帆
「こりゃ、あずったわや」
船の破損具合を確かめながら、シンが思わずといった風に呟きました。
「さて、修理すっか。灰雪は危ないから、おっちゃんこして待ってな」
灰雪は言われた通り、邪魔にならないように少し離れた木の上に登って座りました。
雪が舞う中、船員の雪だるまたちが船を直します。
シンは風で雪を集めて割れた船を元通りにくっつけ、継ぎ目を補強したり、船が落ちた衝撃で欠けた雪だるまたちを治してやったりしていました。
スイは雨の糸を紡ぐ要領で、雪でロープを編みます。
彩は、そうして頑張って働く皆にくるくる回りながら声援を送りました。
「よいしょー! こらしょー! どっこいしょー! やぶれかぶれのー かさおどりー がんばれー がーんばれー」
「……変な声援」
「あっはっは! なまら面白いべや。けっぱれー!」
声援のおかげか、みるみるうちに出来上がっていく雪の船。
最後に、ビリビリに破れていた帆をどうしようかと雪だるまたちが相談しているのを見て、彩が言いました。
「スイなら、きっと編めるよ」
「ええ!? ロープならどうにか作れたけれど、あんなに大きな帆は無理だよ」
「出来るって。ロープだって、やってみれば出来たろう? だったら、帆もできるさ」
「どういう理屈だよ」
「やらないうちから、諦めるのかい?」
「……やるだけ、やってみるけど。できなくてもがっかりしないでよ」
ふわり、はらりと空から止めどなく舞い降る雪を、両手に掬いとるように集めて糸を紡いでゆきます。
もっと沢山。
集まれ、雪よ。
真っ白な雪原のような、大きな帆を作れるほどに、集まれ。
そうして仙力を込めていると、小さな声が沢山聞こえてきました。
『ゆきのふねだよ』
『おもしろそうだね』
『ぼくたちものりたいな』
『いいな、のりたいな』
「それなら、帆になったら乗れるよ」
『ほんとう?』
『それじゃあ、ほになるよ』
『ほになるよ』
『スイ、ひさしぶりだね。ぼくも、ふねのほになるよ』
『スイ、またね。わたしはふねのいちぶになって、たびをするよ』
『たのしみだなあ』
「え……?」
次々と集まって来てくれる雪の子たち。その中に混じって、スイの名を呼ぶ声が聞こえました。もしかしたら、空にいたときに一緒に遊んでいた子たちかもしれません。
「みんな、集まってきてくれてありがとう」
雪の糸は空気の機織り機で織られていきました。
そして、とうとう大きくて真っ白な帆が出来上がったのです。
「すごいな。これなら、丈夫そうだし、破けることもなさそうだ。なんまら助かったさ、スイ。
作り手の、夢が詰まった夢の船だ。無茶を言って悪かったな。なにしろ、海賊船という設定だから。したっけ、元気でな。風邪引くなよ」
さて、出発しようか。と、シンが海賊の装束を纏った雪だるまたちと船に乗り込みます。
そのとき、
『おいてかないでシンおにいちゃん』
と、灰雪が飛んできました。
「すまんすまん。こんどこそ迷子にならんようにしっかりふっついてな」
『迷子になったのは、おにいちゃんのほうなのよ』
「スイ、彩。また来年会おうな!」
「さようならー! 達者でなー!」
「さようなら! また来年」
船は帆に風を受けて浮かび上がり、空の海を進みました。北風小僧は風を送りながら、その後から飛んでいきました。
海賊船は、大きな鳥か、鯨のように空の海を泳いで行きます。
その船上では、雪だるまたちがとても楽しそうに海賊ごっこをしていました。
白い帆は、悠々と風に靡き、キラキラと輝いていました。
通りすがりの家の庭で、子供たちが雪だるまを作っているのが見えました。
スイも作りたくなり、野原に行って真似をして雪玉を丸めます。
彩と一緒に転がして雪を付けて大きな雪玉になりました。それを二つ重ねて、松の葉や万両の赤い実を眉毛や目の代わりに着けます。小枝を腕に、枝分かれした先を手に。
口を掘ってにっこりと笑っている雪だるまの完成です。
「よし、これで完成だ。彩、どう? なかなかの出来映えでしょう」
「大したもんだね。どこかに、こんなあやかし者がいそうだよ。今にも、動き出しそうだ」
よく見れば微妙に歪なその佇まいに、『可愛い』よりも『不気味』と言い表す方が近いような気がしました。
スイはすっかり冷たくなった指先を暖めるように袖の中に手を入れて脇に挟みました。
チラチラと睫を掠めて柔らかな白が降ってきます。
見上げると次々と灰色が視界を横切ります。
はあ、と息を吐く度に見える靄。
「寒そうだね。俺は傘だから分からないけれど、人は寒すぎると風邪を引いたり、指先が焼けると聞いたよ。スイは、そんなに薄着で平気なのかい?」
人の子が厚着をして半纏を羽織ったり手袋や藁靴を履いているのに、真夏と同じ格好をしているものですから、彩はふと気になったのでした。
「気合いでなんとか大丈夫だよ。僕は半妖半仙で人より寒さに強いし、風邪も引かないから。心配してくれてありがとう」
「寒いは寒いんだろう? そうだ、雪を編んで羽織りを作ったらどうかな?」
「雪で、羽織を? ――良いかも」
バサリと鮮やかな花のような傘が開いて、ふわりと浮かび上がると真下に薄墨の影が落ちました。肩に降りかかる冷たさが途切れて、ほんのり暖かくなったような気がします。
誰も居なくなった雪原を眺めます。
「なんて綺麗なんだろう」
北海道弁について、調べながら書いたので、間違っていたらごめんなさい
なんちゃって北海道弁です
もう春なので、シンの出番はここまでです
「したっけね~(さようなら~)」




