21、旅立ち
僕達の旅立ちの季節が来た。
護衛は最終的に僕と姉さんだけだ。
《アイテム》を公開する人員に関する問題と、姉さんの強さが異常であった為に足手まといを増やす可能性を避けたようだ。
ライルさん達は地味な仕事が多かったが十分な実績を積み、次期お抱えの選考にほぼ確定と言われている。
「ルークのお陰で領主様直属冒険者にもなれそうだ、感謝しているよ。もし今回の護衛が終わってこちらに戻るのであれば又一緒に組もうな」
ライルさんからはそう言って貰っている。
とても嬉しいと思いつつ、実現は難しいとも思う。
これからは姉さんと一緒に行動する事になる。
その姉さんの戦闘力があまりにも酷過ぎて、この街での仕事ではもう無理が来ている。
大きなギルドが存在する街での活動は必須であろう。
まぁ、まずは今回の護衛を完了させてから考える事に決めていたのでまだ先の話だ。
持ち物は姉さんが随時《アイテム》へ投入していたので用意は万端だ。
同じ内容なら一つのアイテムとしてみなされる事を利用して、作ったばかりの料理を人数分で一セットにして箱に入れる事で一回の食事をまとめて保管する。
流石に種類が無いと飽きるので十種類程度のバリエーションを作っている。
次に持ち運び用の小屋だが、三種類用意している。
一つは普段寝起きする為に使うメインの小屋で、一番手が込んでいる。
かなり頑丈な木材と石材を主材料とし、内側からしっかり施錠することが出来る。
一辺五mと十mの長方形をしており、中は五mの正方形が二つに分割されている。
一つは入ってすぐの場所に簡易調理道具が用意された調理場と移動が簡単にできる椅子やテーブルがある。
構造としては二階部分があるが、高さ一m程度で女性陣ですら立てない程度の高さであり、完全に女性専用の寝室だ。
もう一つの区画は馬小屋となっている。
この小屋の制作には姉さんとクレリアさんという《付与魔術》の使い手が魔法を付与している。
領主様が結構な報酬で、冬期間による材料の不足が原因でそこまで忙しくなかったクレリアさんにも依頼したのだ。
簡易調理台には当然魔法具や魔石を素材とした火の出る台や、冷気が出る冷蔵庫なども完備。
時間的に余裕がある時には、何か料理や御菓子を作るらしい。
部屋の端に設置されているトイレには外部に音が漏れない消音魔法と水が湧き出す水洗装置、流した水等を分解消失させる物質分解装置すらある。
生物には効果が無い安全設計との事。
更にこの小屋で一番の能力はその防御性にあった。
この小屋、全体を土魔法のシールド魔法《アースシールド》が張り続けられる機能があるのだ。
まぁ、姉さんしか扱えないという尖った機能なので同じ効果として普通に売れるような物では無かったが。
魔力保管用に調整した上級の魔石に姉さんが大量にMPを注ぐと最大十二時間持ち、魔法物質を封じ込める加工を施した魔法具に魔素を充填しておいて保管用魔石とセットで使うそうだ。
《アースシールド》が攻撃されると警報が鳴るし、破壊されると即時に張り直されるという普通では有り得ない性能らしい。
ちなみに姉さんが使わない場合には魔素の代わりに魔法物質を自動で一カ月程貯めこんでから使うようだ。
気の長い話に感じるが、それでも普通なら高価で凄い物だ。
次の小屋は五mの正方形をしており、こちらは先の居住用に連結して使用する為の追加用だ。
入口の扉の中から出す事で、出入り口を外部から塞いでしまう事が出来る。
まぁ、馬小屋側の出入り口はそのままあるんだけどね。
連結した場合は結構な大きさになってしまう為、設置できる地形かどうかで追加するのだ。
こちらの中には更衣室とお風呂、着替え等が多数しまってあるタンス等がメインで、当然水の供給やお湯を沸かす熱も魔法具でできるよう完備されている。
最後の小屋は設置場所が狭くて確保出来ない場合用の小型の物だ。
一辺三m位の小型ではあるが、これもかなり尖った性能だ。
まず長さ五m、太さ十cm程の足が八本ある。
足自体が魔法具となっており、足場に合わせて複数の関節を可変させる。
更にロープ型魔法具を周囲に撃ち込んだりして固定する。
もちろんこれにも《アースシールド》が組み込んである。
どんなに足場が悪かろうがお構いなしに固定出来るとんでもない仕様だ。
その上、何らかの都合によりバランスを崩しても十数秒なら浮く事も出来る為、即座に体勢を立て直すらしい。
問題点としては馬が収納出来ない事にあるが、保護用ネットを周囲に張ったり外敵や地形による事故を防ぐ処置は色々施してあるようだ。
ちなみに、姉さんの希望でどれか一つを報酬の一部として貰える事になっている。
次に移動だが基本的に馬車だ。
御者は僕がやる事になって居るが、姉さんも操る事が出来るので余程必要になった場合は交代する事も出来る。
貴族が使うような豪華な物では無く、かなり薄汚れた外見をした商人が荷物を運ぶ為に使う物だ。
幌を張ってあるタイプで中が見えない事を考慮しつつ、身代金目当ての賊から目を逸らす為に豪華な物は避けた。
出来るだけ賊に襲われないようにする為にダミーの護衛も用意してある。
馬に乗った、フルプレートメイルを装備して剣を持った傭兵風の護衛が二体。
『二体』の理由は中身が空のダミーだからだ。
クレリアさんが使うことが出来る簡易ゴーレムの作成法と姉さんの異常なMPを使って、とても自然に動く事が出来る操り人形を作り上げていた。
ちなみにダミーと言いながら、姉さんが操っている時の強さはライルさんを圧倒していた事からも容赦ない強さだ。
操作しない自動行動時には邪魔にならない程度の強さと言った所ではあるが。
流石に激しく戦闘を行う場合は指示を出している姉さんの行動が制限されるらしいから乱戦になった場合ではそこまで役には立たないと言われている。
荷台の後ろ側には荷物を中が見えない高さに積み込んで奥が見えない様にしてお嬢様達が外から見えない様にされており、かなり弾力性が高いクッション等が大量に敷き詰められた空間で快適性を上げている。
馬車には様々な部分に魔法が付与されており、防御性や快適性が非常に高い品になっているとの事。
◇ ◇ ◇
僕達が街を出てから三日が過ぎた所までは順調に何事も無く進んだ。
問題となる可能性はここから高くなる。
ここまでの平地と違い、ここからはそこまでは高く無いとはいえ高低差のある丘や森林が左右に広がる地帯がしばらく続く。
隠れる事が出来る分、様々な生物が潜んでいる。
特に冬を越して飢えに耐えてきた者達はようやく訪れたこの季節を存分に堪能する為に派手に獲物を狩り続ける。
魔法物質で強化された魔物等は特に凶悪だ。
消化器系まで強化されている為に、ガンガン食べて即消化して次の獲物を探す。
恐ろしき狩りの季節なのだ。
いきなり襲われても馬車に使用されている《アースシールド》の魔法具によりすぐに被害は出ないが、事前に対処出来た方が良いのは当然の事と言える。
この地帯に入ってからは即時迎撃の為に姉さんも御者席の横で待機している。
魔法を撃つだけなら御者をしながら《ショートカット》から撃てる為、身体強化の魔法を使った状態では僕よりも俊敏な対応が出来る姉さんがその役割を担当した。
ちなみに僕が愛用した《スティールMP》の魔法は使用を禁止されてしまった。
「《ショートカット》前提で、しかも普通なら使えない闇魔法、その上この先闇耐性がある魔物が出た場合に他のスキルを育てて居ないリスク、良い事なんて何もないわ。一人で仕事させていた時には危険との兼ね合いで止めてなかったけど、私が合流した以上《聖眼獲得値》を有効に使う方向で戦いなさい。ただし! 無駄な行動では無く、使用できるスキルでどう戦えば良いのかしっかり考えて戦う事」
この御達しにより僕は御者をしながら、今の時点で使える魔法やスキルの確認をしながら移動してきた。
近接戦闘は姉さんがメインとなる以上僕は魔法メインに戦う方向で居る。
その為に《ショートカット》には現在魔法メインで組んであるが、そろそろ出番のようだ。
僕の《危険感知》が左前方からの敵の存在を告げている。
さて、どのような魔物が現れる事やら……。




