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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
74/111

71、姉さんの噂……

 事後処理として、素材を保管する場所で《アイテム》から今回得られた品を出していく。

事前に約束した、半分を僕達が貰う話もすんなり許可された。

むしろよくその条件を通したという事で、レックスさんが褒められていた位だった。


 どうやらこの場所もギルドにあった保管庫と同じで、時間の経過による劣化が防げる魔法がかかっているらしい。

それならば問題は無いはずなので、大量の樽と厨房の人員を用意して貰って幼虫も渡していく。

樽にはどんどん体液が貯められていき、その量の多さは樽が足りなくなる程だった。

僕の取り分を除いて全部出してしまいたかったが、頭部につけた傷口から漏れてしまう事も多い為、追加の樽を用意するまで待って欲しいと言われた。


 蜂の素材は針が短剣等、外骨格が防具や作業用品、強靭な翅は石の様に硬いので光窓等に使われる。

僕の取り分も蟻同様に全て買い取っても良いとの話になったが、取り敢えずは保留にした。

配分する分は、加工して自分で使いたい人が居るかもしれないからだ。


 隊員の分配に関してはレックスさんに集計を任せて次回来た時に処理する事になり、前回渡した蟻の素材分の代金と今回の討伐に参加した報酬を渡されてようやく解放される事になった。

報酬の残りである大陸ギルドへの紹介に関しては姉さんと合流してからの話なので、こちらの準備が出来次第連絡を入れる事になる。


 しばらくは細かな事後処理もあるので、すぐに連絡を取れる様にレックスさん達がいつもいる王都軍詰所の場所を教えて貰い、レックスさんの自宅まで教えて貰った。

僕の方はミルロード卿の御屋敷でお世話になって居るので、何かあったらそちらへ連絡を貰う事にした。

こうして……僕達はようやく王城を出た。


 因みにミラはずっと大人しく、ゲルボドは我関せずという感じで好きにやっていたので実質全てが僕の仕事だった。

まぁ、姉さんが居ない時点でわかってた……うん。




 ◇ ◇ ◇




 ミルロード卿の御屋敷に早く帰りたい所ではあるが、済ませておくべき用事は先に片付ける必要がある。

残された要件は後一つ。

ギルドに預けてある蟻素材についてだ。

流石に王城との話は片付いているはずなので、これ以上置きっぱなしにしてはギルドにとっても迷惑だろう。

ギルド買い取りでも良いし、王城で全て引き取ってくれるとも言っていた。

その相談だけは終わらせてしまおう。




 ◇ ◇ ◇




 ギルドに行くと顔見知りになっていた冒険者の人が何人かいた。


「おう坊主。最近見なかったが調子はどうだ?」


「自分なりには頑張って居ます」


そんな感じに無難な答えを返していると、


「そういや、お前の姉ちゃんが何日か前に学院で大暴れしたらしいな」


と言う……あまり聞きたくない話が出て来た……。


「僕は今日まで仕事で王都から離れて居たんですが……何をやらかしたか詳しく判りますか……?」


「あんまり詳しくは知らねぇが、学院に通っている貴族の嬢ちゃん達の代理決闘に出て、相手に何もさせずにボコボコにしたって聞いたぜ」


「ああ、それに加えて、その後に喧嘩を売って来た貴族の坊主を十二人程、芋虫の様に転がしてやったとも聞いたな」


……

…………

………………

姉さん……何をやってるんだ…………。


 しかし、そこで気が付いた事が一つ……。

学院でそんな事があるとしたら、どう考えてもお嬢様が関係しているのではないか?

今回の仕事に出る前に、お嬢様の様子がおかしいと感じた事があった。

もしかしたら……それが原因だろうか……?

これは、姉さんに確認しなくては駄目だな……。


 その考えに少しの間没頭していたが、他の話に移った中に一つ……無視できない話が混ざって居た。


「そういや例の【迷宮の魔女】の素材が、又ギルドの買い取りに出たんだって?」


「ああ。商人に買い取られる前に何組かの冒険者が急いで出発した中で、上手い事仕入れた奴が数組帰って来てるらしいな」


……【迷宮の魔女】……?

残念ながら……嫌な予感しかしない。


 その件を詳しく聞いてみると、ここから少し離れた村から何日か前に珍しい魔獣の素材が運ばれたらしい。

持ち込んだ人は村へ定期的に行商をする商人さんで、価値が分からないので自分では買い取れない為、村長さんからギルドでお金に換える依頼を受けたようだ。


 そこで、ギルド職員から一つの疑問が出たとの事。

その魔獣はこの大陸には居ないはずの魔獣だったからだ。

商人に詳しく話を聞いた所、【迷宮を操る聖女】が村の為に迷宮から食糧として魔獣を分け与えてくれた時の素材だという話だった。

その【聖女】は盗賊に襲われて困っている周囲の村を巡り、食糧を与えたり魔法で怪我人を癒したりして、最終的には盗賊すら配下の魔獣と共に倒したらしい。


 その時の食糧となった魔獣の素材を村の為に使いなさいと言って置いていった為、素材を転売して儲けを出そうとしている商人や冒険者が村へ旅立ち、何組かがそろそろ帰って来ているとの事。

因みに【迷宮の聖女】と【迷宮の魔女】は同じ人物に対して付けられた名称で、迷宮を自在に操る程の実力者なのに見た目は若い女性だった事から付けられたらしい。

何らかの手段で不老なのではないかとも囁かれているとか……。


 姉さん……本当に自重する気無いな!

まぁ、そちらも何かしらの理由があるのかもしれないのだが……。

聞く事が段々増えて来たので、いっその事《通話》で聞こうかと思ったが……辞めた。

お嬢様の件は……何となく直接聞かなくては駄目な気がしたからだ。


 ギルドの職員に蟻素材の件で来た事を告げると、鑑定部門の責任者の方がすぐに対応してくれた。

あの後に王国軍の方と話を済ませ、現在は既にここに置いておく必要性は無いとの事。

蟻素材は出来れば売って欲しいが、判断はあくまで僕次第なので値段の提示だけさせて貰うと言われた。

女王の身体だけは国で買い取りたいらしく、売るのならば国を優先させて欲しいとの打診が来ているとの事。


 蟻素材はギルドの方が若干高いし、今回の件でお世話になって居る事に加え、僕の事を余り公言して欲しくないのでそれと無く黙っていて欲しい事を伝えながら売った。

女王の身体は次回王城に行く時に渡す為に《アイテム》に放り込み、ここでの要件も終わりだ。

これで……ようやく仕事関係は終わった!!

さぁ! お嬢様に会いに行くぞ!!




 ◇ ◇ ◇




 遂に! 遂に帰って来た!!

僕は急いでミルロード卿の御屋敷へ戻り、主であるミルロード卿を差し置いてお嬢様に会いに行った!


 結果!

留守だった……。

ガッカリです。


 しかも……お嬢様の部屋の前には……大きな猫がいた。

種族はエグフォルドタイガー……これが虎って奴か。

僕の迷宮には居ないタイプの魔獣だ。

特殊情報には《迷宮の虜》があるので、間違いなく姉さんが連れて来たのだろう。


 さて、失礼な言い方になってしまうが……居ないのでは仕方が無いので、ミルロード卿に挨拶してこよう。

そう思って部屋を訪ねたのだが、そちらも居なかった……。


 確か昨日と今日はお嬢様の学院はお休みの筈なので、姉さんも居ない事を考えれば一緒に居るのかもしれない。

そう考えて《通話》で連絡を取ると、


『ああ、ルーク。ようやく戻って来た訳ね。今はシェリー達を連れてエルナリアの六爵邸に来ている所なのよ。私がそっちに迎えに行くから少し待ってて』


……だそうです。


 実の所、迷宮の数が増えている事や、色々な経路を作って居るとは定期的な《通話》の中で聞いてはいたのだ。

しかし、まさかこんなにすぐにそこまで活用出来ているとは思っていなかったので……正直、ビックリしたのは確かだ。


 現状、姉さんは迷宮を三つ保有しているらしい。

僕とここまで差が出ているのには理由があるらしく、僕にも次の迷宮を作れる様にする為、姉さんが一時的に帰って来る事になって居た。

本来は姉さんの迷宮を実家に置き、僕の移動迷宮と繋げる予定だった。

しかし、数が作れるならもっと利便性を上げよう! という訳で方針が変わってきているのだ。


 それにしても……姉さんと直接会うのは久しぶりだ。

そして、姉さんが構築した迷宮の転移門のお陰で実家の家族とも久しぶりに会える事になる。

色々話したい事もあるし、ここで得た仲間達を家族に紹介もしたい。

当のゲルボドやミラに眼を向けると、


「シャ――――?」


と、ゲルボドがこちらを見ながら首を傾げ、


「どうしたの、ルークお兄ちゃん?」


ミラも僕にそう問いかけて来た。


「姉さんが今からこちらへ迎えに来てくれるらしい。だから、もう少しここで待っていて欲しいんだ」


僕がそう告げると、ゲルボドとミラは頷いた。


 ポカポカとした日差しを受け、僕は姉さんが来るのを待ちながら……少しだけウトウトする。

疲れが累積していたのだろう。

椅子に座りながら……穏やかな時間の中、ゆっくりと僕の意識は遠のいていった。

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