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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
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62、巣の再探索

 レックスさん達、隊長の面々が翌日からの探索に向けての構成を話し合っていた。

僕と一緒にここまで来たレックスさんとミルファさんの部隊は、多少ではあるが対蟻用の練習を行いながら来ている。

蟻は基本的に突進を如何に捌くかが重要である事を念頭に置けば、十分に30レベルの六人構成で余裕を持って対応できる。


 因みに、僕やゲルボドはとにかく回避をするタイプなので、実は集団の中に入るとそこまで相手の攻撃を固定する役割としての能力は無い。

僕とゲルボドは、両方同じタイプなので上手く噛み合っていると言うのが正直な所だ。


 その事を考えると、僕達が部隊に加わる方向ではあまり有効な働きが出来ない可能性がある。

そこで、まずはレックスさんとミルファさんの部隊に先遣隊を一部隊づつ付けて探索し、蟻との戦い方をある程度伝達した段階で十八人構成のいつもの部隊で動く様に段階を踏む方向で行く事になった。


 キャンプには馬や持ち運ぶのが困難な物資も沢山ある為、残る人員も必要となる。

今回はレックスさんとミルファさんの一小隊分で各六人づつ置いて行くようだ。

因みに、三人でも蟻が退治できる僕達は、蟻の巣のあった場所を中心に独自で探索する予定だ。


 レックスさんが隊員達に必ず守る様に指示した事は一つ。

骨が折れる位は問題ないが、その場で死ぬような傷は受けるな! だった。

骨程度ならばゲルボドの魔法でどうとでもなる、という事を実際に見せられた隊員達の士気は高い。

探索蟻はおそらく一匹で動いている為、致命傷を受けない戦い方に徹すれば、ここに居るメンバーならばそれ程脅威では無いはずだ。


 方向性が決まったので後続組も野営の準備に入る。

流石にこの人数を前に迷宮を呼ぶのは避けたいので、僕は多脚小屋を出した。


 実際の所、僕やゲルボドは外で野営しても何の問題も無い。

そこで気になったのが、隊員の中で唯一の女性であるミルファさんが外なのに僕達が中と言うのはどうなのか? という事だった。


 そこで、ミルファさんにミラと一緒にどうかと小屋の方を勧めたのだが、


「その点に関しては気にしないで欲しいわ。女性である事を捨てた訳では無いけれど、部隊行動を前提とした組織に身を置いているのだから、他の隊員と違う待遇はくだらない男女差別なんかの原因になるのよ」


との事。


 まぁ、実際に隊長になるまでの長い年月を考えれば、今回だけ女性だからと小屋を使う事で余計な波風の原因になるのは面倒以外の何物でもないのだろう。


 そういう訳でゲルボドとミラに小屋を使って貰い、僕は敢えてレックスさんと同じテントで休む事にした。

《危険感知》を持つ僕が指揮系統の近くですぐに動ける方が、何かと便利だと言う建前のもとにそう決まった。

実際には、レックスさんから僕と色々と話をする機会が欲しいのでそうしてくれと頼まれていた。

後続部隊の設営が終わり、この日はその後何事も無く終了した。




 ◇ ◇ ◇




 前日に討伐された蟻は、村から王都側へ少し移動した森の中で発見されたらしい。

本来なら過剰とも言える戦力を有しながら、残念な事に敵を包囲して真正面から攻撃を受けようとした事が被害の拡大に繋がった様だ。

その時の教訓と、戦法を練習した部隊の合流でこれからは改善されるはずである。

六人単位で探索場所を分散して網羅して行くのは明日か明後日の予定なので、今日のうちにある程度は回避主体の戦い方に慣れて貰うとの事。


 僕達は独自で蟻の巣があった周辺を探索する事になっているので隊からは離れる事になるが、夕方には毎日合流して情報を共有することになっている。

それでは、まずは記憶を頼りに巣まで行くとしましょうか。




 ◇ ◇ ◇




 蟻の巣までは迷うことなく着いた。

ここに来るまでに三匹の探索蟻を退治している。

予想より蟻との遭遇が多い。

おそらくだが、蟻達が探索を終えて巣に戻って来ているのではないだろうか?

そうなると、巣の中も調べる必要がありそうだ。




 ◇ ◇ ◇




 前回はまともな行動をしてこないとはいえ、蟻を倒しながらの進行だったので相当な時間がかかっていた。

今回は基本的には進むだけなので、比較的容易に進んだ。

狩ったスピアアントは二十六匹。

思ったより多く戻って来ていた。


 最奥まで前回は六時間もかかったものだが、今回はどんどん進むだけなので二時間程度で女王が居た部屋までたどり着いた。

そこにも蟻が居るかと思っていたが、虫の姿は無かった……。

ただし……別の存在がそこに居るのが見える……。


 正直に言えば、その相手とは会いたくは無かった。

もっとも、他で被害を出される位なら僕達が遭遇した方がマシではあるのだが……。


 そこに居たのは見間違う事などない、どこからどう見ても魔獣人という姿の人物だった。

その特徴として、頭部は人型の獣人に酷似しているが、身体にうっすらとした短い体毛を服の様に纏っている事だ。

前回の魔獣人の種族はダークリンクスだったが、今回はクリムゾンレオとなっていた。

その姿は男の体型で、体毛は金。

例のダークリンクスよりも顔つき自体も穏やかで、その笑顔は好青年と言った感じに見える。


 にこやかに笑いながら近寄ってくる魔獣人に後二十mの距離で剣を向けると、


「やぁ、こんなところでのお仕事とはお疲れ様」


と言いながら立ち止まった。


 《危険感知》は働いていないので、今の所……敵意は無さそうに見える。

しかし、魔獣人の身体能力なら二十mは危険範囲ギリギリの距離だ。

相手の真意が判らない以上、これ以上は近寄らせる訳にはいかない。


 こちらが警戒の意志だけを示し、返答が無い事を確認した魔獣人は、


「ふ~ん。その様子だと、穴があったから探検にきた冒険者……という訳では無さそうだね」


そう言いながら、笑顔のまま大袈裟に値踏みをする様な仕草をする。


「私を警戒する様子からも、前からこの巣を知っていた……という感じかな?」


そう言いながらもその瞳に魔法物質が集まり、《邪神眼》というスキルを発動させた。


 僕は咄嗟に盾で視線を遮り、相手の顔以外はしっかりと視界に収めながら自分自身と周囲の変化を確認する。

特に変化は無いようなので、ゲルボドとミラの様子も確認したが問題は無さそうだ。


「へぇ、少し特殊な様だけど《女神の祝福》を持っているのか。私の《邪神眼》の発動にも気が付いて居る様だし、その年齢にしてはレベルが高すぎる。蟻共やグリゼリアを始末したのも君達なのかな?」


魔獣人は……にこやかだが、ゾッとする笑みでそう聞いてきた。


 おそらく《邪神眼》と言うのは、《識別》と似た様な効果があるスキルと予想される。

どこまで重複しているのかは判らないが、最低でもレベルと特殊情報は相手に確認されている。

もしかしたら年齢も見えているのかな?


 因みに《邪神眼》は習得不可能と出ている事から、名前通りに邪神絡みの能力だろう。

グリゼリアと言う名前は知らないが、予想としてはダークリンクスの事だと思われた。


 こいつのレベルは35。

ダークリンクスと同じように魔族の加護を得ているなら、いくら蟻との戦いで強くなっているとはいえ……苦戦は必至。

僕は、どう対策を立てるべきかを必死に考えた。


 相手からは未だに《危険感知》に引っかかる様な行動は見られない。

しかし、相手は魔族の僕である魔獣人だ。

いつまでもこうしては居られないので、相手からは見えない盾を持つ手でゲルボドに合図をした。


 僕の合図を受けてゲルボドが一気に駆ける。

ゲルボドにとっても二十mなど無いに等しい距離である為、一気に接敵した。

魔獣人はその両手からナイフのような爪を出してゲルボドの剣を弾く。

その瞬間に金色の体毛が一気に伸びて膨れ上がり、燃える様な火炎を纏いながら熱気をばら撒いた。


 金色の体毛自体は燃えていないのだが、その周囲で魔法物質を燃焼させているらしく、戦う相手だけを燃やす炎の鎧と化している。

これはまた……面倒な相手が出て来たものだ……。

……こうして、再び魔獣人との戦いの幕が切って落とされた。

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