58、王城地下牢
正直に言えば、少し面倒な事になった。
魔獣人の死体を受け渡し、その事も含めて話をする予定なのだが……受け渡し場所が王城内になったらしい……。
理由は凄く簡単で、最高の防護施設は最強の封印施設にも成り得る……という事らしい。
王城内部に存在する、この国最高の防御用魔法装置は王族の暮らしているエリアを守護し、特に国王様が生活と仕事を行う部分には最高の効果をもたらす様になっているらしい。
そして、その機能を逆の目的に使う事によって、城の地下には外部からの影響を受けさせない国内最強の牢獄が用意されているとの事。
国王様の居るお城に牢があるのは危険に感じるのだが、それだけ強力である為に今まで問題が生じた事は無いらしい。
複数の大型防御用魔法具と、それを補助する無数の小型魔法具。
緊急時に対応出来るようにそれらの魔法具が二セット存在し、いざという場面では予備として使用する。
しかも、重複発動する事により大幅に強化する事も出来る為、現在のシステムになってからは防御を抜けた者は居ないとの事。
魔獣人は、魔王の眷属である魔族に仕えている。
魔族の影響が少ないこの大陸でもその恐ろしさは伝え知り、残された過去の記録には結構な被害が記録されているらしい。
その中には不死者として復活したり、呪詛を撒き散らせた事により、軽く数千の被害が出た事が何度かあるとの事。
下手な場所でその元凶となる死体を出す訳にはいかないと言われ、用意されたのが王城の地下という訳なのだが……正直、気が重い。
お嬢様と初めて会ったエルナリアの領主館に行く事ですら、僕には縁の無い世界のはずだった。
呼び出された際には気が重く、逃げ出したい衝動で満ちていたものだ。
しかし、そのお陰でお嬢様に会えたのだから……今となっては喜ばしい事であったのだと感じている。
……しかし、今回の王城へ行く事はそれ以上のプレッシャーがあるにもかかわらず、面倒事しか発生しない可能性が高い。
何故なら、本当はもっと実力がつくまでは権力者には近寄りたくなかったのだ。
僕が目指す【竜殺し】とは、曲がりなりにも権力者達の一部として数えられる存在である。
それを目指すだけの実力があるとわかれば……当然自分達の陣営に引き込むか、邪魔になる可能性を考えて妨害する等といった輩が現れる可能性があるからだ。
正直な所、ヴァルツァー五爵の例もあるし、ミルロード卿の話からも極力避けておいた方が良いと言われていた。
それが、まさかこれほどの早さで王城行きが避けられなくなるとか……困ったものだとしか言えないだろう。
後は精々余計な火種に火を点けない様に大人しくするしかない訳だが……嫌な予感がさっきからする訳です。
……気にし過ぎである事を祈ろう。
◇ ◇ ◇
現在、王城へ同行しているのはギルドで会った二人の隊長さんだ。
出来るだけ目立たないルートをお願いしているので、比較的人には会わないのだが……その分、すれ違う兵士からは鋭い目で見られる事が多い。
実力の問題で何かあった時の参考にする為、ここに来るまでの間に一応兵士の方達のレベルを調べてみたのだが、城門からここまで来る間にあった人達はレベル20~30位だった。
一般に言われているレベルでは、通常は限界が六十前半。
この強さを得る人物は、この大陸で二十年に一人と言われている。
次に、五十レベルの壁を超えられるのは十年に五人程度。
そして四十を超える者は五十人程度らしい。
大体は三十を超える辺りで壁にブチ当たって停滞するのだが、一流の冒険者と言われるのがこの辺りとなっている。
そういう意味では既に僕は一流に足を突っ込んでいるレベルなので……出来るだけ目立ちたくなかったのだ。
この年齢で、ランクも低いのに何故か実力だけはある。
正直、この事実をどこの誰がどう受け止めるのかは予想出来ないのだ。
事実、ここまでに見た兵士は全員僕よりレベルが下。
しかも、二年以内には六十を超えるつもりなので……余計な事が起きない事を願うしかない。
◇ ◇ ◇
地下にある部屋は……まさしく閉じ込める為の部屋! という感じだった。
いくつか同じような部屋があるらしいが、入ってきた扉以外には何もなく、それすらも僕達が出たら見えなくなるらしい。
閉じ込められた相手からは、完全に密封された部屋という事だ。
現在ここに居るのは、僕達三人を含めて計九人だ。
ここで合流した方達は……王城の警備担当の管理職の方、鑑定系や物資関係の部門を取り仕切っている方、ギルドから一緒に来た隊長二人の上司の方、地下幽閉施設の管理者の方……らしい。
全員が当然の様に爵位を持っている方達なので、正直僕としてはこのまま帰りたい!
……当然そんな事は出来ない訳だが!!
取り敢えず、現物を見せなくては始まらないので、《アイテム》から魔獣人の死体を出す。
ゲルボドの剣により、一気に心臓を貫いた為に殆ど傷が無い死体の傷口から血が流れ出ていく。
その血に触れない様にしながら、全員で壁際まで下がって様子を見る。
溢れて来る血は明らかにおかしな速度で黒くなっていき、周囲に撒き散らされるように気化していく。
その黒い気体は部屋に溢れている魔法物質により、パチパチという小さな音を立てながら相殺されて消えていった。
「あれは呪詛の一種ですね。効果自体は分かりませんが、働いている魔法具の出力から考えて……相当強力な物でしょう」
「その様ですな。相殺されているので効果は不明ですが、放置した場合は数千人規模の被害が出ていたでしょう。よく回収して来てくれたと礼を言わねばなりませんな」
この部屋の管理者の方がそう言い、鑑定部門の方が同意した上で僕達に頭を下げた。
「いえ……僕達にはそれが出来る手段が運良くあっただけですし、やった事自体は当然のことですから」
ただでさえ居心地が悪いのに、頭など下げられたらどうして良いのか分からない。
僕に言えたのは、その程度の当たり障りの無い答えだけだった。
今は様子を見る為に防御機能を高めた状態で時間経過のある状態なのだが、僕達が外に出た後にこの場所は劣化防止の効果を発動させる。
その効果で害のある効果も抑制されるので取り敢えずは一安心だ。
ここならば問題も起きないだろうから、面倒な荷物が一つ減った事は喜ぶべきなのかもしれないと自分に言い聞かせておいた。
◇ ◇ ◇
先程ギルドでしたのと同じ話に加え、魔族獣や魔獣人については根掘り葉掘りと言う感じで聞かれた。
蟻については実物を出し、その外骨格の強度や戦い方の伝達も行った。
これから探索蟻を討伐に行く隊長達にとって、とても有効な情報のはずなので出来るだけ詳しく教えた。
因みに、敢えて気が付いていない風に振る舞ったが、明らかに僕達は観察されていた。
隊長さん達以外が、相当な数のスキルを使用して色々と僕達を調べている居るのが視界の端に見えていた。
そして、ここで一つの発見があった。
《識別》に統合されているスキルは習得しても意味が無い為に元々習得出来なかったが、それ以外のスキルも全て習得出来なかったのだ。
どうやらこの部屋に発生している何らかの効果によって、僕の認識自体が阻害されている感じだ。
おそらく僕には頑張っても理解出来ないのだろうが、姉さんにはこの事をしっかりと伝えておこう。
◇ ◇ ◇
僕達の事を色々と調べていた様だが、特に何も言われる事無く終了した。
ただ、鑑定部門の責任者の方からスピアアントの素材を売って欲しいと言われたので、手持ちは全て売っておいた。
スピアアントの槍は軍でも人気のある品なので、本来生息している別の大陸から高額で製品を購入しているらしい。
素材で手に入る機会は殆どないらしく、是非にと言われてしまうと断れなかった上、僕は使う気が無いので断る理由も無かった。
再び二人の隊長さんに案内されて、お城から出る為に人気が少ない経路を使って貰いながら歩いていると……明らかに貴族のお嬢様かお姫様といった雰囲気で、僕と同じ位の年齢の女性が廊下の反対から……走って来た……。
明らかにその姿とはかけ離れた行動に驚き、僕が戸惑っていると……、
「お前が勇者様の偽物か! 勇者様の名を語る悪党はこの私が成敗してくれる!!」
そう言って剣を突き付けられた……。
……エッ!
僕、勇者様の名前なんて騙った事は無いよ!!
……どうしてこうなった……。




