第0話:女神転生
ーー加藤ベアトリクスめぐみフェーズ
私は、全ての寿命を使い果たし、死んだ。
娘を残し。
友を残し。
自分の信念を貫き。
そして、死んだ。
我ながら、ずいぶん面倒な人生だった。
私の人生は四度あったのだから。
一度目、二度目、三度目は、十五歳で死んだ。
父の死。
壊れた母からの虐待。
間違いなく最低の人生だった。
人間、人生を三度やり直せたところで、未来は変わらなかった。
あの男に出会うまでは。
久世恒一。
私の最後の人生。
四度目の人生で初めて出会った男。
目つきが悪く、諦めも悪い。
地頭はいいが、柔軟性に欠ける。
基本、脳筋野郎で厨二病だ。
それだけ聞くとろくでもない。
だが私は。
そんな男に恋をした。
何度も助けられ、何度も助けた。
恋愛経験がなかった私は、恒一に対して素直に接することができなかった。
でも、仕事を通して。
戦いを通して。
身体を重ねて。
少しずつ、恒一を理解した。
全て気づいた頃には。
私の腕の中で、冷たくなっていった。
後悔が無いわけじゃない。
しかし安直に、過去に戻りたいとは思わない。
できるなら彼に会いたい。
娘に会いたい。
それでも、人生をリスタートすることの重さを、私は誰より知っている。
真っ暗でいて、幻想的な空間で漂う私。
『これが、死なんだね。四度目なのに、初めて知ったな』
暗くて見えないのか。
視力がないのか。
何もわからない。
身体が空気のように軽い。
真っ暗闇の中に、神々しく光るものを見つけた。
私が近づいているのか。
光が近づいてくるのか。
それが、短い時間なのか、途方もなく長い時間なのかわからなかったが、光に到達した。
『……久しぶり、かな。アステリア』
光の正体は、女神様。
女神アステリア。
金色の長髪。
神々しい衣装をまとった長身の女。
私より明らかに豊かな乳房を携えている。
この世の全てのものと比べても、美しい。
その一言に終着してしまう。
だが、私も美しい。
この美貌を持ち、恒一を籠絡した。
決して負けているとは思わない。
乳房以外は。
「久しぶり、か。この世界では数秒の出来事なんだがな。だが、お前の死後、現実世界では十年は経過しているな」
十年。
娘はもう、十七歳か。
私の美貌を引き継ぎ、可愛く成長してたら嬉しい。
「さて、めぐみ。早速だが褒美をやる」
『何かしたっけ、私』
「お前は今世で、女神の適正を証明した」
(何を言ってるんだ、こいつは?)
私が、四度目の人生でしたこと。
久世恒一を魔王まで押し上げ、″デポル″を全て駆逐し、娘を産み、しばらくして死んだ。
これくらいだ。
「お前は、自分の寿命と引き換えに何度も久世を守った。無償の愛を体現し、現実世界で魔法をコントロールした。よって、女神メルの消失によって空いた席に、お前を迎える。お前を女神へ転生させる」
人生を四度始め、終わった私に。
今度は女神をやれと。
それはすごいことだ。
なかなかにない経験だ。
『だが、断る』
「いや、お前は断れない」
(いや、突っ込めよ)
たかだか女神ごときに、この崇高なセリフは捌けないか。
ツッコミを抑え、静かに問う。
『何故?』
「お前は私に借りしかないからだ」
美しい。
その言葉を撤回したい。
妖艶。
美姫。
そして、恩着せがましい。
『娘の律への女神の加護だね』
「そうだ。くだらない理不尽で死ぬことはない程度だがな」
『……ありがとう。信頼できる人たちに律を託したけど。父親も母親もいない子供にしちゃったからね』
恒一が死んで、しばらくして私は律を産んだ。
私は、恒一の残務処理のため、七年間働き続けた。
私たちの国、日本。
何もない日常へ掠奪者が現れ、人々から好き放題に奪っていた。
人の姿に紛れ。
肌を赤黒く変色させ。
人を襲い、奪う。
彼らが結局どこから来たのか、どう生まれたのかは、分からずじまいだった。
女神になれば、それもわかるのだろうか。
私の思考とは裏腹に、話は進んでいく。
「ということでお前は現時刻をもって女神だ。精々、修行に耐え抜け。きっと……それだけの価値がある」
そう言って憎たらしい女神は微笑んだ。
そこには、慈愛が満ち溢れていた。




