の髪が切れているのが確認できる。


 大半が魔法物質に戻され盾に吸収されていく様子から、ゲルボドの《スペルセービング》に近い特性なのかもしれない。

もっとも、現象は似た様な物でも原理は全く違う可能性が高いけれど。


 さて、そうなると……試すべきは剣の特殊能力である断裂攻撃と直接攻撃かな。

危険を伴う可能性が高いが、やるしかない!




 ◇ ◇ ◇




 現在の状況は、僕に有利に進んでいると言える。


 まずは断裂攻撃なのだが、条件次第ではかなり有効だった。

始めに使った時に発動したのは結構遠距離からだったのだが、それでも半減までいかない程度の威力減少で右脚の太腿辺りにヒットした。


 断裂攻撃は使いこなせば任意の空間を指定して発動する事が出来るので、二発目は僕自身は離れた位置から王女様のすぐ近くで発動させてみたのだが、これは何故か不発に終わった。


 剣に注ぎ込んだMPは消費されているので使えなかった訳では無い様だが、指定した場所での発動が打ち消されたと言うのとも何か違うと感じた。

おそらくだが、盾となっている魔法具の影響だろう。

王女様の近くに存在している、魔法の力を減衰させている空間内であった為に起こった現象だと思われる。

発動させるために空間把握をしている事象自体を削り取られた……といった感じかな?

僕自身詳しい原理を把握出来ては居ないが、魔法物質を利用している可能性は高いので有り得る事だ。


 まぁ、やり方に工夫は必要そうだが、ダメージも通っている上に断裂攻撃は風に属する攻撃なので王女様との相性は良い。

やはり、断裂攻撃を基軸に考えるべきだ。


 結論としては、遠距離からの一撃では四肢の行動不能にまでは至らないらしく、このまま連発するだけでは厳しいとは感じている。

その理由は、最初に当てた傷が徐々に塞がっているからだ。


 《ウィンドウ》の左側に表示されている使用スキルによると、《自動再生(邪法)》による物らしい。

王女様の真っ白い肌が、ドス黒い肉と皮膚で覆われながら再生していく様はあまり見ていて気持ちがいいものでは無い。

しかも再生された肉体は本来のものより強靭となるらしく、時間をかければかける程不利になる事が判明している。


 この事により、僕の行動指針は接近戦による超近距離からの断裂攻撃へと切り替えざるを得なくなり、現在に至る事になっていた。

剣先からの発動ならば、問題無く減衰せずに当たる事が確認できているからだ。


 現在、戦いが始まってからの時間で約五分といった所だろうか。


「偽勇者! 何故だ!! 何故私がここまで偽物ごときに!!!」


そう叫ぶ王女様は……先程までよりも明かな狂気を湛え……これまでよりも荒々しく、憎しみと苛立ちを露わにして叫び続けている。


 現状は僕の圧勝と言えた。

《トリプルステップ》による、瞬間的な移動速度と攻撃タイミングをずらす戦法が見事にハマっている。


 攻撃を受けない為に基本的に常に移動しているのだが、その勢いのまま第一ステップ。

次に直接王女様の方へ、又は女王様の左右への第二ステップ。

第二ステップ目で攻撃した場合は第三ステップ目で離脱、左右に振った場合は第三ステップ目、次の第一ステップ、第二ステップのどこかで攻撃して、第三ステップ目には離脱している。


 要は二ステップで攻撃しなかった場合、どうせ二回分《トリプルステップ》を使わないと離脱まで行けない為、フェイントとして有効に使ってしまおうと言う事だ。


 片手剣にもSPを使う技は沢山あるのだが、僕は最近あまり使わずに《ダブルステップ》や《トリプルステップ》にだけ使用している。

本来は移動補助用の技だけあってSP消費が少い事が魅力の一つだ。

又、大半の技は《ショートカット》からでないと技の発動にも若干の溜めが必要な事が多い為、僕の戦い方とあまり合わないという事も大きい。

どうしても《ショートカット》に入れておきたい魔法数を考えると、それを削ってまでわざわざ使いたい程の技が無かったとも言える。


 即ちSPが《トリプルステップ》だけに使えるので、こんな無茶な戦い方が可能な訳だ。

まぁ、姉さんから一つの技に頼り切るのは駄目だと忠告されているので、この戦法以外でも対応できる方法は身に付けてはいるつもりだけどね。


 さて、現状の王女様の状態は左腕以外には相当な損傷を与えている。

右手は手首から先を失い、左足も下腿中央付近から切断している。

右足は数回ダメージを与えているが切断までは至らず、逆に再生により強化されているので警戒が必要となっていた。


 そんな状態ではあるが、剣すら持てない現状でも王女様は諦めるどころか逆に激しく攻撃してきている。

本来の火炎系攻撃は既にMP切れにより使ってきていないのだが、邪法系のスキルを次々と繰り出し……その度に、苦痛に満ちた呻きと絶叫をあげている。


 王女様の精神が完全に壊れてしまう前にケリを付けてしまいたいのだが……中々に厳しい。

正直、僕の方にもそれ程余裕はない。

ここは……一気に決めてしまうしかない!

その結果、王女様がどうなろうとも……。

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