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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
84/111

80、準備1

 王都で代わりのお屋敷を確認した僕達は、その敷地に迷宮を呼んでエルナリアの領主館へ移動した。

既に話は使用人の方達にも伝えられたらしく、雑然としている訳では無いのだが……やや慌ただしい感じを受ける。


 領主様にはすぐに会う事ができ、

 

「代わりのお屋敷を手配して頂きました。既に確認してきましたが、守りは堅牢な構造をしているので問題ないと思います」


と、僕がそう告げ、


「ふむ。もっとも、王都まで迷宮経由で行くのならば、向こうでの襲撃に関してはそこまで気にする必要は無い様に思えるのだがね」


との答えが返ってきた。

それに対し、


「いえ、ヴェルツァー五爵は相当な準備をしている可能性があります。そうなると、攻撃対象の場所を特定する魔法具が無いとは断言できません。また、念の為にお嬢様にも避難して頂くのですが、元々王都に居る事になっているので目標にされる可能性はあると考えています」


姉さんがその考えを否定する方向で可能性を示す。


 領主様は姉さんの考えに同意し、現在考えている人員の配置を聞いて来たので、


「宮廷魔道部隊の方が何人協力して頂けるかは不明なのですが、全員がこちらでメイド服を着用しての行動になる予定です。主力となる四部隊に関しては三部隊がここへ、一部隊が代わりの方のお屋敷で護衛をして貰う方向で考えています。エグフォルドタイガー達は代わりのお屋敷の方へ全て回し、僕の従魔はこちらに置いておきます」


と返答した。


 僕の従魔……即ち《迷宮の虜》としたのは五体だ。

実は昨日、姉さんから勧められたので配下に加えたばかりである。


 五体の理由は、迷宮外へ連れ出せる匹数の上限が五体らしいからだ。

少し強引な手段も使って配下に加えた魔物が居る……というか全てなのだが、その手段とは姉さんの迷宮から引き抜くという方法である。


 本来自分の迷宮でしか効果を発揮しない《迷宮の虜》なのだが、逆に言えば迷宮内にいれば使う事が可能なのだ。

実力差や耐性等によって必ず成功する訳では無いと思うのだが、今回は問題なく効果が発揮されている。

何故この方法を思いついたかと言うと、姉さんが老魔術師の迷宮から移動させたカオススライムに対しても効果があった事が確認されているからだった。


 配下に加えたのは狼型の魔獣でフォスターウルフ、名前はアゼル。

鳥型の魔物でフォスターバードのイーゼス

蛇型の魔物でフォスタースネークのウル

それに加えてゴールドゴーレムのエース、そしてシルバーゴーレムのオシリス。

以上がその構成メンバーだ。


 僕は名前も知らなかった場所なのだが、フォスター島という場所の固有種らしい。

姉さんが以前、闇属性に弱い特定の魔物を湧かせるために色々やった結果、同じ地方の魔物が出現する階層があったらしい。

そこに居る魔物は強靭な肉体と汎用性の高い能力を誇る為、探査能力も考えて嗅覚で狼、視覚で鳥、熱感知で蛇を選んだ。


 そして、ゴーレムに関しては面白い個体が居た事が選んだ理由だった。

アイアンゴーレムが多い階層らしいのだが、基本的にどのゴーレムもほぼ同じズングリムックリとした形をしている。

しかし、シルバーより上の素材を使ったゴーレムは大きさも形状も個性的らしく、今回の二体は人間に近い形状をしており、大きさも今まで見た中で一番小さいようだ。

素材としては物足りないし、使う方向でも面白いかもよ? と姉さんが言うので確認してみた所、結構良い感じなので即採用した。


 その姿は表面がつるつると滑らかで、動きは人に近いものがある。

ゴールドゴーレムのエースは僕よりも少し大きい位の男性型で、筋肉の様な隆起が各所に見える。

鍛え抜かれた筋肉ダルマと言うよりは、細身だが筋肉質といった感じかな。

そして、シルバーゴーレムのオシリスは姉さんよりも少し背が低い位の女性型で、筋肉の様な隆起は殆ど無く、姉さんほどでは無いが胸部にそれなりに大きな膨らみがある。


 戦い方はエースが大きな盾と本来は両手で持つ大きさの剣を片手で使い、ドッシリと構えるタイプ。

オシリスの方は後衛タイプらしく、弓と水&光系の特殊能力を使用する様だ。


 これらの魔物には、姉さんが魔送石を付けた、なにかしらの装備を身に付けている。

以前は迷宮の成長の為に各迷宮でだけ使用していたが、リーナの参加により製作できる数が飛躍的に増えたらしく、姉さんの従魔であるエグフォルドタイガー達に付けた所、劇的な変化が起きたので僕の方でも当然付けた方が良いという事だった。


 その劇的な変化と言うのは、肉体自体の強化は勿論の事、特殊能力が強くなり、最大のポイントは言葉を理解するようになった事らしい。


 エグフォルドタイガー達は大人しい上、従順な態度で姉さん以外の指示にも従っていた。

しかし、それなりの知性はあっても言葉を理解していないので、あくまで訓練された獣程度の行動だったとの事。


 しかし、姉さんの肉体を一度通過した魔素の影響はどうやら情報面でも色濃く反映されるらしく、魔送石を装備した翌日には言語を完全に理解していた。

僕の従魔も一日経った現在では同じ状態であり、アゼルに対して姉さんが口頭での指示を繰り返しても完璧にこなした様だ。

現在は僕の移動迷宮に居るので迷宮内で好きにやっているはずではあるが、今朝見た感じではあまり迷宮内で狩りをしている様には見えなかった。


 話を戻すと、そんな感じで基本的にはこちらに殆どの戦闘人員を配置し、一部隊である十八人を代わりのお屋敷の警護に回す方向となっている。

ヴァルツァー五爵の使った脱出用の魔法具(?)が王都付近に移動する物で無い限り、どちらにしても最低で後一~二週間は王都で襲われる可能性は少ないので当面はこの配置でいく。

もし、一週間しても現れなかった場合は配分を変える必要があるだろう。


 大体の話は纏まったので、早速行動を起こす事にした。

領主様の執務室にある必要な物はまとめて《アイテム》へ入れていき、代わりのお屋敷で綺麗に並べていく。

その間に姉さんはリーナを迎えにミルロード邸へ戻り、お嬢様やミルロード卿にも今回の話を伝えて貰った。


 姉さんがミルロード邸に居るので僕はエルナリアの領主館とミルロード邸に置いてあるマスター用の扉のミルロード邸側を破棄、すぐに代わりのお屋敷の方に設置作業を行った。


 これによってミルロード邸から迷宮に入る事が出来なくなったが、姉さんが今まで代わりのお屋敷に置いてあった自分の移動迷宮を呼ぶ事で経路自体は元通りになる。

要は、姉さんの移動迷宮とミルロード邸の扉の位置を反対にしただけである。


 姉さんが移動迷宮を他の場所で呼ぶとミルロード邸からは扉で移動出来なくなるのだが、お嬢様も代わりのお屋敷の方へ移動する為、ミルロード卿以外には使う可能性が無いので特に問題はない。

ミルロード卿に関しては、普通に代わりのお屋敷まで馬車で移動すれば良いとの事だった。


 姉さんがリーナを連れて戻って来たので、今度は順番に部屋の家具類を移動させていく。

ただし、侵入者に違和感を持たれ無いよう、ダミーを姉さんとリーナが物凄い勢いで作って行った。


 石や土、木材といった材料から《錬金術》で次々作って行くのだが、その素材は姉さんが故郷の村で行っている工事現場から出た廃棄物らしい。


 土はそのままで、石は細かくすり潰してから同じ規格の箱に詰め込んであり、木材は生木が殆どなのだが平気で作り変えていく。

見た目だけなら十分に通用する出来の家具は実際に使用しても十分な強度があるらしく、


「見た目は置いてあったのとそれ程変わらず、使うなら一般市民が使ってるものよりちょっと良い物程度の品かな」


との事。

今回の件が終わったら、協力してくれる王都軍や宮廷魔道部隊の方にプレゼントしても良いと言われている。


 一応、領主様と最低限の使用人の方だけはすぐに代わりのお屋敷へ移動して貰い、ゲルボドとミラにはそちらの護衛として付いて居て貰う事にした。


 その後もずっと作業は続き、恐ろしい程の家具を作ったにもかかわらず、姉さんとリーナは休憩無しでやりきった……。

……でも、それは流石におかしくないだろうか……?


 姉さんはまだ理解できるのだが、リーナのMPはそこまで多く無いはずだ。

カオススライムであった頃は即MP切れで昏倒していた。

人になったからと言って、そこまで変化するとは思えない。

精々僕と同格ならば納得できるのだが……。


 一応その事を聞いてみた所、


「良い所に気が付いたわね。それに関しては、乙女の秘密とだけ言っておきましょうか」


と言って、やはり答えは返ってこなかった。

まぁ、予想通りだ。


 明日からは、本格的な人員の配置と罠の設置等を行う予定。

そして、僕は王女様の襲撃も用心しておかなくてはならない。

なにか有効な対策法が無いかもしっかりと考えておかなくては!

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