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代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
48/111

45、追跡開始

 ゲルボドは広範囲爆発魔法を、目の前の敵に使った。

勿論、ケルボド自身も効果範囲に含まれている。

その凶悪な威力を持つ爆発魔法によって、中心にいた魔族獣は一気に吹き飛ばされた。

……ゲルボドは、当然の様に無傷で立っている。

正直に言おう!

余りにも強すぎるな!!

《スペルセービング》!!!

この能力を、僕が得られないのが物凄く残念だ……。

因みに、ミラもこのスキルには目覚めてはいない。

この世界のルールにのっとったスキルではないのでこのまま習得出来ずに終わるのか、それともゲルボドの能力をそのまま無差別にコピーしてその内使用できるのか、今の所はどうなるのか不明なままだ。

最も……過信しすぎな気はするので、今度注意はしておこう。


 さて、ゲルボドの爆発魔法に吹き飛ばされた魔族獣は、明らかにダメージを受けている様に見えた。

漆黒の体毛に、おびただしい量の赤黒い血がベットリとついているのがうかがえる。

魔族獣は村の外へ向かうか、こちらへ向かうかを少しだけ考えた素振そぶりを見せた。

僕としては逃がす訳にはいかない。

当然その一瞬の隙に、攻撃用の魔法を二つ撃ち放つ。

しかし悔しい事に、先程の闇の空間がゲルボドの魔法に巻き込まれて体積を大幅に失っているが残っており、自動的に魔法を追尾するかのように僕の魔法を飲み込んだ。

その動きを見て、ゲルボドも次の魔法を唱え始める。

この段階で、魔族獣は撤退を決意したようだ。

《スキル:俊足》を使用して、一気に村から離れて行く。

残念ながら、その速度は恐ろしい物があった。

ゲルボドの魔法が完成し、無数の風の刃を発生させるが当たったのは一枚だけだった。

右の側面を上から下へ切り裂くように毛皮が裂け、血も相当流れているさまが窺えるが、残念ながら移動に影響は無い様だ。

ゲルボドもすぐに《移動力強化》の効果を発動して一気に追いかけたようだが、元々の機動性が違い過ぎる。

四足の魔獣が、更に移動力を強化して逃げだしたのだ。

追いつける訳が無かった。

これは……仕方が無い。

現状では、追跡するのは無理だと判断するしかない。

その結果、今日の張り込みによる対策はここまでとなった。

もちろん、再度の奇襲に対する用心も怠ってはならない。

何故なら、奴は手痛い傷を受けている。

ここで逃げて行く可能性は高いが、逆にこちらが油断している所に襲い掛かる可能性もゼロでは無い。

自分の怪我を油断させる材料として行動してくる事も十分あり得るのだ。

それ故、先程と同じ様に順番に当番を決めて休憩をとり、朝を迎えるまで用心を怠る事はしなかった。




 ◇ ◇ ◇




 朝になり、村長を始めとした村の男達……特に戦いが出来る年齢の男たちが集まり、昨夜の事について説明する事になった。

僕の魔法はともかく、ゲルボドが使った広範囲爆発魔法は、静まり返った村全てに聞こえる程の轟音が鳴り響いていたらしい。

その事により、僕達が戦闘を行って居た事が分かっていたとの事。

そして、戦いの現場を朝になっての当たりにし、ゲルボドの爆発魔法の跡も確認してきたらしい。

加えて、敵が残した血痕も確認済みの様だ。

これらの証拠に裏付けられた戦闘結果を考慮する形で話し合いがもたれた。


 僕は昨夜出会った魔物について、《識別》で見た内容について全てを語った。

当初の予想のブラックハンター等とは、比べ物にならない大物である事などだ。

このままこの地を離れてくれれば良いのだが、ただの獣とは違い、恐らく僕達に対して明らかな憎しみを持っているであろう事。

出来る事なら、このまま血痕を辿たどって、決着をつけるまで戦いを続けるべきだろう。

村長は流石に自分だけの判断で決められる範疇を超えていると考えているらしく、村の男達に考えを出させている。


 男達は、追撃する事に対しては賛成してくれた。

まぁ、これは当然と言える。

何故なら、自分達の村は次々と家畜が狙われていた。

僕の言う事が正しいのならば、家畜の次は自分達が狙われる可能性もあったのだから、ここで引き下がるかどうかも判らない相手を放って置く事は出来ない。

傷が癒えた頃にやって来て、その時には既に僕達が居ないのでは困るのだ。

出来れば、この機に一気に片を付けなくてはならない。

現状で考えられる……それが最良の手なのだ。

ただ、ここで問題となるのは、僕達と入れ違いに魔族獣がこちらへ来てしまった場合の対処だ。


 ……正直に言えば、僕は相当悩んだ。

僕には安全を確保出来る場所を用意する事も可能だ。

村人全員となると相当窮屈な思いをする事になるが、迷宮を呼んでしまうと言う手が有るのだ。

安全なのはマスタールームだけとは言え、村に居るよりも安全なのは確かだ。

ここでの問題は、安易に迷宮を晒す行為は控えた方が良いと言う点と、安全面を村人が信じるかどうかが分からない点だ。

不安で精神的に不安定になって居る者も多いらしいので、余計な火種を持ち込む結果になりかねない。


 結果としては、迷宮は使用しないで村から少し離れた場所で全員待機と言う方向で決まった。

範囲魔法を撃ちこまれる危険性を考え、村外れにある小さな洞窟を使用する事になった。

当面の食材以外は残したまま、急いで準備して移動を開始する。

途中で襲われる危険性を考慮して、一旦僕達も護衛として同行した。


 何事も無く洞窟への移動を終え、僕達は村へ戻ってから血痕を辿りながら奴が通った後を移動する。

しかし、当然ではあるが……いくら結構な量の血で濡れて居ようと、すぐに目視出来るほどの血液は少なくなってくる。

ここで、とても役に立ったのはゲルボドの持って居た《嗅覚(異世界)》と言うスキルだった。

僕やミラは、まだスキル熟練度が低い為にそれ程しっかりとした匂いを感じ取れない。

しかし、元々持って居たゲルボドは弱体中らしいが十分にその能力を発揮し、村の西側へと続いていく血の匂いを辿って僕達は用心しながら追跡して行った。


 森の中は鬱蒼とした雰囲気となって行く。

しかし、僕の持つ《暗視》の能力も併用して進めば、例え暗がりでもしっかりと認識出来て居る。

こうして森の奥へ追跡して行くと、途中に何か所かに食い散らかした獣の死体がある。

その身体には、昨夜僕の手についていた黒い斑点の様な物が見られた。

喰い散らかされた死体の他に、少し離れた位置に自分の身体を木の幹に擦り付けて、それが出血の原因となって死体となった獣も確認できた。

やはり……あの黒い斑点は、かなりたちの悪い効果がありそうだ……。

残念ながら、昨夜からは交代で睡眠をとってはいるが連続での睡眠はとって居ない。

これにより、ゲルボドが使える《快癒》の回数は、一回分減ったままだ。

この事がどう影響するかが、正直不明であると言うのが現在の状況だ。


 喰い散らかした獣の血のお陰で追跡がしやすくなったようで、魔族獣と口についているであろう獣の血の匂いを追って僕達は移動する。

暫く移動すると、何匹かの魔物に遭遇した。

それ程大した敵では無かったので、ミラにも戦闘に参加して貰ってサックリと蹴散らす。


 その後も邪魔者を排除して、ドンドン追跡を継続した。

ミラの戦闘スタイルは、ゲルボドの持って居た《弓(異世界)》、それと各種魔法、それらを使った戦闘スタイルを現在集中して行っている。

肉体的にもまだ幼い所が見られるミラでは、直接攻撃を行う近接系では難しい。

加えて、本来ミラは人型の獣人である為に、肉体的に恵まれているとは良い難い。

その事を考えると、精々ナイフか短剣クラスのスキルを上げながら、現状の様な後衛としての動きを磨いていく位がベストな戦い方なのかもしれない。

隷属の効果により、身体的特性もゲルボドに近づくとは聞いてはいたが、その点に関しては特に鱗が現れるとか尻尾が変化して爬虫類の様になるなどと言った見た目の変化は起こらない様だ。

あくまで特性の変化らしいので、ゲルボドが持つ強靭な肉体寄りに強化される様だ。

因みにリズーマンの種族的特性は、敏捷力、体力、耐久力、筋力に優れ、知恵や信仰心と言った思考に関わる部分は若干低い特性をもつらしい。

もっとも、この特性自体はあくまで冒険者に対する評価基準である為、知恵が低い=馬鹿と言う訳では無く、知恵が低い事による影響は魔法の威力などに若干のボーナスが付かない程度の差で、戦闘や冒険に関わる部分のプラス部分が付かない方向での評価らしい。


 即ち、ミラがゲルボドの特性を引き継いだからと言って、ゲルボドの様に能天気になったりはしない!

あれはあくまでゲルボド本人の性格と気質である事だけは強く言っておく。

ゲルボド本人もその点は納得しており、


「俺の能天気な性格は、どんな事をしても治らないシャ――――!!!!」


と、自信満々にいっていた……。

いや……もうチョイ自分で頑張ろうよ……!

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